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第4話 盗賊との戦い
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手に残った感触は……何もなかった。
さっきまで騒がしくしていた兵士たちもいない。
風の音だけが妙に聞こえてくる。
(そうだ。クレア!)
少し離れたところで横たわるクレア。
辺りが血の池となっていて、とても生きているようには思えない。
だけど……
(そう、さっきは動いたんだ。だから、きっと……)
淡い期待と受け止められそうにない現実に板挟みされ、近寄ることを躊躇してしまう。
(動け……ちょっとでもいいから……動いてくれ)
一歩々々近づき、ついにクレアの側にたどり着いてしまった。
「クレア」
声を掛けても一切反応がない。見たくない……
息は……していない。
顔はまるで寝ているようなのに……。
どうして……こうなったんだ!!
「クレア! 頼むから……目を開けてくれ!! お願いだ」
体を揺さぶっても反応は変わらなかった。
「やっと……クレアを守れる力を手に入れたんだ……それなのに……これからだったんだ。君との旅は」
涙が溢れ出し、クレアの体にポロポロとこぼれていく。
「なあ。まだ……大丈夫だよな? 医者を連れてくるよ。だから……それまで……な? 耐えてくれるだろ?」
何を言っているんだろう。
クレアは……もう……
(違うんだ。クレアは今だけこの状態なんだ……)
村に戻って、皆を助ける。
それで医者を……ここに連れてくる。
簡単なことだ。
右手を見つめる。
知らずに宿った不思議な力。その感触を右手に感じる。
やれるんだ……。
「手を貸してくれるか?」
右手に話しかけるなんて馬鹿馬鹿しかったが、頼れるのは、この右手だけだ。
「待っててくれよ……クレア」
絶望的な事実を考えないようにして、村の広場に向かって足を進めた。
正直に言って、体が重い。
さっきの二人との戦いだけでも疲労困憊だ。
もうすぐにでも眠りたい。
それに右腕を切り落とされた時に出た出血のせいで、ひどく頭が痛い。
それでも……
「クレアが待っているんだ」
自分を奮い立たせて、これから立ち向かう大勢の敵に牙を向ける。
……酷い。
広場はさっき見た時よりも見るに耐えない有様だった。
あれからまだいくらも時間が経っていないはずなのに。
広場に近づく僕に最初に気付いたのは、執拗に男を殴っていた兵士だった。
殴るのも飽きて、少し息をつく瞬間に僕を見つけた。
「お? まだ、元気なやつが……」
「……消滅」
兵士は右手に触れられた場所から塵となって消えていく。
叫び声を上げられたくなかったから、顔を触ったのは正解だったようだ。
足元にはどれだけ殴られたのかわからないほど、顔をぐちゃぐちゃにされた仲間が転がっていた。
「……誰だかわからないけど、もう安心しろ。僕がなんとか、する」
ひゅーひゅーと歪な呼吸音だけが聞こえてきた。
返事をしてくれているのか、呼吸をするのが精一杯なのか分からないけど……。
次の標的に向かった。
広場にはおそらく敵の全員がいるはずだ。
歩きながら、目を配ると全員で十人であることが分かった。
兵士たちはそれぞれが別の場所にいて、仲間たちを……殺そうとしている。
本当に見たくもない光景だ。
だけど、ただ一人を探さなければならない。
医者だ……とにかく医者を見つけなければ。
他には目もくれず、医者を探す。
(良かった。医者は無事だった)
医者はこの有様の中、大木に身を寄せてガタガタと震えているだけだった。
「おい。無事だったか?」
「ひ、ひいい」
医者は見知っている僕を見ても、恐怖の色を変えない。
「大丈夫か?」
「う、うしろ!!」
背後に敵が迫っている恐怖が体を襲い、咄嗟に前に飛び転がった。
この判断は正しかったようだ。
転がり、すぐに態勢を整え、背後にいた敵を見つめる。
敵はすでに剣を振り下ろした後の姿勢だった。
あのまま、転がっていなかったら斬られていたな。
医者に目を配ると、わなわなと震えているだけだった。
「こんなところに元気なやつが2匹いたとはな」
こいつらは一々話さないと気が済まないのか?
こんなクソ野郎共と会話なんて、うんざりだ。
すぐに敵の間合いに飛び込み、右手を突き出す。
「消滅」
瞬く間に体が消えていく。だが……
「ぎょえええええ!!」
敵の断末魔が広場全体に響き渡る。
広場は静寂さを取り戻したかのように静まり返っていた。
そして、残る9人の敵は異常を確認するためにこちらを見つめていた。
(これはまずいな。これでは医者を連れていけない)
「あなたはここにいてください」
高揚した気分が、ずっと年上で村の顔役のような存在である医者に対して指示を出してしまった。
医者も生き残りたい一心だろうか、突如として現れた僕に何かを頼むかのように手を合わせてきた。
(さて、どうしよう)
右手で触れる者は全てを消滅させる。
触れれば……残る9人は明らかに僕という存在を警戒している。
そして、今までバラバラだった場所からゆっくりと囲い込むように近づいてきた。
さっきまでは、ほぼ一対一の状況に持っていけた。
それに相手も油断していた。
今までのやり方が通用するだろうか?
これが失敗すれば、クレアは……。
(だが、やらなくちゃならないんだ)
囲まれるのはとても危ない気がする。
逃げ場もなくなるし、なによりも敵の百戦錬磨の圧力に耐えられそうにない。
それよりも相手の意表をついて、こちらから攻めるほうが何倍も気持ち的に楽だ。
さっきまで感じていた体の重さはどこに行ってしまったのか。
興奮した体は今まで以上の力を発揮できそうだった。
(行くぞ)
自らを奮い立たせ、目指すのは真正面の敵。
囲まれつつある状況では、どこから攻撃しても同じことだ。
相手の戦力もわからないし、とにかくリーダーらしい奴以外を攻撃していくしかない。
相手も近寄ってくる僕に警戒して、歩みを止める。
周りは……やはり、集合位置を僕に合わせているようだ。
すぐに向きを変え、こちらに向かってきている。
しかも、走ってきている。
一撃で決めなければ……包囲される。
正面の敵は剣を構え、やってくるのを待っているようだ。
このまま、相手に飛び込めば一刀両断されておしまいだ。
……どうする?
相手の直前で方向を変え、意表を突く?
そんな動きをしたことがないのに出来るのか?
自信がない。
……そうだ。さっきの……
どっしりと構える相手の懐に飛び込む無謀な賭けに出ることにした。
相手は無鉄砲な相手の動きに勝利を確信したのか、にやりと笑っていた。
そして、十分に間合いに入ったのを感じ、剣を振り下ろしてきた。
(今だ!!)
ここで相手の意表を突く一番の手は……この右手の存在だ。
右手で剣を受け止めることにした。
そんなことをしても右手もろとも体を切り裂かれておしまい……のはずだった。
「手がぁぁぁぁ」
やはりそうだ。体に直接触れる必要はないんだ。
剣を通じて、持っていた両腕が塵となり始めた。
塵となる速度は変わらず、相手の体を次第に侵食していった。
「あぁぁぁぁぁぁ」
消え去るまで相手の断末魔は消えることはなかった。
(よし。これを繰り返していけば……)
そうは甘くはなかったようだ。
「てめぇは何者だぁ!!」
よりにもよってリーダーに進路を塞がれてしまっていた。
相手から受ける威圧。
そのせいで一瞬だけ動きを止めてしまった。
一瞬……それだけで勝敗の全てが変わってしまうのだろうか。
気付いたときには8人の敵に包囲されていた。
辺りに目を配るがまだ敵が襲ってくる様子はない。
どうやら警戒をしているようだ。
剣を向けているが、誰かが先に仕掛けるのを待っているかのようだ。
「見たところ、ここのガキか?」
リーダーは値踏みするように上から下まで舐めるように見つめてくる。
(考えろ! どう動くのが正解なんだ!? 正面? 後ろ? それとも……)
「聞いているのか!?」
その声で無理やり現実に戻されてしまった。
「おめぇはもう終わりだぜ」
どうやら、その通りのようだ。
一度、中断した考えをもう一度戻すことは出来なかった。
目の前に訪れた恐怖だけが体を支配し始める。
「てめぇら。よく分からねぇが、こいつの右手は危険だ。無闇に近寄らず、距離を取って攻撃するんだ」
奥の手が完全に敵に気付かれてしまっていた。
こうなっては相手に近づくのは至難の業だろう。
それに動けば、おそらく背後から斬られてしまうだろう……。
(動けない……)
「やれ!!」
リーダーの掛け声で全員が行動を開始する。
といっても、闇雲に突撃してきてくれるバカはここにはいないようだ。
じりじりと剣を突き立て、こちらに近寄ってくる。
(どうする……)
右手で相手の剣に触れる。
そうすれば、相手は滅する。剣を触れれば……。
近寄る剣に向かい、僕は右手を突き出した。触れれば……
「えっ?」
右腕がぽとりと落ちた。
顔を横に振ると……リーダーの顔があった。
剛剣が地面に深々と突き刺さり、右腕が綺麗に両断されていた。
落ちる右腕。吹き出す血しぶき。
(ああ……負けちゃったんだ……)
そう自覚するのに十分な時間だった。
膝は折れ、敵の全員がこちらを見下していた。
(クレア……ごめんな。力があっても……守るって難しいんだな)
「あばよ」
リーダーの次の一手も早かった。
剛剣を抜き去り、すぐに剣を振り下ろしてきた。
目を瞑り、死を受け入れる。
それくらいしか残された事はなかった。
「ぎゃあああ」
「うげぇぇぇえ」
「おぉぉぉぉぉ」
断末魔?
まるで合唱のように周りから断末魔が聞こえてくる。
(なんだ? 何が起きている?)
おそるおそる目を開けば、信じられない光景が広がっていた。
(これは……なんだ?)
淡く光るように包み込まれた空間。
それは幻想的で、美しいものだった。
しかし、その中に閉じ込められている敵達は苦しみ藻掻き……燃えていた。
敵達が消えるのにどれくらいの時間もかからなかったと思う。
敵が消える……消し炭となると同時に幻想的な空間は元の空の色に戻っていた。
(何が……起きたんだ)
その瞬間、激痛が右腕を襲った。
うずくまり、右腕を庇う。
(そうだ……医者だ。医者をクレアのところに連れて行かなければ……)
自らの痛みをなんとか耐え、次の行動に移ろうとした時……
またも信じられないことが……信じられない声が聞こえたんだ。
「ご主人様。お名前を教えてもらえませんか?」
(そんな訳ないだろ)
「クレア……」
さっきまで瀕死……いや……そのクレアが立っていた。
さっきまで騒がしくしていた兵士たちもいない。
風の音だけが妙に聞こえてくる。
(そうだ。クレア!)
少し離れたところで横たわるクレア。
辺りが血の池となっていて、とても生きているようには思えない。
だけど……
(そう、さっきは動いたんだ。だから、きっと……)
淡い期待と受け止められそうにない現実に板挟みされ、近寄ることを躊躇してしまう。
(動け……ちょっとでもいいから……動いてくれ)
一歩々々近づき、ついにクレアの側にたどり着いてしまった。
「クレア」
声を掛けても一切反応がない。見たくない……
息は……していない。
顔はまるで寝ているようなのに……。
どうして……こうなったんだ!!
「クレア! 頼むから……目を開けてくれ!! お願いだ」
体を揺さぶっても反応は変わらなかった。
「やっと……クレアを守れる力を手に入れたんだ……それなのに……これからだったんだ。君との旅は」
涙が溢れ出し、クレアの体にポロポロとこぼれていく。
「なあ。まだ……大丈夫だよな? 医者を連れてくるよ。だから……それまで……な? 耐えてくれるだろ?」
何を言っているんだろう。
クレアは……もう……
(違うんだ。クレアは今だけこの状態なんだ……)
村に戻って、皆を助ける。
それで医者を……ここに連れてくる。
簡単なことだ。
右手を見つめる。
知らずに宿った不思議な力。その感触を右手に感じる。
やれるんだ……。
「手を貸してくれるか?」
右手に話しかけるなんて馬鹿馬鹿しかったが、頼れるのは、この右手だけだ。
「待っててくれよ……クレア」
絶望的な事実を考えないようにして、村の広場に向かって足を進めた。
正直に言って、体が重い。
さっきの二人との戦いだけでも疲労困憊だ。
もうすぐにでも眠りたい。
それに右腕を切り落とされた時に出た出血のせいで、ひどく頭が痛い。
それでも……
「クレアが待っているんだ」
自分を奮い立たせて、これから立ち向かう大勢の敵に牙を向ける。
……酷い。
広場はさっき見た時よりも見るに耐えない有様だった。
あれからまだいくらも時間が経っていないはずなのに。
広場に近づく僕に最初に気付いたのは、執拗に男を殴っていた兵士だった。
殴るのも飽きて、少し息をつく瞬間に僕を見つけた。
「お? まだ、元気なやつが……」
「……消滅」
兵士は右手に触れられた場所から塵となって消えていく。
叫び声を上げられたくなかったから、顔を触ったのは正解だったようだ。
足元にはどれだけ殴られたのかわからないほど、顔をぐちゃぐちゃにされた仲間が転がっていた。
「……誰だかわからないけど、もう安心しろ。僕がなんとか、する」
ひゅーひゅーと歪な呼吸音だけが聞こえてきた。
返事をしてくれているのか、呼吸をするのが精一杯なのか分からないけど……。
次の標的に向かった。
広場にはおそらく敵の全員がいるはずだ。
歩きながら、目を配ると全員で十人であることが分かった。
兵士たちはそれぞれが別の場所にいて、仲間たちを……殺そうとしている。
本当に見たくもない光景だ。
だけど、ただ一人を探さなければならない。
医者だ……とにかく医者を見つけなければ。
他には目もくれず、医者を探す。
(良かった。医者は無事だった)
医者はこの有様の中、大木に身を寄せてガタガタと震えているだけだった。
「おい。無事だったか?」
「ひ、ひいい」
医者は見知っている僕を見ても、恐怖の色を変えない。
「大丈夫か?」
「う、うしろ!!」
背後に敵が迫っている恐怖が体を襲い、咄嗟に前に飛び転がった。
この判断は正しかったようだ。
転がり、すぐに態勢を整え、背後にいた敵を見つめる。
敵はすでに剣を振り下ろした後の姿勢だった。
あのまま、転がっていなかったら斬られていたな。
医者に目を配ると、わなわなと震えているだけだった。
「こんなところに元気なやつが2匹いたとはな」
こいつらは一々話さないと気が済まないのか?
こんなクソ野郎共と会話なんて、うんざりだ。
すぐに敵の間合いに飛び込み、右手を突き出す。
「消滅」
瞬く間に体が消えていく。だが……
「ぎょえええええ!!」
敵の断末魔が広場全体に響き渡る。
広場は静寂さを取り戻したかのように静まり返っていた。
そして、残る9人の敵は異常を確認するためにこちらを見つめていた。
(これはまずいな。これでは医者を連れていけない)
「あなたはここにいてください」
高揚した気分が、ずっと年上で村の顔役のような存在である医者に対して指示を出してしまった。
医者も生き残りたい一心だろうか、突如として現れた僕に何かを頼むかのように手を合わせてきた。
(さて、どうしよう)
右手で触れる者は全てを消滅させる。
触れれば……残る9人は明らかに僕という存在を警戒している。
そして、今までバラバラだった場所からゆっくりと囲い込むように近づいてきた。
さっきまでは、ほぼ一対一の状況に持っていけた。
それに相手も油断していた。
今までのやり方が通用するだろうか?
これが失敗すれば、クレアは……。
(だが、やらなくちゃならないんだ)
囲まれるのはとても危ない気がする。
逃げ場もなくなるし、なによりも敵の百戦錬磨の圧力に耐えられそうにない。
それよりも相手の意表をついて、こちらから攻めるほうが何倍も気持ち的に楽だ。
さっきまで感じていた体の重さはどこに行ってしまったのか。
興奮した体は今まで以上の力を発揮できそうだった。
(行くぞ)
自らを奮い立たせ、目指すのは真正面の敵。
囲まれつつある状況では、どこから攻撃しても同じことだ。
相手の戦力もわからないし、とにかくリーダーらしい奴以外を攻撃していくしかない。
相手も近寄ってくる僕に警戒して、歩みを止める。
周りは……やはり、集合位置を僕に合わせているようだ。
すぐに向きを変え、こちらに向かってきている。
しかも、走ってきている。
一撃で決めなければ……包囲される。
正面の敵は剣を構え、やってくるのを待っているようだ。
このまま、相手に飛び込めば一刀両断されておしまいだ。
……どうする?
相手の直前で方向を変え、意表を突く?
そんな動きをしたことがないのに出来るのか?
自信がない。
……そうだ。さっきの……
どっしりと構える相手の懐に飛び込む無謀な賭けに出ることにした。
相手は無鉄砲な相手の動きに勝利を確信したのか、にやりと笑っていた。
そして、十分に間合いに入ったのを感じ、剣を振り下ろしてきた。
(今だ!!)
ここで相手の意表を突く一番の手は……この右手の存在だ。
右手で剣を受け止めることにした。
そんなことをしても右手もろとも体を切り裂かれておしまい……のはずだった。
「手がぁぁぁぁ」
やはりそうだ。体に直接触れる必要はないんだ。
剣を通じて、持っていた両腕が塵となり始めた。
塵となる速度は変わらず、相手の体を次第に侵食していった。
「あぁぁぁぁぁぁ」
消え去るまで相手の断末魔は消えることはなかった。
(よし。これを繰り返していけば……)
そうは甘くはなかったようだ。
「てめぇは何者だぁ!!」
よりにもよってリーダーに進路を塞がれてしまっていた。
相手から受ける威圧。
そのせいで一瞬だけ動きを止めてしまった。
一瞬……それだけで勝敗の全てが変わってしまうのだろうか。
気付いたときには8人の敵に包囲されていた。
辺りに目を配るがまだ敵が襲ってくる様子はない。
どうやら警戒をしているようだ。
剣を向けているが、誰かが先に仕掛けるのを待っているかのようだ。
「見たところ、ここのガキか?」
リーダーは値踏みするように上から下まで舐めるように見つめてくる。
(考えろ! どう動くのが正解なんだ!? 正面? 後ろ? それとも……)
「聞いているのか!?」
その声で無理やり現実に戻されてしまった。
「おめぇはもう終わりだぜ」
どうやら、その通りのようだ。
一度、中断した考えをもう一度戻すことは出来なかった。
目の前に訪れた恐怖だけが体を支配し始める。
「てめぇら。よく分からねぇが、こいつの右手は危険だ。無闇に近寄らず、距離を取って攻撃するんだ」
奥の手が完全に敵に気付かれてしまっていた。
こうなっては相手に近づくのは至難の業だろう。
それに動けば、おそらく背後から斬られてしまうだろう……。
(動けない……)
「やれ!!」
リーダーの掛け声で全員が行動を開始する。
といっても、闇雲に突撃してきてくれるバカはここにはいないようだ。
じりじりと剣を突き立て、こちらに近寄ってくる。
(どうする……)
右手で相手の剣に触れる。
そうすれば、相手は滅する。剣を触れれば……。
近寄る剣に向かい、僕は右手を突き出した。触れれば……
「えっ?」
右腕がぽとりと落ちた。
顔を横に振ると……リーダーの顔があった。
剛剣が地面に深々と突き刺さり、右腕が綺麗に両断されていた。
落ちる右腕。吹き出す血しぶき。
(ああ……負けちゃったんだ……)
そう自覚するのに十分な時間だった。
膝は折れ、敵の全員がこちらを見下していた。
(クレア……ごめんな。力があっても……守るって難しいんだな)
「あばよ」
リーダーの次の一手も早かった。
剛剣を抜き去り、すぐに剣を振り下ろしてきた。
目を瞑り、死を受け入れる。
それくらいしか残された事はなかった。
「ぎゃあああ」
「うげぇぇぇえ」
「おぉぉぉぉぉ」
断末魔?
まるで合唱のように周りから断末魔が聞こえてくる。
(なんだ? 何が起きている?)
おそるおそる目を開けば、信じられない光景が広がっていた。
(これは……なんだ?)
淡く光るように包み込まれた空間。
それは幻想的で、美しいものだった。
しかし、その中に閉じ込められている敵達は苦しみ藻掻き……燃えていた。
敵達が消えるのにどれくらいの時間もかからなかったと思う。
敵が消える……消し炭となると同時に幻想的な空間は元の空の色に戻っていた。
(何が……起きたんだ)
その瞬間、激痛が右腕を襲った。
うずくまり、右腕を庇う。
(そうだ……医者だ。医者をクレアのところに連れて行かなければ……)
自らの痛みをなんとか耐え、次の行動に移ろうとした時……
またも信じられないことが……信じられない声が聞こえたんだ。
「ご主人様。お名前を教えてもらえませんか?」
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「クレア……」
さっきまで瀕死……いや……そのクレアが立っていた。
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