公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介

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ダンジョン編

73 side フェーイ公主④

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 王国から連絡があった。

 王国の侍従長が忌み子……いや、ミーチャ姫の様子を伺いにやってくるというのだ。

 今回も姿を見せることが出来なかったら、王国との間に亀裂が生じてしまうだろう。

 忌み子とはいえ、王女だからな。

 忌み子とはいえ……。

 侍従長もその辺りはよく理解してくれている気配がある。

 だが、今回も見逃してくれるという保証はない。

 調査隊を送ってみたが、忌み子は見つかったという報告は残念ながら……ない。

 当然、タラスからの連絡もない。

 あいつは一体何をやっているんだ?

 出来れば、誰にも迷惑をかけずにいなくなってほしいものだが……

 まぁいい。

 いないならば、乗り気にはなれないが……偽物を使うしかないな。

「入れ」

 一声掛けると、執務室のドアがゆっくりと開いた。

「お父様……ミーチャ、ただいま参りました」

「うむ……」

 見た目は、なるほど……忌み子そっくりだ。

 中身は公国内で見つけた似た者を使っている。

 といっても忌み子は褐色の肌……公国、いや、王国を探して見つからない。

 目の前の娘は姿形は似ているが、肌の色だけはどうしようもなかった。

 そこで魔道具を使った。

 肌の色だけを再現するものだ。

 そんな魔道具は使い途は一生訪れないと思ったが、なかなかどうして……。

 それにしても中身が違うと分かっていても、忌み子に似た者に父親呼ばわりされるのは、気持ちが悪い。

「よく来たな。さて……」

 忌み子似の娘となんか話したくもないが内容が公国にとって重要なことになるため、人に任せるわけにはいかない。

「お前の役目は王国の王女を演じることだ。分かっているな?」

 娘は頷くだけだった。

 よく教育をしているようだな。

「お前は何も話さなくていい。王国は王女の存在だけ分かればいいのだ」

 娘の目をじっと見つめるが、怯んでいる様子はないな。

 男爵もなかなかいい娘を連れてきたものだな。

 これならなんとかなりそうだな。

「お前の事を確認に来る王国の使者が来るのは暫く先になる。それまでは、この屋敷で王女の行動や仕草を勉強しておけ。よいな? 誰か!! この娘を連れて行け」

 まずは安心だな。

 これで計画は順調に進みそうだな。

 王女を手に入れ、王国の中枢に入り込みさえすれば……

「ん? なんだ? 何か用か?」

 娘は退出をしようとしない。

「あの……ロスティ様はお戻りにはならないのでしょうか?」

 ……何を言っているんだ?

「私……いえ、私の母が病で……医者をロスティ様が呼んでくれて……母はおかげで元気になったので、そのお礼をしたくて……」

 くだらない……そんな事に私の時間を割くとは……本来であれば、娘にはそれなりに罰を与えたいところだが、今は使い途がある娘だ。

「うむ。無能……いや、ロスティか……あやつは国外にを逃亡した犯罪者だ。戻ってくることはないが……そうだな。そのような話があったことを王国に流すくらいは出来よう。それで礼を済ませたことにするといい。それでよいか?」

「はい! ありがとうございます」

 他愛もない。

 この娘も用が済めば、口封じに……

「何をしている? 用が済んだのなら、立ち去るがいい。私は忙しいのだ」

「わ、分かりました……失礼します」

 王国の使者など、本当にわずわらしいな。

「おい、男爵を呼べ」

「お呼びでしょうか」

 相変わらず、風采のない男だ。

 この仕事で出世を狙っているようだが……

「あれの効果はどれくらいなのだ?」

「魔道具の魔石はかなり劣化をしている様子でしたから、もって二週間と言ったところでしょうか」

 二週間……短いな。

「少し心許ないな。使者が来るまで魔道具を消費することを抑えられないのか? 今は無駄遣いをしているわけにはいくまい」

「お言葉ですが、あの娘にはミーチャ姫として遇するようにと……さすがに外見が違えば、周りの者は不審に思いましょう。少しでも真実を知るものは少ないほうが良いかと……」

 そんな者、処刑すれば良いものを……

 まぁよい。使者は一週間後に来る予定だ。

「それで、公主。この件が済みましたら……」

「分かっておる。重用をしてやる。だが、これは極秘の案件だ。話が終わるまでは口外するではないぞ」

「分かっております。それでは私は……」

「ちょっと待て」

「なんでしょうか? 新しい仕事ですか?」

 一週間後に使者が来れば、全ては上手くいく。

 しかし、この事実を知るものが少ないに越したことはないな……。

「男爵はたしか……妻子がいたな?」

「はぁ。も、もしかして、私の妻と娘が何か粗相を?」

 こやつも家族には苦労をしているのか?

 そう思うと同情的にはなるが……。

「いや、そうではない。男爵にはこの屋敷付きになってもらおうと考えていてな」

 男爵は喜色を浮かべ、なにやら妄想が膨らんでいるようだ。

「真ですか!! 侍従か……それとも近衛ですか!?」

 何をバカなことを……

「うむ。まぁ、今は言えぬが重要な役目とだけ言っておこう。そこで家族をこの屋敷に呼んではどうだ? 男爵領はここより遠い。家族と離れるのは、お前とて心苦しかろう?」

「それほどまで……すぐに呼び出しましょう。きっと、妻は喜ぶに違いありません。しかし、娘はどうでしょうか……最近は私の言うことなど聞きませんから」

 だから何だというのだ?

 言うことを聞くかどうかなど、どうでも良いではないか。

 子供など……親の道具に過ぎぬ。

「娘が欲しがるものがあれば、用意しよう。それで懐柔はできぬのか?」

「それならば……実は娘は絵に凝っていまして。道具一式をいただければ……」

 絵か……なかなか面白い趣味だな。

 まぁ、短い人生となる。それくらいは用意してやろう。

「帰りに執事にでも言っておけ。使者が来れば、男爵の人生も一変しよう。今という時間を楽しめ」

「かしこまりした。公主の配慮、痛み入ります。妻子をすぐに呼び出し、私も……」

 まったく……男爵もバカな男だ。

 残りの人生も少ないと言うのに、明るい未来があるように思っている。

 妻子など、こやつが逃げ出さないための人質。

 まとまっていれば処刑もやりやすいというものだ。

 早くこの茶番が終わればよいのだがな……。
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