Я side The Assassin

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社長令嬢護衛編

41.呪い

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約15年前

北澤夏鈴はこの世に生を受けた
いや、この日この場所この時間に生を受けたのは彼女だけでなかった

一卵性双生児の妹 北澤冬華トウカ も姉と同時に産声をあげた
彼女らの産声を聞いた母と父は喜びよりも絶望が心を埋めつくした

カリンに似た銀色の美しい髪を持った 母 北澤 涼香スズカは担当医に大きな声をあげた

「聞いてないわよ!双子だなんて!!」

「すみません!気づいた時にはもう産むしかなくなった状態でして!」

「言ったでしょ!!我が家系で双子がどんな目に遭うのか!!」

泣きながら担当医に拳を向けると夫のタカオが妻の体を抑えた

「やめろスズカ!!」

「離してタカオさん!!」

「ここで先生を殴っても何も変わらない!!」

その言葉で全身から気力が抜け、床に膝をついた
看護師に抱えられた双子が泣き始める
その泣き声と母の泣き声は重なっていたが、似て非なる感情を孕んでいた

「だって!だぁってぇ!!わたし、、!娘が死ぬのを見たくないわ!!」


5年後、、

幼いカリンとトウカは何事もなく成長していた
自分たちの祖父の足の上で温かくテレビを見ている

「トウカー!」

母に呼ばれたトウカはそこから声の方向に向かって駆け出した
その場にはカリンと祖父だけが残る
祖父が静かに口を開いた

「カリン お前に話さなければならないことがある」

「なに?おじいさまっ」

「お前のお婆様、延いては母上、いや我らの姓を持ちて産まれた女の話だ」

「私もそうなの?」

「あぁ、そうだ だからよぉく聞くんだぞ」

祖父から話されたのはこの家系の呪いの話だったが、幼いカリンは到底理解できず、首を傾げた

8年後、、

中学生になった双子が初めて制服を身にまとって体育館に入った
2人はとても似ており、母譲りの銀色の髪と水色の瞳を輝かせてこれから始まる学生生活に期待を寄せていた
しかし、入学式中に原因不明の大爆発が起こった

「「キャァァァア!」」

天井から瓦礫が落下し、2人を押し潰す
カリンは気を失って目を閉じた
彼女が次に目を開けた時、世界は灰色にボヤけていた
アスファルトの瓦礫から飛び出した杭が脚に突き刺さって動けない

「トウカ……」

妹を心配し目を閉じる前にトウカがいた隣に目を向けると、、

「………!」

瓦礫の山と灰に染まった床の間から伸びた腕、ピクリとも動かない指先がカリンの心を強く揺さぶる

「ハァ…ハァ…ハァ…!」

息も荒々しくなり、取り戻した視界も徐々にまたボヤけ始める

「キミ!大丈夫か!!」

あまり被害を受けなかった大人の男性がカリンを発見し、走って近づいてくる

「ト…トォ……」

男性の心配の声も耳を通さないほど動揺し、感情が込み上げる

「瓦礫で足が…誰か!」

カリンの前で姿勢を低くした男性が他に動ける大人を呼ぶと数人が集まる
自分の近くに助けの手を差し伸べる大人たちがいるということも気づかず、ただ瓦礫から伸びる腕に目を捕われる

「やだ…やだぁ…」

気を取られているカリンの上に乗った瓦礫を数人の力で持ち上げようとした時、彼女の悲しみが限界に達する

「トウカァァァァァァ ア!!!」

鼓膜を破らん程に轟くその泣き叫びはここにいる者のみならず、周囲の人物の耳を強く刺激する

それを聞いた者たちの動きが数秒止まった
そして、次の瞬間、叫び声を聞いた者たちのは赤く鋭く光った

カリンを救おうとしていた大人たちは一斉に瓦礫から手を離す
すると、静かに見合った数名は拳を握った

「死ねぇ!!」

殴り合いが始まった
カリンはようやく近くにいた大人の存在に気づき、目の前で殴り合う大人の姿に更に動揺する

「え……」

赤い眼光が交差し合い、攻撃が激しくなる
その場に落ちていたまだ手に持てるサイズの瓦礫で相手を殴り殺し、太い針金で後ろから刺し殺す
離れた場所でも殺し合いが勃発し、そこは灰色とドス黒い赤に染まった地獄絵図と化す

カリンの涙は絶えず、また声を高らかにあげる

「やめてよ…やめてよぉ!!」

彼女が静止の声を上げるほど殺し合いは勢いを増す
飛び散る血液と倒れる人々を無力で眺める彼女は祖父からの言葉を脳で再生した

「我ら北澤の嫡女は"朱色しゅしょくじゅ"という呪いを授かっていてな これはあまりにも強い感情を抱いてしまった時、周囲の人物の覚醒を呼び起こすんだ」

「かくせー?」

「そうだ…覚醒してしまった人物は無差別に人を殺したくなる だからカリンやトウカには自分の感情を操れる大人になって欲しい」

その言葉虚しくカリンは強い感情を抱いてしまった 目の前で妹が潰れているという現実に耐えることなどできなかった



午後6:15

北澤夏鈴の賞金の取り下げまで29:45:00

社長室

その出来事を父タカオはカタギリに話した

「その日、私は1人の娘と最愛なる妻を失った」

カタギリが吸殻を灰皿に押し潰した

「そりゃ気の毒だ」

「思ってもないことを口にしないでくれ」

少しの沈黙のあと、タカオはまた口を開く

「そんな娘を公機関に晒せば何をされるか分からない」

「なるほど で、俺ら裏側の組織に依頼ってことか」

「今回、カリンがなぜ狙われているのかは分からないが、娘の力が再び発現することは絶対にあってはならない だからキミたちに頼んだのだ」

依頼の違和感に納得したカタギリは力を抜いて依頼主と接する

朱色しゅしょくじゅか…確か数百年前にそんなものがあったとかいう話は聞いていたが、現代でも残っていたとは…」

そう呟くとカタギリは社長に背を向けてドアノブに手をかける

「このことを公開するのか…」

社長が不安を抱えているかのように問うとカタギリは社長から見えないところで口を吊り上げる

「そんなことしませんよ 俺が個人的に気になっただけですから」

社長がホッとするような仕草をとるとカタギリは一言付け足した

「あと そっちの方が面白いことになりそうだ」

奇怪さを感じさせる声に社長は体が縮んだ
カタギリはその様子を見ることもなく社長室を後にした

扉が閉じると社長は縮んだ体を広げる
机に置いたスマホを手に取って操作し、耳に当てる

「失敗したようだな」

スマホの向こうにいる誰かとの会話が始まる

「明日は今日までよりも多く刺客が現れるだろう 逃すなよ」


???

センドウが薄暗い場所にドアから入った
細い廊下を歩き、壁についたドアを引くと8畳ほどの広さでアスファルトとコンクリートでできた質素な部屋に入る

そこにはパイプ椅子に座った頭の中心の髪の毛が抜け落ちているぐるぐるメガネの白衣を着た低身長の老いた男性
部屋の雰囲気に似合わないゲーミングチェアに座って長机の上にキーボード、マウス、ディスプレイを置き、プロコンを激しく動かして画面に映し出されたキャラクターを操作する襟のサイズが合わず左鎖骨がさらけ出されている鮮やかな紫色の髪色の短髪の若い女性
そして、部屋の中央にある破れて綿が漏れ出ている茶色の革ソファーに座ってスマホを触っているサングラスをかけた紺色ウルフカットの男性
その男性が部屋に入ってきたセンドウに気づき、「おつっ!」と手を挙げる

「ふざけんな」

「おーこわこわwその様子だと無理だったんだ」

「無理どころじゃねぇ 目的の女がいないだげじゃなく俺の部下がほとんどはっ倒された」

「そんなにカップル強かったぁ?」

「リア充だけじゃねぇ サッカー部のガキ共も部下をボコせるくらいにはやれる奴らだった」

「そりゃ予想外」

すると、男らしい声で「GAME OVER」と聞こえた
その方向を向くと若い女性がプロコンを机にほおり投げていた

「クソが!!」

反応でわかる 対戦相手に敗れた
その反応を見たウルフカットが若い女性に言う

「うぇーい じゃあ約束どおり仕事に戻ってもらって」

「チェッ お前の作ったbot強すぎんだろ」

愚痴を零しながらゲーム画面を閉じてキーボードに手を置いた

蓮野ハスノは相変わらずだな」

「まだ年齢的には高校生だし」

ボヤくとパイプ椅子に座った老男が読んでいたノートを勢いよく閉じて言った

「地下を見てこよーかね」

「博士いってらー」

老男が部屋から出ていくとセンドウがウルフカットに聞いた

「増えたのかの人間が」

「おう」

「俺も早く手に入れたいものだ」

「まだお前は俺を滾らせることはできねぇし、自分を沸き上がらせることもできねぇ だからまだ無理」

「ガキ相手じゃ無理に決まってるだろ」

「まぁそれもわかる」

一旦の沈黙の後、ウルフカットがスマホをポケットに入れた

「じゃあ本題ねぇ~」

「今、お前がかけたあの女の賞金取り下げは」

「あと1日と4時間 けどほぼ明日の昼に色んな奴らが学校に押し寄せるだろうな それまでに付近にいる敵をある程度消しとこう」

「めんどくせぇな やっぱり場所暴くために賞金をわざと掛けたのは失敗じゃなかったか」

「いや?これまでは父親がどこにいるかも分かんなかった ハスノのおかげでそれが分かって殺人予告を贈ったわけだけど予想は当たって見事に護衛らしき人間を着けてくれたから娘の場所もわかった 最善手だったと思うけどな」

「だが、賞金をかけたせいで他の組織からも狙われているぞ」

「護衛に着いてる奴らがどんだけ強いのか知りたかったし、明日の昼に護衛が疲れてんなら夜や深夜に落とせる」

「そんなことをした結果、女が殺されたらどうする」

「だいじょぶでしょ 俺たちからも優秀な働き者をんだから」

「だといんだが…」

「ソイツが上手くやればあの家の娘が俺たちの物になって、俺が望む社会に一歩近づく 実に楽しみだ」


午後9:00

北澤夏鈴の賞金の取り下げまで27:00:00

抱えきれない運命を生まれ落ちた瞬間に手にしていた少女を狙う影は濃さを増し、命の危険が高まっている

その中、本人は、、

任務用宅

「テメェら……!」

額の血管が浮かんだサトシが正座している5人に怒りの言葉をぶつけた

「何してんだこんな時間まで!!カリンさんを狙う奴らが襲ってきたらどうするつもりだったんだ!!」

ハヤテが素早く手を挙げた

「結果的に何事もなかったんで!いいと思うんやけど!!」

ボコッ!!

強烈な拳骨がハヤテの頭に突き当たった
大きなたんこぶができ、それを抑える

「いってぇ~~~」

「次やったら全員殺す」

全員が声を揃えて「はい すいませんでした」と頭を下げた

カリンは正座したままスマホのカバーに挟んだプリクラを凝視して思い出を噛み締めた
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