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公爵家付き工房

第21話 剣は一級品!!?

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再度、武具屋『ブーセル』を訪れていた。

「持ってきてくれたか?」

妙に緊張感のある親父の顔はいつも以上に汚らしかった。

「はい。でも、本当にこんなものでいいんですか?」
「め、滅相もない。これほどの物を取り扱えるなんて、武具屋冥利に尽きるというか……とにかく、光栄だ」

そんなに褒められるようなものではないと思うんだけど……。

「とりあえず、剣の他に斧と槍を持ってきました」

剣以外でも作れないのかということだったから、試作品のつもりで持ってきたんだけど……

親父の額から自然と汗が吹き出る。

「どれも一級品だ。これを本当にライルさんが?」
「そうですけど……本当にそんな価値が?」

何度言われても……何度見ても……

僕にはナマクラに毛が生えた程度にしか見えない。

それとも僕が間違っているのか?

この街に流れている武具の性能を。

思った以上に低いのかもしれない。

「それで? これはいくらで買い取らせてもらえるのですか?」

……どうしようか。

材料費なんて、たかが知れているしなぁ……。

たしか、前は金貨10枚だったよな?

でも、それはちょっと多すぎか。

……。

「金貨3枚くらいで……どうでしょう?」

これも多いかもしれない。

金貨1枚位にしておくべきだったかな?

「は? 冗談だろ?」

別に冗談を行ったつもりは全く無いんだけど……。

「あ、そうそう。以前の剣……早速売れたから、これがその分の代金だ。もらってくれ。もちろん、我々の儲けは引かせてもらっているぜ」

へぇ、昨日今日で売れるなんて……。

さすがは繁盛店だな。

だけど……随分と重い袋だな。

さては全部、銅貨とか?

……そうか……。

「親父、これ、多すぎじゃないか?」
「そうか? これでも随分と値切られてな。減ったほうなんだぞ?」

いや、これ……金貨100枚以上ないか?

剣一本でこの値段?

前は金貨10枚程度だったのに。

それも元はそれなりの鍛冶師が鍛えた一品だ。

なのに、どうして、僕のナマクラ剣がこんなに高く?

「新品だからだよ。中古はどこまでいっても中古だ。高い値段は付けられない。だが、新品なら話は別だ」

……そういうものなのか?

しかし、急に十倍の値段だなんて……。

「で、どうする? この武器、いくらで買い取らせてもらえる?」

……。

「これと同額……は、流石に無理ですよね?」
「そう、こなくっちゃな。だが、代金は売れてからでいいか? こっちもそんなに金貨を持ってないからよ」

僕は無言で頷いた。

今回持ってきた武器は全部で5本。

つまり……金貨500枚……ということだよね?

そんな大金、とても持って歩きたくない。

「ああ、そうそう。お嬢ちゃんのバイト代だ。受け取ってくれ」

さっきとは比べ物にならないほどの小さな袋だ。

それでも中を覗くと……

金貨10枚が入っていた。

ダメだ……金銭感覚がおかしくなる。

金貨10枚が少なく感じるなんて……

「おう、また持ってきてくれよ」

……どうなっているんだ?

僕の武具はなぜ、こんなに価値があるんだ?

『研磨』に一度しか耐えられないのに……。

……本当にこれでいいのかな?

そんな思いが頭の中でぐるぐると回っていた。

「お兄ちゃん。あれ、食べてもいい?」

どんなときでもアリーシャは変わらないな。

食い気は前に比べて、収まってきたかな?

それでもすごい量を食べているけど。

「ああ、構わないよ。それにほら。給金を渡しておくよ」

親父からもらったバイト代を手渡した。

「やった! これで全種類食べられるかな?」

どれだけ食べるつもりなんだ……。

それだけのお金があれば、最高級店でない限り、出来ると思うぞ?

全く……。

「ほどほどにしろよ」
「うん!!」

なんだか、悩みなんてすっかり無くなってしまった。

そうだな……

僕の作品がお金になるんだから、悩む必要なんてない。

売って、お金を貯めればいい。

鍛えられる武器の内、何本かで複数回の『研磨』を試せばいい。

それでいいんだ……。

無邪気に屋台の食べ物を片っ端から食べ始めたアリーシャに感謝した。

工房に戻り、再び、僕の修行は始まった。

出来上がった数本は親父のもとに……

他は『研磨』の実験台に。

いつか出来るであろう、複数回の『研磨』を夢見て……。

そんな、ある日……

「お兄ちゃん! お姉ちゃんのところに行ってきてもいい?」

お姉ちゃん?

アリーシャにお姉ちゃんなんていたのか?

もしかして……

「家族が見つかったのか?」
「ん? 違うよ。フェリシラお姉ちゃんだよ」

……なんだ……フェリシラ……お姉ちゃん?

なんて、失礼な。

「あの人は公爵令嬢なんだぞ。様を付けないとダメじゃないか!」
「ええっ!! だって、お姉ちゃんがそう呼んでって……ダメ?」

くっ……成長して、さらに強力になった上目遣いの破壊力……。

抗えない……。

「フェリシラ様がそう言っているなら……でも、くれぐれも粗相のないようにな」
「分かっているもん!!」

……なんか、反抗的な感じになってきたな。

あれも成長のせいなのかな?

でも、粗相って意味……分かっているのかな?

僕がアリーシャを見送り、再び、工房で剣を鍛え始めた頃……。

「はぁはぁはぁ。ライル……あなた……隠していたわね!!」

フェリシラ様が息を切らせて、やってきた。

久しぶりにお目にしたけど、随分と体の調子が良くなったみたいだな。

包帯は取れているが、やはり体全体に広がったシミのようなものは消えないのかな?

さて……何のことでしょう?

という疑問よりも前に僕は嬉しかった。

だって、僕が工房に入ってから初めて来てくれたから……。

誘うのはちょっと気が引けていたんだけど……

「どうぞ、中に入って下さい。僕の工房は……」
「そんな事はどうでもいいのよ!!」

な、なんで……

「さあ、教えてもらうわよ」

ぐいぐいと詰め寄ってくるフェリシラ様……

ああ、いい匂いがするなぁ……。

僕は現実逃避していた。

だって……フェリシラ様の顔がとても怖かったから……

僕、何もしていないよね?
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