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第一章
庭園
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……。見たことがなかった。だから、理解も出来なかった。今ボクが、何を見ているのか。今ボクが、何を体験しているのか。
そこらにあるもの全部、何もかも知らない。……でも、どうしてだろう。ふと気が付けば、今まであった大きな恐怖心は、どこかに消え去ってしまっていた。
「……あれは、木っていうんだよ」
僕は、目の前にある大きな物体を指さした。茶色で、緑色で。小さな紙切れみたいなものが、ひらひらと落ちてくる。
「それでこれは、お花」
僕は、足元にある小さな物体を拾った。これは確か、黄色だったと思う。……甘い、匂い。
「そして……。――本当の、空」
ボクは、僕の視線を追った。……そこにあったのは、ボクの知らない色だった。
とても透き通っていて、それでいて、とても深くて。まるで綺麗な水のようなそれは、手を差し伸べてみれば、今にも波立たせることが出来そうで。
「フフ。ねえ、行こう!」
すると僕は、またもや突然走り出した。思わず慌ててしまったボクは、少し足がもつれちゃって。その場に倒れ込んでしまう。
そうすると今度は、また見たことも無い地面に気が付いて。固いんだけど、どこか柔らかい。薄茶色みたいな感じだけど、所々に緑色の髪の毛みたいなものが生えている。
「おーい、こっち!」
「ま、待ってよ」
ボクは次々に起こる疑問をこらえ、なんとか立ち上がった。そして木という物体の下で待つ、僕の元に急ぐ。
「はあ、はあ」
「僕一番乗りね!」
「ひ、酷いよ。ボクまだ、ここに慣れてないのに」
「えへへ。ごめんごめん。やっぱり、イジワルしたくなっちゃったんだ」
「……もう」
ふと気が付くと、ボクの身体は、随分とクタクタになっていた。だからなんとなしに、木にもたれかかるように座って。すると僕も、ボクの隣に座った。
「……気に入った?」
僕が、首を傾げる。
「……わかんない。でも、怖くは、ない」
「そう、よかった。僕はね、ここが好き」
そのままボクらは、風を浴びてすごした。疲れて火照った身体を、風が涼しくしてくれて。なんだかとても、心地いい。
「……ねえ。マスターは、ここを知ってるのかな」
「うん、知ってるよ。だってここをお手入れしてるのは、マスターだもん」
それを聞いて、少し驚いた。だってそんな話、聞いたことなかったから。
「……君は、マスターとは、仲良しなの?」
「――ううん、どうだろう。実は僕、よくわかんないんだ」
「どうして?」
「……それは……」
「こんな所で何をしてるんだい、二人とも」
その時ボクらは、思わず顔をあげた。するとそこには、いつの間にかマスターが立っていた。
「ま、マスター」
「ここは入っちゃダメだって、言ったろう? また勝手に抜け出したんだね」
「……ごめんなさい。でもここを、この子にどうしても見せてあげたかったんだ」
「……そうか。でも、私に内緒にしたのは、いけないことだよ」
「……はい」
僕が、怒られている。だからボクも、身がすくんじゃって。立てなかったのだけど。マスターが優しく、手を差し伸べてくれた。
「さあ、君も。もう勝手に、抜け出してはいけないよ?」
「……ごめんなさい、マスター」
――嬉しかった。怒られたけど、……嬉しかった。ボクは何とかマスターに手を握って、フラフラしながら立ち上がる。
「ほら、君の忘れ物だ」
するとマスターは、ボクの黒いワンピースを取り出した。もうすっかり乾いてる様子で、汚れも取れている。
「あ、ご、ごめんなさい。その、ボク、汚しちゃって……」
「いいんだよ。ほら、じゃあその服は、この子に返してあげようね」
「……はい」
ボクは名残惜しさを感じながら、ドレスを脱いで、僕に手渡した。その時の僕は、やっぱり嬉しそうで。
それでボクはマスターから、もう一度ワンピースを貰って。もう一度、着直した。……ほのかに、マスターの匂いがして。なんだかとても、幸せで。
「うん。やっぱり君たちには、それが一番似合う」
「……えへへ」
「さあ、一緒に帰ろう。もう今日は、遅いからね」
ボクらは、マスターと手を繋いだ。右手が僕で、左手がボク。ボクらは一緒に、昇降機の所に戻っていった。
そこらにあるもの全部、何もかも知らない。……でも、どうしてだろう。ふと気が付けば、今まであった大きな恐怖心は、どこかに消え去ってしまっていた。
「……あれは、木っていうんだよ」
僕は、目の前にある大きな物体を指さした。茶色で、緑色で。小さな紙切れみたいなものが、ひらひらと落ちてくる。
「それでこれは、お花」
僕は、足元にある小さな物体を拾った。これは確か、黄色だったと思う。……甘い、匂い。
「そして……。――本当の、空」
ボクは、僕の視線を追った。……そこにあったのは、ボクの知らない色だった。
とても透き通っていて、それでいて、とても深くて。まるで綺麗な水のようなそれは、手を差し伸べてみれば、今にも波立たせることが出来そうで。
「フフ。ねえ、行こう!」
すると僕は、またもや突然走り出した。思わず慌ててしまったボクは、少し足がもつれちゃって。その場に倒れ込んでしまう。
そうすると今度は、また見たことも無い地面に気が付いて。固いんだけど、どこか柔らかい。薄茶色みたいな感じだけど、所々に緑色の髪の毛みたいなものが生えている。
「おーい、こっち!」
「ま、待ってよ」
ボクは次々に起こる疑問をこらえ、なんとか立ち上がった。そして木という物体の下で待つ、僕の元に急ぐ。
「はあ、はあ」
「僕一番乗りね!」
「ひ、酷いよ。ボクまだ、ここに慣れてないのに」
「えへへ。ごめんごめん。やっぱり、イジワルしたくなっちゃったんだ」
「……もう」
ふと気が付くと、ボクの身体は、随分とクタクタになっていた。だからなんとなしに、木にもたれかかるように座って。すると僕も、ボクの隣に座った。
「……気に入った?」
僕が、首を傾げる。
「……わかんない。でも、怖くは、ない」
「そう、よかった。僕はね、ここが好き」
そのままボクらは、風を浴びてすごした。疲れて火照った身体を、風が涼しくしてくれて。なんだかとても、心地いい。
「……ねえ。マスターは、ここを知ってるのかな」
「うん、知ってるよ。だってここをお手入れしてるのは、マスターだもん」
それを聞いて、少し驚いた。だってそんな話、聞いたことなかったから。
「……君は、マスターとは、仲良しなの?」
「――ううん、どうだろう。実は僕、よくわかんないんだ」
「どうして?」
「……それは……」
「こんな所で何をしてるんだい、二人とも」
その時ボクらは、思わず顔をあげた。するとそこには、いつの間にかマスターが立っていた。
「ま、マスター」
「ここは入っちゃダメだって、言ったろう? また勝手に抜け出したんだね」
「……ごめんなさい。でもここを、この子にどうしても見せてあげたかったんだ」
「……そうか。でも、私に内緒にしたのは、いけないことだよ」
「……はい」
僕が、怒られている。だからボクも、身がすくんじゃって。立てなかったのだけど。マスターが優しく、手を差し伸べてくれた。
「さあ、君も。もう勝手に、抜け出してはいけないよ?」
「……ごめんなさい、マスター」
――嬉しかった。怒られたけど、……嬉しかった。ボクは何とかマスターに手を握って、フラフラしながら立ち上がる。
「ほら、君の忘れ物だ」
するとマスターは、ボクの黒いワンピースを取り出した。もうすっかり乾いてる様子で、汚れも取れている。
「あ、ご、ごめんなさい。その、ボク、汚しちゃって……」
「いいんだよ。ほら、じゃあその服は、この子に返してあげようね」
「……はい」
ボクは名残惜しさを感じながら、ドレスを脱いで、僕に手渡した。その時の僕は、やっぱり嬉しそうで。
それでボクはマスターから、もう一度ワンピースを貰って。もう一度、着直した。……ほのかに、マスターの匂いがして。なんだかとても、幸せで。
「うん。やっぱり君たちには、それが一番似合う」
「……えへへ」
「さあ、一緒に帰ろう。もう今日は、遅いからね」
ボクらは、マスターと手を繋いだ。右手が僕で、左手がボク。ボクらは一緒に、昇降機の所に戻っていった。
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