98 / 138
98 街と空をつなぐ回廊
しおりを挟む
それはある朝、風が無駄に張り切って吹き荒れる中、俺が「空にも物流が必要なんじゃないか?」と呟いたのが発端であった。
「また始まった」と誰かが言った気もするが、聞こえなかったことにしておく。なぜならその呟きに反応したのが、よりによってこの村の“工学四天王”であったからだ。
まずは設計士である。この男、風の流れを「家の思想」と真顔で語り、図面を描く際は筆よりも先に詩を口ずさむ。その彼が、俺の一言を聞くなり、「空中回廊ですか!風と思想を接続する壮大な試みですね!」と叫び、全速力でどこかに走り去った。
次に、細工職人。素材を見ればまず裂き、次に撚り、最後に燃やすか食べるかの勢いで実験する職人魂のかたまりである。彼は設計士の叫びを聞くや否や、「浮胞草と羽根苔、あと蔓。あれが全部要る」とだけ呟き、気がつけば崖の上で蔓にぶら下がっていた。
三人目はゴロウ。見た目はがっしりとしたゴロツキ風、実際は真面目な大工である。「空に道だと? 笑わせるな」と言いつつ、その足元ではすでに蔓を組んだ簡易橋の土台が出来始めていた。どうやら彼の“笑わせるな”は“すぐやる”の意らしい。
そして四人目、我らが建築士である。新たな漂流者として村に現れたとき、「この地盤は、固すぎず柔らかすぎず、まるで俺向けだ」とか訳の分からない感想を述べ、誰にも頼まれていないのに村の中心にアーチを設計し始めた逸材だ。彼は空中回廊という言葉に目を輝かせ、「地上と空を接続する構造体、それすなわち空間交響建築!」と叫んでいた。意味はわからないが、熱意は伝わった。
そんなこんなで、「空と地上をつなぐ空回廊計画」が始動した。
素材は浮島から持ち帰った羽根苔、浮胞草、風を操る蔓──どれも風と魔素に反応して浮いたり伸びたり光ったりするという、科学的に言えば「とにかく不安定」な素材である。しかし、この村には理性よりロマンを重視する大人たちが集まっていた。つまり、「できるかどうか」ではなく「やるべきかどうか」が判断基準だったのだ。
「この素材は“浮こうとしている”んだ。ならば、浮かせてやればいい」建築士が呟く。
「でも、強度が足りない。飛行魔獣の背に荷を載せて並走させるべき」職人が冷静に指摘する。
「だったら、風耳ウサギで情報の伝達を、飛行魔獣で物資、そしてこの回廊で人が移動だ」設計士はにやけながら三層構造のスケッチを広げる。
「何でも浮かせりゃいいってもんじゃねぇぞ!」とゴロウが叫ぶが、すでに彼の手は浮く木材を削り始めている。
俺はその混沌を見ていた。呆れもせず、感動もせず、ただ「……これは絶対に誰か落ちるな」と思っていた。
空回廊の構造は、空中に等間隔で設置された浮石を支柱とし、蔓で吊られた橋が蛇行するように地上と浮島を結ぶというものだった。設計士は「これは風の梯子です。昇る思想と降る記憶を接続する回廊です」と意味不明なことを言いながら、魔素流を測定していた。
試作の橋は、風が吹くたびにミシミシと音を立てた。ゴロウが「誰が渡るんだこれ」と唸ったが、その背後で風耳ウサギがふわりと飛び移って見事に着地した。俺たちは無言でうなずき、「じゃあまずはウサギ専用回廊にしよう」と決定した。
だが、問題は「人も渡れる回廊」をどう作るかであった。
設計士は「蔓と羽根苔で吊るすだけでいい」と主張し、建築士は「浮石の並びを再調整すべき」と言い、職人は「魔素流を反転させれば踏み心地が良くなるかも」と呟き、ゴロウは「風に頼るな! 重力を信じろ!」と叫びながら石を積んでいた。
結局、それぞれの案を“少しずつ”取り入れた結果、「軽くて浮くが風で揺れ、蔓で吊られてはいるが一部は石畳で、魔素の流れで時々跳ねる」という、もはや説明不能な構造体が完成した。だが、それは確かに浮島と街をつなぐ「道」だった。
最初の渡航者はリュナだった。
「へっちゃらだよ!」と言いながら耳をピンと立て、途中で足を滑らせて三回転しながら着地した。彼女曰く「遊園地みたい!」とのこと。
俺は深く頷いた。「これは道じゃない。アトラクションだ」と。
だが、村人たちは少しずつこの道を使い始めた。魔素を浴びた果実、羽根苔を編んだ布、浮島で育った変異作物。物資は風に乗って流れ、情報は耳をすませば届き、思想は……まあ、思想は設計士の独壇場だ。
今、空と街はつながった。
風の背骨を渡って、世界が少しずつ膨らんでいく。
「また始まった」と誰かが言った気もするが、聞こえなかったことにしておく。なぜならその呟きに反応したのが、よりによってこの村の“工学四天王”であったからだ。
まずは設計士である。この男、風の流れを「家の思想」と真顔で語り、図面を描く際は筆よりも先に詩を口ずさむ。その彼が、俺の一言を聞くなり、「空中回廊ですか!風と思想を接続する壮大な試みですね!」と叫び、全速力でどこかに走り去った。
次に、細工職人。素材を見ればまず裂き、次に撚り、最後に燃やすか食べるかの勢いで実験する職人魂のかたまりである。彼は設計士の叫びを聞くや否や、「浮胞草と羽根苔、あと蔓。あれが全部要る」とだけ呟き、気がつけば崖の上で蔓にぶら下がっていた。
三人目はゴロウ。見た目はがっしりとしたゴロツキ風、実際は真面目な大工である。「空に道だと? 笑わせるな」と言いつつ、その足元ではすでに蔓を組んだ簡易橋の土台が出来始めていた。どうやら彼の“笑わせるな”は“すぐやる”の意らしい。
そして四人目、我らが建築士である。新たな漂流者として村に現れたとき、「この地盤は、固すぎず柔らかすぎず、まるで俺向けだ」とか訳の分からない感想を述べ、誰にも頼まれていないのに村の中心にアーチを設計し始めた逸材だ。彼は空中回廊という言葉に目を輝かせ、「地上と空を接続する構造体、それすなわち空間交響建築!」と叫んでいた。意味はわからないが、熱意は伝わった。
そんなこんなで、「空と地上をつなぐ空回廊計画」が始動した。
素材は浮島から持ち帰った羽根苔、浮胞草、風を操る蔓──どれも風と魔素に反応して浮いたり伸びたり光ったりするという、科学的に言えば「とにかく不安定」な素材である。しかし、この村には理性よりロマンを重視する大人たちが集まっていた。つまり、「できるかどうか」ではなく「やるべきかどうか」が判断基準だったのだ。
「この素材は“浮こうとしている”んだ。ならば、浮かせてやればいい」建築士が呟く。
「でも、強度が足りない。飛行魔獣の背に荷を載せて並走させるべき」職人が冷静に指摘する。
「だったら、風耳ウサギで情報の伝達を、飛行魔獣で物資、そしてこの回廊で人が移動だ」設計士はにやけながら三層構造のスケッチを広げる。
「何でも浮かせりゃいいってもんじゃねぇぞ!」とゴロウが叫ぶが、すでに彼の手は浮く木材を削り始めている。
俺はその混沌を見ていた。呆れもせず、感動もせず、ただ「……これは絶対に誰か落ちるな」と思っていた。
空回廊の構造は、空中に等間隔で設置された浮石を支柱とし、蔓で吊られた橋が蛇行するように地上と浮島を結ぶというものだった。設計士は「これは風の梯子です。昇る思想と降る記憶を接続する回廊です」と意味不明なことを言いながら、魔素流を測定していた。
試作の橋は、風が吹くたびにミシミシと音を立てた。ゴロウが「誰が渡るんだこれ」と唸ったが、その背後で風耳ウサギがふわりと飛び移って見事に着地した。俺たちは無言でうなずき、「じゃあまずはウサギ専用回廊にしよう」と決定した。
だが、問題は「人も渡れる回廊」をどう作るかであった。
設計士は「蔓と羽根苔で吊るすだけでいい」と主張し、建築士は「浮石の並びを再調整すべき」と言い、職人は「魔素流を反転させれば踏み心地が良くなるかも」と呟き、ゴロウは「風に頼るな! 重力を信じろ!」と叫びながら石を積んでいた。
結局、それぞれの案を“少しずつ”取り入れた結果、「軽くて浮くが風で揺れ、蔓で吊られてはいるが一部は石畳で、魔素の流れで時々跳ねる」という、もはや説明不能な構造体が完成した。だが、それは確かに浮島と街をつなぐ「道」だった。
最初の渡航者はリュナだった。
「へっちゃらだよ!」と言いながら耳をピンと立て、途中で足を滑らせて三回転しながら着地した。彼女曰く「遊園地みたい!」とのこと。
俺は深く頷いた。「これは道じゃない。アトラクションだ」と。
だが、村人たちは少しずつこの道を使い始めた。魔素を浴びた果実、羽根苔を編んだ布、浮島で育った変異作物。物資は風に乗って流れ、情報は耳をすませば届き、思想は……まあ、思想は設計士の独壇場だ。
今、空と街はつながった。
風の背骨を渡って、世界が少しずつ膨らんでいく。
22
あなたにおすすめの小説
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる