無人島転生 〜素材チートで開拓してたら、村どころか王国ができそうです〜

しゅがれっと

文字の大きさ
83 / 138

83 老い、影落とす

しおりを挟む
 まことに困った話だが、最近の村では「老い」が流行している。

 老いが流行るとはなんぞや、と思うかもしれないが、実際に起こっているのだから仕方がない。昨日まで元気に木を担ぎ上げていたウサギ族の老兵が、今朝にはヨボヨボとよろけて転び、リュナの大鍋に足から突っ込むという珍事まで発生した。熱かったらしい。

 「なんか……顔がシワシワになってる子、多くない?」

 リュナが言う。彼女は例の進化温泉以来、俺の生活圏に定着し、妙に俺の背後をうろつくようになった。まるで背後霊。獣人の背後霊というのは耳と尻尾のせいでいっそう目立つ。

 それはさておき、彼女の言葉は事実だった。俺が見ても、最近、やけに腰の曲がった獣人やら、歩くたびに骨がミシミシ言ってそうなウサギ族やらが増えてきていた。

 「加速してるな」と、医者が言った。

 例の時間加速の森。あの森に入った者は、戻ってきてしばらくすると急に動きが鈍くなり、目がかすみ、記憶が飛び始める。そして何より――顔が妙にくたびれる。表情に“疲労感”という三文字が常駐するようになる。

 「まるで人生を早送りにしたみたいだな」と、俺はスープを啜りながら言った。

 「違うな。巻き戻しの早送りだ」

 「いや、意味わかんないぞそれ」

 医者は真顔で頷いた。相変わらずだ。何かを診断しては勝手に診断結果を発表し、誰かが咳をすれば「死期かもしれん」と余計なことを言い、スープを飲み干せば「腸内環境良好」と診断する。だが今回は珍しく、言っていることに芯があった。

 「魔素が時間感覚を狂わせている。森の中では本人は気づかないが、外に出るとズレが出る」

 つまり、森の中では一日が一時間のように流れるが、本人は一日いたと思っている。そして実際には、数週間分の“老い”を身体だけが受け取っているのだ。

 「だったら、もう森に入らなければいいんじゃないの?」

 リュナが言った。もっともな意見である。だが、それができれば苦労はしない。森は便利なのだ。あそこには急速に成長する薬草、収穫に適した果実、そして一部のウサギにとっては“子作り”に最適な環境まで整っている。まるで高機能すぎるラブホテルである。

 「それに、もう手遅れのやつもいる」

 と、医者が指差した先には、村の片隅で石の上に座り、なにやら“ボールだったもの”を見つめている老獣人がいた。彼はそれを手のひらで転がしながら、「これは……鍋の蓋だったか、はたまた初恋の手紙か……」などと言っている。完全に混濁である。

 「……どうする?」

 「どうするって?」

 「このままだと、村に“老い”が溜まっていく。命の偏りが始まるぞ」

 俺はスープを置いた。いよいよもって現実逃避できなくなってきたのだ。

 村には今、“子ども”と“老人”が同時に急増している。寿命の前借りをするかのように育った子どもと、寿命の帳尻合わせで急に老いた者たち。ここには“若者”がいない。

 「つまり、世代が飛んでるってことか?」

 「そうだ。そして制度が追いついていない。教育も、医療も、介護も、なにもかもだ」

 リュナは俺の言葉を聞きながら、そっと俺の手元のスープを一口奪った。

 「ぬるいね。温めなおそうか?」

 「おまえ、今そういうタイミングじゃないだろ」

 「でも、温めなおすことは大事だよ。スープも、命もね」

 妙に深いことを言った気になっている彼女を見て、俺はちょっとだけ笑った。

 制度――それはつまり、“命に時間を与えるもの”だ。

 俺たちの村は、今ようやく“世代”という概念を得た。だがそれを支えるものは、まだ何もない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

処理中です...