追放鍛治師の成り上がり〜ゴミスキル『研磨』で人もスキルも性能アップ〜家に戻れ?無能な実家に興味はありません

秋田ノ介

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ダンジョン

第38話 武器選びは慎重に

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グレンコットの武具屋。

鍛冶の街に一件だけあるお店。

店内はさすがというべきか……

領都を凌駕する武具が所狭しと陳列されていた。

フェリシラ様とイディア様は失った武器を探しにやってきたのだが……。

「これ、素敵ですわ。まぁ、これなんか、いつ復刻版が出たのかしら?」

「主人。この店で一番いいのを頼む」
「無茶言わないでくださいよ。金貨5枚で一番いいものだなんて」

各々が商品漁りに夢中になっていた。

僕はと言うと……。

「やっぱり、分からないな。いい武器だっていうのは分かるんだけど」

アリーシャの短剣をじっと眺めていた。

刀身が光加減で様々な色に輝く……。

そんな不思議な短剣である以上の情報は得られなかった。

「もう一度、研いでもいい?」
「……イヤです」

なんか、傷つくなぁ。

まぁ、無理もないか。

イディア様の剣をナマクラにしたところをはっきりと見られたしなぁ。

「ありがとう。アリーシャ。ところで、アリーシャも何か買っていくか?」
「うん!! あれ!!」

武具の間にあった小さな陳列棚を指差していた。

……包丁か。

しかも、結構高いな。

まぁ、いいか。

「どれでもいいぞ。好きなのを買っても。だけど、持って歩くのはダメだぞ。帰りに取りに来るんだ」
「うん。じゃあねぇ……これ!」

随分と刃渡りの長い包丁だな。

「すみませぇん。これ、ください」
「はいよ。金貨3枚ね」

包丁一本で金貨3枚か……。

「ねぇ、お兄ちゃん。これも、ダメ?」

……やめてくれ。

その上目使いは……。

僕は震える指でもう一本の包丁を指差した。

「これも頼む」
「はいよ。良かったね。いいお兄ちゃんで」

「うん! あとね……これも……いい?」

もう好きにしろ!!

「金貨10枚。それ以上は買わないからな!!」
「ありがとう!! お兄ちゃん!!」

財布から金貨10枚を取り出して、アリーシャに手渡した。

まったく……いつの間にか成長しやがって。

金貨10枚って言ったら、給料3ヵ月分だぞ。

それを包丁だけで使うだなんて……。

ん?

これは……。

魔石入りの砥石だ。

フェリシラ様からもらった……金貨100枚、だと?

そんなバカな。

砥石の値段ではない。

しかも、貰ったものより小さいではないか。

そうなると……。

僕は胸に吊るしてある砥石を見つめた。

金貨100枚以上の値段ってことだよね?

僕は戦慄を覚えた。

恐ろしい……公爵令嬢の金銭感覚が恐ろしい。

この小石にさらっと金貨100枚以上を支払うとは。

ちょっと、待て。

アリーシャが折った杖も実は物凄く高価な物ではないだろうか?

恐ろしい……聞くのが。

「お客さん。何か、お探しですか?」

む? 店員か。

「いや、特には……でも、そうだな。剣を見せてもらえないかな?」
「へ? ああ、こちらにどうぞ」

なんだ、あの驚きの顔は。

まぁいいか。

「こちらです。ちなみにお客さんは鍛冶師ですよね? 剣を扱うのですか?」

ん?

「どうして、僕が鍛冶師だと?」
「いえ、砥石を夢中で見ていたのを見て。もしかして、違いましたか?」

なんだか、嬉しいな。

他の人から鍛冶師だと思われるのがこんなに嬉しいことだとは知らなかったよ。

「鍛冶師と名乗るには恥ずかしいほど、駆け出しですが」
「そうですか、そうですか。一応、ここにあるのが当店で一番出ている商品となります」

ふむ……。

どれもが輝きを放ついい剣だ。

だが、一つだけ気になるのがある。

「これは?」
「ああ、それはあまりオススメはしません。職人は魔道具が本業、剣作りは副業と言った感じの方で。あまり品質が良くないのです」

剣を手にとると……。

確かに剣は重いし、重心の位置が悪い。

それに輝きが他の商品に比べて、すこし濁っているように見える。

だけど……魅力的な商品なんだよな。

『大特価 金貨3枚→銀貨5枚』

めちゃくちゃ安い。

これを『研磨』で強化すれば、使い物になるだろう。

「これ、ください」
「本当によろしいのですか?」

アリーシャにお小遣いをあげちゃったからね。

ちょっとでも節約しないと……。

それに……他人の作った剣に大金を使おうという気分にはならないよな。

「あら? ライルも買ったのですか?」
「ええ。イディア様に叩き割られてしまいましたから……」

僕はキッとイディア様を睨みつけた。

「許せと言っているだろ。私も悪気はなかったのだ」

悪気がなくて、剣を折られてたまるか!

「じゃあ、行きましょうか。たしか、魔女の館ですよね?」
「魔女と言うな!! 領主様か、ベローネ様と呼べ!」

……相手は王国の賓客……。

「申し訳ありませんでした。では、ベローネ様、の屋敷に行きましょうか」

「そう、畏まらなくてもいいぞ?」

この人、なんだか、とっても面倒くさいな。

「あ、お兄ちゃん。もう、行くの?」
「ん? ああ、アリーシャの買い物は終わったのか?」

この笑顔からするといい買い物が出来たんだな。

「包丁5本、買えたよ!!」

ん?

計算が合わないな。

金貨10枚を軽く超えるんじゃないか?

「おじさんにお願いしたら、すごく値引きしてくれたんだよ」

……遠目でも分かる。

店員の苦笑いした顔がこちらを見ていたのを。

「そうか、それは良かったな。ちゃんと預かってもらうように頼めたのか?」
「うん。帰りに取りに来るって言ったら、いつでも来ていいよって」

そうか……。

アリーシャ……この年でそこまでの魔性性を帯びているのか。

将来が恐ろしいな。

僕はここで大いに学んだ。

剣は大特価に限る、ということ。

公爵令嬢の金銭感覚はおかしい、ということ。

エルフはケチ臭い、ということ。

アリーシャは……買い物上手、ということ。
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