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社長令嬢護衛編
37.部活
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午後1時30分
北澤 夏鈴の賞金取り下げまで58:30:00
街道
スーツの男は建物の壁に腕をつけて、その姿を一般人に見られながら醜く歩いていた
「オッエッ!」
折れた奥歯を吐き出した
あのハヤテとかいうガキ…絶対殺す!!
自分を傷だらけにしたハヤテに復讐を強く誓ったが、自分を影で覆ったその存在に打ち砕かれることになる
「あらぁ~これはこれは最近うちの高校に現れては悪さしてくれてるチンピラさんじゃないですかぁ~w」
「あ?」
見上げると茶髪のツインテールに胸にTACHISIROと書かれたユニフォームを着用し手にバドミントンラケットを持った少女が嘲笑う姿が見えた
「かなりお怪我が酷いようですけど助けてあげましょうか?」
煽り口調でそういい言いながら、男の顎を二本指で持って顔に近づける
「マセガキがッ!」
それを振り払ってオドオドと後ろに下がる
「あら 無理することはなくってよ?美女のお言葉に甘えなさいな それにあなた前々からイケメンだと思ってましてよ」
ゆっくりと近づいて手を相手の胸につけて体を密着させる
「人がいんだぞっ…!」
「関係ないですわっ」
そして、スーツの男の戸惑いを微笑して上目遣いで口を優しく尖らせて目を瞑る
押し付けられた胸に向けられた唇、スーツの男の理性を破壊する その本能に従って唇をあわせようとした時、下半身に激痛が走る
「オ"ッ"!」
股間に右膝蹴りがぶち当たった
「勘違いしてんじゃねぇですわ!!」
悶絶して股間を抑えるスーツの男を笑いながら離れる
「あははは!ハニートラップも分からないお馬鹿さんだとは思ってもいませんでしたわ~w」
「このガキ!」
苦し紛れに投げた針金はラケットに収められる
「スマーシュッ!!」
針金は反転し、真っ直ぐスーツ男の横腹に突き刺さった
「ナ"ッ…!」
スーツの男は痛みで腰を落とした
「痛かったら病院に急ぎなさぁい それじゃあさよならぁ~」
後ろを向いて手を振りながらそこから去っていった
「待ちやがれ このクソ女!!」
少女を痛みに耐えながら追いかけると後ろ蹴りで路地裏に蹴り入れられた
「ブヘッ」
醜く背中を汚い地面に打ち付けると少女が残酷にラケット振り回していた
「しつこい男は嫌い シね」
少女が持ち手を強く握るとラケットの外縁から沿うようにして棘が生えでた
「ちょ、ちょっと待て…!!」
麻酔で体が上手く動かないことでこれからの事象に対抗することはできなかった
ドスッ…!ゴッ…!グチャッ…!ビチャッ…!
しばらくすると少女は路地裏の壁にのたれかかった男の目の前でユニフォームを脱いでスポブラとスポパンを晒して同じユニフォームを着用する
一度地面にほおり投げられたユニフォームを持ち上げるとそれから潤いを保った血滴を落とした
手の甲についた血痕をペロリと舐めるとルンルンで路地裏から街道に出ていったのだった
数時間後、、
北澤 夏鈴の賞金取り下げまで55:00:00
日が沈み出した夕方、スーツの男はピクリともせず、夕陽と影で体が分かれているように見えた
そこに現れた大きな人影はスーツの男を持ち上げる
その人影はセンドウで彼はスーツの男を離すと体はバタリと地面に落ちる
「死んでんな…」
俺の部下を殺れる実力…太刀城の女大将か…
センドウは仲間の死体を置き去りにして夕陽の中に消えていった
一方、セツナたち、、
任務用宿泊宅
ガイは布団に寝転がって、連絡によって訪れた科学班の班員2名に手当てされていた
左腕はギブスで補強され、胸部も包帯で巻かれている
「腕は折れてるね うん」
簡単に言って科学班の男は立ち上がる
寝床から隣接するリビングに出ると他の潜入者が座って机を囲んでいた
そこにはカリンもおり、状況の置いていかれているのかガイの心配をしているのか顔を下に向けていた
「キヤマくん 臨時報告の際に彼の任務続行不可をカタギリさんに伝えてください」
セツナやシイナが驚いて目を見開く中、サトシは淡々と頷いて口を開く
「了解です 一応、オオガミの状態を聞かせていただいてもよろしいでしょうか」
その後、伝えられたガイの怪我の状態は、左腕部の骨折、腹部の血流機能の低下、鎖骨の損傷、外部に見られる擦り傷であり、任務続行に伴う戦闘の可能性を考慮すると、支障が出ると考え、ガイの任務撤退を勧めた
「安静にするため、すぐに本部に…」
「ザケンナッ"!」
寝床から壁に腕を着いて出てきたガイが科学班の班員の後ろで声を張った
「オオガミくん!寝てないと」
「うるせぇ!」
足を前に出すと体が前のめりになって痛みを伴ったが、彼は口の動きをとめない
「あのセンドウとかいう奴をぶっ倒す…それまでくたばってられるか…!!」
ガイが咳込むと科学班の班員が駆け寄って、身を支え寝床に戻るように勧めていると、サトシが立ち上がってガイと目を合わせた
「ナメんな」
威圧ある声に戦いた
「今回の任務にあたって俺はお前らの全資料に目を通した 確かに訓練生の時から他と違うのはよく分かっている だからお前らには今回の任務期待していた」
座ったガイから目を離さず、話し続ける
「失望したわけじゃない 任務の難易度が跳ね上がったんだ お前が言ったセンドウとかいう奴は神奈川随一のヤクザの若頭だ」
仙洞 篤志
神奈川県内随一のヤクザ集団 羽斑の若頭 2年前の同時期(cool warが起こった年の4月)に大頭を殺害し、実質的な大頭となった
大きな身体と筋力、腕力で敵をねじ伏せる
「今の実力じゃ勝てないし、次会って生き残れる補償もない」
「だけど!今アイツを逃がしたら…!」
反論するガイの襟を掴んで引き寄せる
「Я が子供の命を容易く奪おうとする奴を逃がすわけねぇだろ」
Я 全体の信念がセンドウを逃がさない
「いつか絶対に潰す だから今はその時のためにお前が、お前自身の命を守るべきだ」
その声が胸に響いたのかガイは唖然として動きを止めた サトシは襟を離すとすぐに玄関へ向かう
「臨時報告をしてくる」
靴を履いてドアの向こうへ行ったサトシを見送るとガイは科学班の班員に連れられて寝床に戻った
寝床へのドアが閉まるとシイナが細く息を吐いた
「ふぅー…隊長、手が出ると思ったわ…」
「そういえば~シイナとハヤテの脚は大丈夫なの~」
ランマルがゆったりした口調で聞くとハヤテが元気よく答える
「俺は余裕やで!」
「私も~ 意外と早く治ったわ」
戦闘の反動と部分麻酔は完全に回復したらしい
続いて他愛もない話が始まるとセツナは隣にいるカリンに気をかけた
「大丈夫?」
「私は何もしてないし…でも、私のせいでオオガミくんが…」
「ううん…そんなことないよ カリンちゃんがあの場でガイを庇ってくれたからガイは生きてるんだよ」
「でも、私が近くにいたから死にかけたのは事実で…」
頭をあげると偶然、ランマルたちと話しているシイナと目が合ってしまった
瞬時に目を背けてセツナの方を見る
「私のせいで誰かが死んでしまうのは悲しいわ…」
「………」
その言葉にセツナは何も返すことはできなかった こちらがカリンを守らなければいけない立場なのだから、彼女を擁護するのは当たり前のことだが、守られている側が自分のせいで、と考えるのは当然なのかもしれない
それでも、セツナは彼女を守らなければならない 彼女がどんな罪悪感を孕んだとしても見殺しは間違った行為であり、守らない理由にはならないから
「つーかちょっといい?」
そんな感情的思考をしているとランマルが全体に話しかけた
「部活の件なんだけど どーする」
「部活…?」
カリンが頭にハテナを浮かばせるとセツナは端的に説明した
「カリンちゃんを守るために怪しい人がいる部活とか、カリンちゃんが入る部活とかに私たちが入るってこと」
「あーね…」
セツナが数時間前に提案したことについてだ
「私は女バスに入るわ」
カリンが自分の入る部活を伝える
「ならオレは男バスに入る 他の2人は入らなきゃヤバそうなとこあるんだろぉ」
ハヤテは生徒会長のガクトがいるサッカー部に、セツナはチンピラを一掃したとされる女生徒がいる女子バドミントン部に入部することがほぼ確定となっている
「でも、ランマル1人でカリンちゃんを見張るのって難しいと思うけど」
セツナの意見も当然で、本日の襲いかかってきた人数を鑑みても、いつ、どこで、何人から襲われるか分からない状況
部活動中に彼女の動向をずっと見続けているのでは不審者扱いされてしまうため、ランマル1人では上手くいかないと想像される
「じゃあシイナが女バス入れば~」
「「……!」」
嫌悪しあっている同士の反応が被る
「ちょ…ちょっと!なんで私!あ、まぁ!私しか余ってるのいないからかもしれないけど!」
「嫌よ 私もこんな人とチームプレイなんてごめんだわ」
「げっ…」
シイナの反論はともかく、カリンから反対されると慎重にならざるおえない
「こんな人ってなによ!!」
「実際、無慈悲な非人道人間じゃないかしら」
そして、言い合いに発展する
「まぁまぁ…あはは~」
セツナもそれなりの仲介をして口角をあげる
「ほなさ~」
ハヤテが人差し指を立てて2人の言い合いを止めた
「これやったらどうや?」
野外
宿泊宅から出たサトシはスマホでカタギリと連絡をとっていた
『病院を急に抜け出したことはなんとか揉み消した』
「そうですかありがとうございます」
『そんなもんかな じゃあオオガミは今から送る科学班の車で送り返せ』
「分かりました」
報告が完了し、電話の接続を解除する
すると、突然、横から話しかけられる
「お前 Я か?」
サトシはすぐにそちらを向いて警戒態勢をとる
「誰だ」
その人物は黒いマントを羽織り、顔に【N】と描かれた仮面をつけていた
「N…? お前まさか…!」
驚愕している隙に相手は短刀で襲いかかってきた
サトシは反射で膝をあげて、脚の装甲で斬撃を受け止める
金属同士が擦れる音が耳を刺す
間合いから離れるため、跳んで後退し体勢を立て直す
「その仮面…間違いないようだな」
「知っているのか」
「たりまえだ この業界に住んでて知らなかったら逆に怖ぇよ」
サトシは冷え汗をかきながら、また口を開く
「七黒の一角 影の暗殺集団 N…!」
「なら話が早い 一刻も早くこの件から手を引け」
「ほう?お前らが1枚噛んでるわけね」
「今、手を引けばお前らから犠牲者は出さん」
「そのお前らにキタザワっていう女は入ってんのかな」
「それは愚問だろ」
「なら無理なお話だ!」
攻撃モード…!
鋼鉄の装甲の脚から足の指先までに鋭い刃が突出した
「その仮面 蹴り切ってやんよ」
「やってみろ」
仮面の男は腰に巻いた紐衣からもう1本の短刀を抜いて逆手持ちする
「カマキリかよっ!」
回し蹴りで迫る刃を短刀で受け流す
サトシは近距離での蹴りを連続して行うが、それを短刀で全て受ける
手の動きが早い…!こんままじゃ…こっちが消耗して終わりだな…!
即座に不利を判断して距離をとると足に力を込める
「爆速モード!」
爆発的加速で一気に無防備な懐に飛び込む
「……!」
そして、瞬時にモード変形 攻撃モード
装甲から突出した刃が鋭く光る
バスッ…!
仮面に斜め一線の傷が入る
「ちっ…!」
相手は仮面を抑えてサトシから数歩下がる
「やっぱりな!お前らは影の暗殺集団 正体は晒せない」
「やりよる」
「片手でかかってこいよ 顔面丸裸にしてやる」
すると、宿泊宅からセツナたちが異変に気づいて出てきた
「なにごと!!」
「……!お前ら出てくんな!」
サトシが視界を後ろに向けた途端、相手は背を向けて走り出した
多勢に無勢につき、ここは退却する
「あ…!待ちやがれ」
爆速モードですぐに追いかけ、横に並ぶ
「俺の足から逃げられると思うなよ」
「はて それはどうかな」
ビュンッ!
「……!」
側方からとんできた槍を頭部に突き刺さる寸前で蹴り飛ばした
「誰だ…!ッ!しまった…!」
振り返るとそこには誰もおらず、相手をみすみす逃がしてしまった
セツナたちがサトシに追いつくとすぐに質問する
「今の!誰ですか!」
「七黒N だ」
「「「………!」」」
「今回の件…ヤベぇ奴らが関わってやがる」
翌日、、午後3時30分
北澤 夏鈴の賞金取り下げまで32:30:00
この日は音沙汰なく、学校での1日を終えた
セツナたちはそれぞれ、入部を希望する部活動の活動場所に向かう
体育館 バスケット場
ゴンッ!
「ないッシュー」
バスケットボールがネットに吸い込まれた
落下したボールは練習用のシャツを着た女生徒に渡る
「取り返すよ!」
投げたボールを手にした生徒が反対側のネットまで走るが、ドリブルとシュートのコースを塞がれる
「こっち!」
「おねがい!」
横に走り込んできた生徒にボールをパスするが、そこに飛び込んだ生徒がパスをカットする
「もらいます!」
カリンが自らカットしたボールを持って走る
「守り戻るよ!!」
前線に上がっていた相手チームが走り戻る
戻ってくるまでの時間、ディフェンス2名がカリンを阻む
「いかせないよ 新人ちゃん!」
「抜きます」
重心を左に寄せてボールを地面に打ちつけようとする
左…!
即判断した相手ディフェンスがそれに呼応して、左足に傾くが、、
「残念…下です」
バンッ!
開いた股の間でボールをバウンドさせて1人抜き去る
「まだいるよ!」
もう1人のディフェンダーが道を阻む
「甘いですね 上ガラ空きです!」
この距離でシュート…!?
シュートモーションから上方に放たれたボールはややゴールネットには届かない
しかし、ボールの軌道がおかしい
違う…!
気づいた時には遅く、もうカリンはディフェンダーを抜いている
「超回転!?」
ボールは回転を受けてカーブを描き、カリンの元に戻った
ゴールネット目の前、あとはシュートを打つだけ、今度は本当のシュート体勢に入る
「止める」
攻めから戻ってきた高身長の先輩が目の前に立ちはだかる
ボールを離せば高さでボールを撃ち落とされる
「視野が狭いですよ 先輩」
上方に放たれると思われたボールは左側方に投げられる
シュートフェイクからのパス…!
抜け出していたカリンの味方がボールを受け取り、シュートを鮮やかにキメた
「ナイスパス!よく見えたね」
「ありがとうございます!」
その試合様子を体操服を着て、クリップボードを抱えてみている金髪の少女がいた
「新人ちゃーん!男バスもうすぐ試合終わるからドリンク運ぶの手伝ってー!」
呼ばれた少女は気だるげに「はーい」と言って、走る
なんで…なんで私がマネージャなの…!!
ハヤテのヤツ変な提案しやがって…
「チームが嫌ならマネージャとかありやと思う」
ハヤテの生意気な提案が頭にある
ふざけんなァァァ!
「こっち持って」
「はい」
クーラーボックスをシイナとマネージャの先輩2人で持つ
「いやーあの女バスの新人すごいね」
先輩がカリンを遠目で見ながら言う
「そうですね 思ったより上手いと思います」
「ん?あーそっか同じクラスだもんね ともだち?」
「違います」
即答
「えーそんな冷たいこと…」
バァン!
「キャー!あのイケメンうまーい!!」
先輩言葉を遮るシュートと女子マネージャの声
その声が向けられた先にいるのは緑メッシュだった
「うっし オレ29点目~」
5対5の試合でランマルは勇姿を魅せていた
「しょげんな!逆転すんぞ!」
相手チームが試合をすぐに建て直し、細かいパス回しで相手を翻弄し、前にボールを送る
ボールを受け取った生徒が味方の生徒にパスを出そうする
「右から…」
そして、手の中の軽さに気づく
「って!ボールがねぇ!」
後ろを振り向くと1人走るランマルが舌を出して煽っていた
「あの1年!なんつーボール奪取!」
そのままスリーショットをキメた
「うぇーい 31点目~」
ピッピッピィーーー!!!
試合終了のホイッスルが鳴った
「あの子も上手いね」
「あ、あはは…」
ランマル容赦ないわね…w
ドリンクを取りに来た男子生徒が次々にドリンクをボックスから抜き取っていく
「おい新人!うめぇな!!」
「即レギュラーだろこんなの!気配なさすぎ!」
「いつボール手から無くなったかわかんねぇ」
「あざーす」
先輩の褒め言葉を「あざーす」の一言で片付けることにランマルを感じる
「お前名前なんだっか」
「新田 蘭丸っす」
「ニッタぁ!よろしくな!!ってお前ドリンクは」
「あーとり損ないました 先輩飲むかなと思って」
「は?人数分あるはずだろ」
すると、ある女子マネージャが恐る恐る近づいてきてドリンクを差し出してきた
頬は赤く、手も少し震えている
「あ、あの////良かったら…これ///私が作ったので良ければ///」
「まじ?せんきゅー」
「……/////」
躊躇なく受け取ってゴクゴクと飲む姿に女子マネージャからは湯気が出そうである
その行為を見たシイナが頬を膨らませた
あの女たらし…
サッカーコート
ピィーーー!
「キャプテンないす!!」
ガクトがストーレートシュートを見事にキメた
1、2年生対3年生の試合は開幕5分の1:0で始まった
1、2年生ボールから再開された試合はキャプテンであるガクトがいる中盤で止められる
「行かせないよ」
「キャプテン邪魔ぁ」
横から割り込んだ選手によってボールは弾かれる
「あ…!」
「よそ見してっと奪われるよぉー セカンド!」
転がったこぼれ球の先にいる生徒がボールを受けようとした瞬間、高速に転がるボールをジャストで受け止める男がいた
「なに…!」
「もらうで!先輩!」
ハヤテはその足でコートを真っ直ぐ走り抜ける
「すまん!止めてくれ!」
即座に対応した相手選手が走り寄ってくるが、
「おっそ…」
さらに加速し、置いていく
「うっそーん 足はっや」
1人ペナルティエリア付近に抜けたハヤテはボールに足を振り抜いた
ゴールポストギリギリに放たれたストレートシュートは見事にネットを揺らすと思われたが、相手選手の脚がボールの勢いを殺した
「ないっしゅー」
「会長まじかw」
シュート弾くならまだしも…トラップするとかやーばw
「カウンター行くぞ」
蹴りあげられたボールはセンターライン付近に落下する
「いけエース シュートの決定率はお前の方が高い」
ボールを受け取った選手が前を向いて走り出す
「さすがガクト よく見てる」
1人で駆け上がる選手の前にディフェンダー3人が立ちはだかる
3枚…サイドバックは上がってるからまだ時間かかるっしょ
「サイド警戒しろ!」
ディフェンダーの1人が上がってくる相手のウィングに警戒を促す
「サイドばっか気にしてっと中央脆くなるぜ」
かかとでボールを後ろに蹴る
バックパス…!誰に…!
そのボールを受け取ったのはキャプテンガクト
駆け出すエース
「やっば」「戻るか…!」
サイドウィングを警戒していた2人のディフェンダーが相手のサイドから目を離す
「アホが」「全国レベルなめすぎ」
緩まった警戒を逃さず、ウィング2人も走り上がる
ディフェンダー1枚にアタッカー3枚 完全数的有利にガクトのパス先の選択肢が増える
そんなの一択だろ
放たれた弧を描くボールはキーパーの前にいるディフェンダーのさらにその前にいるエースの元に落ちる
よしっ!トラップしたら距離を詰め…
「甘いな」
その思考を破壊する一撃がくる
エースは体を逆さにして跳んだ
「は!?」
これは驚愕して当たり前
「これで2:0ね」
轟速のダイレクトバイシクルシュートがゴールに放たれた
ドンッ!!
「……!」
逆さまの景色で目に映ったのは自身のシュートを右足で止める男の姿だった
「お返しやで!先輩!!」
勢いよく蹴りあげられたボールはポストに当たり、地面にぶつかる
そのボールを足で収めて、踏み出した
「ゴー!」
走り出したハヤテはグラウドの砂を蹴り巻く
攻め込んできたアタッカー3人を置いてけぼりにセンターサークルに到達する
「いかせんよ~」
「会長じゃまっ!」
ハヤテは右膝を曲げた
ロングパス…!うたせん!
1歩前に出て足を伸ばしたガクトだったがボールは左足によって横にズラされ
「フェイントかよ…w」
前に出たガクトはすぐ後ろに戻ることができない
「置いてくでぇ~」
また、自慢の足で駆け出す
「サイド警戒!あの1年に2人以上つけ!」
相手も守りを固める
「行かせねぇ」「サイドも潰した!」
サイド?俺にパスなんて選択肢はねぇんだよ!
大きく蹴りあげられたボールはさらに前に落ちていく
「ミスったか?そこには誰も…」
ビュンッ!
「……!」
「いや、俺が行く」
誰もいないならば自分で取りに行く
ボールに気を取られた選手を置いてけぼりにする
「まずった!誰かクリア!!」
その指示が通り、ボールの落下地点にもっとも近い選手がボールを見つめる
「おっけー!ギリ頭届く」
ヘッディングでボールをクリアしようと膝を曲げて勢いをつけた瞬間、選手の視界は足の影で埋まった
「はぁ!?速すぎだろ!」
ハヤテは跳んで伸ばした足でボールを受け止め着地する
「50m4.89なんでね!」
ペナルティ寸前…!ディフェンダー2枚…!真ん中一直線空きすぎ!さらに…加速!!
速度をあげてディフェンダー2人の間を抜けた
「うっひょーw」「まじか…」
キーパーと1対1に追い込む
どっちだ…右か左か…
足の動きを見極めて自分の左右どちらに撃たれるかを予測する
しかし、それは悪手だった
「俺の振りは見えへんで」
次の瞬間にはハヤテの足元にボールはなく、右脚は振り抜かれていた
バスッ!
「は?」
ネットが揺れた
「はいゴール!!見たか先輩ども!」
指を指されたガクトがニヤつく
「やるねぇ」
バドミントンアリーナ
セツナと同じクラスのムラ ムツキが口をポカンと開いて何かを見つめていた
「せ、セツナすごい…」
繰り広げられていたのは女子バドミントン部長 奏末 千咲とセツナの試合だった
「ハッ!」
チサキから放たれたスマッシュを瞬時に撃ち落上げるセツナのラケット
試合開始から約5分、互いに得点なしの攻防が繰り広げられている
なにこの1年…!取りすぎ!
チンピラを全員倒したとされる太刀城の女大将も驚きを隠せない
さっきからずっと私がスマッシュ打ってるのに…全部、ハイクリアで返してくる!
またもハイクリアで返されたシャトルをスマッシュに振り抜く
しかし、少しズレてしまったのかシャトルは弱々しくセツナの正面に向かった
「やっときた!」
セツナの目が輝く
ビュンッ!トンッ
放たれたスマッシュは相手コートのネット前に落ちた
「楽しいな部活!」
キラキラした瞳をチサキに向けると彼女は笑顔でラケットを下ろした
「やめやめー!疲れたー」
「え、」
「ミカワの勝ちでいいわ 強いのねアナタ」
「ありがとうございます!」
バドミントン楽しい~~ッ!ってちがうちがう!私はカナマツさんを知るために試合をしたんだ…持久力と長時間、同じプレー続けるスタミナとパワー…この人…本当に喧嘩でも強いんじゃ…
考えているとミツキが話しかけてきた
「セツナすごいね!あの部長に勝っちゃうって!」
「え~そうかな?ありがと!」
すると、校内でサイレンが鳴り響いた
『校庭に暴力集団が現れました!皆さん!ただちに避難してください!!』
教師の声が緊急を要していることを物差していた
その放送後、すぐにチサキはアリーナから飛び出していった
「あ、部長!!」
セツナも信念を固める
私も行かなきゃ!
北澤 夏鈴の賞金取り下げまで58:30:00
街道
スーツの男は建物の壁に腕をつけて、その姿を一般人に見られながら醜く歩いていた
「オッエッ!」
折れた奥歯を吐き出した
あのハヤテとかいうガキ…絶対殺す!!
自分を傷だらけにしたハヤテに復讐を強く誓ったが、自分を影で覆ったその存在に打ち砕かれることになる
「あらぁ~これはこれは最近うちの高校に現れては悪さしてくれてるチンピラさんじゃないですかぁ~w」
「あ?」
見上げると茶髪のツインテールに胸にTACHISIROと書かれたユニフォームを着用し手にバドミントンラケットを持った少女が嘲笑う姿が見えた
「かなりお怪我が酷いようですけど助けてあげましょうか?」
煽り口調でそういい言いながら、男の顎を二本指で持って顔に近づける
「マセガキがッ!」
それを振り払ってオドオドと後ろに下がる
「あら 無理することはなくってよ?美女のお言葉に甘えなさいな それにあなた前々からイケメンだと思ってましてよ」
ゆっくりと近づいて手を相手の胸につけて体を密着させる
「人がいんだぞっ…!」
「関係ないですわっ」
そして、スーツの男の戸惑いを微笑して上目遣いで口を優しく尖らせて目を瞑る
押し付けられた胸に向けられた唇、スーツの男の理性を破壊する その本能に従って唇をあわせようとした時、下半身に激痛が走る
「オ"ッ"!」
股間に右膝蹴りがぶち当たった
「勘違いしてんじゃねぇですわ!!」
悶絶して股間を抑えるスーツの男を笑いながら離れる
「あははは!ハニートラップも分からないお馬鹿さんだとは思ってもいませんでしたわ~w」
「このガキ!」
苦し紛れに投げた針金はラケットに収められる
「スマーシュッ!!」
針金は反転し、真っ直ぐスーツ男の横腹に突き刺さった
「ナ"ッ…!」
スーツの男は痛みで腰を落とした
「痛かったら病院に急ぎなさぁい それじゃあさよならぁ~」
後ろを向いて手を振りながらそこから去っていった
「待ちやがれ このクソ女!!」
少女を痛みに耐えながら追いかけると後ろ蹴りで路地裏に蹴り入れられた
「ブヘッ」
醜く背中を汚い地面に打ち付けると少女が残酷にラケット振り回していた
「しつこい男は嫌い シね」
少女が持ち手を強く握るとラケットの外縁から沿うようにして棘が生えでた
「ちょ、ちょっと待て…!!」
麻酔で体が上手く動かないことでこれからの事象に対抗することはできなかった
ドスッ…!ゴッ…!グチャッ…!ビチャッ…!
しばらくすると少女は路地裏の壁にのたれかかった男の目の前でユニフォームを脱いでスポブラとスポパンを晒して同じユニフォームを着用する
一度地面にほおり投げられたユニフォームを持ち上げるとそれから潤いを保った血滴を落とした
手の甲についた血痕をペロリと舐めるとルンルンで路地裏から街道に出ていったのだった
数時間後、、
北澤 夏鈴の賞金取り下げまで55:00:00
日が沈み出した夕方、スーツの男はピクリともせず、夕陽と影で体が分かれているように見えた
そこに現れた大きな人影はスーツの男を持ち上げる
その人影はセンドウで彼はスーツの男を離すと体はバタリと地面に落ちる
「死んでんな…」
俺の部下を殺れる実力…太刀城の女大将か…
センドウは仲間の死体を置き去りにして夕陽の中に消えていった
一方、セツナたち、、
任務用宿泊宅
ガイは布団に寝転がって、連絡によって訪れた科学班の班員2名に手当てされていた
左腕はギブスで補強され、胸部も包帯で巻かれている
「腕は折れてるね うん」
簡単に言って科学班の男は立ち上がる
寝床から隣接するリビングに出ると他の潜入者が座って机を囲んでいた
そこにはカリンもおり、状況の置いていかれているのかガイの心配をしているのか顔を下に向けていた
「キヤマくん 臨時報告の際に彼の任務続行不可をカタギリさんに伝えてください」
セツナやシイナが驚いて目を見開く中、サトシは淡々と頷いて口を開く
「了解です 一応、オオガミの状態を聞かせていただいてもよろしいでしょうか」
その後、伝えられたガイの怪我の状態は、左腕部の骨折、腹部の血流機能の低下、鎖骨の損傷、外部に見られる擦り傷であり、任務続行に伴う戦闘の可能性を考慮すると、支障が出ると考え、ガイの任務撤退を勧めた
「安静にするため、すぐに本部に…」
「ザケンナッ"!」
寝床から壁に腕を着いて出てきたガイが科学班の班員の後ろで声を張った
「オオガミくん!寝てないと」
「うるせぇ!」
足を前に出すと体が前のめりになって痛みを伴ったが、彼は口の動きをとめない
「あのセンドウとかいう奴をぶっ倒す…それまでくたばってられるか…!!」
ガイが咳込むと科学班の班員が駆け寄って、身を支え寝床に戻るように勧めていると、サトシが立ち上がってガイと目を合わせた
「ナメんな」
威圧ある声に戦いた
「今回の任務にあたって俺はお前らの全資料に目を通した 確かに訓練生の時から他と違うのはよく分かっている だからお前らには今回の任務期待していた」
座ったガイから目を離さず、話し続ける
「失望したわけじゃない 任務の難易度が跳ね上がったんだ お前が言ったセンドウとかいう奴は神奈川随一のヤクザの若頭だ」
仙洞 篤志
神奈川県内随一のヤクザ集団 羽斑の若頭 2年前の同時期(cool warが起こった年の4月)に大頭を殺害し、実質的な大頭となった
大きな身体と筋力、腕力で敵をねじ伏せる
「今の実力じゃ勝てないし、次会って生き残れる補償もない」
「だけど!今アイツを逃がしたら…!」
反論するガイの襟を掴んで引き寄せる
「Я が子供の命を容易く奪おうとする奴を逃がすわけねぇだろ」
Я 全体の信念がセンドウを逃がさない
「いつか絶対に潰す だから今はその時のためにお前が、お前自身の命を守るべきだ」
その声が胸に響いたのかガイは唖然として動きを止めた サトシは襟を離すとすぐに玄関へ向かう
「臨時報告をしてくる」
靴を履いてドアの向こうへ行ったサトシを見送るとガイは科学班の班員に連れられて寝床に戻った
寝床へのドアが閉まるとシイナが細く息を吐いた
「ふぅー…隊長、手が出ると思ったわ…」
「そういえば~シイナとハヤテの脚は大丈夫なの~」
ランマルがゆったりした口調で聞くとハヤテが元気よく答える
「俺は余裕やで!」
「私も~ 意外と早く治ったわ」
戦闘の反動と部分麻酔は完全に回復したらしい
続いて他愛もない話が始まるとセツナは隣にいるカリンに気をかけた
「大丈夫?」
「私は何もしてないし…でも、私のせいでオオガミくんが…」
「ううん…そんなことないよ カリンちゃんがあの場でガイを庇ってくれたからガイは生きてるんだよ」
「でも、私が近くにいたから死にかけたのは事実で…」
頭をあげると偶然、ランマルたちと話しているシイナと目が合ってしまった
瞬時に目を背けてセツナの方を見る
「私のせいで誰かが死んでしまうのは悲しいわ…」
「………」
その言葉にセツナは何も返すことはできなかった こちらがカリンを守らなければいけない立場なのだから、彼女を擁護するのは当たり前のことだが、守られている側が自分のせいで、と考えるのは当然なのかもしれない
それでも、セツナは彼女を守らなければならない 彼女がどんな罪悪感を孕んだとしても見殺しは間違った行為であり、守らない理由にはならないから
「つーかちょっといい?」
そんな感情的思考をしているとランマルが全体に話しかけた
「部活の件なんだけど どーする」
「部活…?」
カリンが頭にハテナを浮かばせるとセツナは端的に説明した
「カリンちゃんを守るために怪しい人がいる部活とか、カリンちゃんが入る部活とかに私たちが入るってこと」
「あーね…」
セツナが数時間前に提案したことについてだ
「私は女バスに入るわ」
カリンが自分の入る部活を伝える
「ならオレは男バスに入る 他の2人は入らなきゃヤバそうなとこあるんだろぉ」
ハヤテは生徒会長のガクトがいるサッカー部に、セツナはチンピラを一掃したとされる女生徒がいる女子バドミントン部に入部することがほぼ確定となっている
「でも、ランマル1人でカリンちゃんを見張るのって難しいと思うけど」
セツナの意見も当然で、本日の襲いかかってきた人数を鑑みても、いつ、どこで、何人から襲われるか分からない状況
部活動中に彼女の動向をずっと見続けているのでは不審者扱いされてしまうため、ランマル1人では上手くいかないと想像される
「じゃあシイナが女バス入れば~」
「「……!」」
嫌悪しあっている同士の反応が被る
「ちょ…ちょっと!なんで私!あ、まぁ!私しか余ってるのいないからかもしれないけど!」
「嫌よ 私もこんな人とチームプレイなんてごめんだわ」
「げっ…」
シイナの反論はともかく、カリンから反対されると慎重にならざるおえない
「こんな人ってなによ!!」
「実際、無慈悲な非人道人間じゃないかしら」
そして、言い合いに発展する
「まぁまぁ…あはは~」
セツナもそれなりの仲介をして口角をあげる
「ほなさ~」
ハヤテが人差し指を立てて2人の言い合いを止めた
「これやったらどうや?」
野外
宿泊宅から出たサトシはスマホでカタギリと連絡をとっていた
『病院を急に抜け出したことはなんとか揉み消した』
「そうですかありがとうございます」
『そんなもんかな じゃあオオガミは今から送る科学班の車で送り返せ』
「分かりました」
報告が完了し、電話の接続を解除する
すると、突然、横から話しかけられる
「お前 Я か?」
サトシはすぐにそちらを向いて警戒態勢をとる
「誰だ」
その人物は黒いマントを羽織り、顔に【N】と描かれた仮面をつけていた
「N…? お前まさか…!」
驚愕している隙に相手は短刀で襲いかかってきた
サトシは反射で膝をあげて、脚の装甲で斬撃を受け止める
金属同士が擦れる音が耳を刺す
間合いから離れるため、跳んで後退し体勢を立て直す
「その仮面…間違いないようだな」
「知っているのか」
「たりまえだ この業界に住んでて知らなかったら逆に怖ぇよ」
サトシは冷え汗をかきながら、また口を開く
「七黒の一角 影の暗殺集団 N…!」
「なら話が早い 一刻も早くこの件から手を引け」
「ほう?お前らが1枚噛んでるわけね」
「今、手を引けばお前らから犠牲者は出さん」
「そのお前らにキタザワっていう女は入ってんのかな」
「それは愚問だろ」
「なら無理なお話だ!」
攻撃モード…!
鋼鉄の装甲の脚から足の指先までに鋭い刃が突出した
「その仮面 蹴り切ってやんよ」
「やってみろ」
仮面の男は腰に巻いた紐衣からもう1本の短刀を抜いて逆手持ちする
「カマキリかよっ!」
回し蹴りで迫る刃を短刀で受け流す
サトシは近距離での蹴りを連続して行うが、それを短刀で全て受ける
手の動きが早い…!こんままじゃ…こっちが消耗して終わりだな…!
即座に不利を判断して距離をとると足に力を込める
「爆速モード!」
爆発的加速で一気に無防備な懐に飛び込む
「……!」
そして、瞬時にモード変形 攻撃モード
装甲から突出した刃が鋭く光る
バスッ…!
仮面に斜め一線の傷が入る
「ちっ…!」
相手は仮面を抑えてサトシから数歩下がる
「やっぱりな!お前らは影の暗殺集団 正体は晒せない」
「やりよる」
「片手でかかってこいよ 顔面丸裸にしてやる」
すると、宿泊宅からセツナたちが異変に気づいて出てきた
「なにごと!!」
「……!お前ら出てくんな!」
サトシが視界を後ろに向けた途端、相手は背を向けて走り出した
多勢に無勢につき、ここは退却する
「あ…!待ちやがれ」
爆速モードですぐに追いかけ、横に並ぶ
「俺の足から逃げられると思うなよ」
「はて それはどうかな」
ビュンッ!
「……!」
側方からとんできた槍を頭部に突き刺さる寸前で蹴り飛ばした
「誰だ…!ッ!しまった…!」
振り返るとそこには誰もおらず、相手をみすみす逃がしてしまった
セツナたちがサトシに追いつくとすぐに質問する
「今の!誰ですか!」
「七黒N だ」
「「「………!」」」
「今回の件…ヤベぇ奴らが関わってやがる」
翌日、、午後3時30分
北澤 夏鈴の賞金取り下げまで32:30:00
この日は音沙汰なく、学校での1日を終えた
セツナたちはそれぞれ、入部を希望する部活動の活動場所に向かう
体育館 バスケット場
ゴンッ!
「ないッシュー」
バスケットボールがネットに吸い込まれた
落下したボールは練習用のシャツを着た女生徒に渡る
「取り返すよ!」
投げたボールを手にした生徒が反対側のネットまで走るが、ドリブルとシュートのコースを塞がれる
「こっち!」
「おねがい!」
横に走り込んできた生徒にボールをパスするが、そこに飛び込んだ生徒がパスをカットする
「もらいます!」
カリンが自らカットしたボールを持って走る
「守り戻るよ!!」
前線に上がっていた相手チームが走り戻る
戻ってくるまでの時間、ディフェンス2名がカリンを阻む
「いかせないよ 新人ちゃん!」
「抜きます」
重心を左に寄せてボールを地面に打ちつけようとする
左…!
即判断した相手ディフェンスがそれに呼応して、左足に傾くが、、
「残念…下です」
バンッ!
開いた股の間でボールをバウンドさせて1人抜き去る
「まだいるよ!」
もう1人のディフェンダーが道を阻む
「甘いですね 上ガラ空きです!」
この距離でシュート…!?
シュートモーションから上方に放たれたボールはややゴールネットには届かない
しかし、ボールの軌道がおかしい
違う…!
気づいた時には遅く、もうカリンはディフェンダーを抜いている
「超回転!?」
ボールは回転を受けてカーブを描き、カリンの元に戻った
ゴールネット目の前、あとはシュートを打つだけ、今度は本当のシュート体勢に入る
「止める」
攻めから戻ってきた高身長の先輩が目の前に立ちはだかる
ボールを離せば高さでボールを撃ち落とされる
「視野が狭いですよ 先輩」
上方に放たれると思われたボールは左側方に投げられる
シュートフェイクからのパス…!
抜け出していたカリンの味方がボールを受け取り、シュートを鮮やかにキメた
「ナイスパス!よく見えたね」
「ありがとうございます!」
その試合様子を体操服を着て、クリップボードを抱えてみている金髪の少女がいた
「新人ちゃーん!男バスもうすぐ試合終わるからドリンク運ぶの手伝ってー!」
呼ばれた少女は気だるげに「はーい」と言って、走る
なんで…なんで私がマネージャなの…!!
ハヤテのヤツ変な提案しやがって…
「チームが嫌ならマネージャとかありやと思う」
ハヤテの生意気な提案が頭にある
ふざけんなァァァ!
「こっち持って」
「はい」
クーラーボックスをシイナとマネージャの先輩2人で持つ
「いやーあの女バスの新人すごいね」
先輩がカリンを遠目で見ながら言う
「そうですね 思ったより上手いと思います」
「ん?あーそっか同じクラスだもんね ともだち?」
「違います」
即答
「えーそんな冷たいこと…」
バァン!
「キャー!あのイケメンうまーい!!」
先輩言葉を遮るシュートと女子マネージャの声
その声が向けられた先にいるのは緑メッシュだった
「うっし オレ29点目~」
5対5の試合でランマルは勇姿を魅せていた
「しょげんな!逆転すんぞ!」
相手チームが試合をすぐに建て直し、細かいパス回しで相手を翻弄し、前にボールを送る
ボールを受け取った生徒が味方の生徒にパスを出そうする
「右から…」
そして、手の中の軽さに気づく
「って!ボールがねぇ!」
後ろを振り向くと1人走るランマルが舌を出して煽っていた
「あの1年!なんつーボール奪取!」
そのままスリーショットをキメた
「うぇーい 31点目~」
ピッピッピィーーー!!!
試合終了のホイッスルが鳴った
「あの子も上手いね」
「あ、あはは…」
ランマル容赦ないわね…w
ドリンクを取りに来た男子生徒が次々にドリンクをボックスから抜き取っていく
「おい新人!うめぇな!!」
「即レギュラーだろこんなの!気配なさすぎ!」
「いつボール手から無くなったかわかんねぇ」
「あざーす」
先輩の褒め言葉を「あざーす」の一言で片付けることにランマルを感じる
「お前名前なんだっか」
「新田 蘭丸っす」
「ニッタぁ!よろしくな!!ってお前ドリンクは」
「あーとり損ないました 先輩飲むかなと思って」
「は?人数分あるはずだろ」
すると、ある女子マネージャが恐る恐る近づいてきてドリンクを差し出してきた
頬は赤く、手も少し震えている
「あ、あの////良かったら…これ///私が作ったので良ければ///」
「まじ?せんきゅー」
「……/////」
躊躇なく受け取ってゴクゴクと飲む姿に女子マネージャからは湯気が出そうである
その行為を見たシイナが頬を膨らませた
あの女たらし…
サッカーコート
ピィーーー!
「キャプテンないす!!」
ガクトがストーレートシュートを見事にキメた
1、2年生対3年生の試合は開幕5分の1:0で始まった
1、2年生ボールから再開された試合はキャプテンであるガクトがいる中盤で止められる
「行かせないよ」
「キャプテン邪魔ぁ」
横から割り込んだ選手によってボールは弾かれる
「あ…!」
「よそ見してっと奪われるよぉー セカンド!」
転がったこぼれ球の先にいる生徒がボールを受けようとした瞬間、高速に転がるボールをジャストで受け止める男がいた
「なに…!」
「もらうで!先輩!」
ハヤテはその足でコートを真っ直ぐ走り抜ける
「すまん!止めてくれ!」
即座に対応した相手選手が走り寄ってくるが、
「おっそ…」
さらに加速し、置いていく
「うっそーん 足はっや」
1人ペナルティエリア付近に抜けたハヤテはボールに足を振り抜いた
ゴールポストギリギリに放たれたストレートシュートは見事にネットを揺らすと思われたが、相手選手の脚がボールの勢いを殺した
「ないっしゅー」
「会長まじかw」
シュート弾くならまだしも…トラップするとかやーばw
「カウンター行くぞ」
蹴りあげられたボールはセンターライン付近に落下する
「いけエース シュートの決定率はお前の方が高い」
ボールを受け取った選手が前を向いて走り出す
「さすがガクト よく見てる」
1人で駆け上がる選手の前にディフェンダー3人が立ちはだかる
3枚…サイドバックは上がってるからまだ時間かかるっしょ
「サイド警戒しろ!」
ディフェンダーの1人が上がってくる相手のウィングに警戒を促す
「サイドばっか気にしてっと中央脆くなるぜ」
かかとでボールを後ろに蹴る
バックパス…!誰に…!
そのボールを受け取ったのはキャプテンガクト
駆け出すエース
「やっば」「戻るか…!」
サイドウィングを警戒していた2人のディフェンダーが相手のサイドから目を離す
「アホが」「全国レベルなめすぎ」
緩まった警戒を逃さず、ウィング2人も走り上がる
ディフェンダー1枚にアタッカー3枚 完全数的有利にガクトのパス先の選択肢が増える
そんなの一択だろ
放たれた弧を描くボールはキーパーの前にいるディフェンダーのさらにその前にいるエースの元に落ちる
よしっ!トラップしたら距離を詰め…
「甘いな」
その思考を破壊する一撃がくる
エースは体を逆さにして跳んだ
「は!?」
これは驚愕して当たり前
「これで2:0ね」
轟速のダイレクトバイシクルシュートがゴールに放たれた
ドンッ!!
「……!」
逆さまの景色で目に映ったのは自身のシュートを右足で止める男の姿だった
「お返しやで!先輩!!」
勢いよく蹴りあげられたボールはポストに当たり、地面にぶつかる
そのボールを足で収めて、踏み出した
「ゴー!」
走り出したハヤテはグラウドの砂を蹴り巻く
攻め込んできたアタッカー3人を置いてけぼりにセンターサークルに到達する
「いかせんよ~」
「会長じゃまっ!」
ハヤテは右膝を曲げた
ロングパス…!うたせん!
1歩前に出て足を伸ばしたガクトだったがボールは左足によって横にズラされ
「フェイントかよ…w」
前に出たガクトはすぐ後ろに戻ることができない
「置いてくでぇ~」
また、自慢の足で駆け出す
「サイド警戒!あの1年に2人以上つけ!」
相手も守りを固める
「行かせねぇ」「サイドも潰した!」
サイド?俺にパスなんて選択肢はねぇんだよ!
大きく蹴りあげられたボールはさらに前に落ちていく
「ミスったか?そこには誰も…」
ビュンッ!
「……!」
「いや、俺が行く」
誰もいないならば自分で取りに行く
ボールに気を取られた選手を置いてけぼりにする
「まずった!誰かクリア!!」
その指示が通り、ボールの落下地点にもっとも近い選手がボールを見つめる
「おっけー!ギリ頭届く」
ヘッディングでボールをクリアしようと膝を曲げて勢いをつけた瞬間、選手の視界は足の影で埋まった
「はぁ!?速すぎだろ!」
ハヤテは跳んで伸ばした足でボールを受け止め着地する
「50m4.89なんでね!」
ペナルティ寸前…!ディフェンダー2枚…!真ん中一直線空きすぎ!さらに…加速!!
速度をあげてディフェンダー2人の間を抜けた
「うっひょーw」「まじか…」
キーパーと1対1に追い込む
どっちだ…右か左か…
足の動きを見極めて自分の左右どちらに撃たれるかを予測する
しかし、それは悪手だった
「俺の振りは見えへんで」
次の瞬間にはハヤテの足元にボールはなく、右脚は振り抜かれていた
バスッ!
「は?」
ネットが揺れた
「はいゴール!!見たか先輩ども!」
指を指されたガクトがニヤつく
「やるねぇ」
バドミントンアリーナ
セツナと同じクラスのムラ ムツキが口をポカンと開いて何かを見つめていた
「せ、セツナすごい…」
繰り広げられていたのは女子バドミントン部長 奏末 千咲とセツナの試合だった
「ハッ!」
チサキから放たれたスマッシュを瞬時に撃ち落上げるセツナのラケット
試合開始から約5分、互いに得点なしの攻防が繰り広げられている
なにこの1年…!取りすぎ!
チンピラを全員倒したとされる太刀城の女大将も驚きを隠せない
さっきからずっと私がスマッシュ打ってるのに…全部、ハイクリアで返してくる!
またもハイクリアで返されたシャトルをスマッシュに振り抜く
しかし、少しズレてしまったのかシャトルは弱々しくセツナの正面に向かった
「やっときた!」
セツナの目が輝く
ビュンッ!トンッ
放たれたスマッシュは相手コートのネット前に落ちた
「楽しいな部活!」
キラキラした瞳をチサキに向けると彼女は笑顔でラケットを下ろした
「やめやめー!疲れたー」
「え、」
「ミカワの勝ちでいいわ 強いのねアナタ」
「ありがとうございます!」
バドミントン楽しい~~ッ!ってちがうちがう!私はカナマツさんを知るために試合をしたんだ…持久力と長時間、同じプレー続けるスタミナとパワー…この人…本当に喧嘩でも強いんじゃ…
考えているとミツキが話しかけてきた
「セツナすごいね!あの部長に勝っちゃうって!」
「え~そうかな?ありがと!」
すると、校内でサイレンが鳴り響いた
『校庭に暴力集団が現れました!皆さん!ただちに避難してください!!』
教師の声が緊急を要していることを物差していた
その放送後、すぐにチサキはアリーナから飛び出していった
「あ、部長!!」
セツナも信念を固める
私も行かなきゃ!
0
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