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第十八章
Wake up
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痛みがあった。ジンジンと鈍い感じの、表面上のもの。この痛みには覚えがある。つい少し前までは、毎日これに悩んでいた。
目を開けてみた。すると、見知らぬ灰色の天井がそこにあった。今にも崩れそうなほどにヒビが入っているあたり、もう随分前に捨てられた廃墟か何かだろう。そう思って起き上がろうとすると、誰かの手によって押し戻された。
「まだ寝てなさい。傷口が開くわよ」
メアだった。メアは壁に背をつきながら、僕を見下している。いやそれよりも――クロは? 僕がそう質問すると、メアはさらに眉をひそめ、しばし僕を見つめた。
「アンタのその手当、誰がしてやったと思ってんのかしら。まあいいわ。知りたいなら自分の目で、見て回ることね」
そういうと、メアは近くにあった窓に歩いて行く。僕は何とか石畳の上から起き上がって、ガラスを踏みながらメアの隣まで行ってみた。……すると。
「何だ、ここ」
目の前にあった景色。それは一言で言うならば、”海”だった。でも海と言うにはあまりに不自然すぎる、光景。
なぜなら海の中に、幾つかの建造物が沈んでいるからだ。背の高いビルなどのいくつかは、海面から飛び出しているものの。ほとんどはダムの底に沈んだ村のように、水没している。
「元々は大きな街だったらしいわ。でも今じゃ、このありさま。……厄介なものね。気象兵器ってのも」
僕はここから、見渡せる限りを観察してみた。どうやらここには、まだ何人かの人間が住んでいるらしい。
ビルとビルは簡単な吊り橋で繋がれており、上の階層などから焚き火の煙があがっている。豆粒ほどの人影も見えるし、沈み切っていない建物にはまだ誰かが生活しているようだ。
……内心、少し驚いている。まだ外の世界に、生活能力がある人間が居たなんて。大半は野生化した奴ばかりで、知性の欠片も見えないのに。
「……ちょっと待て。まさか、あいつらにクロを預けたのか!?」
刹那、僕の全身で冷や汗があふれ出す。この部屋の中にクロが居ないということは、まさかと思って。しかしメアは『やれやれ』というようにため息をつき、また僕を見下した。
「隣よ。ついて来なさい」
僕はメアの後を追い、隣の部屋に行ってみる。するとそこには、ベッドに寝ているクロが居た。
「クロ……!」
僕はクロに近づこうとした。でもその瞬間に、嫌な感覚が全身を走った。直後、僕は自分の腕を見てみる。……血濡れの包帯が巻かれた、自分の腕。
「アンタがもう少しシャンとしてれば、クロは力を使う必要が無かった。じゃなきゃ、クロがこんなになることも」
僕は部屋の入り口から、クロを見つめた。……凄く苦しそうに呼吸をしている。汗も沢山出ている。眠ってはいるみたいだけど、うめき声をあげてて。そして僕の頭に、一つの”気づき”が駆け巡る。
「ちょっと待て、この苦しみ方……。それに、見慣れない景色。……まさか、クロは」
「……ええ。”テレポート”を使ったのよ。星座の見え方から考えて、地球を半周したくらいの距離を移動したみたい」
「っ……!」
僕は驚愕した。その能力は、マスターにしか扱えないはずなのに。……仮にクロが使えたとしても、テレポートには途方もない力を使う。短距離ならともかく、地球を半周なんて。
「……バカな。そんな力を、クロが使ったら……」
『ガンッッ!!』
その時だった。メアが僕の顔を、思い切りぶん殴る。僕は壁に直撃して、思わずその場に座り込んだ。
「わかってんならさせんじゃないわよ!! クロがどれだけアンタのこと思ってるか、知ってんでしょうが!!」
「……メア」
「アンタが不安定になるたびにクロは苦しむのよ!? 現に今回はついにぶっ倒れちゃったじゃない!!」
「……」
「『僕がクロを守る』!? はあ!? 守られてんのはアンタでしょうが!! アンタはクロに負担をかけるばっかりじゃない!! ふざけんじゃねえよ!!」
……何も言えない。メアの言うことは、正しい。あまり記憶はないけど、何が起きたのかは想像がつく。
僕のせいだ。僕がちゃんとしていれば、クロはこうならなかった。結局僕は、クロに甘えるばかりで。何も出来ていない。……何も。
「……メア」
「っ、クロ……」
すると、クロが起きたみたいだった。……声が大きすぎた。クロは咳き込みながら、こちらを見ている。
「シロを、責めないで。ボクが勝手にやったことだから……」
クロはそう言うと、ふらふらしながらベッドから起き上がって。僕の方に歩いてきた。その途中でクロが倒れそうになったから、僕は近寄ってそれを支える。
「ク、クロ。その……」
「シロ……。大丈夫? もう、落ち着いた?」
それでもクロは、僕のことを心配した。自分のことなんて、気にもしてない様子で。いつもの笑顔を、僕に向けてくれる。
それが悲しかった。悔しかった。迷惑ばかりで何も出来ない自分が、嫌で嫌で仕方なくて。もう、いっそ……――。
「……、あ……?」
するとクロは、自分の手を僕の両頬に添えた。
「そんな顔、しないで。ボクはいつだって、シロのことが好きだから」
「……」
「だから、お願い。――死なないで。ボクが、守るから。どんなに辛くても、ボクが支えるから。……それが、ボクの幸せなんだよ」
目を開けてみた。すると、見知らぬ灰色の天井がそこにあった。今にも崩れそうなほどにヒビが入っているあたり、もう随分前に捨てられた廃墟か何かだろう。そう思って起き上がろうとすると、誰かの手によって押し戻された。
「まだ寝てなさい。傷口が開くわよ」
メアだった。メアは壁に背をつきながら、僕を見下している。いやそれよりも――クロは? 僕がそう質問すると、メアはさらに眉をひそめ、しばし僕を見つめた。
「アンタのその手当、誰がしてやったと思ってんのかしら。まあいいわ。知りたいなら自分の目で、見て回ることね」
そういうと、メアは近くにあった窓に歩いて行く。僕は何とか石畳の上から起き上がって、ガラスを踏みながらメアの隣まで行ってみた。……すると。
「何だ、ここ」
目の前にあった景色。それは一言で言うならば、”海”だった。でも海と言うにはあまりに不自然すぎる、光景。
なぜなら海の中に、幾つかの建造物が沈んでいるからだ。背の高いビルなどのいくつかは、海面から飛び出しているものの。ほとんどはダムの底に沈んだ村のように、水没している。
「元々は大きな街だったらしいわ。でも今じゃ、このありさま。……厄介なものね。気象兵器ってのも」
僕はここから、見渡せる限りを観察してみた。どうやらここには、まだ何人かの人間が住んでいるらしい。
ビルとビルは簡単な吊り橋で繋がれており、上の階層などから焚き火の煙があがっている。豆粒ほどの人影も見えるし、沈み切っていない建物にはまだ誰かが生活しているようだ。
……内心、少し驚いている。まだ外の世界に、生活能力がある人間が居たなんて。大半は野生化した奴ばかりで、知性の欠片も見えないのに。
「……ちょっと待て。まさか、あいつらにクロを預けたのか!?」
刹那、僕の全身で冷や汗があふれ出す。この部屋の中にクロが居ないということは、まさかと思って。しかしメアは『やれやれ』というようにため息をつき、また僕を見下した。
「隣よ。ついて来なさい」
僕はメアの後を追い、隣の部屋に行ってみる。するとそこには、ベッドに寝ているクロが居た。
「クロ……!」
僕はクロに近づこうとした。でもその瞬間に、嫌な感覚が全身を走った。直後、僕は自分の腕を見てみる。……血濡れの包帯が巻かれた、自分の腕。
「アンタがもう少しシャンとしてれば、クロは力を使う必要が無かった。じゃなきゃ、クロがこんなになることも」
僕は部屋の入り口から、クロを見つめた。……凄く苦しそうに呼吸をしている。汗も沢山出ている。眠ってはいるみたいだけど、うめき声をあげてて。そして僕の頭に、一つの”気づき”が駆け巡る。
「ちょっと待て、この苦しみ方……。それに、見慣れない景色。……まさか、クロは」
「……ええ。”テレポート”を使ったのよ。星座の見え方から考えて、地球を半周したくらいの距離を移動したみたい」
「っ……!」
僕は驚愕した。その能力は、マスターにしか扱えないはずなのに。……仮にクロが使えたとしても、テレポートには途方もない力を使う。短距離ならともかく、地球を半周なんて。
「……バカな。そんな力を、クロが使ったら……」
『ガンッッ!!』
その時だった。メアが僕の顔を、思い切りぶん殴る。僕は壁に直撃して、思わずその場に座り込んだ。
「わかってんならさせんじゃないわよ!! クロがどれだけアンタのこと思ってるか、知ってんでしょうが!!」
「……メア」
「アンタが不安定になるたびにクロは苦しむのよ!? 現に今回はついにぶっ倒れちゃったじゃない!!」
「……」
「『僕がクロを守る』!? はあ!? 守られてんのはアンタでしょうが!! アンタはクロに負担をかけるばっかりじゃない!! ふざけんじゃねえよ!!」
……何も言えない。メアの言うことは、正しい。あまり記憶はないけど、何が起きたのかは想像がつく。
僕のせいだ。僕がちゃんとしていれば、クロはこうならなかった。結局僕は、クロに甘えるばかりで。何も出来ていない。……何も。
「……メア」
「っ、クロ……」
すると、クロが起きたみたいだった。……声が大きすぎた。クロは咳き込みながら、こちらを見ている。
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「ク、クロ。その……」
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それが悲しかった。悔しかった。迷惑ばかりで何も出来ない自分が、嫌で嫌で仕方なくて。もう、いっそ……――。
「……、あ……?」
するとクロは、自分の手を僕の両頬に添えた。
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