Я side The Assassin

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5.実戦訓練

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6月17日

「お願いします!!」

セツナが勢いよく頭を下げた
その頭の先には親衛班 副班長のキドウがおり、突然のことで目が点になる

座学の後だっため、教室にまだいる訓練生も視線を集めた

「ちょ、頭上げろ、私がなんかしたみたいだから」

ゆっくりと頭をあげたセツナに説明を求めると

「私 強くなりたいんです」

「そりゃ知ってる」

「だから稽古つけてください」

「なんでだよ それにお前は十分に強い 昨日の実戦訓練のことをチアキから聴いた レナに食いついたんだろ それが初めてなら伸び代しかない だから焦んなくても大丈夫だ」

目を下ろしたセツナに手を振って教室から出ようとすると、セツナが頭を下げた時よりも大きな声をあげた

「私!!」

その声で背中を向けたキドウは停止する

「誰にも恐れないように!!誰にも負けないために!!生きるために!!強くなりたいんです!!」

全てを失いかけていた少女の主張が教室内に響き、キドウの心にも染みる

「でも、、レナに負けた、、」

セツナに浮かんだのは「本気出すね」と呟いたレナの余裕な表情だった

「私はレナが少し本気を出しただけで手も足も出なかった、、それが、、悔しいから!!」

キドウはセツナに背中を向けていたが、声に涙が少量入っていることは聞いてよくわかる

「はぁ…わかったよ」

キドウがセツナの方に向き直って言った

「次の実戦訓練までには調節すんぞー」

「は、はい!」


その日の夜から稽古は始まった
カーテンの閉められた武闘場を少し古い電灯が白く照らす

「そんじゃまず、拳打ってみろ」

キドウは左手を開いて「ここに打ってこい」と言わんばかりに指を閉じたり開いたりする

「……」

セツナが緊張しながら腕を引いて拳を打つとキドウはその拳を握りしめる

「……!」

キドウは驚くセツナに間髪入れず、腕を肩から回してセツナを床に転がした

「あ、いたた……」

倒れたセツナが体を起こすとキドウは笑った

「あはははっ!」

「何してくれんですか……」

「いやすまんすまん!この方法が1番なにができないか成ってないかが分かるんだけどwなんもできてなかったなw」

「ひ、ひどい、、」

キドウがお腹を抱えて笑うのをやめて人差し指をたてる

「ひとーつ!拳を打つ時の動かし方が違う」

次に中指もたてる

「ふたーつ!踏ん張りが足りん!」

更に薬指をたてる

「みーつ!受け身ができてねぇ!」

セツナには何もかもできていないことが伝わり、どこを直せばと考えさせられるが、経験のないセツナにそれは不可能な話だった

「一個ずつ直してくぞー」

それから稽古が始まった
指摘されたことは実戦において基本中の基本になる
それらが成っていないこれからの対面技術は正しく身につかない
だから指摘箇所を直すことから始める

「相手を殴る時はな 腕を振るんじゃねんだ」

キドウは拳を握り肩から後ろに引く

「体重の全部、、とは言わず3分の1くらいをかけるイメージ  さらに、撃つ時は勢いよく腕を突きつける!」

セツナにわかりやすいよう説明しながら拳を打つ

「こんとき、拳の力を弱めず、腕の向いている方向にまっすぐ撃つ」

セツナが関心しながら頷く

「これはあくまで正拳突きの時、だけじゃなくてどの部位で攻撃する時も攻撃する部位の方向に沿ってするんだ」

セツナが説明を受けたままに実戦してみると、やはり、先程よりも拳の威力はあがった

「呑み込みがはやいねー」

「ありがとうございます!」

「そんじゃこんまま ほかのことも正す」


それから4日間のキドウの稽古はかなり厳しかった

初日で指摘されたことをすべて網羅して、2日目から実際に手合わせしながら無駄な動きを無くしたり、攻撃手段に沿った力の入れ方を伝授したりなど戦闘の基本技術を叩き込まれる

ほかの訓練生よりも早く起き、遅く就寝する
それもすべて稽古に時間を使うためだ

より一層の努力が一粒一粒の汗の鮮やかさを増させている
レナに負けてから悔しい思いでいっぱいだったセツナは強くなるためにキドウに頭を下げた
その成果を身に感じながら強くなれているという実感
これがセツナにこう思わせる

闘うって気持ちいい……!!

先日まで逃げることしかできなかった少女が初めて気持ちがいいと思えた


6月23日 実戦訓練

リンドウが声を上げる

「じゃあ最初の試合 誰がやる」

実戦訓練で先頭に出張ってくる訓練生は少ない
負けた時の味気なさが2試合目以降とは段違いに残るから
だが、ある男は躊躇なく手を挙げる
セツナはそのツーブロックの男を見てやっぱりかと思い、軽く息を吸って吐いた

「ヒロヌマか…珍しく一番乗りなんだな」

「はい 俺が闘いたいやつがいるんでね」

ヒロヌマが視線をセツナに向けて合図する

「私もヒロヌマとりたいです」

5日前にした次の訓練で手合わせする約束を互いに忘れてはいなかった

訓練生がザワつく

「あのヒロヌマが女子に…!」

「しかも新人だぞ…!」

「大丈夫なのか…!」

そのザワついた空気の中、2人は武道場の中央で向かい合った

「よろしくなセツナ」

「こっちこそよろしく ヒロヌマ」

「ゴウでいい 堅いのは勘弁だ」

「わ、わかった ゴウ」

リンドウが腕を上げると2人は各々の構えをとる

ゴウは股を開き、左手を膝に置き右手は床に向けて垂らす体制
一方、セツナは右足を後ろに引き、左拳を頭の前に構え、右拳を頭の下に構える体制

以前とは違い、何となくの構えではなかった

リンドウがそれを見て関心しながら腕を下ろした

「はじめ!!」

合図の瞬間、ゴウはセツナの懐に飛び込む

「……!」

それに反応して右拳を突くが、相手はそれよりも低い位置にいる
腹に巻き付くように捕らえられる

ゴウは全身の怪力でセツナを自身の背後に巴投げした

床にぶつかるセツナだが、そのまま倒れることはなく、足裏を床にすらせて転ぶことなく立ち上がる

だが、そこに間髪いれずに飛び蹴りが迫ったが、それは鮮やかに回避する

着地を狙う…!

着地に生まれる隙に合わせようとするが、ゴウは着地を右足だけで行い、殺しきれなかった勢いを左脚裏に込め、着地と同時に回し蹴りをする

「……!!」

これを読み切ることはできず、左肩に左脚が直撃
さらにゴウは体制を低くして横からのスライド蹴りでセツナの足元を掬う

「やばっ!」

転んだセツナに真上から拳が迫ったが、足を咄嗟に伸ばして相手に距離をとらせる

「前より動きが格段にいいな 何かあったか」

「圧倒してるアンタに言われてもね!」

明らかに右拳を打ちつけようとする体制で迫ったため、ゴウは相手よりも早く拳を打つように構える
セツナへ拳が届く距離でゴウは拳を打ったが、セツナは自分の拳よりも低いところにしゃがんでいた

「なに…!」

戸惑いで生まれた隙にしゃがんだ状態から跳びあがったセツナの膝蹴りがゴウの顎に刺さる

「な……!」

倒れる
そう思ったのも束の間、ゴウは膝蹴りを食らって天井に向いている頭を下に振り落とし、セツナの額に頭突きを食らわせる

「いたっ…!」

セツナの腹に蹴りを入れて距離をとらせる

ゴウが少し優勢と言ったところだが、それに迫る実力をセツナは既に会得している動きだ

「ふぅー 私強くなったな…」

「浸ってんなよ!」

口は強いが表情は和やかな2人が違いに右拳を頬に打ち付ける
しかし、それで怯むほど甘い実力ではない

互いの脚や拳の撃ち合いが近接で続く
ゴウが低い姿勢からセツナの体を持ち上げ背後に投げると、セツナは受け身を最小限にとってすぐに相手に向かう

また、低姿勢からの蹴りだな…

セツナの攻撃を蹴りだと予測したゴウは足を後ろに引く

セツナが低い姿勢になるため少し腰を曲げたため、ゴウは低姿勢になることを確信し、足を前方に振ったが、セツナは予想よりも早い段階で低い姿勢をとったためその足は空を切る

「なに…!」

それを見計らっていたセツナは口角をあげると大きく跳躍し、右脚に力を込める

「オリャ!!」

右脚のかかと落としがゴウの頭部に炸裂する

大きな一撃が入った
一般人なら脳震盪まっしぐらの大打撃だ
しかし、訓練生の中でも屈指の実力者であるゴウがこれで倒れるわけもない

「やるねェ!!」

振り落とされたセツナの足が地面に着く前に片手で掴み、セツナの全身を床に叩きつけた

「グハッ…!」

叩きつけたセツナをまだ離すことはなく、反対側にもう一度、叩きつける

「ナハッ!」

次は振り回されまいと片手を強引に解き、距離をとる

セツナの中でゴウについてわかったことがあった

ゴウ…基礎筋力が凄い…

自分と同い年の女子を投げ飛ばせる怪力だけでなく、片手で全身を振り回す腕力と握力
筋力においてセツナはゴウに劣っている

それを自覚し、再び構えをとるとゴウが話しかけてきた

「そういや聞いてなかったな」

「なにを?」

「セツナはなんで戦闘員になろうと思ったんだ」

セツナの回答は既に決まっている
シジマに出会った時から変わらない想いがある
だから、それを端的に躊躇うことなく発する

「強くなって自分が恐れるものをなくそため」

「は…?」

その回答を聞いたゴウは先程までの楽しそうな表情は曇りに曇って目からの覇気を感じさせなくなった

「そうか…」

次の言葉を聞いたセツナはハテナを浮かべることになる

「残念だ…」
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