公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介

文字の大きさ
121 / 142
王都編

121 工房の職人

しおりを挟む
 職人頭から名指しされた職人……いや、職人見習いの新人だった。

 名前はテッド。

 王都出身ということもあって、垢抜けた印象を受けるが、それ以外は至って平凡な感じだ。

 この者に職人頭でも投げてしまった仕事が出来るとは到底思えない。

「すまないな。変なことに巻き込んでしまって……」

 一応、名指しをされ、責任者の女性にも承認されてしまったので、僕達の担当の職人ということにはなってしまったが……。

「いえいえ。私なんかが専属になるだなんて……信じられなくて……」

 まだ、テッドは状況を飲み込めていないので、何を作らされるのかも知らされていない。

 それを知れば、職人頭のように首を横に振るだろうな。

「それで私は何を作れば良いのでしょうか?」

 半ば……いや、完全に諦めの気持ちで指輪を見せた。

「これを作って欲しいだ。知っての通り……」

「ええ。分かります……」

 さすがは王宮お抱えの鍛冶師であることはある。

 新人と言えども、見る目は良さそうだ。

「しかし……これほどのものを私に作れるのでしょうか?」

 それを聞きたいのはこっちの方なんだけどな。

「少なくとも職人頭は出来ないと言っていたぞ」

「そう、ですか……あの……出来るかどうか分かりませんが、やってみてもいいでしょうか? 私はこう見えても『錬金術』のスキルを持っているので……」

 それは驚きだ。

 しかし、確か職人頭も同じ。

 つまり、エリートのような存在なはずだ。

 どうして、こんなに待遇が悪いんだ?

 まぁ、今はどうでも良い話か。

「皆に断られていたところだから、挑戦してくれるだけでも僕達は有り難いよ。だけど、こういった事を頼むのは初めてだから分からないんだけど。どの程度の時間がかかるものなんだ?」

「そうですね……熟練した職人で、やりなれた仕事ということであれば一時間程度ですが、初めての仕事で、難易度が高いものとなれば数日……いや、数カ月必要になるかも知れません」

 数日から数カ月……かなりの幅があるが、すぐに出来るというものではないらしいな。

「ちなみに、この指輪は何が難しいんだ?」

「調整が極めて難しいという話は聞いたことがありますが……もっとも困難なことはレシピがないということですね。この指輪に使われている魔法は、古代の魔法に通ずるものですから、それを理解するための資料が非常に乏しいという現状があるんです」

 ほお。それは面白い話だな。

「理解するための資料というのは、文献みたいなものか?」

「いえいえ。使い手がいないということです。実は魔道具を一番簡単に作る方法があるんですよ。それは使い手の魔法を直接、金属に流し込むという方法です」

 ん?

 ミーチャと目を合わす。

 それって……つまり?

「魔法の使い手が見つかれば、簡単にこの指輪を作ることが出来るってこと?」

「はい」

 なんだろう……ものすごく簡単に解決する方法が見つかってしまった。

 いや、闇魔法使いがいる事自体がありえないのだから、偶然に過ぎないか。

「実はミーチャは闇魔法使いなんだ。変身の魔法も当然に使える。どうだろう?」

「冗談はやめて……えっ!? 本当なんですか? だったら、簡単に出来るはずです!! いえ、多分出来るはずです」

 なんだろう。若干、言葉が弱くなっていないか?

「大丈夫なのか?」

「え? ええ。ただ、頭では分かっているつもりなのですが、実際にはやったことがないので……いや、そもそも『錬金術』スキルを使ったことがほとんどなくて……」

 大丈夫なのか?

 ただ、やってみないと分からないからな。

「ミーチャ。お願いできる?」

「ええ。もちろんいいわよ。でも、どうやればいいの?」

「はい。ええと……実際に魔法を発動させる必要はないです。発動する寸前を維持して頂ければ。あとはこちらで金属に魔力を流し込んで、複写させてもらいますから」

 なんとも『錬金術』とは不思議なスキルだな。

 可能性という意味では無限な感じがする。

 いつしか、『錬金術』というスキルが手に入れることが出来るれば……

 なんてことを考えていると、ミーチャが詠唱を始め、手がほんのりと輝く。

 するとテッドが急にミーチャの手をつなぎ始めた。

 ……我慢できなかった。

 咄嗟にミーチャとテッドの手を離してしまった。

「ちょっと、何をするんですか!」

 さすがに可怪しな行動だった。

 分かってはいるんだが……

「いや、済まなかった」

「もう、次はやめてくださいね」

 だが、次も行動に出てしまった。

 どういうことだ?

 なぜ、こうもミーチャに触れられるのが許せないのだ?

「ロスティ。嬉しいけど……意外ね!! そこの貴方。悪いけど、手袋をしてやってもらえるかしら?」

「えっ? わ、分かりました。どうやら、気が回らなかったようで……」

 次は問題はなかった。

 素手と素手が駄目だったのか?

 自分の感情ながら、不思議なものだな。

 テッドが目を瞑り、ミーチャの手と金属を橋渡しするように、じっとしている。

 おそらく、『錬金術』が発動しているのだろう。

 金属がほのかに光っている。

 あの金属に闇魔法が流れ込んでいるのか……いや、書き込まれているのか。

「ふう」

 テッドが一仕事をしたかのように、深いため息をついた。

 こちらを息を止めていたのか、一緒にため息を漏らした。

「ミーチャ。体に異変は?」

「特にないわよ。それよりも今日は祝杯をしましょうね」

 一体、何の祝杯をするつもりなんだ?

 そもそも、祝杯って毎日するものなのか?

「テッド。どうだったんだ? 成功したかのように見えたけど」

 金属を手に取り、じっと見つめてから、ニヤッと笑った。

 どうやら、成功のようだな。

 なんとも呆気ないものだったな。

 こんなに簡単に出来るなら、ヘスリオの街にもしばらくは行き必要はないな。

 本当に良かった。

「失敗ですね」

 ん?

 聞き間違いか?

「いや、ですから。失敗だと。金属には何の魔法も付与されていませんね。いやぁ、惜しかったなぁ」

 あれ? なんだろう。

 ものすごく殴りたい。

 あっ、ミーチャが殴り掛かるのね。

 一応、止めさせてもらうよ。

 相手は王宮お抱えの人だからね。

「失敗ってどういうこと?」

「言葉の通りですよ。やっぱり、私には技術が足りなかったようです。いや、残念」

 残念と言っておきながら、全く残念な表情をしていない。

「でも、もう一度やったら成功するかもしれません」

 ……それもそうだな。

 テッドは今まで魔道具制作の機会に恵まれてこなかったようだからな。

 もしかしたら……

「ねぇ、ロスティ。そろそろ帰らない? 私、もう飽きちゃったわ」

 三十回目……もう諦めても良いのではないか?

「私にはやっぱり才能がないのでしょうか?」

 テッドは大きく肩を落としている。

 『錬金術』スキルは優秀なスキルのはずだ。

 それでも出来ないのは、熟練度が不足しているのが原因だろう。

「才能があるのかないのは、ともかく。まずは熟練度を上げてみたらどうだ?」

「ロスティさんは簡単に言うんですね。私はここに一年います。それでこの程度なんですよ。熟練度を上げると言っても……」

 どうしたものか……。

 スキルは使えば使うほど熟練度が上達する。

 逆に、その機会に恵まれなければ、熟練度は上達しない。

 そのため、仕事を選ぶときは機会に恵まれるかどうかが重要視される。

 そう言う意味では、テッドはこの仕事は向いていないのかもしれない。

「だったら、仕事を変えてみたらどうだ? 別にここでなければならないということではないだろ?」

 そういうと、ぱっと明るい表情になった。

「ロスティさんは変わったことをいいますね」

 そんなつもりはないんだけど……。

「私のスキルを知れば、誰だって王宮お抱え以上の仕事はないと言うと思いますよ。それ以外の仕事をしろだなんて、言われたこともありませんよ」

「そうかな? 機会に恵まれなければ……」

 テッドに話そうとしたが、ミーチャが帰りたいようだ。

「テッド。また明日にしよう」

 ミーチャと共に工房を離れようとするとテッドに呼び止められた。

「お二人はお腹が空いていませんか?」

 急なお誘いが来た。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

処理中です...