崩壊した世界からの脱出 -ボクたちはセックスしか知らない-

空倉霰

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第八章

おじいちゃん

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 あれから、何時間かが過ぎたと思う。その間ずっと、ボクはうなされてて。よくわからない気持ち悪いものが、身体の中を駆け巡っていた。
 何度か、吐いて。頭の中が、ゆらゆらしてて。ずっとずっと、動くこともできなかった。
 でもその間は、ずっとアイジスが手を握っててくれた。……それに、変態さんだけど、あのお医者さん……。マカラーヌァ先生も、近くに居たから。
 マカ先生は、『しばらくしたら吐き気は収まる』って言ってた。その言葉の通り、しばらくすると、ようやく落ち着いてきて。ボクはなんとか、ベッドに座れるくらいにはなった。
「大丈夫か? 水でも、持ってこようか? クロ」
「……ううん。平気。ありがとう、アイジス」
「うん……」
 アイジスは、不安そうにしている。……しっかりしなきゃ。お母さんだもの。ボクがちゃんと、アイジスを守ってあげないといけないのに。
 だからボクは、アイジスの頭をぎゅってした。髪の毛が鼻にあたって、少しこそばゆかったけど。……安心させて、あげたかったから。
「入るぜー。……って、……。あ、ああ。お邪魔、だったか」
 すると、レオが扉を開けた。なんだか、少し疲れたような顔をしているけど。大丈夫かな。
「あ……。レオ。おかえりなさい」
「……。今、いいか?」
「うん。……大丈夫だよね、アイジス?」
「ああ……」
 ボクはアイジスの頭を離して、レオに目を向けた。レオは、少し気まずそうにしてから。ゆっくりと、口を開いた。
「えっとな。クロ、しばらく俺たちは、ここで暮らすんだが……。大丈夫だよな?」
「……うん。皆が居るなら、平気だよ」
「そっか。……それで、だ。実はここの奴らが、クロと話したいって言ってんだよ」
「……ボクと、お話?」
「ああ。今、外に居るんだが……いいか?」
「……」
 何か、嫌な予感がした。……でも、わがままは言えないから。少し、頑張ってみた。
「……うん、いいよ」
「……わかった。おい、入れ」
 レオが声をかけると、もう一人の大人が部屋に入って来た。入口がちっちゃいみたいで、背を屈めながら。
「うわあ……」
 大きな大人。レオよりも、もっと大きい。まるで、なんというか。絵本で見た、クマさんみたいな。お髭がもじゃもじゃで、そこはまるで、ライオンさんみたいな。
 ボク、知ってる。これ、スーツって言うんだ。スーツっていう、昔の人とかが来てた服で。とても窮屈なんだって。……きっと、それは本当だ。だって、今にもボタンが弾け飛んじゃいそうだもの。
「君が、クロかね」
「あ……。……う、うん」
「ふん。超能力を扱う者は、子供が多いと聞いていたが。まさかこれほど幼いとはな」
 ……低い、唸り声みたいだ。なんというか、大きな配管の中を、水が通り抜けてるみたいに。
「誰だ、お前」
 アイジスが言った。アイジスは、その大人のことを睨んでた。
「私はレジスタンスの指揮官だ。今後君たちには、私の指揮下に入ってもらう」
「なんだと……? ……おい、レオ」
「すまん。やれることはやったんだが、このオッサンの圧が凄くてな。……まあ、命までは取られんさ」
「必要とあれば取る。それが私の方針だ」
「……。すまん」
 ……。なんだか、怖いな。怒ったら、ボクを食べちゃうんじゃないだろうか。さっきからずっと、ボクを見ているし。……だから気が付くと、ボクはアイジスの後ろに隠れていた。
「……一つ聞いとく。俺とレオの命は構わねえ。……だがその中に、クロは入ってないだろうな?」
「フン。子供の命を使うほど、落ちぶれてはいない。……そいつを回収したのは、この馬鹿が酷く五月蠅かったからだ」
 すると大きな人は、自分の後ろに手を回して……。誰かを”持ってきた”。首根っこを掴んで、引っ張り出したみたい。
「あ……。……ロイ、ン」
「あはは……。ど、どうも」
 ロインの身体が浮いている。大きな人は、片手でロインを持っていた。
「コイツには入って早々、大きな迷惑を受けている。その子供を回収すれば静かにすると言うんで、そうさせてもらった」
「へえ。具体的には?」
「一か月の休息ナシだ。常に任務に出てもらう限り、少なくとも基地の中は静かだろう」
「はは……。……はあー……」
 大きな人はロインを下ろすと、胸ポケットからハンカチを取り出した。そして、手を拭いて。もう一度ハンカチを、ポケットにしまう。
「とにかく、先程も言った通り彼と話がしたい。全員、ここから出ていってもらおう」
「はあ!? ふざけんな!! 俺はクロと離れねえぞ!!」
「まあまあ、アイジス。……ちょっと、聞けって」
 するとレオは、こっちに来て。ボクとアイジスだけに聞こえる声で、話す。
「……今俺たちは、あいつに逆らったら追い出されるだけだ。今は、従っておこうぜ」
「でもあいつがクロに手を出すかもしれねえだろ!?」
「それなんだがな……。多分、大丈夫だと思うんだ」
「はあ!?」
「俺の勘だと、多分あいつ……」
「おい、何を話しているんだ。さっさとしないか」
「あ、へーい。……まあとにかく、行こうぜ。扉の向こうで待機しとけば、すぐに助けに入れるだろ?」
「……。チッ。……クロ、何かあったら大きな声をあげてくれ。すぐに駆け付けるから。……大丈夫か?」
「うん……。わかった」
 そうして二人は、部屋を出ていった。だからこの医務室の中には、ボクとこの大きな人だけで。……なんだか、心細い。
 視線が、なんというかすごくて。強くて。……ボクは、イシュクしている。
「……」
「……」
 なんで、黙ってるんだろう。なんで、ずっと見てくるんだろう。怖いよ。そんなに、見ないで。
「……君は……」
「え……?」
「あ、いや……」
 ……。どうしたんだろう。喋ったと思ったら、急に黙って。……この人も、変な人なのかな。
「オホン。その。……コレ」
「……?」
 すると大きな人は、懐から何かを取り出した。……なんだろう、これは。針金、で出来ているみたいだけど……。
「君にあげよう。ワシが作ったものだ」
「……これって、何……?」
「ええと、人形だよ。ワシとしては針金細工、と呼んでいるがね」
 ……本当だ。よく見てみたら、人の形をしてる。アイジスみたいに、銃を持ってる人かな。
「……あり、がとう……」
 少しだけ、嬉しかった。だから、お礼を言った。……そしたら大きな人は、ほっぺを赤くさせて。照れたように見えた。
「フフフ。いやいや、また作ったら持ってこよう。ワシはこういうのが得意だからな」
 大きな人は、大きな口で笑ってて。お髭を撫でてる。……なんだか、思ったよりも怖くない人なのかな。
「おっと、そうだ。挨拶が遅れたな。ワシの名は、アレクサンダーだ。アレクサンダー大佐、と呼んでくれい」
「……あ、れ……?」
 長くて、覚えられそうにない。
「ん、まあおじいちゃんでもいいがな! うわっはっは!」
 ああ。それなら、覚えられるかな。というか、言いやすい。見た目的にも、ぴったりな気がする。
「じゃあ……。おじいちゃん」
「ほっ!? ばっはっは! 早速来たな! うはっはっは!」
 よくわからない。でも、この人の笑ってる顔は、なんだか好きだ。思う存分、楽しんでいる感じが伝わってきて。
『ちょっと、押すなって!』
『アタシにも見せて! ボスが笑ってるなんて、メスが空から降ってくるようなものだわーさ!?』
『いやだから、押すなって……どわああッ!?』
 その時。どこからか声がしたかと思うと、扉が急にバターンと開いた。……どうやら、アイジスとかレオとか。さっきの人たちが、扉の前に居たみたいで。部屋に倒れ込んできた。
「いてててて……。だから言ったろ!」
「しょうがないですよ。ボスは笑わないことで有名ですから」
「……。貴様ら、何をしている」
「げっ!!」
 おじいちゃんが、怒っていた。扉の方を向いてるから、ボクからは顔が見えないけど。でもこっちからでも、おじいちゃんの髪の毛が逆立っているのがわかる。
「貴様ら全員、一週間飯抜きだ!! 懲罰房行きも覚悟しておくがいい!!」
「皆、逃げろ!! 殺されるぞおああッッ!!」
 その後おじいちゃんは、すごい力で暴れまくった。大人たちが、まるでお洋服みたいに軽々と振り回されて。皆、全員バッタバッタと倒れていった。
 そしてトドメに、おじいちゃんはとんでもない技を使ったんだけど……。あまりに衝撃的だったので。もう、思い出さないことにする。……おじいちゃんは、怒らせちゃいけない人だ。
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