追放鍛治師の成り上がり〜ゴミスキル『研磨』で人もスキルも性能アップ〜家に戻れ?無能な実家に興味はありません

秋田ノ介

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地方コンテスト

第8話 バカの土下座

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装飾部門の開催までしばらく時間がかかる。

鍛冶師部門の最終選考も気になるけど……

「優勝はもう決まっているんだよな」
「どうしたの? お兄ちゃん」

つい、口を滑らしてしまった。

数ある作品の中でひとつだけ、明らかに品質が違うのがあったんだ。

武具は槍だった。

出展数が少ない武具だけど、それでも異様な輝きを放っていた。

だけど、あんなに凄いものを作れるのに製作者は聞いたことがないんだよな。

たしか、製作者は……リリアナ……だったっけ?

凄い武具を見れて、それだけでここに来た価値はあったな……

「てめぇ!! ここにいやがったかぁ」

ああ、面倒なのがやってきたな。

こっちに来ないで欲しい。

「お兄ちゃん、これ、すごく美味しいんだよ」
「へぇ。一つもらえるかな? ……本当だ。しっかりとした味の中に感じる仄かな……ハーブかな?」

これも来た価値に含めてもいいな。

店はしっかりと覚えておこう。

さて……。

僕も準備を……。

「てめぇ!!」

こいつが近づいてきているのを忘れていたな。

胸ぐらをつかむとか、どこのチンピラなんだ?

ちょっとは貴族らしく振る舞ってほしいものだけど…・…。

「やあ、自慢の一品だったのに残念だったね。ベイド……兄さん」
「くっ……てめぇ!」

自分のやったことを棚に上げて、攻める相手を間違えるからこうなる。

「そうそう、アリーシャが剣を失くしたらしいんだ。知らないかな? ベイド兄さん!」
「知るか!! てめぇの……お? いい獣人を連れているじゃねぇか」

なんて、気持ち悪いやつなんだ。

子供のアリーシャを舐めるような目付き……

間近で見ているだけに吐きかけてやりたいほど嫌悪感が出てくる。

「おい。こいつを俺にくれ。それですべて水に流してやるよ」

何をバカなことを言っているんだ?

本当にバカなのか?

いや、バカだバカだと思っていたけど……ここまでバカだとは……。

「いや、アリーシャは僕の……ん?」
「ここで何をやっている……ベイド。それとライルか」

まさか、父上とここで会うとは。

いや、偶然というわけではないか。

公爵はウォーカー家の親貴族だ。

しかも、鍛冶師コンテストともなれば、父上が招待されていない可怪しくはないか。

それにしても、父上……

明らかに怒っているな。

まぁ、理由は考えるまでもないけど。

「ベイド……お前の作品を見させてもらった。あれはどういうつもりだ?」

僕もそれを知りたかった。

腐ってもベイドは『鍛冶師』スキル持ちだ。

しかも、スペシャル級だ。

それなりに鍛錬を繰り返していれば、コンテストでもいい線をいったはずだ。

「いや、あの……なんつうか、調子が悪くて。ほら!! 最近、寝てねぇから本領発揮が出来なかっただけなんだ!!」

なんて、見苦しい言い訳を言っているんだ?

まぁ、僕が言うまでもないか。

「この馬鹿者がぁ!! 鍛冶師の生まれの者が寝不足を理由にナマクラを作るとは何事だ!」
「親父! も、申し訳ありませんでした! 次からは精進し、必ずや期待に添えられるように……だから、廃嫡だけは!!」

廃嫡?

ああ、なんとなく見えてきたぞ。

ベイドから溢れる正体不明の焦りが。

そういうことか。

コンテストで失態をすれば、後継者として認めない……。

そんな感じのことを言われたんだろうな、きっと。

それも鍛冶師貴族としての宿命だからな。

さて、とどめを刺すか。

「今日からまた、修行だ! 分かったな!!?」
「わ、分かりました!」

「いい雰囲気になりかけているところ、悪いんだけど……」

二人の視線が僕に集まる。

父上は僕が何を言うのか、見当もつかないだろう。

一方、ベイドは……。

言わないでくれと父上に見えないように必死に懇願していた。

お前にされてきた仕打ち……忘れていないからな。

僕を下男のように扱って……

殴って、蹴って……

好き勝手やってきた日々が、出ていった時から清算されたとでも思ったのかな?

「ベイド、さっきのコンテストで出していた、僕の剣を返してもらえないかな?」

完璧なタイミングだった。

これ以上ないほどの。

本当にベイドはバカだな。

「どういうつもりだ!! ベイド!」
「いや、あの……」

「僕の剣を盗んだのも、ベイドだろ?」

「盗んだ? 盗んだとはどういうことだ? 事と次第によってはお前の処分を考えねばならない」
「親父ぃ! それだけは……これから心を入れ替えるから!! 頼む!! 許してくれ」

謝る相手を間違っていないかな?

「……僕の剣」
「うるせぇよ!! 今は親父と話してんだ! 引っ込んでろ」

当事者の僕がなんで引っ込まないといけないんだ?

父上も当然のごとく、この状況を理解しているみたいだ。

「まずはライルに謝れ。お前は鍛冶師としてだけではなく、人として間違っている」
「ぐっ……ぐすん。なんで、俺が……」

こいつ、泣いているのか?

なんだろう……・。

心がざわつく……。

胸が苦しい。

「早くしろ!!」
「悪かった……がはっ」

「そうではない。頭をこすりつけて、謝るのだ!!」

さすが、父上だ。

父上に押さえつけられたベイドの頭が土にのめり込み始めている。

「す、すみませんでした」

まただ。

胸が苦しい。

「何をしたのかも、はっきりというのだ!」
「盗みました。獣人に飯をちらつかせて、その隙に。勝てると思ったんです!!」

なんて、くそみたいな……鍛冶師の面汚しとはまさにベイドのことだろうな。

「ライル。今回は面倒を掛けたな」
「いえ。どうせ、捨てるようなナマクラでしたから」

「うむ……コンテストには参加しているのか?」
「ええ。研ぐことしか出来ないので、装飾の方ですけど」

どんなに素晴らしい作品を作れても、結局一から作らなければ、鍛冶師としての価値はない。

父上もどんなにベイドが最悪でも見捨てることは出来ないだろう……。

もっともベイドには地獄のような修行の日々が待っているだろうな。

「応援は出来ぬが、精進せよ」

……ちょっと気になるな。

「ベイドはこれからどうなるんですか?」
「お前には関係のない事……と言いたいが、ベイドには光る才能を感じるのだ。私でも心が動くような剣を未完成とは言え、作れたのだからな」

へぇ……ベイドが。

意外だ。

「修行を積ませ、またコンテストに参加させるつもりだ」

僕もその時までに、自分の剣を作りたいな。

「ではな。私とベイドはここで失礼する。達者でな」
「ええ。父上も」

僕は父上を見送った。

ベイドはとぼとぼとした歩き方で会場を後にしていた。

「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん? なんだい?」

アリーシャは尋ねてきた。

「どうして、そんなに嬉しそうなの?」

だって……

「とっても嬉しいからだよ」
「ふうん」

ベイドが弱っていく姿が気持ち良すぎて……。

胸って痛くなるんですね。
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