神の能力を宿した少年と駄天使〜幼馴染を救う旅のゴールは世界創造

秋田ノ介

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第8話 彼女の存在

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村の広場はまだ凄惨な状況から変わっていなかった。

辺りは血の海とかし、死体だけが放置されていた。

生き残った人たちはほとんどが怪我人と言った状態だった。

お互いに助け合い、なんとか一箇所に集まり治療を受けていた。

生き残った村人は半分にも満たないだろう。

これだけの虐殺がたった数時間……いや、もっと短い時間に行われたのだ。

無抵抗で無力な者たちを暴力的な力のある者たちが殺し、全てを奪っていく。

「こんな事があってたまるか……」

それでも生き残っている人たちがいただけでもマシなのかも知れない。

この右手に宿ったと言われる不思議な力。

この力がなければ……こんな少しな人たちすら、ここで息をしていることはなかっただろう。

そして、もちろん僕自身も……。

「セフィトスは治療は出来ないの?」
「出来るは出来ますけど……やっぱり、出来ません。私、生きている人に干渉が出来ないように言われているんですよ」

セフィトスは魔法の力……種類という点ではすごい人なんだと思う。

兵士たちを一瞬で抹殺した魔法、死者から記憶を引き出す魔法、僕の手を再生させた魔法……おそらく、彼女が使える魔法の一端なんだと思う。

だが、彼女の訳の分からない理由は苛立つことがある。

目の前で苦しんでいる人が大勢いるのに、出来るのに出来ないって……

「そこを頼めないかな?」
「無理ですよ!! 神の制約は絶対なんです。破れば……破れば? 破れば、どうなるんでしょう? やったことがないので分からないですが……やっぱり、怖いので止めておきます」

使えない……これじゃあ、せっかくの能力も宝の持ち腐れだ。

使える意味が全く無いじゃないか。

「僕が使えればいいんだけど……」
「その事なんですけど、可能性は非常に小さいですけど、出来るかも知れませんよ」

使えないと思った表情が出ていたのだろうか。

ものすごく申し訳無さそうな顔をする彼女が嘘か適当なことを言い始めた。

「マリーヌですよ!」

マリーヌ? マリーヌの名前がどうして出てくるんだ? 

ここでは何の関係もないじゃないか。

「違うんですよ。マリーヌはおそらく……」

彼女はちらっとワンちゃんを見つめる。

「マリーヌもロレンス様と同じく神の意志を継ぐ者と思われます。証拠というには薄弱ですが、この駄犬がいるのが神の力を持つものがこの辺りいるということです。その可能性が最も高いのがマリーヌです」

そうだったのか……ああ。そうか。そうだったんだ。

マリーヌは言っていたんだ。

あの時……「力を手に入れた」……

そんなことを言っていた気がする。

あれはその時の雰囲気が言わせていただけなんだと思っていた。

しかし、なるほど……右手のような力を手に入れれば、その言葉が出ても不思議でも何でもない。

そして、「僕を守る」という言葉も……マリーヌは本気だったんだ。本気で僕を守ろうとしたんだ。

でも、何から? それは今は考えても仕方がないだろう。

「でも、マリーヌに力があったとしても使えるのは、セフィトスなんじゃないか? だったら、使えないと変わらないんじゃないかな?」
「そうです……が!! 少ない可能性と言ったのはその事なんです。さっきも言いましたが、マリーヌの体にマリーヌはいませんでした。マリーヌはどこに行ったかというと……」

彼女の指はゆっくりと僕を指差した。

「ロレンス様です!!」

なんだ、これ。

だから、なんだと言うんだ? 

マリーヌが僕の体にいる……その信憑性はかなり怪しいが、そうだったとして……

「まさか」
「そうです。マリーヌの神の力がロレンス様に受け継がれているということです」

そんな都合の良いことがありうるのか? 

神の力……というかは別にして、この力は物凄いものだ。

何の力もない者に猛者と戦いうるだけの力を与えてくれる。

それだけでも誰もが欲しがる力だ。

それを二つも持っているということなのか?

「それはあり得るの?」
「分かりません。私自身もこういった経験は初めてなので。ですが、可能性としてはあると思います」

そうだったら凄いことだ。

でも、そうだったとしてもマリーヌの力はどうやって使うんだ? 

そもそも……。

「マリーヌの力ってなんだろう?」
「さあ?」

……やっぱり使えない。

「しょうがないじゃないですか。ロレンス様ならともかく、他人の能力を覗き見る力なんて私……いや、どんな天使だった持っていないですよ」

そういった直後に思い出したかのようにワンちゃんに詰め寄る彼女。

ワンちゃんを抱っこしているから、必然的に彼女とものすごく近づいてしまう。

こうやってみると、彼女がマリーヌなんじゃないかと錯覚してしまう。

触りたい……そんな事を一瞬でも考えてしまった。

「そうよ!! あなたは知っているわよね? 教えなさい。マリーヌの能力を!!」
「くぅーん」

彼女の剣幕は相当なものだった。

一体、ワンちゃんに何の恨みがあるんだ? 

同じ天使と言っていたが……本当なのか?

「くぅーん、じゃないわよ。あなたは喋れるでしょ!? 早く言いなさい!!」
「くぅーん」

ワンちゃんの態度に苛立ちを隠せないのか、地団駄を踏む彼女。

確かにワンちゃんは変身という能力を見せてくれた。

だが、聞いたことがあるんだ。魔獣には特殊な能力があるって。

その一つだったのかもしれないと思い始めていた。

どうも彼女の言う言葉は信じられない。

「もういいじゃないか。ワンちゃんが嫌がっているよ」
「いいえ! この者は必ず知っているはずです」

彼女は何を思ったのか、ワンちゃんに手をあげようとしたんだ。

ワンちゃんはマリーヌが残してくれた贈り物なんだ。

これだけがマリーヌと僕を結びつける唯一のもの。

「何をするんだ!!」

さすがに彼女も悪いと思ったのか、上げた手をすぐに引っ込め申し訳無さそうな表情に変わる。

「ごめんなさい……でも」
「もういいんだ。セフィトスは可能性を僕にくれた。それだけで嬉しいよ。もしかしたらマリーヌの力がこの体に宿っている。そうしたら、とても嬉しいんだ」

マリーヌが残してくれたものがもう一つ増えるってことだよね。

「それにマリーヌの力はどんなものかも分からないし、今必要なのは治療の魔法だ。そんな可能性は凄く小さいだろ? だから、いいんだ」

「分かりました。興奮してしまって申し訳ありませんでした。でも悪気はなかったんです。私はいつもロレンス様のことを考えて……」

それは分かっているよ。

彼女の言うことは全く分からないし、嘘なんじゃないかと思う。

けど、僕の窮地を助けてくれた……

欲しい情報を与えてくれた……

マリーヌの事を教えてくれた……

彼女の行動で僕は何度も救われている。

肉体的にも……気持ち的にも。

「だから、分かったよ。ありがとう。セフィトス」
「ロレンス様ぁ」

「ワンちゃんもゴメンよ。怖い思いをさせて」
「くぅーん」

ワンちゃんは何かを訴えるようにじっと見つめてきた。

でも、今は村の人たちと会って話をしないと。

ワンちゃんを降ろし、村の人たちが集まる広場の片隅に向かった。

……良かった。この人が生きていてくれた。

「鉱山長!! ご無事でしたか!!」

鉱山長の表情は酷いものだった。

誰のか分からない大量の血が衣服にこびりついていた。

いつもの力に満ち溢れた瞳からは疲れを感じ取れる。

「ああ? ああ!! ロレンス!! ロレンスか!! 生きて……生き残ってくれたか。良かった。本当に良かった」

こんな弱々しい鉱山長を見たのは初めただ。

僕を見るなり、近づき泣き崩れそうな表情を見せてくる。

「はい。僕の方はなんとか無事でした。その……」
「ああ。酷い有様だ。これじゃあ、この村はお終いかも知れない」

この村の主要産業である鉱山は多くの男手が必要になる。

しかし、ここに残っているのは……

「男たちは女たちを守るために真っ先に殺されてしまったよ。俺もそのつもりだったが生き残ってしまった。本当に済まなかった。ロレンスの親父さんを助けてやれなかった」

……そうか。父さんは……。

悲壮な気持ちに押しつぶされそうになったが、ここに来た気持ちを思い出し、父さんのことは忘れることにした。

(今は……今だけは……ごめんよ。父さん)

「僕がここに来たのは……村を出る事を伝えるためです」

鉱山長はじっと見つめてくる。

そして、何かに納得するかのように静かに頷いた。

「そうか……出ていくか。こんな事が起きれば、無理はない。ロレンスを縛るものはこの村にはないからな。ビーゼルあたりに腰を落ち着けるのか?」

縛るもの? 

なんか引っかかるような言い方だが、今はどうでもいいか。

「はい。ビーゼルに向かうつもりです。ですが、腰を落ち着かせるためではありません」
「……どういうことだ?」

「今日の出来事の裏には誰かがいるようです。それを暴くために」
「ダメだ!! それはやめておけ」

鉱山長の表情がみるみる変わり、何かに恐怖している……そんなふうに見えた。

「鉱山長は何かを知っているのですか? 知っているのでしたら……」
「……ダメだ。ロレンスを巻き込むわけには。そんなことをしたら、親父さんに申し訳が立たない。済まないが力になれそうもない。ただ一つ、忠告しておくぞ。一度首を突っ込んだら、抜け出せなくなるからな。俺達みたいに……」

やっぱり鉱山長は何かを知っているんだ。

そして、この出来事がただの虐殺ではないことに。

「分かりました。でも、調べはするつもりです。こんな……父さんやマリーヌに酷いことをした奴らを許しておくことなんて出来ませんから」

神妙な表情で頷いていた鉱山長が動きを止め、僕の後ろにいる何かに目を見開いていた。

「ロレンス様。そろそろ出発しないと遅くなっちゃいますよぉ」
「ああ。もう挨拶は済んだよ。行こうか。じゃあ、鉱山長……鉱山長?」

「ど、どうして……お前がいるんだ」
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