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第十三章
怒り
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それからボクは、しばらく訓練を続けた。そしてその甲斐あってか、ボクは一分先くらいの未来が見えるようになって。ボールを当てることに苦労しなくなってきた。
その度に、ボクは喜んだ。でもアラネアは、あまり嬉しそうじゃない。それが悲しかった。もっとアラネアに喜んで欲しくて、頑張ったけど。そういうことじゃないみたい。
『もうこの辺にしておきましょう。これ以上は、頑張り過ぎです』
それでアラネアに止められて、ようやくボクは訓練を終わった。気が付いてみると、すごい汗だくだったから。ボクとアラネアは、一緒にシャワーを浴びることにした。
「うっ。くすぐったい……」
『大人しくしてください。洗えませんよ』
ドームの一部にシャワーがあったから、今はそこで身体を洗ってる。アラネアが丁寧に、背中を洗ってくれてて。少し恥ずかしいけど、嬉しかった。
「あっ、そ、そこは自分で洗うからっ……」
『……』
でもやっぱり変だった。アラネアはまるで、さっきまでとは違って。後ろからずっとボクを抱きしめてる。
「……どうか、したの?」
『やっぱり、止めましょう』
「え?」
『訓練です。今覚えたことは、全部忘れてください』
「そ、そんな……」
突然、アラネアが変なことを言い出した。せっかく頑張って覚えたのに、すぐに忘れようなんて。
『……怖いんです。あなたが、壊れてしまうのが』
「壊れる……?」
『同じ過ちを、繰り返したくない。私から提案しておいて何ですが、全部忘れましょう。全部』
「で、でもボクは……」
『お願いです。もう、これ以上……死なないでください』
するとアラネアは、ボクをいっそう強く抱きしめて。耳元で囁いた。……とても、怖がってた。まるでいつかの、ボクみたいに。
本音を言うと、少しだけ意外だった。あんなに強くてすごいアラネアが、今はこんなに怖がってて。怯えてる。
ボクは少しだけ、アイジスを思い出した。同時に、今のシロのことも。皆、強い。ボクよりも強い。……でも、とても弱い。弱くて、優しい。
だからむしろ、アラネアの言うことは聞けなくなっちゃった。だって、守りたいから。こんなに弱くて、強い人たちのことを。守りたかったから。
『失礼します』
その時だった。突然、声がして。思わずボクはビックリしちゃって、壁に頭をぶつけてしまう。
ボクは頭をさすりながら、見上げてみると。そこに居たのは、金髪の子だった。あの子は個室の外から、話しかけていたんだけど。
「あ……」
血だらけなのがわかった。スイングドアの隙間から、金髪の子の身体が見えて。それで、全身に血がべっとりついていた。
思わず、身体がすくんじゃった。何があってそうなったのかを、聞くのが怖かった。でもなぜか、感覚的にわかった。あれは金髪の子の血じゃない。返り血だ。
『すみません。シャワーを、使わせてもらえませんか』
金髪の子が言った。だからボクとアラネアは、個室を出て行こうとした。
でも金髪の子は、すれ違いざまにボクの腕を掴んで。それで無理矢理、個室の中に引き戻されて。急に押し倒してくる。
「わあっ!」
シャワーの水が、顔にあたる。それでなんとか目を開けて、金髪の子の顔を見た。
すごく怒ってた。表情は変わらなかったけど、怒りが伝わってきて。ただじっと、ボクの顔を見てた。
「ど、どうしたの……?」
ボクはそう聞いた。するとこの子は、歯を食いしばって。
『……なんでも、ありません』
ウソを言った。明らかに、何かを言いたそうにしている。でも我慢してるみたいで。
何か、嫌なことがあったんだと思った。だから何とかしてあげたかったんだけど、どうしたらいいのかわからなかった。
でもこういう時は、きっと無理に聞かないほうがいいと思う。なのでボクは、そっとこの子を抱きしめて。頭を撫でてあげた。
『……どうして、いつもそうなんですか。いつも、いつも……』
「え……?」
『いつも我慢してばっかりで。文句すらも言わないで。そんなんだから、私だって我慢しなきゃいけないんです。……いい迷惑ですよ、本当に』
何を言っているのか、よくわからなかった。でも何かを我慢してて、辛いっていうのは伝わってきた。
「……何を我慢してるの?」
『決まってるじゃないですか。殺したいんですよ。あなたを傷つける、全ての者を』
「……それって……。もしかして、アイジス?」
『それ以外もです。……ずっと我慢してたんですよ。だってあなたが、耐えているんですから』
「……。えっと、その。……何かボクに、出来ることはある?」
『ええ。私のこの怒りを、受け止めてください。殺すなと言うのなら、その身体で、私を受け止めてください』
「……わかった」
そうしてボクは、金髪の子を受け止めた。でもやっぱり、アラネアの時とは違って。ちょっとだけ乱暴だった。
でもそれも仕方ないと思う。だって、ボクが原因だったから。ボクがもっと強ければ、この子だって我慢する必要もなかったから。
している間は、ずっと苦しそうだった。それで、悲しそうだった。だから、今この子に本当に必要なのは、ボクではないと思った。この子に必要なのは、きっと……。
その度に、ボクは喜んだ。でもアラネアは、あまり嬉しそうじゃない。それが悲しかった。もっとアラネアに喜んで欲しくて、頑張ったけど。そういうことじゃないみたい。
『もうこの辺にしておきましょう。これ以上は、頑張り過ぎです』
それでアラネアに止められて、ようやくボクは訓練を終わった。気が付いてみると、すごい汗だくだったから。ボクとアラネアは、一緒にシャワーを浴びることにした。
「うっ。くすぐったい……」
『大人しくしてください。洗えませんよ』
ドームの一部にシャワーがあったから、今はそこで身体を洗ってる。アラネアが丁寧に、背中を洗ってくれてて。少し恥ずかしいけど、嬉しかった。
「あっ、そ、そこは自分で洗うからっ……」
『……』
でもやっぱり変だった。アラネアはまるで、さっきまでとは違って。後ろからずっとボクを抱きしめてる。
「……どうか、したの?」
『やっぱり、止めましょう』
「え?」
『訓練です。今覚えたことは、全部忘れてください』
「そ、そんな……」
突然、アラネアが変なことを言い出した。せっかく頑張って覚えたのに、すぐに忘れようなんて。
『……怖いんです。あなたが、壊れてしまうのが』
「壊れる……?」
『同じ過ちを、繰り返したくない。私から提案しておいて何ですが、全部忘れましょう。全部』
「で、でもボクは……」
『お願いです。もう、これ以上……死なないでください』
するとアラネアは、ボクをいっそう強く抱きしめて。耳元で囁いた。……とても、怖がってた。まるでいつかの、ボクみたいに。
本音を言うと、少しだけ意外だった。あんなに強くてすごいアラネアが、今はこんなに怖がってて。怯えてる。
ボクは少しだけ、アイジスを思い出した。同時に、今のシロのことも。皆、強い。ボクよりも強い。……でも、とても弱い。弱くて、優しい。
だからむしろ、アラネアの言うことは聞けなくなっちゃった。だって、守りたいから。こんなに弱くて、強い人たちのことを。守りたかったから。
『失礼します』
その時だった。突然、声がして。思わずボクはビックリしちゃって、壁に頭をぶつけてしまう。
ボクは頭をさすりながら、見上げてみると。そこに居たのは、金髪の子だった。あの子は個室の外から、話しかけていたんだけど。
「あ……」
血だらけなのがわかった。スイングドアの隙間から、金髪の子の身体が見えて。それで、全身に血がべっとりついていた。
思わず、身体がすくんじゃった。何があってそうなったのかを、聞くのが怖かった。でもなぜか、感覚的にわかった。あれは金髪の子の血じゃない。返り血だ。
『すみません。シャワーを、使わせてもらえませんか』
金髪の子が言った。だからボクとアラネアは、個室を出て行こうとした。
でも金髪の子は、すれ違いざまにボクの腕を掴んで。それで無理矢理、個室の中に引き戻されて。急に押し倒してくる。
「わあっ!」
シャワーの水が、顔にあたる。それでなんとか目を開けて、金髪の子の顔を見た。
すごく怒ってた。表情は変わらなかったけど、怒りが伝わってきて。ただじっと、ボクの顔を見てた。
「ど、どうしたの……?」
ボクはそう聞いた。するとこの子は、歯を食いしばって。
『……なんでも、ありません』
ウソを言った。明らかに、何かを言いたそうにしている。でも我慢してるみたいで。
何か、嫌なことがあったんだと思った。だから何とかしてあげたかったんだけど、どうしたらいいのかわからなかった。
でもこういう時は、きっと無理に聞かないほうがいいと思う。なのでボクは、そっとこの子を抱きしめて。頭を撫でてあげた。
『……どうして、いつもそうなんですか。いつも、いつも……』
「え……?」
『いつも我慢してばっかりで。文句すらも言わないで。そんなんだから、私だって我慢しなきゃいけないんです。……いい迷惑ですよ、本当に』
何を言っているのか、よくわからなかった。でも何かを我慢してて、辛いっていうのは伝わってきた。
「……何を我慢してるの?」
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「……それって……。もしかして、アイジス?」
『それ以外もです。……ずっと我慢してたんですよ。だってあなたが、耐えているんですから』
「……。えっと、その。……何かボクに、出来ることはある?」
『ええ。私のこの怒りを、受け止めてください。殺すなと言うのなら、その身体で、私を受け止めてください』
「……わかった」
そうしてボクは、金髪の子を受け止めた。でもやっぱり、アラネアの時とは違って。ちょっとだけ乱暴だった。
でもそれも仕方ないと思う。だって、ボクが原因だったから。ボクがもっと強ければ、この子だって我慢する必要もなかったから。
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