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少年たちの成長編
60.信念④
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武道場の中央で倒れたアサミにセツナは手を伸ばした
アサミは、一瞬の躊躇のあと彼女の手を取って立ち上がった
「私の最初の発言 撤回するわ」
セツナは弱いと罵った言葉を先程の彼女の行動を見てなんて無様なことを言ったのだと反省しているようだ
「あー 気にしないで! それより…」
セツナはアサミの肩を強く掴んだ
「あとでちゃんと話してね」
その一言を残してセツナは場外に捌けて行く
アサミはその姿に悠長な人だと思いながら反対方向に下がった
セツナが線を跨ぐと同時にレナが反対から跨いだ
「セツナちゃんおつかれ あとは任せて」
コクリと頷くのみで返した友達の向こうで陽気な少年が体慣らしがてら跳ねながら入場してきた
「やっとバトルだぁ!」
その無邪気な姿にレナは裏腹に疑念を抱く
コウマくん…ゴウが試験のときに手足が出なくて、イチゴちゃんたちとシバキ班長を倒した
真剣な表情と笑顔が向かい合うと、試合の火蓋が切られた
「はじめ!!」
その瞬間、コウマはレナの懐に現れた
「……!」
レナは咄嗟に打ち上げられそうな拳から身を守るため腕を交差させたが、次の瞬間にはコウマの姿はなかった
「え…… ゴォンッ!!
突如、背中に鈍い痛みが走った
「おそい…」
いつの間にか背後に回ったコウマが拳を背に打ち込み、怯んだレナに回し蹴りで追い討ちする
二連撃もレナの背を捕らえる
レナはあえて前転し相手から距離をとる
「ふぅ~……」
痛みも去ることながら相手を注視する
またしても、コウマは突進してきた
背後を取られると判断したレナは身を翻し背後に拳を撃つが、コウマはレナの伸びきった腕に手を置いて土台とし跳ね上がり、踵に力をつけて降下する その踵落としはレナの左肩に蹴り落とされる
勢いでレナは背中から床に倒れ、コウマは床に着いた衝撃を利用して距離をとった
仰向けに倒れているレナを見てコウマはため息をついた
「つまんなぁ~」
言いながら手を後頭につけて身を左右に揺らす
その悠長な姿にレナは笑って起き上がった
「ほんとに?」
ブシャッ!!
「……!?」
コウマの鼻から血が吹き出した
翻しで撃った拳は僅かにコウマを捉えていたのだ
レナは痛めた肩を叩いて慣らしながら立ち上がる
「実は、強さいっしょだったりして」
「へぇ~ 面白いじゃん」
一撃を喰らい合った2人は相手に敬意と狂気を払って笑う
2人はお互いの正面に駆け出し、拳をうちつけあった
すると、レナは瞬時に拳を離し宙に跳ぶ
「……!?」
コウマが驚いていると場外にいるセツナが「うわっ」と声をこぼす
レナの左脚がコウマの頭部目掛けて振り蹴られ
る
「脚!」
コウマは辛うじて腕で防御するも強い衝撃で体が揺らぐ
「重っも…!」
その隙に着地したレナは右拳を強く握り、無防備な相手の顎を殴り上げる
「拳!!」
「ブッ……!」
コウマの足が床から離れる
浮いた体、無防備な胴体、そこに撃ち込まれる重圧をコウマは初めて知る
「脚!!!」
浮いた腹に右足のミドルキックが吸い込まれるとコウマは吹き飛び、床に転がる
それを見たセツナが目を見開いて若干、恐怖する
「なんか、前より威力上がってない、、?」
隣にいたトワカがその疑問に無返事で答える
「4月の修行期間、彼女はキドウ副班長の元でとても辛い激務に努めていたと聴いております」
「それ、ってなに、、」
「岩を砕く修行ですわ」
「は、へ、え?」
もう時代を何一つ感じさせない内容に戸惑う
「課せられた課題はただ1つ、1ヶ月以内にキドウ副班長が持参した大岩を砕くこと なお生身で」
「そりゃ、筋肉とか骨とか鍛えられそうやな」
セツナが反応する前にハヤテが返した
ハヤテはその内容にとても興味を誘われたからである
身体強化訓練…みたいな感じか、、それをやれば少しは俺の足も壊れにくくなるんちゃうか、
ハヤテの素早い蹴りは足の筋肉を疲弊させる
それは筋肉が速度と威力に耐えきれていないからだと推測し筋肉のシンプルな強化こそ自分に今、必要なものではないかと確信しているのだ
その視線の先でコウマは飛び起きた
「うっひょーー! 強いねーーキミ!!」
痛そうな気配はひとつもなく、さらに好奇心が増したように見える
「そこまでピンピンしてると流石に引く、、」
「え?なんで?今からでしょ!」
床を蹴飛ばして飛び上がったコウマの右足がレナの左肩を捉える
「楽しいのは!!」
それを踏み台にしてさらに高く上がり、急降下で降り落ちる
「ライダーーーー!キーーーック!!」
腹に落とした足はレナを背中から倒れさせ目を眩ませる
「ウエッ……!!」
倒れたレナの体に座り込み足を相手の腰に巻いて拳を握る
「フルボッコターッイム!!」
「……!」
ボコッボコッボコッボコッ!!
周囲から見ればリンチの絵面だが行っている本人は楽しそうに拳を何度も打ち付ける
「どうしたーー?反撃する気がないのかな!」
その調子に乗った発言の直後、拳を左手で掴みまれ止められる
「おっと?」
「一撃一撃が弱々しくて痛くねんだよガキが!」
裏拳で殴り飛ばされたコウマが倒れたレナから離れる
「こちとら鍛えたのは拳だけじゃないんだよ!」
立ち上がったレナとコウマが再び向かい合う
「はっはっー!いいねやっぱキミ!!レナって言ったっけ?強いねーー!楽しいよ!!」
「私も楽しい けど、、」
息を整えて言葉を続ける
「なんでそんな怖い笑顔なの」
輝きのない褪せたような黄色の瞳とは対になる浮ついた口元
笑顔には見えない笑顔をレナは不気味に思う
「えぇ?そうかな? 顔はどうあれ心は楽しんでるよ」
「いいえ それはあなたがそう思いたいだけのように聴こえる」
「はぁ?何言ってるの?」
「本当は闘うことを恐れてる…」
勢いよく少年を指差す
「私にはそう見える」
核心突かれたように狼狽えるコウマの不気味な笑顔が失せた
「そっか、そう思うならもういいよ」
床を蹴った音が武道場内に大きく轟くと宙に浮いたコウマの右脚がレナの目前に迫っていた
「……!」
ゴォン!!
レナが蹴飛ばされ、場外寸前で踏みとどまる
しかし、前方にコウマの姿はない
彼は瞬間にしてレナの背後に回りこみ再びレナの後頭部を蹴り飛ばした
今度は正面に向き直し相手を視界に捉えるが直線的な飛び蹴りが迫る
「……ッ!」
レナは両腕でそれを受け止めたが、コウマはそれを踏み台として宙に浮き、足を相手の首に巻きつける
「死ね」
振り下ろされた拳がレナの頭上部に撃たれた
激しい痛みと視界の歪みが同時に生じ意識が朦朧とする
前かがみに倒れていくレナから浮き離れるコウマは冷たい目でその様子を見ながら終わりを確信していた
その時、優しく穏やかな女性の声がコウマに囁いた
『コウくんかっこいー!』
それに惑っていたコウマは一瞬、床に棒立ちしていた
「ナメんな!!」
レナの大振りした拳がコウマの横顎をを殴り打った
視界が揺らぐ、意識が薄れる
ーーーーー過去に導かれる
「ママ!!僕、大きくなったら悪い人を懲らしめるライダーになる!!」
そう言って突き出した玩具の剣が光る
隣に正座する母親が両手を叩く
「コウくんかっこいー! じゃあママもコウくんライダーに守ってもらおー!」
「うん!絶対にママを守る!!」
「うれしーー!!」
にこやかな笑顔だ
今となれば子供の戯言なのに本当に楽しそうだった
でも、、
真っ暗な部屋の床にこびりついた血液と散乱した食器、泣き崩れて何かを呟きながらうずくまるお母さんの横にある、、
ーーーーーーーー知らない男の人の死体
ランドセルを床に落とした
「ま、、、マ?」
俺がお母さんに近づいていくと徐々に何を言っているのかがわかってきた
「そうよ、、夫が悪いのよ、、勝手に出ていって、、自己破産したから金が欲しいとか……!!」
どうやら死んだのは俺の父親らしかったが、目の前の状況にさえ理解に追いついていない当時の俺は心配で母親に手を伸ばした
「大丈夫…?」
パンッ!
振り向いた母親に手を打ち払われた
「こ、コウくん…」
やっと俺の存在に気づいた母親が涙を流しながら謝罪し俺を抱きしめた
「ごめんなさい!!こんなの見せちゃって!お母さん悪いことしちゃった…!でも、、この人も悪い人なの…!だから許してぇ!」
何を言ってるのかよく分からず呆然とすることしかできなかった
「逃げよう、コウくん…この家も何もかも捨てて」
そこで母親は床に膝を落とした
体重で俺も床に座り落ちた
その時、俺の手に割れたコップの底の破片に触れた
「じゃあママは、、悪い人ってことだよね」
「え、、」
グサッ…
鋭利な破片を母親の首に突き刺した
「悪い人はやっつけなきゃ…でしょ?」
吐血して倒れた母親にそう言って俺は立ち上がった
俺は守ってみせると宣言した人を殺した
俺は悪い人を懲らしめるために強くなりたかった
そのためにЯ に拾われてから強い人との闘いを求め楽しんでいたつもりだったのに
「本当は闘うことを恐れてる…」
自覚はなかった
でも、今、あの時を思い出してから分かった
俺はあの時から強くなった先に何があるのか想像を止めてしまっていたんだ
悪人とはなんなのか、それが曖昧になっている
都合よく戻ってきた父親はきっと悪人には違いないのだろう、でも、それを殺した母親は悪人なのか、そして、そのことを隠して逃げようとした母親を殺した俺は悪人なのか、、
後ろに倒れかけたコウマだったがなんたか意識を取り戻し、バク転しながらレナから距離を離した
当たり場所が良くなかったか…
自身の攻撃が致命的にならなかったことを体力的に後悔している
頭を上げたコウマの目に涙が潤み流れ落ちた
「え、、」
レナも唖然とし体が硬直する
「なに、、」
コウマは自分が泣いていることにことに気づいていない様子でそのまま相手の質問に質問で返した
「悪人ってなんだと思う、」
「え、ちょ、急になに」
突然、解のわからない問いを示され戸惑いを隠せない
コウマは相手からの解答を得るため自分の心内を語る
「ちっちゃい頃から悪い人を懲らしめたくて強くなりと思ってた そのために強い人と闘って楽しんでるつもりだった
でも、悪人の意味が曖昧になって闘うことに楽しみを見い出せなくなってることにさっき気づいた」
レナは自分が指摘したことをこの短時間でコウマが解釈したのだと話を聞き続けた
「だから聞きたいんだ 悪人って何なのか」
レナは「ふーん」と頷きながら鋭く指を差した
「"信念"が揺らいでるってことね!」
「は?質問の答えになってな…」
「悪人ってなんなのかは私も分かんないけどそういう"信念"がアンタにあるんならその答えは多分、頭の中にあると思う
その"信念"を抱いたきっかけ?みたいなのがその質問の答えなんじゃない?」
きっかけ、、そんなのただの子供向け特撮番組だし、その悪人は一般人を攻撃して痛い目にあわせてた…でも、母親は悪人である父親を殺しただけ、、それで悪人になるのか、、
そんな思考をしているとレナが急接近して拳を打ってきた
「……!」
その拳を両腕で受け止める
しかし、止まることのない攻撃にコウマの対処はギリギリ追いつく
「もし、アンタにその信念に基づいて行動したことがあるならそれは正しい行為だと私は思う」
「なに?」
「じゃあ聞く!!アンタはその信念が間違いだと思ったことはある!!?」
「そんなことはない!」
レナの攻撃の速度が増しコウマの対応が遅れてくる
「私も間違ってないと思う!だから!!」
「ガハッ…!」
首に左脚の蹴りが直撃する
「その行為は!アンタにとって正解だよ!例え周りから虐げられるものだったとしても!アンタの信念に則ればそれは間違いじゃない!」
右拳がコウマの顎を打ち上げる
「そこに迷いが生じてるなら!アンタはその信念を一生、果たすことなんてできない!」
「……!」
右足のミドルキックがコウマの腹を蹴り飛ばした
「ドハッ…!」
レナの得意技と強い思いを食らった揺らぐ少年は自身の迷いに呆れたような表情で口角を上げた
「フッ…ハハハハッw!」
確かに、、そんなことで信念がわかんなくなってるようじゃ、Я失格だな…
そして、その身体は場外に倒れていた
「完全はいぼ~く、、でも、楽しかった~」
レナはコウマの本当に嬉しそうな表情を見てため息をついた
「なんだ…普通に笑えんじゃん」
暗かった瞳は輝きを持ち、少年は迷いを払って笑顔を取り戻した
「キヤマさんの勝利!!」
ヒイマの腕が振り下ろされ、少年隊のリーダーを決める試合が幕を閉じた
アサミは、一瞬の躊躇のあと彼女の手を取って立ち上がった
「私の最初の発言 撤回するわ」
セツナは弱いと罵った言葉を先程の彼女の行動を見てなんて無様なことを言ったのだと反省しているようだ
「あー 気にしないで! それより…」
セツナはアサミの肩を強く掴んだ
「あとでちゃんと話してね」
その一言を残してセツナは場外に捌けて行く
アサミはその姿に悠長な人だと思いながら反対方向に下がった
セツナが線を跨ぐと同時にレナが反対から跨いだ
「セツナちゃんおつかれ あとは任せて」
コクリと頷くのみで返した友達の向こうで陽気な少年が体慣らしがてら跳ねながら入場してきた
「やっとバトルだぁ!」
その無邪気な姿にレナは裏腹に疑念を抱く
コウマくん…ゴウが試験のときに手足が出なくて、イチゴちゃんたちとシバキ班長を倒した
真剣な表情と笑顔が向かい合うと、試合の火蓋が切られた
「はじめ!!」
その瞬間、コウマはレナの懐に現れた
「……!」
レナは咄嗟に打ち上げられそうな拳から身を守るため腕を交差させたが、次の瞬間にはコウマの姿はなかった
「え…… ゴォンッ!!
突如、背中に鈍い痛みが走った
「おそい…」
いつの間にか背後に回ったコウマが拳を背に打ち込み、怯んだレナに回し蹴りで追い討ちする
二連撃もレナの背を捕らえる
レナはあえて前転し相手から距離をとる
「ふぅ~……」
痛みも去ることながら相手を注視する
またしても、コウマは突進してきた
背後を取られると判断したレナは身を翻し背後に拳を撃つが、コウマはレナの伸びきった腕に手を置いて土台とし跳ね上がり、踵に力をつけて降下する その踵落としはレナの左肩に蹴り落とされる
勢いでレナは背中から床に倒れ、コウマは床に着いた衝撃を利用して距離をとった
仰向けに倒れているレナを見てコウマはため息をついた
「つまんなぁ~」
言いながら手を後頭につけて身を左右に揺らす
その悠長な姿にレナは笑って起き上がった
「ほんとに?」
ブシャッ!!
「……!?」
コウマの鼻から血が吹き出した
翻しで撃った拳は僅かにコウマを捉えていたのだ
レナは痛めた肩を叩いて慣らしながら立ち上がる
「実は、強さいっしょだったりして」
「へぇ~ 面白いじゃん」
一撃を喰らい合った2人は相手に敬意と狂気を払って笑う
2人はお互いの正面に駆け出し、拳をうちつけあった
すると、レナは瞬時に拳を離し宙に跳ぶ
「……!?」
コウマが驚いていると場外にいるセツナが「うわっ」と声をこぼす
レナの左脚がコウマの頭部目掛けて振り蹴られ
る
「脚!」
コウマは辛うじて腕で防御するも強い衝撃で体が揺らぐ
「重っも…!」
その隙に着地したレナは右拳を強く握り、無防備な相手の顎を殴り上げる
「拳!!」
「ブッ……!」
コウマの足が床から離れる
浮いた体、無防備な胴体、そこに撃ち込まれる重圧をコウマは初めて知る
「脚!!!」
浮いた腹に右足のミドルキックが吸い込まれるとコウマは吹き飛び、床に転がる
それを見たセツナが目を見開いて若干、恐怖する
「なんか、前より威力上がってない、、?」
隣にいたトワカがその疑問に無返事で答える
「4月の修行期間、彼女はキドウ副班長の元でとても辛い激務に努めていたと聴いております」
「それ、ってなに、、」
「岩を砕く修行ですわ」
「は、へ、え?」
もう時代を何一つ感じさせない内容に戸惑う
「課せられた課題はただ1つ、1ヶ月以内にキドウ副班長が持参した大岩を砕くこと なお生身で」
「そりゃ、筋肉とか骨とか鍛えられそうやな」
セツナが反応する前にハヤテが返した
ハヤテはその内容にとても興味を誘われたからである
身体強化訓練…みたいな感じか、、それをやれば少しは俺の足も壊れにくくなるんちゃうか、
ハヤテの素早い蹴りは足の筋肉を疲弊させる
それは筋肉が速度と威力に耐えきれていないからだと推測し筋肉のシンプルな強化こそ自分に今、必要なものではないかと確信しているのだ
その視線の先でコウマは飛び起きた
「うっひょーー! 強いねーーキミ!!」
痛そうな気配はひとつもなく、さらに好奇心が増したように見える
「そこまでピンピンしてると流石に引く、、」
「え?なんで?今からでしょ!」
床を蹴飛ばして飛び上がったコウマの右足がレナの左肩を捉える
「楽しいのは!!」
それを踏み台にしてさらに高く上がり、急降下で降り落ちる
「ライダーーーー!キーーーック!!」
腹に落とした足はレナを背中から倒れさせ目を眩ませる
「ウエッ……!!」
倒れたレナの体に座り込み足を相手の腰に巻いて拳を握る
「フルボッコターッイム!!」
「……!」
ボコッボコッボコッボコッ!!
周囲から見ればリンチの絵面だが行っている本人は楽しそうに拳を何度も打ち付ける
「どうしたーー?反撃する気がないのかな!」
その調子に乗った発言の直後、拳を左手で掴みまれ止められる
「おっと?」
「一撃一撃が弱々しくて痛くねんだよガキが!」
裏拳で殴り飛ばされたコウマが倒れたレナから離れる
「こちとら鍛えたのは拳だけじゃないんだよ!」
立ち上がったレナとコウマが再び向かい合う
「はっはっー!いいねやっぱキミ!!レナって言ったっけ?強いねーー!楽しいよ!!」
「私も楽しい けど、、」
息を整えて言葉を続ける
「なんでそんな怖い笑顔なの」
輝きのない褪せたような黄色の瞳とは対になる浮ついた口元
笑顔には見えない笑顔をレナは不気味に思う
「えぇ?そうかな? 顔はどうあれ心は楽しんでるよ」
「いいえ それはあなたがそう思いたいだけのように聴こえる」
「はぁ?何言ってるの?」
「本当は闘うことを恐れてる…」
勢いよく少年を指差す
「私にはそう見える」
核心突かれたように狼狽えるコウマの不気味な笑顔が失せた
「そっか、そう思うならもういいよ」
床を蹴った音が武道場内に大きく轟くと宙に浮いたコウマの右脚がレナの目前に迫っていた
「……!」
ゴォン!!
レナが蹴飛ばされ、場外寸前で踏みとどまる
しかし、前方にコウマの姿はない
彼は瞬間にしてレナの背後に回りこみ再びレナの後頭部を蹴り飛ばした
今度は正面に向き直し相手を視界に捉えるが直線的な飛び蹴りが迫る
「……ッ!」
レナは両腕でそれを受け止めたが、コウマはそれを踏み台として宙に浮き、足を相手の首に巻きつける
「死ね」
振り下ろされた拳がレナの頭上部に撃たれた
激しい痛みと視界の歪みが同時に生じ意識が朦朧とする
前かがみに倒れていくレナから浮き離れるコウマは冷たい目でその様子を見ながら終わりを確信していた
その時、優しく穏やかな女性の声がコウマに囁いた
『コウくんかっこいー!』
それに惑っていたコウマは一瞬、床に棒立ちしていた
「ナメんな!!」
レナの大振りした拳がコウマの横顎をを殴り打った
視界が揺らぐ、意識が薄れる
ーーーーー過去に導かれる
「ママ!!僕、大きくなったら悪い人を懲らしめるライダーになる!!」
そう言って突き出した玩具の剣が光る
隣に正座する母親が両手を叩く
「コウくんかっこいー! じゃあママもコウくんライダーに守ってもらおー!」
「うん!絶対にママを守る!!」
「うれしーー!!」
にこやかな笑顔だ
今となれば子供の戯言なのに本当に楽しそうだった
でも、、
真っ暗な部屋の床にこびりついた血液と散乱した食器、泣き崩れて何かを呟きながらうずくまるお母さんの横にある、、
ーーーーーーーー知らない男の人の死体
ランドセルを床に落とした
「ま、、、マ?」
俺がお母さんに近づいていくと徐々に何を言っているのかがわかってきた
「そうよ、、夫が悪いのよ、、勝手に出ていって、、自己破産したから金が欲しいとか……!!」
どうやら死んだのは俺の父親らしかったが、目の前の状況にさえ理解に追いついていない当時の俺は心配で母親に手を伸ばした
「大丈夫…?」
パンッ!
振り向いた母親に手を打ち払われた
「こ、コウくん…」
やっと俺の存在に気づいた母親が涙を流しながら謝罪し俺を抱きしめた
「ごめんなさい!!こんなの見せちゃって!お母さん悪いことしちゃった…!でも、、この人も悪い人なの…!だから許してぇ!」
何を言ってるのかよく分からず呆然とすることしかできなかった
「逃げよう、コウくん…この家も何もかも捨てて」
そこで母親は床に膝を落とした
体重で俺も床に座り落ちた
その時、俺の手に割れたコップの底の破片に触れた
「じゃあママは、、悪い人ってことだよね」
「え、、」
グサッ…
鋭利な破片を母親の首に突き刺した
「悪い人はやっつけなきゃ…でしょ?」
吐血して倒れた母親にそう言って俺は立ち上がった
俺は守ってみせると宣言した人を殺した
俺は悪い人を懲らしめるために強くなりたかった
そのためにЯ に拾われてから強い人との闘いを求め楽しんでいたつもりだったのに
「本当は闘うことを恐れてる…」
自覚はなかった
でも、今、あの時を思い出してから分かった
俺はあの時から強くなった先に何があるのか想像を止めてしまっていたんだ
悪人とはなんなのか、それが曖昧になっている
都合よく戻ってきた父親はきっと悪人には違いないのだろう、でも、それを殺した母親は悪人なのか、そして、そのことを隠して逃げようとした母親を殺した俺は悪人なのか、、
後ろに倒れかけたコウマだったがなんたか意識を取り戻し、バク転しながらレナから距離を離した
当たり場所が良くなかったか…
自身の攻撃が致命的にならなかったことを体力的に後悔している
頭を上げたコウマの目に涙が潤み流れ落ちた
「え、、」
レナも唖然とし体が硬直する
「なに、、」
コウマは自分が泣いていることにことに気づいていない様子でそのまま相手の質問に質問で返した
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「え、ちょ、急になに」
突然、解のわからない問いを示され戸惑いを隠せない
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「ちっちゃい頃から悪い人を懲らしめたくて強くなりと思ってた そのために強い人と闘って楽しんでるつもりだった
でも、悪人の意味が曖昧になって闘うことに楽しみを見い出せなくなってることにさっき気づいた」
レナは自分が指摘したことをこの短時間でコウマが解釈したのだと話を聞き続けた
「だから聞きたいんだ 悪人って何なのか」
レナは「ふーん」と頷きながら鋭く指を差した
「"信念"が揺らいでるってことね!」
「は?質問の答えになってな…」
「悪人ってなんなのかは私も分かんないけどそういう"信念"がアンタにあるんならその答えは多分、頭の中にあると思う
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きっかけ、、そんなのただの子供向け特撮番組だし、その悪人は一般人を攻撃して痛い目にあわせてた…でも、母親は悪人である父親を殺しただけ、、それで悪人になるのか、、
そんな思考をしているとレナが急接近して拳を打ってきた
「……!」
その拳を両腕で受け止める
しかし、止まることのない攻撃にコウマの対処はギリギリ追いつく
「もし、アンタにその信念に基づいて行動したことがあるならそれは正しい行為だと私は思う」
「なに?」
「じゃあ聞く!!アンタはその信念が間違いだと思ったことはある!!?」
「そんなことはない!」
レナの攻撃の速度が増しコウマの対応が遅れてくる
「私も間違ってないと思う!だから!!」
「ガハッ…!」
首に左脚の蹴りが直撃する
「その行為は!アンタにとって正解だよ!例え周りから虐げられるものだったとしても!アンタの信念に則ればそれは間違いじゃない!」
右拳がコウマの顎を打ち上げる
「そこに迷いが生じてるなら!アンタはその信念を一生、果たすことなんてできない!」
「……!」
右足のミドルキックがコウマの腹を蹴り飛ばした
「ドハッ…!」
レナの得意技と強い思いを食らった揺らぐ少年は自身の迷いに呆れたような表情で口角を上げた
「フッ…ハハハハッw!」
確かに、、そんなことで信念がわかんなくなってるようじゃ、Я失格だな…
そして、その身体は場外に倒れていた
「完全はいぼ~く、、でも、楽しかった~」
レナはコウマの本当に嬉しそうな表情を見てため息をついた
「なんだ…普通に笑えんじゃん」
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