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公国追放編
03 いじめ
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早朝から基礎体力作りを始めてから、昼までひたすら剣を振る訓練をする。とにかく体を作ることが一番だ。昼からは魔法のトレーニングをする。瞑想でひたすら体内の魔力を練り上げていく。魔力操作が出来るようになれば、少ない魔力でも魔法を使うことが出来る。
「そういえば、今日ミーチャが来ると、父上が言っていたな」
ミーチャは大国トルリア王国の第二王女だ。公家と王家の結びつきを更に強くしたい父上が直談判して、ミーチャを公国の後継者の婚約者として約束を取り付けたのだ。
ミーチャはそれは美しい女性で、王国でも評判となるほどだ。
しかし、王家ではミーチャをあまりいい扱いをしてこなかった。それは彼女の容姿に関係している。彼女の容姿は……
そんなことを考えていると、荒々しく下品な声が聞こえてきた。
「おい。ロスティ。今日はお前に俺様自らが剣の修行をつけてやる。ありがたく思え」
「タラス兄上……申し訳ありませんが、今は魔法の訓練をしている最中ですから、明日にしてもらえませんか?」
その言葉にカチンときたのか、足蹴りが飛んできた。タラスには軽く蹴ったつもりだろうが、かろうじて避けるのが精一杯だ。
『剣士』スキルでステータスが底上げされているタラスの蹴りは相当なものだった。とてもデブの動きではない。
「避けるんじゃねぇよ。後継者の俺様の優しさが聞けないっていうのか?」
「いや、ですから……」
タラス兄上はいつからこんなに変わってしまったのか。最近は悪い噂が絶えない。騎士団の子弟たちとつるんで、なにやら悪さばかりをしているらしいが……。
公都の女性たちを手篭めにしているとか、気に食わない貴族の子弟を闇討ちしているとか、商家に押し入って強請っているとか……とにかく酷いものばかりだ。
それでもタラスの名前が上がらないところを見ると権力で口封じをしているのか、とにかく、うまくやっているのだろう。だが、こうも素行が悪くてはその甲斐もないような気もするが……。
「タラス兄上。昨日も父上に言われたばかりではないですか。もう少し後継者候補らしく、身の振り方を考えるべきです」
「ああ? 弟の分際で兄である、この俺に指図するつもりか? 後継者候補なんて存在しねぇ。俺が後継者なんだ。ちょっと父上に好かれているからって、頭に乗るんじゃねぇよ!! この無能者《スクルー》が!!」
スキル持ちとそうでない者の能力の差は歴然だ。そのため、スキルを授かる前の少年少女に向けられた蔑称としていつの間にか定着した言葉が無能者《スクルー》というものだ。
ちなみにスクルーはゴミという意味だ。
「タラス兄上!! 公家の者がそのような言葉を使うべきではありませんよ!!」
「うるせぇ。無能者が。だったら無能者でないことを証明してみせろよ」
「なにっ⁉」
なんて下品で、発想がまるでチンピラと変わらないではないか。
タラスは持っていた木剣を構える。
新品同様だな。全く修練をしていない証拠だ。
せっかく『剣士』スキルを得ても、それにあぐらをかいて日々の修練をしていないタラスに負けるわけがない。
……そう思っていた。
「分かりました。ただし僕が勝ったらこれ以上付きまとわないでください」
「ほお。勝つつもりか? まぁいいだろう。俺が勝ったら……そうだな。俺は優しいからな。毎日剣の修行に付き合ってやるよ。もちろん実戦形式でな!!」
僕は頷いた。
「へっへっへ。バカが。ほら、行くぞ!!」
タラスは一歩踏み込んだと思うと、僕の目の前まで剣が向かっていた。なんとか剣を横に向け、それを受けたが、凄い剣圧だ。踏みとどまった足が痺れるようだ。
「ぐっ……」
「ほお。今の一撃を受けるか。やるな。でも、これならどうだ?」
笑みを浮かべているタラスはさらに連撃を加えてくる。
「ほら、ほら!! 足が止まって見えるぞ!!」
最初のうちはなんとか防御できたが、一発を食らってから、どうすることも出来なかった。
「うっ……うっ……」
タラスは薄ら笑いを浮かべて、膝を着いて、息絶え絶えの僕を見下している。
「分かったか? 無能者。これが実力差ってやつなんだよ。まぁ、これから一年間毎日相手してやるからよ。俺と対等という思いが勘違いであることを体に叩き込んでやるからな。有り難いと思え。ハッハッハ!!」
醜悪な面を浮かべたタラスはさらに僕をボコボコにしてから去っていった。
痛みが全身に走る。
「くそっ……手も足も出なかった。スキル持ちがこれほど強いなんて……。いや、鍛錬を重ねれば、必ず勝てる日が来るはずだ!!」
その時、俯いている僕の後ろから声が聞こえた。
「ロスティ!!」
この声は……ミーチャ様か。久しぶりに見るミーチャ姫はより美しくなって女性らしくなっていた。もっとも僕の様子に驚いていて、再会を喜ぶと言った様子ではなかったが。
「そういえば、今日ミーチャが来ると、父上が言っていたな」
ミーチャは大国トルリア王国の第二王女だ。公家と王家の結びつきを更に強くしたい父上が直談判して、ミーチャを公国の後継者の婚約者として約束を取り付けたのだ。
ミーチャはそれは美しい女性で、王国でも評判となるほどだ。
しかし、王家ではミーチャをあまりいい扱いをしてこなかった。それは彼女の容姿に関係している。彼女の容姿は……
そんなことを考えていると、荒々しく下品な声が聞こえてきた。
「おい。ロスティ。今日はお前に俺様自らが剣の修行をつけてやる。ありがたく思え」
「タラス兄上……申し訳ありませんが、今は魔法の訓練をしている最中ですから、明日にしてもらえませんか?」
その言葉にカチンときたのか、足蹴りが飛んできた。タラスには軽く蹴ったつもりだろうが、かろうじて避けるのが精一杯だ。
『剣士』スキルでステータスが底上げされているタラスの蹴りは相当なものだった。とてもデブの動きではない。
「避けるんじゃねぇよ。後継者の俺様の優しさが聞けないっていうのか?」
「いや、ですから……」
タラス兄上はいつからこんなに変わってしまったのか。最近は悪い噂が絶えない。騎士団の子弟たちとつるんで、なにやら悪さばかりをしているらしいが……。
公都の女性たちを手篭めにしているとか、気に食わない貴族の子弟を闇討ちしているとか、商家に押し入って強請っているとか……とにかく酷いものばかりだ。
それでもタラスの名前が上がらないところを見ると権力で口封じをしているのか、とにかく、うまくやっているのだろう。だが、こうも素行が悪くてはその甲斐もないような気もするが……。
「タラス兄上。昨日も父上に言われたばかりではないですか。もう少し後継者候補らしく、身の振り方を考えるべきです」
「ああ? 弟の分際で兄である、この俺に指図するつもりか? 後継者候補なんて存在しねぇ。俺が後継者なんだ。ちょっと父上に好かれているからって、頭に乗るんじゃねぇよ!! この無能者《スクルー》が!!」
スキル持ちとそうでない者の能力の差は歴然だ。そのため、スキルを授かる前の少年少女に向けられた蔑称としていつの間にか定着した言葉が無能者《スクルー》というものだ。
ちなみにスクルーはゴミという意味だ。
「タラス兄上!! 公家の者がそのような言葉を使うべきではありませんよ!!」
「うるせぇ。無能者が。だったら無能者でないことを証明してみせろよ」
「なにっ⁉」
なんて下品で、発想がまるでチンピラと変わらないではないか。
タラスは持っていた木剣を構える。
新品同様だな。全く修練をしていない証拠だ。
せっかく『剣士』スキルを得ても、それにあぐらをかいて日々の修練をしていないタラスに負けるわけがない。
……そう思っていた。
「分かりました。ただし僕が勝ったらこれ以上付きまとわないでください」
「ほお。勝つつもりか? まぁいいだろう。俺が勝ったら……そうだな。俺は優しいからな。毎日剣の修行に付き合ってやるよ。もちろん実戦形式でな!!」
僕は頷いた。
「へっへっへ。バカが。ほら、行くぞ!!」
タラスは一歩踏み込んだと思うと、僕の目の前まで剣が向かっていた。なんとか剣を横に向け、それを受けたが、凄い剣圧だ。踏みとどまった足が痺れるようだ。
「ぐっ……」
「ほお。今の一撃を受けるか。やるな。でも、これならどうだ?」
笑みを浮かべているタラスはさらに連撃を加えてくる。
「ほら、ほら!! 足が止まって見えるぞ!!」
最初のうちはなんとか防御できたが、一発を食らってから、どうすることも出来なかった。
「うっ……うっ……」
タラスは薄ら笑いを浮かべて、膝を着いて、息絶え絶えの僕を見下している。
「分かったか? 無能者。これが実力差ってやつなんだよ。まぁ、これから一年間毎日相手してやるからよ。俺と対等という思いが勘違いであることを体に叩き込んでやるからな。有り難いと思え。ハッハッハ!!」
醜悪な面を浮かべたタラスはさらに僕をボコボコにしてから去っていった。
痛みが全身に走る。
「くそっ……手も足も出なかった。スキル持ちがこれほど強いなんて……。いや、鍛錬を重ねれば、必ず勝てる日が来るはずだ!!」
その時、俯いている僕の後ろから声が聞こえた。
「ロスティ!!」
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