Я side The Assassin

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雪王編

12.大男

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狭い支部内を駆け回るチシマに対して中央にどっしりと構えるクマガワ

チシマは多角的な攻撃でどうにかクマガワに大打を与えたいところだが、クマガワは自身にある余裕からその場から動きはせず、向かってきた相手をねじ伏せるのみ

作業机に置かれたゴムでまとめた資料をクマガワに投げつけ、相手の視界を塞ぐ
クマガワはそれをはたき落とすと眼前に跳んだチシマの姿に驚く

チシマはその巨体の首に腕を回す

殴り合いで無理なら絞め倒す…!

腕で相手を縛る際は足を地につけることで力を入れやすくする
しかし、身長差で床に足をつけることはできない そこでチシマは相手の体に脚をまきつけることで踏ん張りをつける

腕に首が当たっている感覚とは思えなかった
まるで金属に触れているような冷たい感覚だ

コイツ…!硬いなんてもんじゃねぇぞ…!

首を絞めているはずなのに手応えがない

「じゃま…」

体にしがみついているチシマを全身を大きく振って離し、顕になった隙に大きな拳で腹に正拳突きをいれた

「ブハッ…!」

ボォン!!バリィンッ!!

吹き飛んだチシマの背中で作業机が潰れ、背後にあった窓ガラスに背中を打ちつけ、ガラスを割る

「ゴハッ!」

吐血、頭部からの出血、脳震盪
一髪だ
まともに食らったのは一髪のみ、しかし巨体からの一撃
今まで食らってきた拳とは比にならない
生きているだけマシとはまさにこのことである

薄れていく意識の中、彼は呟いた

「じぃちゃん…」


10年前、、

千島 大和 13歳

「ぐへー」

ゴム製の床の上にへばりつくように倒れるヤマト

「まだまだよわいのぉ」

土俵坂 総代 千島 大介チシマ ダイスケ 当時68歳

起き上がってあぐらをかきながらヤマトが言う

「今は勝てなくてもいつか勝つから!」

その少年の無邪気な一言にダイスケは余裕で返す

「何年後のことかのぉー」

俺にとってじぃちゃんは憧れだった、、
現役時代、街にいきなり現れた熊をタイマンで追い返したらしい
そのことから周囲一帯から大男ジャイアントって呼ばれてる
じぃちゃんの建てた土俵坂はあらゆる驚異から地域を守る目的があった
穏やかで平凡的な田舎の地域で犯罪が起きるなんてことはそうそうないから基本的には野生の猿、猪、鹿、熊とかの野生動物の対処が俺たちの仕事だった

俺は土俵坂の人間としてじぃちゃんに着いて行き、地域を守っていく そう思っていた
でも5年前、巷で噂になっていたЯ リサイドの人間が土俵坂に紙を1枚持って訪れた

Я リサイド仲介人 片桐 哲人 だ 今日は例の件で朱印を貰いに来た ここに頼む」

じぃちゃんの座る総代席の机に置かれた紙1枚を俺は見ていた
じぃちゃんがその紙に印鑑を押して「どうぞ」と返していたことも覚えている
俺が衝撃だったのは次に出た仲介人の言葉だった

「これで土俵坂は俺たちЯ リサイドの正式な傘下になる これから互いに助け合っていこう」

「は!?」

俺は思わず声を上げた

「ちょっと!それはどういうことだ…!」

半ギレと戸惑いで前のめりになる
仲介人はそんな俺を冷たく見つめながら言った

「千島総代 部下に話をしていないのか」

じぃちゃんは「あぁ」と頷いて俺に注意を促す

「ヤマト 下がれ」

俺はそれを聞いて戸惑う気持ちそのままに仲介人から距離をとる

「すまんなヤマト 皆に言えば断られると思ってのぉ」

俺への謝罪をそこにいなかったほかの仲間たちにもしているように話す

「土俵坂は今日からЯ リサイドの傘下になる」

改めてじぃちゃんの口からそれをはっきりと言われると俺の気持ちは爆発した

「なんでだ…なんでだよじぃちゃん!!」

じぃちゃんは黙っていた

「俺たちはこの地域を守る!!それだけで良かったはずだ!なんで他の奴らの下に着くなんて考えんだよ!!みんなこんなこと望んでるわけ…」

「ヤマト!!」

一掃された
70代のじぃちゃんの重みのある声で俺の言葉もその場の空気も仲介人だって目を見開いて驚いているのがわかる
俺が言いたかったこと全てを飲み込むとじぃちゃんはさっきの勢いを失くして俺に微笑んだ

「すまんな」

その謝罪が俺にどれだけ刺さったことか

「儂ももうすぐ死ぬ 儂がいなくなってここをまとめてくれる存在が必要だったんじゃ」

分かってた…分かってたさ…じぃちゃんは大男ジャイアントとして、土俵坂の総代として、地域と俺たちをまとめ、守ってきた
でも、その時にはもう73歳、長くても十数年の命 それを託す何かを探していたんだろ…
そこにЯ リサイドの傘下とかいう選択肢があってそれを許諾しちまったんだろ…

「いいよ 乗っかってやるよじぃちゃん」

じぃちゃんは申し訳なさそうに「ありがとう」と言った

「でも!!」

じぃちゃんが俺の突然の大声に驚く

「じぃちゃんが死んだ後は俺が総代を継ぐ」

「な…!」

「そしたら!じぃちゃんも安心して天国にいけるだろ?」

その日、俺は土俵坂の総代、大男ジャイアントを継ぐことを決めた

「だが、、」

「心配なら!じぃちゃんが生きてる間に証明して魅せる 俺が総代に相応しいってことを」


決心が揺らいだことはない…
俺が次期土俵坂総代だ…だから…

気を失いかけていたヤマトが血を流しながら立ち上がる

「だから…どんなバケモンにも負けるわけにはいかねぇ」

ヤマトの眼は確かに鋭く、決心を貫く強さが感じられる

「お前…オデに…勝てない…」

「黙れ!デカブツ!!」

そう言って真正面に走ると案の定、クマガワは拳を前に突き出した
床にスライディングでかわし、股を抜いて背後をとる
相手の右膝裏を蹴りつける

「ぬっ…!」

前に拳を突き出していたことも相まって体制を崩しやすくなっていた
右に倒れていくクマガワの右腰に膝を打ち付ける
それで怯まないことは重々承知、倒れたクマガワの背中にのしかかり、股を開いて相手の両腕を縛るように体を絞める

ガキの頃、じぃちゃんに聞いたことがあった

「熊を追い返した時の決め手ってなんだったの」

「それはな、張り手だ」

「張り手?」

そんなの、拳よりも力が分散して力入んないじゃん…

そう思った当時の俺は本当に戦闘初心者だった

張り手は力士業界じゃ定番の押し技
上手く力を手の真ん中に溜められれば拳よりも威力が出る
だが、俺はまだそれを十分な威力まで持っていけてない

でも、、ここで出せなきゃ次期総代なんて夢でしかない!

「じぃちゃんが熊ぶっ倒した時に使った技だ」

それを今、熊同等の巨体であるバケモノの後頭部に放つ

右手のひらの中央に力を溜める
クマガワに迫る後頭部の

ごくはり!」

ドォオン!!

顔面を床に押しつける

「な…に…」

「まだ終わってねぇよ!!」

さらに左手で張り手をしてさらにクマガワに痛手を負わせる

「あ、ありえない…!」

クマガワは強引に自分の体を立たせる
のしかかっていたヤマトはクマガワが立ち上がる前に距離をとった

「ちょっと焦ってんじゃねぇの?」

立ち上がったクマガワに攻撃による影響は見受けられないが、それはあくまで見た目の話
張り手は内側に響く攻撃、クマガワの焦りようで効いていることは確かだ

「オデ…負けない…俺…お前…殺す」

「強がんなよ!」

「強がり…違う…オデ…お前より…強い…」

ついに仁王立ちだったクマガワが自分から拳を打とうと迫ってきた

極張手ならアイツの拳…受け止めれるか…?
いや…あれは無理だ 俺の手がぶっ壊れて終わりだ

「なら!!」

迫る右拳に両手首を互いにつけて手を開く
力を手首の接触点に溜める

両極張手りょうごくはりて!!」

張り手を両手で行い、右拳を止めた
衝突と同時に風圧が生じ、周囲の紙やガラスの欠片が宙に浮く

「まだだ…」

使っていない左拳が迫った

マズった…!

ヤマトのその思考と同瞬、クマガワの背後から割れた窓ガラスに晒された身に鋭い銃弾が迫る
クマガワは急速に左手を背後に回し銃弾を素手で握り止めた

遠方、止められてことに気づいた天才的狙撃手スナイパーがにわか笑いする

スピーダー 止めんのかよw」

戸惑いもあったが、それ以上に確信があった

「でも、隙は作ったぜ…」

弾丸に気を割かれていたクマガワが気を正面に戻した時には全ては整っていた

「…土俵坂次期総代」

マチシタのその呟きに呼応するようにヤマトは張り手を打つ

「両極張手!!」

ドンッ!!

クマガワの隙だらけな腹に力強い一撃が与えられた

衝撃音から一変、両者は硬直した
ただ、戦闘の余韻を孕んだ空気が漂っている
割れた窓から涼しい風がクマガワの背に触れた

クマガワが反応するかのようにピクリと動くとそれに気づいたヤマトが腹に打ちつけた両手を離した

ガタンと両膝を床に着けたクマガワが頭から倒れた

「はぁ…はぁ…はぁ…」

荒い息を徐々に戻していき、落ち着いたところで大きく吸った

「勝った…」

涼しい風が戦闘の余韻を孕んだ空気を澄ませた


土俵坂次期総代 千島 大和チシマ ヤマト 勝利

同時に、、涼しい戦争cool war Я リサイドの勝利
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