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第2話 彼女との別れ、そして再会
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ホグース村は今日も穏やかだった。
初めて会ってからクレアとは顔を合わせない日はなかった。
彼女とは色々話をした。
でも、所詮は子供の話だったからクレアは何度も首を傾げていた。
「その花ってどんな形をしているの?」
クレアはずっと外に出たことがなかった。
だから、外のことは全く知らないと言ってもいいほどだった。
「じゃあさ、外に出てみようよ。その花がちかくでいっぱい咲いているんだよ」
「でも……」
このやり取りは何度もしている。
それでもクレアは頑なに外に出ようとはしなかった。
「外が怖いの?」
「うん」
こういう時、クレアは決まって悲しそうな顔をする。
いつものようにたくさん話して、帰ろうとすると、珍しく村長さんに声を掛けられた。
「ロダンよ。もう帰るのか?」
「うん。実は父さんに用事を頼まれているのをすっかり忘れていたんだ」
嘘じゃない。
クレアとの話に夢中ですっかり忘れていたんだ。
帰ったら父さんに叱られることを考えると、ここに住んでしまおうかも思ってしまう。
「そうか。ならば手短に話そう。お前は信用が出来そうじゃ。もし、儂になにかあればクレアを……任せてもよいかの?」
意味が分からなかった。
その時は遊び相手になってくれと頼まれているのかと思ったんだ。
「もちろんだよ。クレアとは友達なんだから」
「ほほっ。友達か。よいのぉ。よいか? クレアを守ってやるんじゃぞ。男なら出来るな?」
「よく分からないけど、分かったよ。僕がクレアを守るよ」
村長さんは本当に嬉しそうな顔をして、頭を撫でてきた。
とてもくすぐったかった。
それから数年後。僕とクレアが12歳になった頃。
村長さんは亡くなった。
村長さんの死を村の人に教えたが、誰も葬式をしてくれなかった。
父さんにも言ったけど、関わるなの一点張りだった。
仕方なく、クレアと一緒に村長さんの亡骸を山中に埋めた。
唯一の保護者である村長さんを失ったクレア。
それでも健気に振る舞い、涙を見せることはなかった。
「クレア。これからどうするんだい?」
「分からない。しばらくはあの家に住むつもり」
どうすることも出来なかった。
僕は無力でちっぽけな存在だ。
困った女の子に何もしてやれなかった。
「明日も会いに行くよ」
「うん」
次の日、クレアはいなくなっていた。
次の日も村長さんの家に行くと、もぬけの殻だった。
誰かがいた形跡だけを残し、人だけがいなかった。
これは大変なことになったと思い、村の人にも父さんにもクレアが消えたことを告げた。
だが、帰ってきた答えは皆、同じだった。
クレアなんて娘はこの村にはいない。
この時ほど、この村が怖い場所だと思ったことはなかった。
とにかく、今まで一緒に行った場所やクレアが行きそうな場所は虱潰しに探した。
だが、どこにもいなかった。
もしかしたら、この村を出たのかもしれない……
そうも考えたが、クレアの部屋には全ての私物が残っていた。
「クレア……また、会えるかな?」
誰にも聞こえないような声でそっと呟いた。
彼女のことは一時も忘れたことはなかった。
それから三年の月日が流れていた。
クレアとは未だに会えていない。
僕は15歳になっていた。
15歳はミレーヌ王国では成人として認められ、晴れて大人の仲間入りとなる。
そうなると国から村を出ることを許されるのだが、この村の男子は15歳になると鉱山夫になるというのが決まりごとみたいになっている。
「ロダン。お前も今日から立派な大人だ。明日から鉱山に入ってもらうぞ。気合を入れていけよ!!」
「はい。父さん」
クレアのことが気がかりだったが、炭鉱夫になることに疑いは持っていなかった。
子供の頃からずっと言われ続けていたから……なるのが当たり前だと思っていたんだ。
炭鉱夫になって、村の一員として今までの恩返しが出来たらいいなと思っていた。
成人になった日は村人が総出となってお祝いをしてくれる。とっても誇らしかった。
鉱山長である、この村の村長も声を掛けてくれた。
明日から始まる鉱山での仕事に心を弾ませていると、何かに呼ばれたような気がした。
気のせいだと思っていたが、何か気になる。
それにお祝いは主役をそっちのけで大人たちが飲めや、踊れの騒ぎが始まっていた。
こうなったら朝方まで止むことはない。
初めて飲んだ酒で火照った体を冷ますつもりで皆の輪から外れることにした。
適当な切り株に腰掛け、空を仰いでいた。
「気持ち悪い……吐きそう。こんなに酒に弱かったのか。しばらくは宴に参加しないほうがいいな」
目を瞑りながら、そんな事を呟き、冷たい空気を肌に感じていた。
「そういえば、さっきのは何だったんだろう? 凄く懐かしい感じがしたんだよな……そう、まるでクレアが側にいるかのような……馬鹿馬鹿しいな。クレアは……」
ふいに悲しさが胸にこみ上げてきた。
クレアはもういない。会うこともないだろう。
そう思っていると、天が一瞬陰った。
太陽に雲がかかったのかと思ったが、暗さはずっと続いていた。
違う……ゆっくりと瞼を開いた。
ああ……やっぱり。涙を抑えることが出来なかった。
信じられないことだけど、目の前にいるんだ。
「クレア……君はいたんだね」
「うん。いたよ。ロダンの側にずっといたよ」
覗き込んでいたクレアの顔は少し大人っぽくなっていたけど、すぐに分かったんだ。
声も匂いも……あの時のままだ。
酒の勢いのせいだろうか……僕はクレアに抱きついていた。
初めて感じる感触に戸惑いながらも、クレアを離したら、また消えてしまうんじゃないかって本気で思っていたんだ。
「ロダン。痛いよ」
現実に戻るのに十分な言葉だ。
すぐに自分のやっていることに気づき、謝罪しながら体を離した。
「ごめん。信じられないことが起きると自分でも信じられないようなことをしてしまうものなんだね」
「何を言っているの? ロダン」
本当に何を言っているんだろうな。
でも、この再会は何なのだろう?
成人を迎えた日にクレアと再会する。そんな偶然があるんだろうか?
「クレア……」
「ロダン。お願いがあるの」
クレアのお願いは初めてではない。
初めて外に出た夜に手を繋いで欲しいとお願いをしてきた。
それが初めてのお願いだった。
それからも何度もお願いをしてきた。
その度に同じ答えをしてきた。
クレアの願いなら何だって叶えてやろうと思えたんだ。
「ああ。いいよ。君の願いなら何でも聞くよ」
「いいの? 何も言っていないのに?」
「もちろんだよ。何年も君のお願いを聞いてやれなかったんだ。その分くらいは聞いてやらないとね」
「ありがとうね。ロダンは……ロダンだけは昔から変わらないね」
それは自分だけが変わったという意味だろうか?
僕だってあれから身長も伸びたし、鉱山夫となるために体を鍛えたりして、それなりに男らしくなったつもりだ。
「怒らないで。違うの。私に対しての接し方と言うか……ううん。私も変わらないわ。ロダンに対しては昔から……」
何を言っているんだ?
そんな恥ずかしそうに言われたら、こっちまで恥ずかしくなってくる。
「それで? 願いってなんだい?」
「うん。お願いっていうのは……私とこの村を出てほしいの」
本当に言っている意味が分からなかった。
この村を出るなんて考えたこともなかった。
そんなことしたら……どうなるんだ? 分からない。
「どうして……」
「私ね。待っていたの。ロダンが成人をするのを。それまでずっと待っていたの」
どうしてクレアは泣いているんだ?
待っていた? どういうことだ?
会おうと思えば、いつでも会えたって言うことか?
「分からないよ。クレア。僕は……この村を出ることなんて……」
「さっきはいいよって……言ってくれたじゃない」
確かに言ったけど、そんな願いとは思わなかったんだ。
「僕には出来ないよ。この村を出て、どうするんだい? 僕が鉱山夫になれば、君を養うことだって出来るんだよ」
何を言っているんだ?
まるで……。
しかし、クレアはそんな言葉に何も感情が湧かないようだ。
「私はこの村にいたくないの。この村はいや。何もかも嫌なの。ロダンは私の気持ちが分かってくれていると思ってた」
そんなことを言わないでくれ。
いつだってクレアの事を考えていたさ。
村人のクレアに対して酷いことをしていたのも。
だけど、そんなことはこれから変えられる筈さ。
「クレア。僕を信じて欲しい」
「ダメよ。この村にはいられないの」
こんな止めどないやり取りは最初に会った頃を思い出す。
そう言うときは諦めて帰ったものだけど……今はそれは出来ない。
それに再び、クレアと離れるなんて考えられない。
「分かったよ。だけど、僕は鉱山夫としてこの地に残ることを村の皆に伝えてあるんだ。この村には育ててもらった恩がある。だから村を出ることを皆に伝えたいんだ。それからでもいいかな?」
「……」
不承不承といった感じではあるが、クレアは小さく頷いた。
その反応にホッとするが、これから村のみんなに出ていくことを伝えることの重荷に押しつぶされそうだ。
「クレアは村の外れで待っていて。皆に説明したら、すぐにそっちに向かうから」
「うん。ありがとう。それでね、これを持っていってほしいの」
クレアから差し出されたのは一つの大きめの袋だった。
「これは?」
「それはね、ロダンと私が再び離れないようにするための物よ」
袋を開けようとしたが、何かの力が作用しているのか開けられなかった。
「なんだよ、これ」
「いいから。持っていってね」
なんだかよく分からないものをクレアに託されてしまった。
結構重たいが、持てないほどではない。
まぁ、いいか。
「行ってくるよ。クレア」
「うん。気をつけてね。ロダン」
彼女は見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれた。
「これから父さんたちに言うのか……嫌だな」
皆が宴を繰り広げている広場に向かった。
……そこでは信じられないことが起きていた。
大きな声が辺り一帯から聞こえていた。
宴の楽しい声ではない。それは死から逃げるための声。
兵士のような汚れた鎧を着た者たちが村人を襲っていた。
ギラつく剣で村人が突き刺されているのを見てしまった。
「なんだよ……これ」
村は真っ赤に染まろうとしていた。
初めて会ってからクレアとは顔を合わせない日はなかった。
彼女とは色々話をした。
でも、所詮は子供の話だったからクレアは何度も首を傾げていた。
「その花ってどんな形をしているの?」
クレアはずっと外に出たことがなかった。
だから、外のことは全く知らないと言ってもいいほどだった。
「じゃあさ、外に出てみようよ。その花がちかくでいっぱい咲いているんだよ」
「でも……」
このやり取りは何度もしている。
それでもクレアは頑なに外に出ようとはしなかった。
「外が怖いの?」
「うん」
こういう時、クレアは決まって悲しそうな顔をする。
いつものようにたくさん話して、帰ろうとすると、珍しく村長さんに声を掛けられた。
「ロダンよ。もう帰るのか?」
「うん。実は父さんに用事を頼まれているのをすっかり忘れていたんだ」
嘘じゃない。
クレアとの話に夢中ですっかり忘れていたんだ。
帰ったら父さんに叱られることを考えると、ここに住んでしまおうかも思ってしまう。
「そうか。ならば手短に話そう。お前は信用が出来そうじゃ。もし、儂になにかあればクレアを……任せてもよいかの?」
意味が分からなかった。
その時は遊び相手になってくれと頼まれているのかと思ったんだ。
「もちろんだよ。クレアとは友達なんだから」
「ほほっ。友達か。よいのぉ。よいか? クレアを守ってやるんじゃぞ。男なら出来るな?」
「よく分からないけど、分かったよ。僕がクレアを守るよ」
村長さんは本当に嬉しそうな顔をして、頭を撫でてきた。
とてもくすぐったかった。
それから数年後。僕とクレアが12歳になった頃。
村長さんは亡くなった。
村長さんの死を村の人に教えたが、誰も葬式をしてくれなかった。
父さんにも言ったけど、関わるなの一点張りだった。
仕方なく、クレアと一緒に村長さんの亡骸を山中に埋めた。
唯一の保護者である村長さんを失ったクレア。
それでも健気に振る舞い、涙を見せることはなかった。
「クレア。これからどうするんだい?」
「分からない。しばらくはあの家に住むつもり」
どうすることも出来なかった。
僕は無力でちっぽけな存在だ。
困った女の子に何もしてやれなかった。
「明日も会いに行くよ」
「うん」
次の日、クレアはいなくなっていた。
次の日も村長さんの家に行くと、もぬけの殻だった。
誰かがいた形跡だけを残し、人だけがいなかった。
これは大変なことになったと思い、村の人にも父さんにもクレアが消えたことを告げた。
だが、帰ってきた答えは皆、同じだった。
クレアなんて娘はこの村にはいない。
この時ほど、この村が怖い場所だと思ったことはなかった。
とにかく、今まで一緒に行った場所やクレアが行きそうな場所は虱潰しに探した。
だが、どこにもいなかった。
もしかしたら、この村を出たのかもしれない……
そうも考えたが、クレアの部屋には全ての私物が残っていた。
「クレア……また、会えるかな?」
誰にも聞こえないような声でそっと呟いた。
彼女のことは一時も忘れたことはなかった。
それから三年の月日が流れていた。
クレアとは未だに会えていない。
僕は15歳になっていた。
15歳はミレーヌ王国では成人として認められ、晴れて大人の仲間入りとなる。
そうなると国から村を出ることを許されるのだが、この村の男子は15歳になると鉱山夫になるというのが決まりごとみたいになっている。
「ロダン。お前も今日から立派な大人だ。明日から鉱山に入ってもらうぞ。気合を入れていけよ!!」
「はい。父さん」
クレアのことが気がかりだったが、炭鉱夫になることに疑いは持っていなかった。
子供の頃からずっと言われ続けていたから……なるのが当たり前だと思っていたんだ。
炭鉱夫になって、村の一員として今までの恩返しが出来たらいいなと思っていた。
成人になった日は村人が総出となってお祝いをしてくれる。とっても誇らしかった。
鉱山長である、この村の村長も声を掛けてくれた。
明日から始まる鉱山での仕事に心を弾ませていると、何かに呼ばれたような気がした。
気のせいだと思っていたが、何か気になる。
それにお祝いは主役をそっちのけで大人たちが飲めや、踊れの騒ぎが始まっていた。
こうなったら朝方まで止むことはない。
初めて飲んだ酒で火照った体を冷ますつもりで皆の輪から外れることにした。
適当な切り株に腰掛け、空を仰いでいた。
「気持ち悪い……吐きそう。こんなに酒に弱かったのか。しばらくは宴に参加しないほうがいいな」
目を瞑りながら、そんな事を呟き、冷たい空気を肌に感じていた。
「そういえば、さっきのは何だったんだろう? 凄く懐かしい感じがしたんだよな……そう、まるでクレアが側にいるかのような……馬鹿馬鹿しいな。クレアは……」
ふいに悲しさが胸にこみ上げてきた。
クレアはもういない。会うこともないだろう。
そう思っていると、天が一瞬陰った。
太陽に雲がかかったのかと思ったが、暗さはずっと続いていた。
違う……ゆっくりと瞼を開いた。
ああ……やっぱり。涙を抑えることが出来なかった。
信じられないことだけど、目の前にいるんだ。
「クレア……君はいたんだね」
「うん。いたよ。ロダンの側にずっといたよ」
覗き込んでいたクレアの顔は少し大人っぽくなっていたけど、すぐに分かったんだ。
声も匂いも……あの時のままだ。
酒の勢いのせいだろうか……僕はクレアに抱きついていた。
初めて感じる感触に戸惑いながらも、クレアを離したら、また消えてしまうんじゃないかって本気で思っていたんだ。
「ロダン。痛いよ」
現実に戻るのに十分な言葉だ。
すぐに自分のやっていることに気づき、謝罪しながら体を離した。
「ごめん。信じられないことが起きると自分でも信じられないようなことをしてしまうものなんだね」
「何を言っているの? ロダン」
本当に何を言っているんだろうな。
でも、この再会は何なのだろう?
成人を迎えた日にクレアと再会する。そんな偶然があるんだろうか?
「クレア……」
「ロダン。お願いがあるの」
クレアのお願いは初めてではない。
初めて外に出た夜に手を繋いで欲しいとお願いをしてきた。
それが初めてのお願いだった。
それからも何度もお願いをしてきた。
その度に同じ答えをしてきた。
クレアの願いなら何だって叶えてやろうと思えたんだ。
「ああ。いいよ。君の願いなら何でも聞くよ」
「いいの? 何も言っていないのに?」
「もちろんだよ。何年も君のお願いを聞いてやれなかったんだ。その分くらいは聞いてやらないとね」
「ありがとうね。ロダンは……ロダンだけは昔から変わらないね」
それは自分だけが変わったという意味だろうか?
僕だってあれから身長も伸びたし、鉱山夫となるために体を鍛えたりして、それなりに男らしくなったつもりだ。
「怒らないで。違うの。私に対しての接し方と言うか……ううん。私も変わらないわ。ロダンに対しては昔から……」
何を言っているんだ?
そんな恥ずかしそうに言われたら、こっちまで恥ずかしくなってくる。
「それで? 願いってなんだい?」
「うん。お願いっていうのは……私とこの村を出てほしいの」
本当に言っている意味が分からなかった。
この村を出るなんて考えたこともなかった。
そんなことしたら……どうなるんだ? 分からない。
「どうして……」
「私ね。待っていたの。ロダンが成人をするのを。それまでずっと待っていたの」
どうしてクレアは泣いているんだ?
待っていた? どういうことだ?
会おうと思えば、いつでも会えたって言うことか?
「分からないよ。クレア。僕は……この村を出ることなんて……」
「さっきはいいよって……言ってくれたじゃない」
確かに言ったけど、そんな願いとは思わなかったんだ。
「僕には出来ないよ。この村を出て、どうするんだい? 僕が鉱山夫になれば、君を養うことだって出来るんだよ」
何を言っているんだ?
まるで……。
しかし、クレアはそんな言葉に何も感情が湧かないようだ。
「私はこの村にいたくないの。この村はいや。何もかも嫌なの。ロダンは私の気持ちが分かってくれていると思ってた」
そんなことを言わないでくれ。
いつだってクレアの事を考えていたさ。
村人のクレアに対して酷いことをしていたのも。
だけど、そんなことはこれから変えられる筈さ。
「クレア。僕を信じて欲しい」
「ダメよ。この村にはいられないの」
こんな止めどないやり取りは最初に会った頃を思い出す。
そう言うときは諦めて帰ったものだけど……今はそれは出来ない。
それに再び、クレアと離れるなんて考えられない。
「分かったよ。だけど、僕は鉱山夫としてこの地に残ることを村の皆に伝えてあるんだ。この村には育ててもらった恩がある。だから村を出ることを皆に伝えたいんだ。それからでもいいかな?」
「……」
不承不承といった感じではあるが、クレアは小さく頷いた。
その反応にホッとするが、これから村のみんなに出ていくことを伝えることの重荷に押しつぶされそうだ。
「クレアは村の外れで待っていて。皆に説明したら、すぐにそっちに向かうから」
「うん。ありがとう。それでね、これを持っていってほしいの」
クレアから差し出されたのは一つの大きめの袋だった。
「これは?」
「それはね、ロダンと私が再び離れないようにするための物よ」
袋を開けようとしたが、何かの力が作用しているのか開けられなかった。
「なんだよ、これ」
「いいから。持っていってね」
なんだかよく分からないものをクレアに託されてしまった。
結構重たいが、持てないほどではない。
まぁ、いいか。
「行ってくるよ。クレア」
「うん。気をつけてね。ロダン」
彼女は見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれた。
「これから父さんたちに言うのか……嫌だな」
皆が宴を繰り広げている広場に向かった。
……そこでは信じられないことが起きていた。
大きな声が辺り一帯から聞こえていた。
宴の楽しい声ではない。それは死から逃げるための声。
兵士のような汚れた鎧を着た者たちが村人を襲っていた。
ギラつく剣で村人が突き刺されているのを見てしまった。
「なんだよ……これ」
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