塔の上の番つがい~天性の苛められっ子がエリート外科医に拾われて。タワーマンションの最上階で溺愛され支配されていく~

nuka

文字の大きさ
27 / 32
おまけ「ユートより愛を込めて」・「金糸の寝床表紙 」

ユートより愛を込めて

しおりを挟む
 電気ケトルのお湯が湧いた。

 『いいか。ユートは包丁や火には絶対に触るな。ユートがキッチンで使って良いのは、電気ケトルとレンジだけ。くれぐれも火傷しないように気をつけるんだよ』

(はぁい……)

 注意されすぎたせいでユートはキッチンにくると必ず成吾の幻聴が聞こえる。

 言われた通り集中してケトルのお湯をコップに注いだ。ふんわりと湯気がたち無事にホットココアの出来上がり。

 溢さないようにこれまた慎重にソファへ進んで、そおっと座る。

「疲れたぁ……」

  ふうっとユートは肩の力を抜いた。

 たったいま成吾が出勤していったところだ。

 今朝はいつも以上に慌ただしかった。まず寝坊して成吾に起こしてもらったときには一時間も経っていたし、あわてて着替えてリビングに入ったら、なんと窓の外が一面雪景色。巣にUターンしてどこかにあるはずの成吾のマフラーを探し回った。

 マフラーなんていらないと言う成吾を必死で引き止めて、どうにか巣の奥底から見つけ出し首に巻いた。息切れしながら行ってらっしゃいのキスをして、時間ぎりぎりでお見送り。

(まったく。成吾さんは医者で僕には心配性なくせに、自分のこととなると面倒くさがるんだから。もし風邪なんか引いたらどうするの……)

 ユートのいるリビングは空調が効いて暖かいけれど、外の雪は止む気配がなく、高層階のこの部屋の景色はまるでスノードームを覗き込んでいるようだ。車とはいえ、大学病院へと向かった成吾もどうか寒くありませんように。

「さてと……」

 祈りを終えたユートは窓の外から手元のホットココアへと視線を下げた。

 本日2月14日はバレンタインデーであり、出会って初めての成吾のバースデー。どうお祝いするか、一ヶ月以上前から悩んで、やっと昨日決めた。

 すぐにでも準備を始めたいところだが、自分は張り切れば張り切るほど、空回りして失敗する。だからまずはこうして大好きなココアで心を落ち着けるところから────。


 2ヶ月前の12/24はユートのバースデーだった。クリスマスイブにくっついているせいで皆に忘れられがちだったその日を、成吾は盛大に祝ってくれた。

 大輪のバラが所狭しと飾られた部屋でシェフを招いてのフレンチディナー。終盤には、ユートの好きなイチゴがたっぷりで、見上げるほど大きい3段ケーキが運び込まれた。

 二人で飾ったクリスマスツリーの前に成吾がひざまずいて、やっと出来上がったというエンゲージリングと二人の結婚指輪をそっと差し出したとき、ユートは一生分泣いた。が、用意周到な成吾はその涙も引っ込むプレゼントまで用意していた。

 インテリアの一つとばかり思っていたグランドピアノ。そこに成吾が着席して「アメイジング・グレイス」を弾き出したとき、ユートは今度こそ夢を見てるのかと思った。成吾がピアノを弾けるなんて知らなかったし、とても上手でかっこよくて、不意打ちのウィンクには失神寸前。腰が砕けてへたりこみ成吾に抱き上げてもらった。

(──はうっ、だめだめ!! 思い出に浸ってるとまた夜になっちゃうから!!)

 我に返ったユートは、いつの間にか冷えきっていたココアを一気に飲みきって立ち上がる。

 お金持ちで人脈も経験も豊富な成吾と違って、ユートにやれることは限られている。成吾のカードで買い物は自由にできるもののユート個人にお金はないし、成吾の言いつけで、外出や他人との接触は禁止だ。

 まずディナーとケーキの準備。これは、毎日デリバリーを頼んでいるレストランにお願いした。代わり映えはしないけど、ユートは他を知らないし、おいしいのはよく分かっているから迷いはない。ケーキは誕生日用だと伝えたら、キャンドルの他にお店からのサービスで、キラキラの紙吹雪が入った風船を何個も届けてくれたので、ユートはあまり力の入らないお腹に苦労しながらも一つずつ膨らませていき、部屋を飾りつけた。

 お昼ごはんを食べてすこし休憩した後は、ユート専用のクローゼットへ。成吾が色々と買ってくれるので広いスペースにも関わらず、ぎゅうぎゅうに詰まっている。

 潜り込むようにして一番奥から取り出したのは100円玉2枚。成吾に拾われたとき、ユートが握りしめていた全財産で、ぼろぼろの持ち物は成吾に捨てられてしまったけど、このお金だけはずっと手元に残っていた。

 これでお買い物をする。もちろんユートは出かけられないので専任のコンシェルジュにお使いを頼んだ。30分ほどでスーパーの袋を手にした茅野が現れ、ユートは目当ての物を手に入れた。

 ユートが成吾へのプレゼントに決めたのは、バレンタインもかねたチョコレート。成吾はチョコレートが好きで、勉強の合間に口にするため書斎に常備しているくらいだから、きっと喜んでくれると思う。

 ユートは何回も深呼吸してそれでもドキドキしながら台所に立った。


≪ユートのせいいっぱい・生トリュフ≫

~材料~
 ・成吾の書斎のブラックチョコレート1箱
 ・ユートがいつも飲んでるココアの粉
 ・買ってきてもらったホイップクリーム2分の1

~手順~
 1.チョコレートを手で細かく割り、電気ケトルで沸かしたお湯で湯煎して溶かす。溶けたらホイップクリームをいれてよく混ぜる
 2.少し冷ましたあと、スプーンで丸めてココアの粉の中へ。
 3.ころころ転がして出来上がり

~注意事項~
 火傷は絶対にしないこと



(成吾さん、喜んでくれるかな……)

 おそるおそる一つつまんで味見する。外のココアがほろ苦くて、中の生チョコレートは甘くて柔らかくて……。

「うん!」

 ユートはパチパチと手を叩いた。簡単なレシピとはいえ、ちゃんと美味しく出来ている。怪我もなく火事も起こしていないので、胸を張って成吾に渡せる。


(これで少しは僕を認めて、包丁と火も使っていいって言って貰えますように……)

 ユートはトリュフに期待を込めた。4年間とはいえ一人暮しをしていたユートは、自炊の経験もあるし、居酒屋やスーパのバイトの経験もあって、簡単なものなら作れる。でも成吾が、その時にできた腕中に残る火傷の跡や包丁で深く切った傷跡を嫌がって、ユートを料理禁止にしてしまった。

 もうすぐ子供たちも生まれてくるんだからこれをきっかけに、朝ごはんくらいはデリバリーじゃなくて、ユートが作ってあげたい。今さら些細な怪我なんてどうってことないし、練習を積めばきっと上手になるはず……。

(成吾さんがトリュフを「おいしい」って言ってくれたときが交渉のチャンス! もし僕が成吾さんへの愛妻弁当を毎日用意できたら、成吾さんだって嬉しいでしょ……?)

 えへへ、と笑いながらユートは下心入りの生トリュフをお皿の上にハート型に並べた。そしてそのテーブルの下に入って、クラッカーで成吾を驚かせる準備もOK。

 成吾が帰ってくるのをわくわくして待っている。


end. ありがとうございました。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

処理中です...