無人島転生 〜素材チートで開拓してたら、村どころか王国ができそうです〜

しゅがれっと

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84 教育制度の確立

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 朝、広場に出ると、だいたい子どもが何かしら叫んでいる。

 「わかった!」「みてー!」「じゆうけんきゅうです!」――それらは大抵、わかっていないし、見てほしいものもわからないし、自由研究というより自由奔放という名の暴走である。

 異世界に来てからというもの、俺は虫の鳴き声にも植物の発光にも動じなくなったが、ここ最近の“成長の速度”だけには本気でびびっている。

 たとえば、昨日うまれたばかりのはずの獣人の子が、今日には「ぼくは将来、村長になる!」などと威勢よく宣言している。未来予知か。

 たとえば、今朝見かけたウサギの子は、石に字らしきものを彫りつけていた。その字の出来が思いのほか達筆で、俺のノートの文字より整っていたのは見なかったことにした。

 「このままでは……俺の出番がなくなるんじゃないか」

 という危機感が、じわじわと喉を締め上げてくる。まるで存在意義の圧縮ファイルみたいな日々である。

 そんな俺の精神にとどめを刺してくるのが、あの教育者である。

 分厚い本を抱え、羽ペンを携え、何かに取り憑かれたような目で「子どもたち、すばらしいですね」と言い放つ壮年の男。

 「すばらしいも何も、速すぎるんだよ、全部が」

 と俺が言うと、彼はにこやかに「教育とは、時を味方につけることです」と謎の言語魔術を発動してきた。俺はそっとスープをひと口啜って無視した。

 その教育者は、既に「教える場」を勝手に作り、「授業っぽいこと」を勝手に始めていた。村の南の石畳広場。そこに立てかけられた黒板めいた石板。集まる子どもたち。始まる授業。「本日は“音”について学びます」とか言ってる。まるで始業式でもあるかのような堂々たる態度。

 「おい、ここ村長(仮)の俺に許可取ったか?」

 「取りました」

 「取ってないよな?」

 「心で通じました」

 もうだめだ。話が通じない。

 俺は隣にいたセリアに助けを求めようとしたが、彼女は俺の背後にいた。

 「また勝手に始まってるわね。まあ、別に悪いことじゃないけど」

 「いやいや、悪いぞ。なにが“あいうえお”だ。昨日まで乳飲み子だった奴が“う”の発音について語ってるんだぞ?」

 「でも、学ぶのっていいことじゃない」

 「成長が速すぎて“学び”になってないんだよ。吸収だ。スポンジかおまえらは」

 そう言った瞬間、子どもたちのひとりが「せんせー、“教育の意義”ってなんですか?」と質問していた。俺の意見など存在しない空間。完全に蚊帳の外。

 ――俺はそっと遠くを見た。

 石段の向こうに、ルナがいた。彼女は相変わらず淡々としており、子どもたちの様子を物陰から観察していた。たまに一緒に遊んだりもするが、明らかに“観察者”の側にいる。進化したウサギ族第一号として、彼女は妙に冷静なのだ。

 「ルナ、あの子たち……どう思う?」

 「うん、はやい」

 「だよな」

 「でも、はやくなきゃ、きっと追いつけないの」

 「何に?」

 「この世界の、流れに」

 俺はうなった。やけに哲学的なことを言う。どうしてこの街の住民は、年々詩人めいていくのだろうか。

 教育者は石板にでかでかと「命とは連なりである」と書いた。子どもたちは「なるほどー」とか言っている。なるほど、じゃない。まだ七日目くらいの命だろおまえら。

 俺は思う。そもそも“学校”とは何だったか。学ぶこととは、そんなに早くやっていいものだったか。知るというのは、本来、もっとこう……地味で、遠くて、退屈な営みだったはずだ。

 「セリア、俺、まだ教育ってのが怖いわ」

 「なんで?」

 「間に合わなくなる気がして」

 「間に合わないって?」

 「知らないうちに、“次の世代”が全部作っちまいそうでさ。俺が何もかも通り過ぎた後に、“文明”ができてるんじゃないかって」

 セリアはちょっと考えてから、「まあ、その可能性はあるわね」とさらりと言った。救いはなかった。

 広場では教育者が「本日のまとめです!」と元気に叫んでいる。「学びは灯、教室は炉、君たちは薪だ!」――比喩が怖い。

 俺は静かにスープを飲んだ。ぬるかった。
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