12 / 19
一章 姫路編
3番勝負 宮本三木之助(中)
しおりを挟む
「秀頼、悪いけど、勝てそうにないな」
背中の刀を抜けば、おそらく一刀の元に斬られる。
秀頼も、宮本兄弟の放つ気に押されているのか、苦しげに顔を歪めている。
「豊臣に、姫さまを奪わせはせぬ」
三木之助の目は、憎しみに燃えているように見える。
豊臣はそれほど恨まれているのだろうか。
「奪いに来たわけじゃない。勘違いするな」
誤解されたくなくて、弁解する。
「ただ話しがしたいと秀頼が言うから・・・」
「こちらが話すことなど何もない。秀頼を名乗るなど、不届き者めが。成敗致す!」
ついに、二刀を抜き放った。
うわっ、二刀流だ。
思わず背中の刀を握ってしまった。
二刀流の剣士と戦ったことはない。
一刀を避けられても、二刀同時に避けられるわけがない。
聞く耳を持ってくれそうにないから、抜くか?
十兵衛の時は、棒だったが、今目の前にあるのは真剣だ。
三木之助には、秀頼が見えていない。
当然だろうが、何を言っても十兵衛のように信じてはくれない。
秀頼の言葉は届かない。
「ちょっと! なんとかしてくれよ」
少し離れたところに立っている十兵衛に助けを求めた。
「面白いのう」
だが、腕を組んで、この状況を楽しむかのように笑みを浮かべているだけだ。
「ちっ」
恨めしげに見つめても、どうににもならない。
「柳生どの、こやつは斬ってもよろしいか」
と、確認している。
「刀を持っている」
持っているだけで罪のような言い方をした。
「武士でもなさそうだ」
「こやつは草とみた。誰かに雇われているのかどうか」
「だから、俺は秀頼に頼まれてここに来たと言ってる。信じてくれただろう。言ってくれって」
もはや十兵衛の口添えだけが頼りだった。
「誰が信じる。今なら無事に帰してやると言った。十数えるまでに決めろ」
「くそっ」
敵に頼ろうとした俺が甘かった。
俺は、刀を鞘ごと外すと、十兵衛に向かって投げた。
敵意がないことを示すには、それしかないのだ。
「ほう」
意外そうに片目を細めた。
「逃げないと言ったはずだ」
さっき、十兵衛に背を向けたのは、先へ進むための策で、逃げたのではない。
武器を持たずに立つ俺を、三木之助が驚いて見ている。
構えていた二刀を下ろした。
「兄弟仲良かったんだろうな。兄さんに守られてるんだぜ、あんた」
「なんだと?」
「兄さんが後ろにいる」
三木之助の肩の辺りを指差した。
「二十三歳だったと聞いている。惜しいことをした」
十兵衛も目を閉じて、その死を悼むように下を向いた。
その死から、まだ半年ほどしか経っていない。
「丸腰だろうが、姫さまには会わせぬ!」
下ろしていた刀を、俺の方に向ける。
「兄上が命懸けでお仕えしたこの本多家から、姫さまを奪うなど、許せぬ」
「それを言うなら、徳川なんじゃないの?」
その言葉に納得がいかず、思わず言ってしまった。
忠刻が亡くなって、千姫は江戸に帰るのだ。
本多家を出て・・・。
十兵衛を見た。
「ふん」
と、あさっての方を向いている。
「確かにそうだな」
そう言ったのは、今まで黙って三木之助の後ろに立っていた兄の三木之助だった。
「どうやら敵は、徳川であるらしい」
弟の三木之助も、兄と同じように、体ごと、十兵衛の方を向いた。
怒りの眼差しで、睨んでいる。
「お、おい。宮本どの」
十兵衛の口が、驚きで開いたままだ。
見える十兵衛には、その声が聞こえているはずだった。
背中の刀を抜けば、おそらく一刀の元に斬られる。
秀頼も、宮本兄弟の放つ気に押されているのか、苦しげに顔を歪めている。
「豊臣に、姫さまを奪わせはせぬ」
三木之助の目は、憎しみに燃えているように見える。
豊臣はそれほど恨まれているのだろうか。
「奪いに来たわけじゃない。勘違いするな」
誤解されたくなくて、弁解する。
「ただ話しがしたいと秀頼が言うから・・・」
「こちらが話すことなど何もない。秀頼を名乗るなど、不届き者めが。成敗致す!」
ついに、二刀を抜き放った。
うわっ、二刀流だ。
思わず背中の刀を握ってしまった。
二刀流の剣士と戦ったことはない。
一刀を避けられても、二刀同時に避けられるわけがない。
聞く耳を持ってくれそうにないから、抜くか?
十兵衛の時は、棒だったが、今目の前にあるのは真剣だ。
三木之助には、秀頼が見えていない。
当然だろうが、何を言っても十兵衛のように信じてはくれない。
秀頼の言葉は届かない。
「ちょっと! なんとかしてくれよ」
少し離れたところに立っている十兵衛に助けを求めた。
「面白いのう」
だが、腕を組んで、この状況を楽しむかのように笑みを浮かべているだけだ。
「ちっ」
恨めしげに見つめても、どうににもならない。
「柳生どの、こやつは斬ってもよろしいか」
と、確認している。
「刀を持っている」
持っているだけで罪のような言い方をした。
「武士でもなさそうだ」
「こやつは草とみた。誰かに雇われているのかどうか」
「だから、俺は秀頼に頼まれてここに来たと言ってる。信じてくれただろう。言ってくれって」
もはや十兵衛の口添えだけが頼りだった。
「誰が信じる。今なら無事に帰してやると言った。十数えるまでに決めろ」
「くそっ」
敵に頼ろうとした俺が甘かった。
俺は、刀を鞘ごと外すと、十兵衛に向かって投げた。
敵意がないことを示すには、それしかないのだ。
「ほう」
意外そうに片目を細めた。
「逃げないと言ったはずだ」
さっき、十兵衛に背を向けたのは、先へ進むための策で、逃げたのではない。
武器を持たずに立つ俺を、三木之助が驚いて見ている。
構えていた二刀を下ろした。
「兄弟仲良かったんだろうな。兄さんに守られてるんだぜ、あんた」
「なんだと?」
「兄さんが後ろにいる」
三木之助の肩の辺りを指差した。
「二十三歳だったと聞いている。惜しいことをした」
十兵衛も目を閉じて、その死を悼むように下を向いた。
その死から、まだ半年ほどしか経っていない。
「丸腰だろうが、姫さまには会わせぬ!」
下ろしていた刀を、俺の方に向ける。
「兄上が命懸けでお仕えしたこの本多家から、姫さまを奪うなど、許せぬ」
「それを言うなら、徳川なんじゃないの?」
その言葉に納得がいかず、思わず言ってしまった。
忠刻が亡くなって、千姫は江戸に帰るのだ。
本多家を出て・・・。
十兵衛を見た。
「ふん」
と、あさっての方を向いている。
「確かにそうだな」
そう言ったのは、今まで黙って三木之助の後ろに立っていた兄の三木之助だった。
「どうやら敵は、徳川であるらしい」
弟の三木之助も、兄と同じように、体ごと、十兵衛の方を向いた。
怒りの眼差しで、睨んでいる。
「お、おい。宮本どの」
十兵衛の口が、驚きで開いたままだ。
見える十兵衛には、その声が聞こえているはずだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる