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第四章
対峙
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寂しい。まず最初に思ったのは、それだった。そしてその次には、怖い。今ボクは、たった一人で。この迷宮のような場所を、歩いている。
誰も居ない道。薄暗い道。たまに落ちている、死体と血。それでもボクは、必死に先に進んだ。背中と手に持っている、道具を頼りに。
背負ってるリュックの中には、食べ物がいくつか。それとシロから貰った、バールが一本。そしてボクの手元には、チカチカ光る、謎の装置。
装置の画面には、このフロアの地図が表示されてて。そしてその地図の一部が、赤色に光っている。……シロによると、この赤色が、”アイツ”らしい。だからボクは、決して赤色に近づかないように、辺りを適当にウロウロしていた。
「あ……」
そしてしばらく歩いていると、黄色に光るものが現れた。これが、シロの言ってた……管理官っていうのらしい。だからボクは、コイツを倒して、鍵を奪わなくちゃいけないんだけど。
……不思議だ。いや、なんというか。他の赤色は、色々動いたりしてるのに。この黄色は、全然動かない。さっきからジッとしている。ってことは、死んでるんだろうか?
それならそれで、いいんだけど。あの化け物になってないなら、戦わなくていいから。そう思って、ボクは。黄色の居る部屋へと向けて進んだ。
「……ここ、かな」
そうして辿り着いたのは、『研究室』と書かれた部屋。でもボクは、この漢字が読めない。だから深く考えず、ゆっくりと扉を開けてみて。中を覗いてみた。
……。水槽がいっぱいある。でもどの水槽も、割れていて。水槽のガラスの破片が、そこら中に広がっている。水槽の中には、何も残っていない。
それに、機械も沢山ある。なんというか、とても大きくて。ゴツゴツしたものばかり。でっかいパイプみたいなものが、天井に繋がってて。パイプから何かの液体が、滴り落ちている。
この時ボクは、内心であの部屋のことを思い出していた。あの大人……ロインと別れた、あの部屋だ。少し構造が似ているけど、あそこよりも大きくて広い。
「……向こうかな」
そしてボクは、持っている装置を確認して。部屋の中に化け物がいないことを確かめてから、中へと入った。ボクは裸足だから、怪我をしないように、慎重に。
よく見てみると、床は濡れている。タイルで出来た床だから、中々乾かないみたい。綺麗な水かな? でもきっと、あまり踏まないほうがいい。
「……あ」
奥へ進むと、もう一つの小部屋みたいなのがあった。机と椅子だけがある、殺風景な部屋だけど。その椅子には、誰かが座っていた。そしてもう一度、装置を確認する。間違いない。こいつが、管理官だ。
薄汚れた白衣には、血がついていて。全身から力が抜けたように、うなだれている。だからきっと、死んでいる。そう思ったボクは、ゆっくりと近づいた。……死体を近くで見るのは、初めてだ。
皮膚の色が悪い。息の音が聞こえない。目はうっすらと開いているけど、ぼうっとしている。……死ぬって、こういうことなんだろうか。
そしてボクは、死体を観察する中で目当ての物を発見した。白衣の胸ポケットに入っている、カード。これがシロの言ってた、セキュリティーキーっていうものだろう。ボクはそれを、ポケットから引き抜いた。
「……よし。早く、持って行かなくちゃ」
ボクはカードをリュックに入れて、振り返った。それからこの場から立ち去るために、前に歩いたんだけど。……何か、奇妙な音がした。
「……。今のって……?」
気のせいかな。そう思ったけど、耳を澄ませてみれば、まだその音は聞こえていた。そしてその音は、この死体から。……いや、死体の”中”からだ。
だからボクは、ゆっくりと後ずさりをした。確信はなかったけど、もう間違いないと思う。……今からコイツは、化け物に変身するんだ。
ほら。死体が、揺れ出した。死体の腕が、暴れ出した。まるで、苦しむみたいに。駄々をこねる、赤ちゃんみたいに。
逃げなきゃ。逃げなきゃ。でも、逃げられない。どうして? どうして? ……どうして、出口の鍵が閉まってるの? さっきまで、開いてたのに。
ドアノブが動かない。必死にやってるけど、全然動かない。急がなきゃ。急がなきゃ。……ああ、もう。死体の口から、何か出てきた。――あの、触手が。
動けない。身体が、凍っちゃって。一歩も、動けない。頭の中で、あの時のが、蘇っちゃって。
逃げ場が無かった。ボクの背中にある扉以外、この部屋に出口はない。どこにも、どこにも。
どうしよう。また、犯される。また、めちゃくちゃにされる。今度こそ、……大切なものを、奪われちゃう。嫌だ。そんなの、嫌だ。嫌だ。
「――嫌だ!!」
……気が付くと、ボクはバールを握っていた。両手で、しっかりと。でも次は、この尻餅を何とかしなくちゃいけない。
そうこうしているうちに、アイツは変形をほとんど終えていた。口から色々な物が出て来て、それがアイツの頭にまとわりついて。あの時と同じ、肉塊のような姿に、変わっていって……。次の瞬間。アイツはボクに向かって、触手を飛ばしてきた。
「うわあっ!!」
ボクはとっさに、その場から転ぶように離れた。そして触手はボクのほっぺをかすめると、バギィッという音を立てて、扉に突き刺さる。
触手は突き刺さったまま、色々な液体を漏らしていた。白いものに、赤いもの。黒いもの。茶色いもの。とにかく、触りたくないものがいっぱい。だからボクは、尻餅をついたまま、アイツから離れた。
今ボクは、水槽の後ろで隠れてる。でもすぐに、見つかっちゃう。だからどうにかしないといけない。…今度はあの時みたいに、ロインは助けてくれないから。
アイツの歩く音がする。床に落ちたガラスを、踏み砕く音が聞こえる。
どうにか、どうにかしなきゃ。なんとか、しなきゃ。だからボクは、部屋を見渡した。何か使えるものが無いかと思って、探してみた。
「……!」
するとボクは、床に転がっていたものに気が付いた。それは、誰かの腕。何かによって切り落とされたであろう腕が、そこに転がっていた。
血の流れはもう止まってる。血だまりも、もうカチカチに固まってる。でも問題は、そこじゃない。ボクにとって重要なのは、この腕が握ってる物。この瓶の方だ。
「うっ……」
ボクは腕の手のひらを広げて、瓶を奪い捕った。そして、ラベルを見てみると……。”Adams”、と書かれていた。
怖い。怖い。でも、やるしかない。これしか、思いつかない。だからボクは、瓶の蓋を開けて。――中身を飲み干した。
誰も居ない道。薄暗い道。たまに落ちている、死体と血。それでもボクは、必死に先に進んだ。背中と手に持っている、道具を頼りに。
背負ってるリュックの中には、食べ物がいくつか。それとシロから貰った、バールが一本。そしてボクの手元には、チカチカ光る、謎の装置。
装置の画面には、このフロアの地図が表示されてて。そしてその地図の一部が、赤色に光っている。……シロによると、この赤色が、”アイツ”らしい。だからボクは、決して赤色に近づかないように、辺りを適当にウロウロしていた。
「あ……」
そしてしばらく歩いていると、黄色に光るものが現れた。これが、シロの言ってた……管理官っていうのらしい。だからボクは、コイツを倒して、鍵を奪わなくちゃいけないんだけど。
……不思議だ。いや、なんというか。他の赤色は、色々動いたりしてるのに。この黄色は、全然動かない。さっきからジッとしている。ってことは、死んでるんだろうか?
それならそれで、いいんだけど。あの化け物になってないなら、戦わなくていいから。そう思って、ボクは。黄色の居る部屋へと向けて進んだ。
「……ここ、かな」
そうして辿り着いたのは、『研究室』と書かれた部屋。でもボクは、この漢字が読めない。だから深く考えず、ゆっくりと扉を開けてみて。中を覗いてみた。
……。水槽がいっぱいある。でもどの水槽も、割れていて。水槽のガラスの破片が、そこら中に広がっている。水槽の中には、何も残っていない。
それに、機械も沢山ある。なんというか、とても大きくて。ゴツゴツしたものばかり。でっかいパイプみたいなものが、天井に繋がってて。パイプから何かの液体が、滴り落ちている。
この時ボクは、内心であの部屋のことを思い出していた。あの大人……ロインと別れた、あの部屋だ。少し構造が似ているけど、あそこよりも大きくて広い。
「……向こうかな」
そしてボクは、持っている装置を確認して。部屋の中に化け物がいないことを確かめてから、中へと入った。ボクは裸足だから、怪我をしないように、慎重に。
よく見てみると、床は濡れている。タイルで出来た床だから、中々乾かないみたい。綺麗な水かな? でもきっと、あまり踏まないほうがいい。
「……あ」
奥へ進むと、もう一つの小部屋みたいなのがあった。机と椅子だけがある、殺風景な部屋だけど。その椅子には、誰かが座っていた。そしてもう一度、装置を確認する。間違いない。こいつが、管理官だ。
薄汚れた白衣には、血がついていて。全身から力が抜けたように、うなだれている。だからきっと、死んでいる。そう思ったボクは、ゆっくりと近づいた。……死体を近くで見るのは、初めてだ。
皮膚の色が悪い。息の音が聞こえない。目はうっすらと開いているけど、ぼうっとしている。……死ぬって、こういうことなんだろうか。
そしてボクは、死体を観察する中で目当ての物を発見した。白衣の胸ポケットに入っている、カード。これがシロの言ってた、セキュリティーキーっていうものだろう。ボクはそれを、ポケットから引き抜いた。
「……よし。早く、持って行かなくちゃ」
ボクはカードをリュックに入れて、振り返った。それからこの場から立ち去るために、前に歩いたんだけど。……何か、奇妙な音がした。
「……。今のって……?」
気のせいかな。そう思ったけど、耳を澄ませてみれば、まだその音は聞こえていた。そしてその音は、この死体から。……いや、死体の”中”からだ。
だからボクは、ゆっくりと後ずさりをした。確信はなかったけど、もう間違いないと思う。……今からコイツは、化け物に変身するんだ。
ほら。死体が、揺れ出した。死体の腕が、暴れ出した。まるで、苦しむみたいに。駄々をこねる、赤ちゃんみたいに。
逃げなきゃ。逃げなきゃ。でも、逃げられない。どうして? どうして? ……どうして、出口の鍵が閉まってるの? さっきまで、開いてたのに。
ドアノブが動かない。必死にやってるけど、全然動かない。急がなきゃ。急がなきゃ。……ああ、もう。死体の口から、何か出てきた。――あの、触手が。
動けない。身体が、凍っちゃって。一歩も、動けない。頭の中で、あの時のが、蘇っちゃって。
逃げ場が無かった。ボクの背中にある扉以外、この部屋に出口はない。どこにも、どこにも。
どうしよう。また、犯される。また、めちゃくちゃにされる。今度こそ、……大切なものを、奪われちゃう。嫌だ。そんなの、嫌だ。嫌だ。
「――嫌だ!!」
……気が付くと、ボクはバールを握っていた。両手で、しっかりと。でも次は、この尻餅を何とかしなくちゃいけない。
そうこうしているうちに、アイツは変形をほとんど終えていた。口から色々な物が出て来て、それがアイツの頭にまとわりついて。あの時と同じ、肉塊のような姿に、変わっていって……。次の瞬間。アイツはボクに向かって、触手を飛ばしてきた。
「うわあっ!!」
ボクはとっさに、その場から転ぶように離れた。そして触手はボクのほっぺをかすめると、バギィッという音を立てて、扉に突き刺さる。
触手は突き刺さったまま、色々な液体を漏らしていた。白いものに、赤いもの。黒いもの。茶色いもの。とにかく、触りたくないものがいっぱい。だからボクは、尻餅をついたまま、アイツから離れた。
今ボクは、水槽の後ろで隠れてる。でもすぐに、見つかっちゃう。だからどうにかしないといけない。…今度はあの時みたいに、ロインは助けてくれないから。
アイツの歩く音がする。床に落ちたガラスを、踏み砕く音が聞こえる。
どうにか、どうにかしなきゃ。なんとか、しなきゃ。だからボクは、部屋を見渡した。何か使えるものが無いかと思って、探してみた。
「……!」
するとボクは、床に転がっていたものに気が付いた。それは、誰かの腕。何かによって切り落とされたであろう腕が、そこに転がっていた。
血の流れはもう止まってる。血だまりも、もうカチカチに固まってる。でも問題は、そこじゃない。ボクにとって重要なのは、この腕が握ってる物。この瓶の方だ。
「うっ……」
ボクは腕の手のひらを広げて、瓶を奪い捕った。そして、ラベルを見てみると……。”Adams”、と書かれていた。
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