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第3話 きっかけ
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ホグース村の様子はさっきまでと一変していた。
踊りを楽しんでいた大人たちは逃げ惑い、ワインを飲んでいたものは血を流して倒れ込んでいた。
「死ね! 死ね! 死ねぇ!」
辺りに喚き散らしている奴がいた。
広場の中心で逃げ惑う男たちや女子供を剣を振り回し、殺していっている。
とても見るに堪えない光景だ。
しかも、奴は一人ではない。
奴と同じような皮鎧を身にまとった男たちが至るところで残虐行為を繰り返していた。
見知った顔が見たこともないような表情で倒れている。
見たくもない光景に目を背けたくもなるが、残虐行為に目を凝らし人を探す。
「いた。父さんはまだ生きている」
だが、どうする?
相手はどう見ても兵士か冒険者崩れと言った感じだ。
剣の扱いにもなれている様子だし、なによりも人を殺し慣れている。
そんな相手に素手で立ち向かったところで勝ち目なんてあるわけがない。
逃げる?
ダメだ。それだけは。
ここで皆を見殺しになんて出来ない。
守る方法を……助ける方法を考えるんだ。
……まずは武器だ。
といってもこの村は武器を置いていない。
王国が村人たちに武器の所持を許していないからだ。
(鍛冶屋か……)
あそこなら鉄の素材がいくらでも転がっているはずだ。
それなら相手の剣を受け止めることも出来る。それに反撃だって……。
鍛冶屋に足を向けながら、ひたすら考える。
そうだ!!
なぜ、思いつかなかったんだ。
この村から少し離れた所に警備隊の屯所がある。
村々の盗賊などからの護衛と魔獣討伐を主な任務としている王国組織。
そこに助けを呼べば……。
(クレアと一旦合流したほうが良さそうだ)
彼女と合流し、警備隊の屯所に助けを求める……
それが今やれる最善の策のはずだ。
鍛冶屋を目指すのを止め、クレアの待つ、村の入り口に向かおうとした。
「こんなところにガキがいたぜ」
「へっへっへっ。ここの奴らはみんな広場に集まっているって聞いてたんだがな」
(しまった。見つかってしまった)
皮鎧を身に着けた二人の兵士が前後に囲むように立っていた。
二人共、誰の血か分からないけど顔や鎧に大量にこびりついていた。
剣からも乾ききらない血がポタポタと垂れている。
ここは村の入り口に向かう一本道だ。逃げ道は……
「逃さねぇよ! うらっ!」
逃げようと体を翻した瞬間、さっきまで離れていた男が一気に間合いを詰めて、腹部に強烈なケリを入れてきた。
(苦しい)
げほげほと咳ばかりむせ返り、呼吸がうまく出来ない。
立ち上がることも……出来ない。
「おいおいおい。こんなんでお終いか? この村はどうなってやがるんだ? 出てくるやつは雑魚ばかりじゃねぇか。こんな村を俺達で襲撃して、何のつもりなんだ?」
「ペラペラ喋るんじゃねぇ。俺達は傭兵だぜ」
「へっ!! お前だってぺらぺら喋ってんじゃねぇか」
こいつらが喋っている間に呼吸が少しずつ落ち着いていく。
こいつらの隙を突いて、なんとか逃げなければ。
クレアはすぐそこにいるはずだ。
なんとか合流して……
「おい。俺達が悠長に喋っているから、ガキが元気になりそうだぜ」
「お前が喋りだしたからだろ」
「チゲぇねぇな」
こいつらはなんなんだ?
隙が全く出来ない。
喋っているようで、ずっとこちらに注意をしている。
それどころか……
「おまえらは一体何なんだ!! なんで……村の皆を……」
二人の兵士は互いに顔を合わせ、急に片方が笑い始めた。
「おい、聞いたか? この質問、このガキで10人目だ。俺の勝ちだな。」
「くそっ。とっとと、こいつの喉笛を切っておくんだった」
(なにを、いっているんだ?)
「ガキには儲けさせてもらったからな。ちょっとの痛みだけで殺してやるからな」
「ふざけるな。このガキは俺が殺す。こいつのせいで、今回の稼ぎが無くなっちまったんだからな」
こいつらが何を言っているのか、全く分からなかった。
もう考えるのも無駄だ。
こいつらから逃げる方法はない。
体も全く動かない。
兵士が肩を足で押してきた。
仰向けにするためだ。
そうか……このまま、剣で串刺しにされるのか……痛そうだな……ああ、なんでこうなってしまったんだろう。
目を瞑り、その瞬間を待つことにした。
どうせ、生き残ったところで……
(守りたいか?)
なんだ? 誰だ?
(守りたいか?)
……村長さん?
ごめんなさい。クレアを守ってはやれなかった。
僕はこのまま死ぬんだから。
(守りたいか?)
うるさい!!
もう無理なんだ。
僕には何の力もないんだ。
守る力なんて……子供の頃から何も持っていない。
(守りたいか?)
もう黙ってくれ! 頼むから……
(……)
……守りたいよ。守れるなら……守りたい。
でも、どうやって……
(その答えは……)
ふいにいつまでも訪れない痛みに不審を思い、見たくもない現実に少し見開いた。
「なんだ、こいつは」
「魔獣だ。ちいせぇが、魔獣だ。なんだって、こんなところに」
犬? 違う。犬の額に角なんて生えていない。
灰色の毛並みに獰猛な牙を持った……小さな魔獣。
それが二人の兵士に噛みつき、相手を動揺させていた。
「くそっ!! こんなちいせぇ魔獣に翻弄されるな!」
「ああっ!! そうだな。おいっ! 魔獣の足を止めておけよ。俺がとどめを刺す」
二人の連携は見事だった。
さっきまで翻弄されていた様に見えたが、すぐに態勢を整え、小さな魔獣を追い詰めていく。
(なんで、魔獣が?)
この村に魔獣が出たことはない。
南の高い山が魔獣の侵入を拒んでくれているおかげだ。
ふと、違和感を感じた。
そう……袋が無くなっているのだ。
クレアから託された袋。
辺りを見渡すと……
(あった!)
魔獣のすぐ近くにその袋が落ちていたのだ。
(まさか、あの袋に魔獣が?)
クレアは一体、何を持たせたんだ?
でも、助かった。この隙に……
「ダメだぜ。この村の全員を殺すように言われているからな」
(早い)
小さい魔獣はとどめを刺されたのか、ピクリとも動かなかった。
「いろいろあったが、おさらばだ。ガキ」
もうダメか……
相手の動きが随分とゆっくりと感じる。
剣先がゆっくりとこちらに向かってくる。
このまま、串刺しになるんだろうな……。
(ごめんよ。村長さん。やっぱり、力がなかったみたいだ。)
そう思った瞬間、兵士が消え、空が見えた。
そうじゃない。押し出されたんだ。誰かに……
「クレア!!」
信じられない……見たくもない……
クレアに剣が深々と体に刺さっている姿なんて……
「なんで……そんあ……」
下卑た笑みを浮かべた兵士はクレアから剣を引き抜いた。
クレアは体をゆっくりと地面に崩れていく。
這いつくばりながら、なんとかクレアに近づく。
「だめだ……クレア」
「ロダン。また会えたね。あの子のおかげね」
「何言って……違う。村の外れで会うはずだったんだ。そしたら、一緒に村を出て、旅をするはずだったんだ。こんなところで再会なんて……」
「大丈夫よ。私は強いんだから。力をもらったんだよ。ロダンを守れるくらい……」
クレアの体の中心から血が吹き出すように流れていた。
「違うんだ。守るのは僕のはずだったんだ。僕が君を……」
「ありがとう。ロダンがいたから、私は今まで生きてこれたのよ。だから泣かないで。私はずっとあなたと一緒に……」
咄嗟に手を握り、クレアに精一杯の声を掛ける。
しかし、彼女から言葉が出てくることはなかった。
「おまえらさえ……おまえらさえ、いなければ……」
「終わったかい? なかなか感動的な終わり方だったな。まぁ、俺達も鬼ってわけじゃねぇ。すぐに殺して、その娘の後を追わせてやるぜ」
「ふざけるなぁ!」
僕はひたすら兵士に殴りつけた。
しかし、相手に届くことはなかった。
再び、右手で相手を殴りつけようとした時、激痛が右腕に伝わってきた。
「腕が……」
「うざってぇな。殺してやるっていってんだから、抵抗するんじゃねぇ」
右の肘から先が無くなっていた。
涙がこぼれ落ちてきた。
痛いからではない。
クレアの仇すら討てない、自分の無力さに。
「そろそろ、終わりにするか。さっさと次に移らねぇと頭にどやされちまう」
「そうだな」
悔しい……クレアを守れなかった……。
(守りたいか?)
また、あんたか。見ての通りだよ。守るべきクレアも……。
クレアが……少し動いた?
ああ、クレアはまだ生きている。そうだ……生きている。
(守りたいか?)
ああ。もちろんだ。守りたい。
守らなければならないんだ!!
(ならば、おまえにやろう。神の力を……その右手で守ってみせよ)
右手はさっき切られてしまったよ。村長さん。
(嘘、だろ?)
斬られたはずの右腕が元に戻っていた。
どうなっているんだ?
「死ねぇ!」
僕の意思とは無関係に兵士は剣を振るってきた。
咄嗟に右手で剣を受けてしまった。
痛みを想像して、つい目を背けてしまった。
激痛が……やってこない?
「う、うぎゃあああ。手が……俺の手が!!」
兵士が右腕をかばいながら、喚いていた。
僕の右手は何の異常もない。
(どういうことだ?)
「て、てめぇ。なにしやがった」
(僕が聞きたいくらいだ。だけど……)
分かるんだ。右手が教えてくれる。
こいつの使い方を……。
すかさず、相手に近づく。
兵士たちは動揺しながらも、圧倒していた僕相手に怯む必要はない。
不意の一撃だけは警戒しているようだが。
身構える兵士。
僕は身構えることもなく、相手に近づく。
その様子に相手も対応に困っているようだった。
手が届くような距離に近づき、右手で相手の胸に手を置いた。
「なんだ? ぎょええ。お、俺の体がぁ」
胸を中心に塵になっていく。
ゆっくりと消えていく。
相手がまだ反撃してくるかも知れない。
近くに落ちている剣を拾い、すかさず剣を薙ぎ払った。
剣が優れているのか。
それとも剣の才があるのか分からないが、兵士の首をいとも簡単に斬ってしまった。
斬られた兵士の頭は森の中に飛んでいった。
もう一人はその状況にすぐに逃げの判断をする。
仲間に伝えるつもりなのだろうか。
そうはさせない。
相手の後ろをすぐに追う。
相手は動揺しているせいか、スピードが出ていない。
これなら追いつける。
「消滅……」
右手を相手の背に当て、言葉を呟いた。
「や、やめてくれぇぇぇぇ」
兵士の言葉は虚しく響き、塵となって消滅した。
踊りを楽しんでいた大人たちは逃げ惑い、ワインを飲んでいたものは血を流して倒れ込んでいた。
「死ね! 死ね! 死ねぇ!」
辺りに喚き散らしている奴がいた。
広場の中心で逃げ惑う男たちや女子供を剣を振り回し、殺していっている。
とても見るに堪えない光景だ。
しかも、奴は一人ではない。
奴と同じような皮鎧を身にまとった男たちが至るところで残虐行為を繰り返していた。
見知った顔が見たこともないような表情で倒れている。
見たくもない光景に目を背けたくもなるが、残虐行為に目を凝らし人を探す。
「いた。父さんはまだ生きている」
だが、どうする?
相手はどう見ても兵士か冒険者崩れと言った感じだ。
剣の扱いにもなれている様子だし、なによりも人を殺し慣れている。
そんな相手に素手で立ち向かったところで勝ち目なんてあるわけがない。
逃げる?
ダメだ。それだけは。
ここで皆を見殺しになんて出来ない。
守る方法を……助ける方法を考えるんだ。
……まずは武器だ。
といってもこの村は武器を置いていない。
王国が村人たちに武器の所持を許していないからだ。
(鍛冶屋か……)
あそこなら鉄の素材がいくらでも転がっているはずだ。
それなら相手の剣を受け止めることも出来る。それに反撃だって……。
鍛冶屋に足を向けながら、ひたすら考える。
そうだ!!
なぜ、思いつかなかったんだ。
この村から少し離れた所に警備隊の屯所がある。
村々の盗賊などからの護衛と魔獣討伐を主な任務としている王国組織。
そこに助けを呼べば……。
(クレアと一旦合流したほうが良さそうだ)
彼女と合流し、警備隊の屯所に助けを求める……
それが今やれる最善の策のはずだ。
鍛冶屋を目指すのを止め、クレアの待つ、村の入り口に向かおうとした。
「こんなところにガキがいたぜ」
「へっへっへっ。ここの奴らはみんな広場に集まっているって聞いてたんだがな」
(しまった。見つかってしまった)
皮鎧を身に着けた二人の兵士が前後に囲むように立っていた。
二人共、誰の血か分からないけど顔や鎧に大量にこびりついていた。
剣からも乾ききらない血がポタポタと垂れている。
ここは村の入り口に向かう一本道だ。逃げ道は……
「逃さねぇよ! うらっ!」
逃げようと体を翻した瞬間、さっきまで離れていた男が一気に間合いを詰めて、腹部に強烈なケリを入れてきた。
(苦しい)
げほげほと咳ばかりむせ返り、呼吸がうまく出来ない。
立ち上がることも……出来ない。
「おいおいおい。こんなんでお終いか? この村はどうなってやがるんだ? 出てくるやつは雑魚ばかりじゃねぇか。こんな村を俺達で襲撃して、何のつもりなんだ?」
「ペラペラ喋るんじゃねぇ。俺達は傭兵だぜ」
「へっ!! お前だってぺらぺら喋ってんじゃねぇか」
こいつらが喋っている間に呼吸が少しずつ落ち着いていく。
こいつらの隙を突いて、なんとか逃げなければ。
クレアはすぐそこにいるはずだ。
なんとか合流して……
「おい。俺達が悠長に喋っているから、ガキが元気になりそうだぜ」
「お前が喋りだしたからだろ」
「チゲぇねぇな」
こいつらはなんなんだ?
隙が全く出来ない。
喋っているようで、ずっとこちらに注意をしている。
それどころか……
「おまえらは一体何なんだ!! なんで……村の皆を……」
二人の兵士は互いに顔を合わせ、急に片方が笑い始めた。
「おい、聞いたか? この質問、このガキで10人目だ。俺の勝ちだな。」
「くそっ。とっとと、こいつの喉笛を切っておくんだった」
(なにを、いっているんだ?)
「ガキには儲けさせてもらったからな。ちょっとの痛みだけで殺してやるからな」
「ふざけるな。このガキは俺が殺す。こいつのせいで、今回の稼ぎが無くなっちまったんだからな」
こいつらが何を言っているのか、全く分からなかった。
もう考えるのも無駄だ。
こいつらから逃げる方法はない。
体も全く動かない。
兵士が肩を足で押してきた。
仰向けにするためだ。
そうか……このまま、剣で串刺しにされるのか……痛そうだな……ああ、なんでこうなってしまったんだろう。
目を瞑り、その瞬間を待つことにした。
どうせ、生き残ったところで……
(守りたいか?)
なんだ? 誰だ?
(守りたいか?)
……村長さん?
ごめんなさい。クレアを守ってはやれなかった。
僕はこのまま死ぬんだから。
(守りたいか?)
うるさい!!
もう無理なんだ。
僕には何の力もないんだ。
守る力なんて……子供の頃から何も持っていない。
(守りたいか?)
もう黙ってくれ! 頼むから……
(……)
……守りたいよ。守れるなら……守りたい。
でも、どうやって……
(その答えは……)
ふいにいつまでも訪れない痛みに不審を思い、見たくもない現実に少し見開いた。
「なんだ、こいつは」
「魔獣だ。ちいせぇが、魔獣だ。なんだって、こんなところに」
犬? 違う。犬の額に角なんて生えていない。
灰色の毛並みに獰猛な牙を持った……小さな魔獣。
それが二人の兵士に噛みつき、相手を動揺させていた。
「くそっ!! こんなちいせぇ魔獣に翻弄されるな!」
「ああっ!! そうだな。おいっ! 魔獣の足を止めておけよ。俺がとどめを刺す」
二人の連携は見事だった。
さっきまで翻弄されていた様に見えたが、すぐに態勢を整え、小さな魔獣を追い詰めていく。
(なんで、魔獣が?)
この村に魔獣が出たことはない。
南の高い山が魔獣の侵入を拒んでくれているおかげだ。
ふと、違和感を感じた。
そう……袋が無くなっているのだ。
クレアから託された袋。
辺りを見渡すと……
(あった!)
魔獣のすぐ近くにその袋が落ちていたのだ。
(まさか、あの袋に魔獣が?)
クレアは一体、何を持たせたんだ?
でも、助かった。この隙に……
「ダメだぜ。この村の全員を殺すように言われているからな」
(早い)
小さい魔獣はとどめを刺されたのか、ピクリとも動かなかった。
「いろいろあったが、おさらばだ。ガキ」
もうダメか……
相手の動きが随分とゆっくりと感じる。
剣先がゆっくりとこちらに向かってくる。
このまま、串刺しになるんだろうな……。
(ごめんよ。村長さん。やっぱり、力がなかったみたいだ。)
そう思った瞬間、兵士が消え、空が見えた。
そうじゃない。押し出されたんだ。誰かに……
「クレア!!」
信じられない……見たくもない……
クレアに剣が深々と体に刺さっている姿なんて……
「なんで……そんあ……」
下卑た笑みを浮かべた兵士はクレアから剣を引き抜いた。
クレアは体をゆっくりと地面に崩れていく。
這いつくばりながら、なんとかクレアに近づく。
「だめだ……クレア」
「ロダン。また会えたね。あの子のおかげね」
「何言って……違う。村の外れで会うはずだったんだ。そしたら、一緒に村を出て、旅をするはずだったんだ。こんなところで再会なんて……」
「大丈夫よ。私は強いんだから。力をもらったんだよ。ロダンを守れるくらい……」
クレアの体の中心から血が吹き出すように流れていた。
「違うんだ。守るのは僕のはずだったんだ。僕が君を……」
「ありがとう。ロダンがいたから、私は今まで生きてこれたのよ。だから泣かないで。私はずっとあなたと一緒に……」
咄嗟に手を握り、クレアに精一杯の声を掛ける。
しかし、彼女から言葉が出てくることはなかった。
「おまえらさえ……おまえらさえ、いなければ……」
「終わったかい? なかなか感動的な終わり方だったな。まぁ、俺達も鬼ってわけじゃねぇ。すぐに殺して、その娘の後を追わせてやるぜ」
「ふざけるなぁ!」
僕はひたすら兵士に殴りつけた。
しかし、相手に届くことはなかった。
再び、右手で相手を殴りつけようとした時、激痛が右腕に伝わってきた。
「腕が……」
「うざってぇな。殺してやるっていってんだから、抵抗するんじゃねぇ」
右の肘から先が無くなっていた。
涙がこぼれ落ちてきた。
痛いからではない。
クレアの仇すら討てない、自分の無力さに。
「そろそろ、終わりにするか。さっさと次に移らねぇと頭にどやされちまう」
「そうだな」
悔しい……クレアを守れなかった……。
(守りたいか?)
また、あんたか。見ての通りだよ。守るべきクレアも……。
クレアが……少し動いた?
ああ、クレアはまだ生きている。そうだ……生きている。
(守りたいか?)
ああ。もちろんだ。守りたい。
守らなければならないんだ!!
(ならば、おまえにやろう。神の力を……その右手で守ってみせよ)
右手はさっき切られてしまったよ。村長さん。
(嘘、だろ?)
斬られたはずの右腕が元に戻っていた。
どうなっているんだ?
「死ねぇ!」
僕の意思とは無関係に兵士は剣を振るってきた。
咄嗟に右手で剣を受けてしまった。
痛みを想像して、つい目を背けてしまった。
激痛が……やってこない?
「う、うぎゃあああ。手が……俺の手が!!」
兵士が右腕をかばいながら、喚いていた。
僕の右手は何の異常もない。
(どういうことだ?)
「て、てめぇ。なにしやがった」
(僕が聞きたいくらいだ。だけど……)
分かるんだ。右手が教えてくれる。
こいつの使い方を……。
すかさず、相手に近づく。
兵士たちは動揺しながらも、圧倒していた僕相手に怯む必要はない。
不意の一撃だけは警戒しているようだが。
身構える兵士。
僕は身構えることもなく、相手に近づく。
その様子に相手も対応に困っているようだった。
手が届くような距離に近づき、右手で相手の胸に手を置いた。
「なんだ? ぎょええ。お、俺の体がぁ」
胸を中心に塵になっていく。
ゆっくりと消えていく。
相手がまだ反撃してくるかも知れない。
近くに落ちている剣を拾い、すかさず剣を薙ぎ払った。
剣が優れているのか。
それとも剣の才があるのか分からないが、兵士の首をいとも簡単に斬ってしまった。
斬られた兵士の頭は森の中に飛んでいった。
もう一人はその状況にすぐに逃げの判断をする。
仲間に伝えるつもりなのだろうか。
そうはさせない。
相手の後ろをすぐに追う。
相手は動揺しているせいか、スピードが出ていない。
これなら追いつける。
「消滅……」
右手を相手の背に当て、言葉を呟いた。
「や、やめてくれぇぇぇぇ」
兵士の言葉は虚しく響き、塵となって消滅した。
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