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一章 姫路編
4番勝負 千姫(上)
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「三木之助に何をしたのじゃ」
千姫が、厳しい口調で、十兵衛をなじる。
「本多家家中に手をかけるなど、あってはならぬ」
「ははっ、申し訳ございませぬ」
「斬ってはおらぬようだが、そなたの峰打ちでは、骨が折れたやもしれぬな。あの子に何かあったら、武蔵どのや、亡き三木之助に申し訳が立たぬではないか」
戸板に乗せられて運ばれる三木之助は意識がないようだった。
その姿を目に留めての、今の言葉だ。
千姫の剣幕に、十兵衛が小さくなっている。
いい気味だ、と俺は溜飲を下げた。
意外に性格がきついのかもしれない。
「して、騒がしいようじゃが、何かあったのかえ?」
と、今度は俺に目を留めている。
距離は少し離れていて、顔がはっきりと見えているわけではない。
「苦しゅうない、近う」
手にした扇子で手招きされている。
俺は、慌てて刀を後ろに置き、十兵衛と同じように膝をついた。
敵意がないことを示さなければならない。
「あの者は、草の者、近づけてはなりませぬ」
十兵衛が止めた。
「草とな、妾の道中を警護する者か?」
「そ、それは・・・」
慌てている。
どう説明すればいいのかわからないらしい。
「近う寄れと申しておる」
そんな十兵衛を無視して、なおも俺を招く。
十兵衛の顔が怖い。
たぶん、遠慮しろと無言の圧力をかけているのだ。
「行くぞ、秀頼」
とうとうこの時が来たのだ。
さっきから大人しくしている秀頼に声をかけた。
まさか十兵衛も、千姫の前で斬ってくることはないだろう。
俺は、刀を置いたままにし、千姫に顔を伏せて近づいた。
膝をついて頭を下げる。
「そなた、名はなんという。直答を許す」
頭上から、千姫の声が降ってくる。
「秀頼にございます」
「なに? ひでよりとな」
十兵衛の舌打ちが聞こえた。
目の前に千姫が近づき、膝を折ってしゃがんだ。
見たことのない豪華な打ち掛けが、下を向いていても目に入ってきた。
「顔を見せよ」
さすがの俺も、躊躇する。
扇子が顎の下に入れられ、くいっと持ち上げられた。
「・・・」
まともに目が合った。
こんな場合の作法なんて知らない。
好奇心いっぱいの少女のような目で見つめられた。
よく見ると、目尻に小皺があり、若いとは言えないが、美人だ。
食い入るように見られて顔が赤くなる。
草はほとんど表に出ることはない。
顔を見られるのは本来ご法度だ。
仕方がない。
秀頼を名乗ったのだから、見られて当然。
恥ずかしさに耐えた。
違う、と吐き捨てられるだろうか。
「ふむ・・・ふむふむ」
姫の凝視は、意外に長かった。
「そう言われてみれば、似ておるかも。雰囲気はそっくりじゃ」
急に柔らかくなった声は、少女のように明るく、そう言って、にっこりと笑いかけた。
「え?」
驚いたのは俺だ。
「懐かしい感じがする」
千姫はうっとりと、昔を思い出すように目を細めた。
見えなくても、秀頼の気配を感じ取っているのかもしれない。
千姫が、厳しい口調で、十兵衛をなじる。
「本多家家中に手をかけるなど、あってはならぬ」
「ははっ、申し訳ございませぬ」
「斬ってはおらぬようだが、そなたの峰打ちでは、骨が折れたやもしれぬな。あの子に何かあったら、武蔵どのや、亡き三木之助に申し訳が立たぬではないか」
戸板に乗せられて運ばれる三木之助は意識がないようだった。
その姿を目に留めての、今の言葉だ。
千姫の剣幕に、十兵衛が小さくなっている。
いい気味だ、と俺は溜飲を下げた。
意外に性格がきついのかもしれない。
「して、騒がしいようじゃが、何かあったのかえ?」
と、今度は俺に目を留めている。
距離は少し離れていて、顔がはっきりと見えているわけではない。
「苦しゅうない、近う」
手にした扇子で手招きされている。
俺は、慌てて刀を後ろに置き、十兵衛と同じように膝をついた。
敵意がないことを示さなければならない。
「あの者は、草の者、近づけてはなりませぬ」
十兵衛が止めた。
「草とな、妾の道中を警護する者か?」
「そ、それは・・・」
慌てている。
どう説明すればいいのかわからないらしい。
「近う寄れと申しておる」
そんな十兵衛を無視して、なおも俺を招く。
十兵衛の顔が怖い。
たぶん、遠慮しろと無言の圧力をかけているのだ。
「行くぞ、秀頼」
とうとうこの時が来たのだ。
さっきから大人しくしている秀頼に声をかけた。
まさか十兵衛も、千姫の前で斬ってくることはないだろう。
俺は、刀を置いたままにし、千姫に顔を伏せて近づいた。
膝をついて頭を下げる。
「そなた、名はなんという。直答を許す」
頭上から、千姫の声が降ってくる。
「秀頼にございます」
「なに? ひでよりとな」
十兵衛の舌打ちが聞こえた。
目の前に千姫が近づき、膝を折ってしゃがんだ。
見たことのない豪華な打ち掛けが、下を向いていても目に入ってきた。
「顔を見せよ」
さすがの俺も、躊躇する。
扇子が顎の下に入れられ、くいっと持ち上げられた。
「・・・」
まともに目が合った。
こんな場合の作法なんて知らない。
好奇心いっぱいの少女のような目で見つめられた。
よく見ると、目尻に小皺があり、若いとは言えないが、美人だ。
食い入るように見られて顔が赤くなる。
草はほとんど表に出ることはない。
顔を見られるのは本来ご法度だ。
仕方がない。
秀頼を名乗ったのだから、見られて当然。
恥ずかしさに耐えた。
違う、と吐き捨てられるだろうか。
「ふむ・・・ふむふむ」
姫の凝視は、意外に長かった。
「そう言われてみれば、似ておるかも。雰囲気はそっくりじゃ」
急に柔らかくなった声は、少女のように明るく、そう言って、にっこりと笑いかけた。
「え?」
驚いたのは俺だ。
「懐かしい感じがする」
千姫はうっとりと、昔を思い出すように目を細めた。
見えなくても、秀頼の気配を感じ取っているのかもしれない。
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