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親友の幼馴染

第4話

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 そもそもの話をすると。
 私が好きになった人には、幼馴染の女の子が居た。
 その二人は、親同士からして仲が良く、それこそ赤ん坊の頃から兄妹のように付き合い、育ってきたという。
 私は元々この街の人間ではなくて、私が中学に上がるタイミングで引っ越してきた外地組だ。
 私が彼のことを好きになったのは、その引っ越してきた初日のことである。
 その時の私は、引っ越してきたばかりの初めての土地で不安に駆られ、いわゆるホームシックに掛かっていたような状態で道端で泣いていた。
 そこに通りがかったのが、彼である。
 彼が特別な何をしてくれた訳でもない。ただ、彼は私と街の外を見てくれていて、そして私の話し相手になってくれていただけである。
 たったそれだけのことで、私は救われた。少なくとも、救われたのだと思った。
 たぶん、その時から私は彼のことが好きになっていた。
 彼の心の在り様に、惹かれてしまっていた。
 ただ、好きになりはしたけれども、これまでずっとその想いを告げることはしてこなかった。
 ひた隠しにして、ただただ黙っていた。
 だって、彼には幼馴染の女の子が居たから。
 私が彼のことを好きになるよりずっとずっと以前から、彼には大切な女の子が傍らに居たのだ。
 二人の関係が、ただの幼馴染というだけではないと、出会った当初から感じていた。
 だが、少なくとも付き合っている、という雰囲気ではなかった。それは、私達がまだ中学生という子供だったからなのかもしれないが。
 ともかく、私はそんな二人の間に割って入るような真似はしたくなかった。
 彼のことは好きであるが、友香という女の子もまた、私にとっては大事で大切にしたいと思っていたのだから。
「ふぅん、なるほどねぇ。二人の間に割り込んでしまって、これまで築いてきた友人関係を壊したくないって気持ちは、よく分かるわ」
 そう、そうなのだ。そんなことを思ってしまうからこそ、これまでずっと足踏みをしてしまっていたのだ。
「友香さんのことも大切だから、傷つけるような真似をしたくないのよね?」
 私は、この気持を、この恋心を心の奥底にしまって封印して、これからもずっと友香を、そして友香を通して彼を見ていられれば、それでいいと思っていた。
「でも、好きだっていう気持ちを抑えられなくなった。――そうでしょう?」
 その通りだと、私は頷く。
 私は、この行き場のないこの想いを抱えたまま、これから先の日々を過ごしていたくないと、そう思ってしまって、
「そんなの、ツラいだけだものね? 命短し恋せよ乙女って言葉もあるじゃない? あれって、恋する乙女は、大抵は当たって砕けて死んでしまうから命が短いって言われるのよ?」
 いやその理屈はおかしいっていうか間違った解釈だと思うんですけれど、
「っていうか沢渡さん! 私が砕けて死んじゃうみたいなこと言わないで下さいよ! あと、ナチュラルに私の思考に割り込んで会話するの止めましょうよ怖いですよッ!」 
 いっぺんに捲し立てて、私は肩で息を整える。正直、沢渡さんが本気を出し始めるとツッコミが追いつかない気がする。
「あんまり大きな声を出すと、周りの人の迷惑になるわよ? ここは教室、生徒達が日夜勉学に励む神聖な場所だもの。お静かにお願いしますね?」
「叫ばせてる現況は沢渡さんですからねッ!? それに今は放課後で私達以外に誰も居ませんし、それにそのツッコミ待ちの笑顔なんとかなりませんかッ!?」
 あーもー、疲れた。
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