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一章 姫路編
2番勝負 柳生十兵衛(上)
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「豊臣秀頼だ? 何を言っているのだ、こやつ」
門番に行く手を阻まれる。
薄汚れた野盗のような若者が、秀頼を名乗るなど、頭がおかしいとしか思われないに決まってる。
何事かと人が集まってきた。
姫路城は今、千姫の出発の準備で忙しい。
気がふれた若者を相手にしてはいられないだろうが、落ち度があってはならないから、断固阻止してくる。
乱闘は避けられない。
「行くぞ、秀頼」
正面から堂々と行く。
忍びにあるまじき行為だが、秀頼と名乗る以上はそうでもしなければ、千姫に会えない気がした。
たった一人で城攻めをするのは、なかなかに興奮する。
一人だが、秀頼がついていなければ、絶対にやらないことだ。
人生は、何が起こるかわからない。
腕試しだ。
混乱に乗じて突破を試みる。
先はまだまだ長いのだ。
ここで捕まるわけにはいかない。
前に出た。
振り下ろされる六尺棒を掴んで奪い、棒で薙ぎ倒すと走り出した。
駆けつけてくる侍たちの間を縫うようにして進む。
まだ状況が読めていない侍たちは、応戦体勢が整っていない。
刀を抜くまでもなく、邪魔する者は、棒で叩く。
奇襲攻撃の有効性は、その速さにある。
行けるところまで一気に行くつもりだった。
騒ぎが大きくなれば、千姫の耳に届くかもしれない。
が、うまくいくのは最初だけで、奥へ進むほどに、迎え打つ人も増え、後ろからも追いついて来た。
「捕らえよ!」
いつの間にか、囲まれて、その輪がジリジリと狭まる。
もう少しで、次の門というところで、先に進めなくなった。
「邪魔するな! 千姫さまにお目通りを!」
「馬鹿め。姫様が貴様にお会いになるはずがなかろう!」
「こいつ気狂いか」
門番だけでなく、裃姿の侍も出てくる。
「取り次いでくれないなら、力ずくで押し通る!」
棒を上段に構え、振り回しながら突進する。
刀を抜こうとする目の前の侍の小手を打ち、喉元をつく。
返す棒で、次の侍の頭を横殴りにする。
棒のいいところは、前も後ろも使えるところだ。
後ろから迫ってくる侍の腹を、振り向くことなく突く。
頭上で振り回すと、囲む輪が広がった。
「こやつ、なかなか手強いぞ」
「斬るか」
ただの気狂いではないことがわかったようで、敵の顔つきが真剣味を帯びる。
馬鹿なふりをしていた方が良かったかと、少し後悔した。
棒をぶんぶん振り回しながら走る。
木の棒がぶつかる乾いた音が秋の空に響く。
ついに門を突破し、折れ曲がると、急に道が狭くなる。
その先で、侍が立ち塞がっていた。
さっきまでの侍たちとは着ているものも違って、姫路藩士ではない雰囲気だ。
隻眼だった。
左目に眼帯をはめている。
無造作に立っているのに、壁のように立ちはだかっていて、その脇を通り抜けることもできず、止まらざるを得なかった。
何者?
片眼で、鋭く睨んでくる。
相当な遣い手だと、すぐにわかった。
「柳生さま! こやつです」
追いかけてきた侍がそうよんだ。
「柳生?」
隻眼で柳生といえば。
「柳生十兵衛・・・」
「何者かは知らんが、よくここまで来れたものだな。何をしに来たのだ」
将軍家光の剣術指南役をお役御免になり、蟄居中だと一時期噂になっていた。
その柳生が、なぜここに。
「さっきから言ってるだろう。豊臣秀頼が千姫に会いに来た」
「姫さまに会って、どうするのだ」
「それは・・・こっちに」
と、自分の肩のあたりを指さした。
「秀頼に聞いてくれ」
「・・・」
笑われても仕方のない場面だが、十兵衛はにこりともせずに、俺の肩のあたりに視線を移した。
後ろの侍たちは、何を言っているのかと笑っている。
一点に片目を据えたまま、十兵衛は黙っていた。
もしかして・・・。
首だけ回して見ると、秀頼もじっと十兵衛に目を向けている。
見えているのか。
門番に行く手を阻まれる。
薄汚れた野盗のような若者が、秀頼を名乗るなど、頭がおかしいとしか思われないに決まってる。
何事かと人が集まってきた。
姫路城は今、千姫の出発の準備で忙しい。
気がふれた若者を相手にしてはいられないだろうが、落ち度があってはならないから、断固阻止してくる。
乱闘は避けられない。
「行くぞ、秀頼」
正面から堂々と行く。
忍びにあるまじき行為だが、秀頼と名乗る以上はそうでもしなければ、千姫に会えない気がした。
たった一人で城攻めをするのは、なかなかに興奮する。
一人だが、秀頼がついていなければ、絶対にやらないことだ。
人生は、何が起こるかわからない。
腕試しだ。
混乱に乗じて突破を試みる。
先はまだまだ長いのだ。
ここで捕まるわけにはいかない。
前に出た。
振り下ろされる六尺棒を掴んで奪い、棒で薙ぎ倒すと走り出した。
駆けつけてくる侍たちの間を縫うようにして進む。
まだ状況が読めていない侍たちは、応戦体勢が整っていない。
刀を抜くまでもなく、邪魔する者は、棒で叩く。
奇襲攻撃の有効性は、その速さにある。
行けるところまで一気に行くつもりだった。
騒ぎが大きくなれば、千姫の耳に届くかもしれない。
が、うまくいくのは最初だけで、奥へ進むほどに、迎え打つ人も増え、後ろからも追いついて来た。
「捕らえよ!」
いつの間にか、囲まれて、その輪がジリジリと狭まる。
もう少しで、次の門というところで、先に進めなくなった。
「邪魔するな! 千姫さまにお目通りを!」
「馬鹿め。姫様が貴様にお会いになるはずがなかろう!」
「こいつ気狂いか」
門番だけでなく、裃姿の侍も出てくる。
「取り次いでくれないなら、力ずくで押し通る!」
棒を上段に構え、振り回しながら突進する。
刀を抜こうとする目の前の侍の小手を打ち、喉元をつく。
返す棒で、次の侍の頭を横殴りにする。
棒のいいところは、前も後ろも使えるところだ。
後ろから迫ってくる侍の腹を、振り向くことなく突く。
頭上で振り回すと、囲む輪が広がった。
「こやつ、なかなか手強いぞ」
「斬るか」
ただの気狂いではないことがわかったようで、敵の顔つきが真剣味を帯びる。
馬鹿なふりをしていた方が良かったかと、少し後悔した。
棒をぶんぶん振り回しながら走る。
木の棒がぶつかる乾いた音が秋の空に響く。
ついに門を突破し、折れ曲がると、急に道が狭くなる。
その先で、侍が立ち塞がっていた。
さっきまでの侍たちとは着ているものも違って、姫路藩士ではない雰囲気だ。
隻眼だった。
左目に眼帯をはめている。
無造作に立っているのに、壁のように立ちはだかっていて、その脇を通り抜けることもできず、止まらざるを得なかった。
何者?
片眼で、鋭く睨んでくる。
相当な遣い手だと、すぐにわかった。
「柳生さま! こやつです」
追いかけてきた侍がそうよんだ。
「柳生?」
隻眼で柳生といえば。
「柳生十兵衛・・・」
「何者かは知らんが、よくここまで来れたものだな。何をしに来たのだ」
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その柳生が、なぜここに。
「さっきから言ってるだろう。豊臣秀頼が千姫に会いに来た」
「姫さまに会って、どうするのだ」
「それは・・・こっちに」
と、自分の肩のあたりを指さした。
「秀頼に聞いてくれ」
「・・・」
笑われても仕方のない場面だが、十兵衛はにこりともせずに、俺の肩のあたりに視線を移した。
後ろの侍たちは、何を言っているのかと笑っている。
一点に片目を据えたまま、十兵衛は黙っていた。
もしかして・・・。
首だけ回して見ると、秀頼もじっと十兵衛に目を向けている。
見えているのか。
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