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第十三章
Collapsed world
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冷たかった。すごく凍えてしまいそうなくらい、とても。
でもなぜだか、それが心地よかった。まるでとっても熱い料理を、冷ましてるみたいに。
『――だろう。――か――』
声が聞こえてきた。だからボクは、目を開けてみて。目の前にマスターが居るのがわかった。
でも、何かが邪魔してた。ボクはマスターに触れようと思って、手を伸ばしたんだけど。ガラスみたいなものがあった。
『……おはよう、クロ。気分はどうだい?』
マスターがボクに気が付いた。マスターは、ガラス越しにボクと手を合わせて。ボクに声をかけた。喋ろうとした。でも口に、呼吸器がついてたから。喋れなかった。
『待っててくれ。今、冷却液を抜くからね』
すると、冷たい何かが減っていった。それでわかったけど、どうやらボクは円柱型の水槽に入ってるみたいだった。
どうしてこんな所に居るんだろう。そう思っているうちに、水は全部抜けて。ボクはまた床に倒れ込んだ。
「……大丈夫かい?」
扉が開いて、マスターがボクの肩に触れる。とっても暖かかった。ボクは咳をしながら、呼吸器を外して。なんとかマスターと話そうとした。
「焦らないで。私は、ここに居るから。……ゆっくりでいいんだ」
ボクはマスターに甘えて、思いっきり息を吸った。それでゆっくり時間をかけて、呼吸を整えて。ボクは震える手で、何とかマスターに抱きついた。
「おはよう、クロ。お寝坊さんな君も、素敵だよ」
「ます、たー。……どうして、ここに居るの?」
不思議と、最初に出た言葉はそれだった。会えたのは嬉しかったんだけど、なぜここに居るのかがわからなくて。
でもマスターは、微笑むだけだった。何も言わずに。だからボクも深く考えずに、笑った。マスターに会えるのは、やっぱり嬉しいから。
「さて、そのままじゃ風邪をひいてしまうね。お洋服を用意しようか」
マスターはボクを抱っこして、どこかに向かった。その間にボクは、ずっとマスターの胸元に顔を埋めて。マスターの匂いを嗅いでいた。
いい匂いがする。何かの香水なのかな。甘いような気もするけど、不思議な香り。これは確か、前に見た花っていうものの香りに似てるけど。なんだろう。
「どれがいいかな……。ああ、これがいい」
そうしてボクは、マスターに身体を拭いてもらって。新しいお洋服を貰った。これは確か、前に貰ったこともある黒いワンピースだ。
やっぱりすてきだな。とってもふわふわしてて、すべすべで。マスターの選ぶお洋服は、いつもすてきなんだ。
「おや、どうかしたのかい?」
でも、なぜか素直に喜べなかった。何か心の奥が、モヤモヤしてて。何か大事なことを忘れてる気がした。
「あ……」
それで、思い出した。自分が気絶する前に見てた、あの光景のことを。レオとアイジスが、喧嘩してるあの映像。
そうだ。ボクは気絶したんだ。重たい未来に耐え切れなくなっちゃって、それで……。
「マス、ター。……皆は。皆は、大丈夫なの?」
ボクは恐る恐る、マスターに聞いてみた。するとマスターは、少しだけ顔を暗くしたみたいで。すぐには答えてくれなかった。
「ああ。大丈夫だよ。皆生きている。……残念だけどね」
「ね、ねえ。会いに行っていいかな? 心配なんだ。レオとアイジスが、喧嘩しそうになってて……――」
するとマスターは、ボクにキスをした。まるでボクの口を、塞ぐみたいに。
「……いいかい。これから君には、少し辛い現実が待っているかもしれない。だから、覚えておいてほしいんだ。もしも耐え切れないと思ったら……、それでいい。私が全部、忘れさせるから」
何を言ってるのか、わからなかった。マスターはいつも、目元に仮面をつけてるから。口元以外の表情はわからない。
それでも、とっても心配なのが伝わってきた。マスターがボクを想ってくれているのが、すごくわかって。……だから悲しむよりも、嬉しさが勝っていた。
「じゃあ、行こうか。……ついておいで」
ボクはマスターと手を握って、廊下を進んだ。その間はずっと、とっても幸せだった。……こういう幸せを、皆と一緒に感じたいな。そういうことも考えたりしてて。
でもそれは、少しずつ消えていった。いわば淡い希望みたいなものは、風に吹かれたみたいに飛んで行って。ボクの中には、また空っぽな何かが溢れて来ていた。
「――、え?」
マスターがボクを連れてきたのは、大きな窓だった。とっても大きな、窓。……でも、窓じゃない。ガラスは全部割れてるし、窓枠だって無い。全部全部、瓦礫で。
それで、窓の外には景色があった。そこに広がってたのは、いつか見たようなもので。そうあれは、シロと一緒に冒険に行った時だ。非常口から外に出た時と、同じもの。
……外の世界、だった。そこに広がってたのは、紛れもない”外”で。空があった。だから思わずボクは、頭が止まって。考える力が無くなった。
「ようこそ、クロ。これが、外の世界。――Collapsed world(崩壊した世界)だよ」
でもなぜだか、それが心地よかった。まるでとっても熱い料理を、冷ましてるみたいに。
『――だろう。――か――』
声が聞こえてきた。だからボクは、目を開けてみて。目の前にマスターが居るのがわかった。
でも、何かが邪魔してた。ボクはマスターに触れようと思って、手を伸ばしたんだけど。ガラスみたいなものがあった。
『……おはよう、クロ。気分はどうだい?』
マスターがボクに気が付いた。マスターは、ガラス越しにボクと手を合わせて。ボクに声をかけた。喋ろうとした。でも口に、呼吸器がついてたから。喋れなかった。
『待っててくれ。今、冷却液を抜くからね』
すると、冷たい何かが減っていった。それでわかったけど、どうやらボクは円柱型の水槽に入ってるみたいだった。
どうしてこんな所に居るんだろう。そう思っているうちに、水は全部抜けて。ボクはまた床に倒れ込んだ。
「……大丈夫かい?」
扉が開いて、マスターがボクの肩に触れる。とっても暖かかった。ボクは咳をしながら、呼吸器を外して。なんとかマスターと話そうとした。
「焦らないで。私は、ここに居るから。……ゆっくりでいいんだ」
ボクはマスターに甘えて、思いっきり息を吸った。それでゆっくり時間をかけて、呼吸を整えて。ボクは震える手で、何とかマスターに抱きついた。
「おはよう、クロ。お寝坊さんな君も、素敵だよ」
「ます、たー。……どうして、ここに居るの?」
不思議と、最初に出た言葉はそれだった。会えたのは嬉しかったんだけど、なぜここに居るのかがわからなくて。
でもマスターは、微笑むだけだった。何も言わずに。だからボクも深く考えずに、笑った。マスターに会えるのは、やっぱり嬉しいから。
「さて、そのままじゃ風邪をひいてしまうね。お洋服を用意しようか」
マスターはボクを抱っこして、どこかに向かった。その間にボクは、ずっとマスターの胸元に顔を埋めて。マスターの匂いを嗅いでいた。
いい匂いがする。何かの香水なのかな。甘いような気もするけど、不思議な香り。これは確か、前に見た花っていうものの香りに似てるけど。なんだろう。
「どれがいいかな……。ああ、これがいい」
そうしてボクは、マスターに身体を拭いてもらって。新しいお洋服を貰った。これは確か、前に貰ったこともある黒いワンピースだ。
やっぱりすてきだな。とってもふわふわしてて、すべすべで。マスターの選ぶお洋服は、いつもすてきなんだ。
「おや、どうかしたのかい?」
でも、なぜか素直に喜べなかった。何か心の奥が、モヤモヤしてて。何か大事なことを忘れてる気がした。
「あ……」
それで、思い出した。自分が気絶する前に見てた、あの光景のことを。レオとアイジスが、喧嘩してるあの映像。
そうだ。ボクは気絶したんだ。重たい未来に耐え切れなくなっちゃって、それで……。
「マス、ター。……皆は。皆は、大丈夫なの?」
ボクは恐る恐る、マスターに聞いてみた。するとマスターは、少しだけ顔を暗くしたみたいで。すぐには答えてくれなかった。
「ああ。大丈夫だよ。皆生きている。……残念だけどね」
「ね、ねえ。会いに行っていいかな? 心配なんだ。レオとアイジスが、喧嘩しそうになってて……――」
するとマスターは、ボクにキスをした。まるでボクの口を、塞ぐみたいに。
「……いいかい。これから君には、少し辛い現実が待っているかもしれない。だから、覚えておいてほしいんだ。もしも耐え切れないと思ったら……、それでいい。私が全部、忘れさせるから」
何を言ってるのか、わからなかった。マスターはいつも、目元に仮面をつけてるから。口元以外の表情はわからない。
それでも、とっても心配なのが伝わってきた。マスターがボクを想ってくれているのが、すごくわかって。……だから悲しむよりも、嬉しさが勝っていた。
「じゃあ、行こうか。……ついておいで」
ボクはマスターと手を握って、廊下を進んだ。その間はずっと、とっても幸せだった。……こういう幸せを、皆と一緒に感じたいな。そういうことも考えたりしてて。
でもそれは、少しずつ消えていった。いわば淡い希望みたいなものは、風に吹かれたみたいに飛んで行って。ボクの中には、また空っぽな何かが溢れて来ていた。
「――、え?」
マスターがボクを連れてきたのは、大きな窓だった。とっても大きな、窓。……でも、窓じゃない。ガラスは全部割れてるし、窓枠だって無い。全部全部、瓦礫で。
それで、窓の外には景色があった。そこに広がってたのは、いつか見たようなもので。そうあれは、シロと一緒に冒険に行った時だ。非常口から外に出た時と、同じもの。
……外の世界、だった。そこに広がってたのは、紛れもない”外”で。空があった。だから思わずボクは、頭が止まって。考える力が無くなった。
「ようこそ、クロ。これが、外の世界。――Collapsed world(崩壊した世界)だよ」
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