神の能力を宿した少年と駄天使〜幼馴染を救う旅のゴールは世界創造

秋田ノ介

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第5話 彼女の異変

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ありえない人が目の前に立っていたんだ。

「ご主人様。お名前を教えてもらえませんか」

何を言っているんだ? 

どうも頭がおかしくなっているみたいだ。

さっきまでの恐怖で幻影でも見ているのだろうか。

「君は……クレアなのか?」

どうみてもクレアだ。

だけど、あれほどの傷を負って動くことさえ出来ないはず。

それなのに、痛がっている様子もないし、なによりも服装が違う。

この一瞬で着替えを?

ありえない。

どうみても村人が着るような服装ではない。

なんというか、貴族が着るような……よく分からないど、そんな服だ。

「クレア? 私はクレアなの?」

なぜ、そこで自問するんだ? 

やっぱり幻影でも見ているのだろうか?

「ああ。君はクレアだよ。どう見てもね」
「そう。私はクレアっていうのね。ご主人様は?」

聞き慣れない言葉が出てきたな。

ご主人様? 

一体何のことだ? 

「ご主人様ってなんだい? そんな言葉は分からないよ。だけど、なんとなく意味は分かるよ。僕はロダンだ。君とは……幼馴染なんだ」
「そう……名前を知れて、とても嬉しいわ。ねぇ、ロダン様。これからどうしましょうか。色々とお話をしたいんですけど」

(クレアは記憶を無くしてしまったのだろうか? 分からない……全く分からない)

「ああ。その前にやらなくちゃならないことがあるんだ。だけど、その前に」

ゆっくりと立ち上がり、クレアに近づいた。

やっぱり、どこか雰囲気が違うクレア。

だけど、なんとなく直感で分かるんだ。

クレアで間違いないんだ。

残った片腕で彼女を抱き締めた。

なんで、そんなことをしたのか分からない。

正直、立っているのも辛くて、彼女に寄りかかりたかったというのもあるかも知れない……

だけど、彼女に触れたかったんだ。

「ありがとう……生きていてくれて……本当にありがとう……」

涙が溢れ、言葉をつまらせながら、彼女に呟いた。

彼女の反応は落ち着きがないというか、動揺していたが、静かに僕の体の後ろに手を回してきた。

「いいのですよ。私はここにいます。ロダン様とずっと一緒に……私がお守りします」

その言葉……クレアがよく僕に言っていた言葉だ。

守るのは僕の役目だというのに、クレアは決まって守るのは私というのだ。

彼女は強くないはずなのに……ずっと意味が分からなかった。

だけど、それを言われる度にとても嬉しかった。

彼女が僕を大切にしてくれていることを感じられるから。

「クレア……もうどこにも行かないでくれ」
「はい……」

しばらく互いに抱き締めていたが、感情が落ち着くに従って、この状況がとても恥ずかしいことに気づいてしまった。

ここは広場のど真ん中で、半死半生の村の人が状況を確認するためにこちらに視線を向けているんだった。

勢い良く体を離し、目が合ってしまった。

すごく恥ずかしいが、彼女の瞳はそんな感情を微塵も感じさせないほど、静かな……キレイな瞳をしていた。

なにやらこっちが恥ずかしくなって、目を背けてしまう。

「と、とにかく……」

言葉が詰まる。

なんなんだ、この感情は。戦いのせいで、どうにかしてしまったのだろうか。

「とにかく! 村の人たちの様子を見なければ。治療もしないといけないし……死んだ人にはお墓を作ってあげないと……」
「大丈夫ですよ。落ち着いてください。周りではどうやらその作業に入っているみたいです。それよりもロダン様は体を休めたほうがいいですよ」

たしかに体にはひと握りの力も残っていなかった。

ここで倒れ込んで寝てしまいたい気分だ。

いつもの広場だったら躊躇なく、それをやっていただろうが……

今はどこにいても、血の海が広がっていた。

「そうだね。少し休んだら、手伝いをしよう。クレア。悪いけど、手を貸してくれるかい?」
「もちろんです。近くにちょうどいい木陰を見つけておいたので、そこに向かいましょう」

こんな会話に違和感を感じないわけがない。

だけど、体は凄く疲れているし……

もしかしたら、幻聴か幻影のたぐいである可能性も捨てきれない。

だけど、クレアを感じていたい。

今はそれだけで……十分だ。

「ありがとう……」
「私の膝を貸してあげますから。ゆっくりと休んでくださいね!」

彼女の力は凄かった。

15歳になった僕の体はそれなりに大きい。

村の中でもちょっと目立つほどの大きさだ。

その体の大きさのせいで、鉱山夫になると苦労するぞと言われた。

鉱山の道は狭いから。

彼女はそれを重いと感じないみたいで、簡単に僕の体を持ち上げてしまう。

おかげで、自分の体重を感じずに、足を動かすだけで前に進めてしまう。

しかも、彼女は苦しそうな表情を一切見せなかった。

……なるほど……

この木陰はたしかに気持ちいいな……

夢現に彼女の顔を何度も見た。

また、いなくなるかも知れない……

そんな気持ちだったのだろうか。

何度も見て、確認しては眠りについた。

その度に彼女は「大丈夫ですよ」と言ってくれる。

どれくらい寝たのだろうか。

明るかった空も夕空に変わっていた。

起き上がると、彼女が僕の体についている葉っぱを落としてくれていた。

頭は幾分スッキリし、さっきまで起きていた状況を整理できるほどにはなっていた。


少し先の広場では生き残っている人たちがなにやら動いているのが見えた。

おそらく生存者の確認をしているのだろうか。

医者らしい影が走り回っているのも見えた。

思ったよりも生きている人がいるみたいだ。

あの時は全滅してしまったのではないかと思いこんでいたが、そうではなかった。

「良かった」
「……」

小さな呟きだったから、彼女に聞こえなかったのか、特に反応をすることはなかった。

ただ、遠くを見つめている彼女の横顔だけを見ていた。

彼女の横顔に手を当ててみた。

「ひい! な、なにをするんですか!」

彼女の驚き声……表情……全てを見たことがある。

まさに彼女そのものだ。だけど……。

「教えてくれないか……君は誰だ?」

今なら分かる。彼女の現れた時の姿……話し方……そして……魔法。

どれも見ても、彼女らしさはなく、彼女でない誰かだということは間違いない。

だけど、分からないんだ。

彼女はクレアなんだ。

それは間違いないんだ。

だから、聞きたいんだ。

「私は……クレアよ」
「ふざけるな!! 頼むから……ふざけないで答えてくれ」

彼女が求めている答えを言ってくれるなら、どんなに楽だろうか。

現実を受け止めることがこんなに辛いことなのか。

それとも、知っている現実が間違っているのだろうか。

……分からない。

彼女は沈黙をしていた。

それがどんな表情なのかは分からない。

まるで不味い薬を飲まされる子供のようだ。

飲まなければ、病は治らない。

だけど、飲めば、すぐに襲ってくる苦味に耐えなければならない。

「クレアは……死んだ。死んでいたんだ。だから……ここにいる訳がないんだ。今もきっと町外れの小道にひっそりと横たわっているはずだ……だから、君は……」
「クレアは……私は……」

彼女は言葉をつまらせながら、単語を紡いでいこうとしていた。

「キュー」

聞いたこともない声……

人間の声というよりも、なにか動物のような声がすぐ近くから聞こえてきた。

辺りを見渡してみたが、声の主らしい姿はどこにもなかった。

「キュー」

すごく弱々しい声だ。そんな声が、足元の方から聞こえてきた。

「おまえは……」

魔獣だった。

クレアから預かって、僕を危地から救ってくれた恩人。

いや、恩獣? 

それはどうでもいい。

しかし、なぜここに? 

僕を追ってきた? 

しかし、こいつもクレア同様、命を……。

「なにをしているんだ?」

魔獣は僕の体の真下で何かを懇願するように泣き続けた。

それにしても、痛々しいほどの傷だ。

傷からはとめどなく血が流れ、いつ倒れてもおかしくない状態だ。

もしかしたら、こいつはクレアの下に帰ってきたのか? 

いや、それはなさそうだ。

さっきから、僕の真下にしかいないし、彼女に興味すら無いみたいだ。

彼女の方を見ると……

「クレア?」

クレアの表情はなんというか……

すごく見下したような顔だった。

魔獣を変なものを見るような……。

これは君の大切なものではなかったのか?

「クレア?」
「え? あっ、はい……なんでしょうか」

どうしたんだ?

「これは君のペットなんじゃないのか?」

何を聞いているんだ? 

さっきは彼女をクレアではないと思ったばかりじゃないか。

彼女は不思議そうな顔をしながら、魔獣を見つめる。

「これは……ご主人様。この者に触れてはくれませんか?」

足元でずっと鳴いてくる魔獣。

犬のようにも見えるが、はっきり言って怖い。

目の鋭さが殺意を感じ、牙からは強さを感じる。

触るのは少し勇気のいることだ。

手を少しだけ、近づけていった。

魔獣はその手を見つめ、受け入れるように頭を少し下げてくれた。

なでなで……

魔獣の角を避けながら、頭を何度も撫でてみた。

……硬そうな毛並みと思っていが……

案外、柔らかい。

だが、とめどなく流れる血に目を奪われると、撫でている手にも熱が篭ってしまう。

こいつはもう長くないだろう。

本来であれば、家族か、大切な人に見送られたかっただろうに。

「僕で勘弁してくれよ。治してやる力があればよかったんだけど……」

ゆっくりと撫でていくと、魔獣は目を細めて他も撫でてほしそうに頭を振る。

顎や首に手をやり、静かに撫でていると不思議な光景が広がっていく。

「……血が止まった?」

そんなはずはない。

だか、確かに血が止まっている。

ポタポタと毛先から垂れていたのがピタリと止まったのだ。それだけではなかった。

深々と穴が開いた傷口がみるみる肉が盛り上がり、再生しようとしていた。

「これは……どういうことだ?」
「やはり、そういうことでしたか。これでハッキリしましたよ。ロダン様。私……ではなく、クレアは確かに生きています」

何を……言っているんだ?
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