Time breaker ー時の破壊者ー

七星 緋彩

文字の大きさ
6 / 15

アンナの秘密

しおりを挟む
 ベースから寮への距離は直線距離でおよそ2キロ。ゆっくり歩けばだいたい30分の道のりである。

 アニマートの都市部分は高層ビル群が立ち並ぶが少し街を外れると『情報集約都市』らしからぬ昔ながらの街並みが広がっている。

 ベースはギリギリ都市部に位置するが寮は郊外にありそこまでの街並みは活気の溢れた商店が立ち並ぶ。

 畑で取れた新鮮な野菜、アニマート郊外の湖で取れた魚や近くの山林には野生の動物達が暮らしておりそこで狩られた新鮮な肉が色鮮やかに並べ売られている。霊界には『生肉』を主食とする人種もいるためこれらの人達のために生で食べられる状態で売られているのだ。

 そんな道のりを義兄妹きょうだい仲良く歩いていく。

「おっ、リナリーちゃん!今日は彼氏とデートかい?」

「おっちゃん!そう見えるー?そーなのー」

 リナリーはクルスの腕に抱きつきとても嬉しそうにそう返した。

「(こいつまた適当なことを…)おm、」

 言葉が出かけたが嬉しそうなリナリーを見ているとまぁいいかと口を閉ざした。

「いいねー!ほら、これおっちゃんからのプレゼントだ、彼氏と食べな」

 果物屋のおじさんは大きなりんごをホイっとリナリーに投げた。

 リナリーはトンと地面を蹴って少し高めの位置でりんごを掴み取り嬉しそうな笑顔で受け取った。

「おっちゃんありがとー!おっちゃんは相変わらずいい男だねぇ」
 
「リナリーちゃんこそ相変わらず口が上手いねぇー!また来な、安くしとくから」

「うん!ありがとね!」

 クルスも軽く会釈をし、おじさんにお礼を言うと果物屋を後にした。

「おまえなぁ、彼氏ってなんだよ」

「ん?だって兄妹って言ってもほんとの兄妹じゃないし別にいいじゃん」

「いいじゃんって、おまえ…」

「もー、クルスは真面目すぎるんだよ、いいの!みんな楽しいんだから」

 そう言うと先程貰ったリンゴを小さな口で器用にかじり、クルスにも食べるように手渡した。

 そんなやり取りをしているうちに寄宿する宿に辿り着いた。

 入口のドアを入ると少し広めの玄関になっており、左手に管理人室の小窓とカウンターがある。

「ただいまーアンナさん、アンナさんいるー?」

「リナリー?どうしたんだい、今日はもう終わりかい?」

 管理人室の奥から力強くそれでいて優しさがうかがえるような声でアンナが返事を返してくる。そして小窓から二人を確認すると少し小走りに管理人室から玄関に飛び出してきた。

「おや、クルスじゃないかい!ずいぶん久しぶりだねぇ!」

「アンナさん、お久しぶりです」

「今日はどうしたんだい。」

「実は依頼で神界に行くのでリナリーの遠征許可をもらいに寄ったんです」

「そぉかい、神界にかい?」

「はい」

 クルスは一瞬考え込んだアンナの表情が少し曇ったような気がした。

「リナリー、遠征許可書は出しといてあげるから先に準備しといで」

 アンナがリナリーにそう伝えるとリナリーは元気よく返事をし自分の部屋に向かった。

「クルスちょっと入りな」

 アンナはクルスを管理人室に招き入れる。

 クルスは管理人室に入りソファに腰掛けた。

「神界からの依頼って言ったね。」

「はい、詳しくは言えないのですが…」

「極秘依頼かい」

「え、はい、そうですけど…なんでそれを」

「おや、父親から聞いてないかい。あたしも調律師だったんだよ。他人に話せないって事はそういう事だろう」

 クルスの父親エドガーとアンナは旧知の親友なのだ。リナリーがこの寮に寄宿する事を決めたのもアンナの元なら安心出来ると父親が決めたのだ。

「そうだったんですね。知りませんでしたよ、アンナさんが調律師の先輩だったなんて」

「まぁあたしも口外してないからね、隠すことでもないんだけども調律師イコール時空間移動の能力を晒すことになるからね。」

 この街にはベースがある事もあり時空間移動の能力者が結構な割合でいるように見えるが霊界全体で見ると実はこの『時空間移動』の能力者はごく僅かで貴重な存在なのだ。

 この時空間移動の能力はその希少性から周りに知られると思わぬ事件に巻き込まれることもある。出来れば知られない方が普通の生活は送りやすい。

「ベースの調律師に神界からの依頼はおいそれと回ってこないはずだけど、その依頼、霊界統括から回ってきたのかい?」

 クルスは極秘依頼の縛りに口をつぐむ。それを察したアンナが口を開く。

「ここまでなら極秘依頼の口外にはならないから安心しな。どうなんだい?」

「チャージリクエストです」

「神界からのチャージリクエスト…なるほどね。その依頼少し気になるね」

 そう言うとアンナはしばらく考え込み、クルスの目をじっと見つめながら話し出した。

「クルスはリナリーの能力ちからに気づいているね」

「!!…なんでそれを」

 クルスの表情が一瞬強ばった。

「その表情は理解しているようだね。リナリーの能力のことはエドガーから相談を受けていたんだよ。エドガーはあの子の能力に気づいた時から少しづつ準備を進めていたんだ。リナリーを『守る』準備をね」

「あたしの所に預けたのもそのひとつさ。あんたもきっとあの子を守るように言いつけられているんじゃないかい?」

「はい、その通りです」

 このアンナの言葉でクルスは自分の感じていた推測通り父親が時空間破壊タイムブレイクの能力を持ったリナリーを護る騎士に自分を育て上げた事に確信を持った。

 クルス自身もリナリーが破壊神技はかいしんぎの能力を持っていると知った時、この事を他人に知られる訳にはいかないと直感した。

 破壊神技と言うのは人、モノ、空間などを『壊す』『消す』に特化した能力の事を言う。

 時空間破壊以外にも破壊神技は存在するがこの霊界では破壊神技の発現はあまりいい意味を持たない。

 破壊神技はその能力の特性からテロリスト等の反社会組織、武装組織からの勧誘、拉致などの対象になりやすい。中には能力の発現から好んでそのような組織に属するものもいるが一般的には能力の発現は隠すべきもの、クルスはそう認識している。

 しかし、アンナの言葉、表情からリナリーの能力は自分が思っている以上に何か別の意味を持つ能力なのかもしれないと感じとった。

「ここからはあたしの推測にはなるけどね…」

「今回の依頼、シヴァが絡んでいるような気がするんだよ」

「シヴァ?…シヴァってあの破壊神はかいしんシヴァの事ですか?!」

「そうさ。時空間破壊タイムブレイクは『破壊神はかいしん シヴァ』が扱う破壊神技のひとつ。クルスもそれは分かっているんだろ」

「はい。たしかに時空間破壊タイムブレイクの能力についてはシヴァの能力に酷似しているので俺達はそう呼んでいます。でもそれで破壊神が関係しているというのは直接的すぎませんか?事が飛躍しすぎているというか。」

「他の神技ならそこまで大事おおごとには考えないんだけどね。時空間破壊神技じくうかんはかいしんぎは他の神技とは少し違うんだよ」

「と、言うと?」

 クルスはアンナの言葉の意味を理解出来ずにいた。神技は基本的に神界人が扱う能力の総称で中には他の世界の者にも発現する事はある。

 例えば、各世界を移動する事が出来る能力時空間移動や他の世界を覗くことが出来る能力、時空間干渉などこれらも神技である。

 リナリーの時空間破壊は『時空間(実際に特定の場所があるわけではないが各世界の間にある時間の流れ、次元の狭間)』を壊す(消す)事が出来る能力。

 破壊の範囲は扱える術者の力量にもよるが破壊神シヴァは世界そのものを消す事が出来る力を持っていると言われている。

「…時空間破壊タイムブレイクを発現した者はシヴァ以外いないんだよ。一子相伝の能力なんだ」

「一子相伝…遺伝子の繋がり…ですか」

「そう。時空間破壊を扱える可能性のある者はシヴァの遺伝子を受け継いだ者のみという事さ」

 クルスは多少混乱しながらも今までの話を一つ一つ繋ぎ合わせ思考を整理するように務めた。頭の後ろ辺りが熱くなるのを感じる。

「まさかリナリーはシヴァの子と言うことなんでしょうか?」

「…今はそこまではわからない」

 アンナは首を左右に振りながら答えた。

「わからないが通常行われない『神界からのチャージリクエスト』と『時空間破壊タイムブレイク』は無関係ではないだろうね」

「…ちょっとばかし調べてみるか」

 アンナは独り言のようにそう呟く。

 それと同時に準備を終えたリナリーが管理人室へと戻ってきたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...