36 / 138
36 エルフの少女
しおりを挟む
女というものは、まことに謎めいた生き物である。
考えてもみてほしい。彼女たちは平然と感情を翻し、己の気分一つで世界を天国にも地獄にも変えてしまう。理屈よりも直感を重んじ、時には猫のように気まぐれで、時には冬の湖面のごとく冷たくなる。かと思えば、ひとたび微笑まれれば、こちらは馬鹿のように舞い上がってしまうのだから、まったくもって厄介極まりない。
さて、そんな難解な生き物であるところの「女」だが、この異世界に来てからというもの、俺は奇妙な縁で次々と彼女たちと出会ってしまっている。
まずは獣人の少女リュナ。意地っ張りで実直、狩猟の腕は確かだが、やたらとこちらを睨んでくる。次に魔素暴走系魔法使いセリア。頭脳明晰で、感情を表に出さないタイプかと思いきや、たまに困ったような顔をする。その顔がまた妙に絵になるものだから、俺は余計に面倒くさい気持ちになる。
そして今、俺の目の前には──
またしても女が倒れていた。
エルフである。
俺はすでに確信している。この異世界には、何かしらの「女難の法則」があるのではないか。なぜこうも、放っておけない少女が目の前に現れ続けるのか。俺は別に、異世界ハーレムを作るつもりはないのだ。俺のやりたいことはもっとこう、文明の発展とか、技術革新とか、そういう方向にあるはずなのだが。
「……あなたは、誰?」
エルフの少女はか細い声でそう呟いた。
長い銀髪が温泉の湯気に揺れる。彼女は驚くほど整った顔立ちをしており、森の精霊そのもののような神秘的な雰囲気を漂わせていた。長い耳が特徴的で、瞳はどこか憂いを帯びている。
俺はしばらくの間、黙って彼女を見つめていた。
エルフといえば、長命で、弓を得意とし、自然と調和した暮らしをする幻想的な種族であるというのが、俺の知るファンタジーの常識だ。しかし、目の前の彼女は、そんなエルフらしさを超えて、ただならぬ疲労と寂寥をその身にまとっていた。
「……異世界から召喚されたのか?」
俺の問いに、彼女はかすかに目を見開いた。
「……どうして、それを?」
「まあ、俺も異世界から来たもんでな」
俺は苦笑する。異世界の漂流者同士、妙な共感を覚える瞬間だった。
エルフの少女は、しばらく逡巡した後、ぽつりぽつりと語り始めた。
「……私の名前は、エリス。元いた世界では……精霊使いだったの。でも、ある日突然、見知らぬ存在によって召喚されて……気づいたら、この世界にいた」
「召喚主は?」
俺の問いに、彼女は悲しげに首を振った。
「わからないの。召喚された時、すでに誰もいなかった……」
これは、ますます妙な話だ。
召喚魔法というのは、「誰かが意図的に」行うものだろう。だが、彼女は召喚された後、召喚主を見つけることができなかったという。それはつまり、召喚者がすでに死んでいたか、あるいは「最初から召喚主などいなかった」可能性がある。
俺は腕を組み、考え込んだ。
「……で、お前は今までどうやって生き延びてきたんだ?」
「精霊の声を頼りに……」
俺は眉をひそめる。
「精霊?」
「ええ。私は、精霊と交信できるの」
さらっと言ってのけたが、それはなかなかすごい能力ではないか。
俺はこの世界の魔素について、まだ完全に理解していない。ただ、魔素は「生命を変化させ、進化を促し、自己増殖すらさせる」力を持つことは確かだ。そして、エリスの言葉が正しければ、その魔素は「精霊を通じてコントロールできる」可能性がある。
これは大発見かもしれない。
「おい、ちょっと試してみろ」
俺は目の前の温泉の湯気を指さす。
「この温泉の魔素を、お前の精霊交信で操ることはできるか?」
エリスは少し戸惑ったように俺を見た。
「試したことはないけど……やってみる」
彼女は静かに目を閉じ、両手を組む。そして、そっと囁いた。
──風よ、聞こえていますか?
その瞬間。
空気が、わずかに震えた。
温泉の湯気がゆっくりと渦を巻き、まるで意思を持ったかのように揺らめく。俺は思わず息をのんだ。
「おいおい、マジかよ……」
魔素が、確かに彼女の言葉に反応している。
エリスは目を開け、俺の方を見た。
「……できるみたい」
俺は驚愕と興奮の入り混じった表情で、彼女を見返した。
これは、もしかすると「魔素を制御する方法」の手がかりになるかもしれない。
異世界の理を解明する、新たな扉が開かれようとしていた。
考えてもみてほしい。彼女たちは平然と感情を翻し、己の気分一つで世界を天国にも地獄にも変えてしまう。理屈よりも直感を重んじ、時には猫のように気まぐれで、時には冬の湖面のごとく冷たくなる。かと思えば、ひとたび微笑まれれば、こちらは馬鹿のように舞い上がってしまうのだから、まったくもって厄介極まりない。
さて、そんな難解な生き物であるところの「女」だが、この異世界に来てからというもの、俺は奇妙な縁で次々と彼女たちと出会ってしまっている。
まずは獣人の少女リュナ。意地っ張りで実直、狩猟の腕は確かだが、やたらとこちらを睨んでくる。次に魔素暴走系魔法使いセリア。頭脳明晰で、感情を表に出さないタイプかと思いきや、たまに困ったような顔をする。その顔がまた妙に絵になるものだから、俺は余計に面倒くさい気持ちになる。
そして今、俺の目の前には──
またしても女が倒れていた。
エルフである。
俺はすでに確信している。この異世界には、何かしらの「女難の法則」があるのではないか。なぜこうも、放っておけない少女が目の前に現れ続けるのか。俺は別に、異世界ハーレムを作るつもりはないのだ。俺のやりたいことはもっとこう、文明の発展とか、技術革新とか、そういう方向にあるはずなのだが。
「……あなたは、誰?」
エルフの少女はか細い声でそう呟いた。
長い銀髪が温泉の湯気に揺れる。彼女は驚くほど整った顔立ちをしており、森の精霊そのもののような神秘的な雰囲気を漂わせていた。長い耳が特徴的で、瞳はどこか憂いを帯びている。
俺はしばらくの間、黙って彼女を見つめていた。
エルフといえば、長命で、弓を得意とし、自然と調和した暮らしをする幻想的な種族であるというのが、俺の知るファンタジーの常識だ。しかし、目の前の彼女は、そんなエルフらしさを超えて、ただならぬ疲労と寂寥をその身にまとっていた。
「……異世界から召喚されたのか?」
俺の問いに、彼女はかすかに目を見開いた。
「……どうして、それを?」
「まあ、俺も異世界から来たもんでな」
俺は苦笑する。異世界の漂流者同士、妙な共感を覚える瞬間だった。
エルフの少女は、しばらく逡巡した後、ぽつりぽつりと語り始めた。
「……私の名前は、エリス。元いた世界では……精霊使いだったの。でも、ある日突然、見知らぬ存在によって召喚されて……気づいたら、この世界にいた」
「召喚主は?」
俺の問いに、彼女は悲しげに首を振った。
「わからないの。召喚された時、すでに誰もいなかった……」
これは、ますます妙な話だ。
召喚魔法というのは、「誰かが意図的に」行うものだろう。だが、彼女は召喚された後、召喚主を見つけることができなかったという。それはつまり、召喚者がすでに死んでいたか、あるいは「最初から召喚主などいなかった」可能性がある。
俺は腕を組み、考え込んだ。
「……で、お前は今までどうやって生き延びてきたんだ?」
「精霊の声を頼りに……」
俺は眉をひそめる。
「精霊?」
「ええ。私は、精霊と交信できるの」
さらっと言ってのけたが、それはなかなかすごい能力ではないか。
俺はこの世界の魔素について、まだ完全に理解していない。ただ、魔素は「生命を変化させ、進化を促し、自己増殖すらさせる」力を持つことは確かだ。そして、エリスの言葉が正しければ、その魔素は「精霊を通じてコントロールできる」可能性がある。
これは大発見かもしれない。
「おい、ちょっと試してみろ」
俺は目の前の温泉の湯気を指さす。
「この温泉の魔素を、お前の精霊交信で操ることはできるか?」
エリスは少し戸惑ったように俺を見た。
「試したことはないけど……やってみる」
彼女は静かに目を閉じ、両手を組む。そして、そっと囁いた。
──風よ、聞こえていますか?
その瞬間。
空気が、わずかに震えた。
温泉の湯気がゆっくりと渦を巻き、まるで意思を持ったかのように揺らめく。俺は思わず息をのんだ。
「おいおい、マジかよ……」
魔素が、確かに彼女の言葉に反応している。
エリスは目を開け、俺の方を見た。
「……できるみたい」
俺は驚愕と興奮の入り混じった表情で、彼女を見返した。
これは、もしかすると「魔素を制御する方法」の手がかりになるかもしれない。
異世界の理を解明する、新たな扉が開かれようとしていた。
60
あなたにおすすめの小説
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる