崩壊した世界からの脱出 -ボクたちはセックスしか知らない-

空倉霰

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第一章

取り返されて

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 しばらくして、ボクらはさっきの塔の入り口に戻ってきた。でもここで降りるのは、ボクとマスターだけらしくて。僕とはここで、お別れになるようだった。
「今日は楽しかった、ありがとうね。僕のわがままに付き合ってくれて、嬉しかったよ」
「……うん。ボクも、楽しかった。……ありがとう」
「また、会おうね」
 すると僕は、昇降機のレバーを操作して。下の方に降りていった。ボクらは、互いにずっと手を振っていて。床の下に消えてしまうまで、それを続けた。
「いい友達が出来たみたいだね」
「……うん」
 そしてボクとマスターは、橋に向かった。二人で一緒に、手を繋いで。でも、すぐにマスターは足を止めた。
「――そういえば」
「え?」
「君……。もしかして今日、あの子と何かあったんじゃないかい?」
 ……ドキッとした。隠すつもりじゃなかったけど、なぜか、急に隠してしまいたくなった。
「内緒に、したいのかな?」
「……いや、あの……」
 ――その時だった。突然マスターは、ボクを押し倒した。
「っ……!」
「……あの子は、私の助手のような子でね。いつも頑張って、働いてくれるんだけど。ちょっとイタズラ好きなんだ」
 ボクは、必死に立ち上がろうとして、壁に背をつく。
「だから今日みたいに、勝手に抜け出すこともあるし。……私の大切なものを、盗んじゃう時もあるんだ」
 ……でも、マスターが、近くて。どこにも、逃げ場はなくて。

「盗まれたものは、ちゃんと返してもらわないと」

 ――そのキスは、不意打ちだった。今までみたいに、ボクが求めるんじゃなくて。マスターが、ボクにキスをしてくれた。
 それはなんだか、とても、怖くて。ドキドキして。……心臓が、張り裂けそうで。息が苦しくなる以上に、胸が苦しかった。
「はあっ……はあっ……」
「……ワンピースについてた、匂い。あれ、あの子の仕業だろう?」
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
「……君が、ワンピースにつけるはずないものね。でもちゃんと、お仕置きはしないと」
 なぜだか、涙が出た。怖かったから? それとも、嬉しかったから? きっと、その両方が混ざっていたんだと思う。
 ボクは腕を動かそうとするけど、マスターに抑えられる。でもこのままじゃ、耐え切れなくなりそうで。幸せに、押しつぶされてしまうそうで。
「――悪い子だ。逃げちゃ、駄目だよ」
 暖かい手のひらが、胸に当たって。腰に当たって。静かに、ゆっくりと、ワンピースをたくし上げていく。
 ……マスターが、ボクを求めてくれていた。そんなの、初めてで。……もう、我慢なんて、出来る訳がなくて。
 今、この時だけは。ボクは、世界一の幸せもので。……マスターは、ボクだけの人で。永遠のような、刹那のひと時。……ずっと、待っていた瞬間。
「ま、マスターっ……マスターっ……! ボク、ボクっ!」
「……ああ、良い子だ。……さあ、おいで」
 マスターはゆっくりと、もう一度、ボクを押し倒して。ボクは、押し倒されて。冷たい床の上で、――ボクは、マスターと繋がった。
 ボクの中に、マスターが入ってくる。少しずつ、ゆっくりと。その度に襲ってくる、快感。
 今までのことが、どうでもよくなって。今この瞬間だけが、どうしようもなく幸せで。永遠に、終わってほしくなくて。……ボクは、かじかむ手のひらで、マスターを求め続ける。
「あ……あっ……! あっ……!」
「ああ。やっぱり君は、とても素敵だ。……だって、こんなにも、私のことを想っていてくれるんだから」
 ……それは、今日で三回目の快感だった。ボクのがだらしなく垂れちゃって、マスターがそれを、指で遊ばせて。……ボクの口に、それを差し込む。
 ボクはマスターの指を、甘噛みして。頭が痺れるような感覚の中に、苦味が混ざってきて。それが、とても甘い。
 ボクはマスターの胸に、しがみついた。マントをきゅっと掴んで、必死に耐えた。……でもやっぱりマスターは、イジワルで。
「えっ……?」
 マスターは、ボクをくるりと回した。だから今ボクの目の前にあるのは、ただの灰色の壁。
 嫌だった。ボクは、マスターを見ていたかった。だから頑張って、もがこうとしたけど。――突然マスターの動きが、激しくなった。
「あっ――あっ――!」
 ボクの背中に、マスターを感じる。ボクの背中に、マスターの心臓の音を感じる。
 マスターは、息が荒くなっていた。喋ることも止めて、今この瞬間に全てを注いでいるようだった。……嬉しい。
「ひあっ……!?」
 さらに突然、首に冷たいものがあたった。でも、すぐに暖かくなった。
 ボクはなんとか、自分の背中を見ようとした。そして見えたのは、マスターがボクの首に、キスをしている様子だった。
 ――仮面が落ちていた。マスターの仮面が、床に転がっていた。だから今、マスターは、素顔を晒している。……でも、どうしてもその顔だけは、ボクからは見えなかった。
「……マスター……?」
 ボクは、声をかけた。でもマスターは、答えてくれなくて。ボクを撫でながら、首に、キスをし続ける。
 ……ちょっとだけ、寂しかった。でもこれが、お仕置きなのだとわかった。だから、頑張って耐えた。……耐えたけど。
「ひぐっ……!」
 ……また、いってしまった。飛び散ってしまったそれが、マスターの仮面につくのが見えた。その瞬間に、なぜかボクの心臓が急にキュンってなって。……ボクは、自分が悪い子なのだと思い知る。
 もう、耐えきれなかった。思う存分、吐き出してしまいたかった。今まで我慢していたもの、全部。
「マスターっ……マスターっ……もっと、もっと……! ボクを、愛してっ……!」
 ……誰にも、渡したくなかった。誰にも、奪われたくなかった。
「大好きっ……! だからっ……! ボクを、もっと……もっと!」

「――一緒に、いこう」

 身体中が、ぞわぞわした。突然囁かれたボクは、思わずビクンってなって。……またすぐに、いっちゃった。
 でも、もう出なかった。ボクの中は、もう空っぽだった。だからあったのは、絡みついてくるような甘い刺激と……。……流れ込んでくる、マスターの、暖かいもの。
 マスターが背中から、抱きしめてくれていた。今まで以上に、マスターを近くに感じた。それが、とても嬉しくて。
 ……幸せだ。平凡かもしれないけど、幸せだ。ボクはその幸せに、溺れてちゃってて……。気がつけばボクは、眠ってしまっていた。
 だから、後悔した。もっと、甘えたらよかったって。もっと、愛し合ったらよかったって。
 ……だって、ボクが何も知らずにいれたのは、これが最後だったから。
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