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第258話 フェンリルのロンロ
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今回の北の街サノケッソに向かうのは、王国軍の動きから兵を北に向けているからではないかという懸念から砦建設を急ぐためのものだった。そのため、できるだけ早く現地に到着しなければならない。今のところ、王国軍に関する情報が入ってきていないから、北の街へは接近していないようだが。
急行するために同行するものを選ぶのが難しかった。なにせ、100キロメートルほどの距離を走破しなくてはならない。単純に嫌がるものが出てくるのだ。まずは、吸血鬼の二人。ミヤとシラーだ。シラーはともかく、ミヤは難航するかと思った。しかし、意外にも簡単に同意して、同行してくれるみたいだ。理由を聞くと、ガムドから聞いた温泉に浸かるのがこの上なく最高だという話を聞いたからのようだ。
ミヤらしくて、つい笑ってしまった。あとは、ハトリが付いてくると言っていた。しかし、付いてこれるのだろうか? という一抹の不安はあった。僕はフェンリルに騎乗し、ミヤとシラーは走ってでも追いつくことができる。それは吸血鬼という高い能力があって実現することが出来ることだ。その点ハトリは人間としては能力が高いと言っても限界はある。
一層のこと、もう一頭のフェンリルを連れて行ってもいいかも知れない。正直、ハトリが側にいてくれると助かるのだ。忍びの里から絶えず情報がもたらされているのだが、僕が直接受け取ることが出来ないようになっている。そのため、忍びの里からの情報を得るためにはハトリの存在が不可欠なのである。
なるべく急いで向かいたいのと情報も欲しいという二つを叶えるためにもやはりフェンリルを一頭連れて行こう。使役魔法でハトリを使役者と指名すれば、フェンリルも従ってくれるだろう。僕はハトリを呼び出した。相変わらず、屋根裏に潜んでいたみたいで部屋の隅の天井が動き、見事な動きで降りてきた。最近はその動きに感動が出なくなってきて、開いた天井を降りる時に閉じてくれないかな、と考えてしまう。
「ハトリ。お前が北の街に僕に従って行動するというが、正直に答えてくれ。ハヤブサに付いていける自信はあるか?」
ハトリは悔しそうな顔を滲ませて、首を横に振った。それはそうだろう。僕がハヤブサに乗って移動する時、必死な形相で後をついてきているのを知っているからだ。大抵は急いでいることはないので速度を落として移動するのだが。
「正直に言ってくれて助かる。そこで、お前に専属のフェンリルを一頭渡そうと想っている。今後、移動にはフェンリルを使ってくれ。どうだ?」
ハトリにとってはフェンリルは荷物になるかも知れないが急ぎの用がある度にフェンリルを用意するわけにはいかないのだ。それはフェンリルの性格による。とにかく、最初に主と決めた者以外には従う気が一切ないのだ。ハトリには我慢してもらうしかない。ハトリも下を向いて震えている。自らの非力さを認めなければならないのだ。相当悔しいのだろう。僕はハトリの肩を叩き、慰めようとした。ハトリはガバッと顔を上げた。泣いていると思っていた顔だが、ものすごい笑顔なんだが。
「本当にフェンリルをオレにくれるのか!? ありがとう!! そんなにオレのこと認めてくれるんですね」
どういうことだ。認めてはいるつもりだが、そういうつもりでフェンリルを渡すわけではないのだが。どうやら、忍びの里では成人した大人で、かつ功績が優れたものしか騎乗を許されないらしい。馬とフェンリルという違いはあるが、騎乗用の相棒を与えられることにハトリは喜びを感じているのだろう。まぁ、喜んでいるから便乗しておくか。
僕は当然だ、とばかりに頷いた。
「フェンリルを与えるのだ、それだけ期待していると思えよ」
「はいっ!!」
ハトリの純真な目がとても心に突き刺さる。よ、よしっ。すぐにフェンリルを一頭、使役しに行こう。僕とハトリはハヤブサと共にフェンリルの住処に向かった。最近まではフェンリル達の仕事は何もなかったのだ。魔の森の畑の護衛が無くなってしまったから。しかし、ゴムノキを定植したことによって、再び仕事を与えることが出来たのだ。
「ハヤブサ。すまないが、ハトリに与える一頭を選んでくれ」
ハヤブサはハトリをじっと見つめる。その目つきにハトリは怯えた様子を見せながら、なんとか目を逸らさないように必死になっている。ハヤブサがハトリから視線を外し、住処に潜って行った。どうやら、認めてくれたのだろう。すると、ハヤブサは小さめのフェンリルを連れてきた。ハヤブサからすれば頭一個分くらい小さい。
「主。小僧には小僧がいいだろう。このフェンリルは生まれてからそう時間は経っていない。共に暮らし成長していけば、面白くなる。さあ、使役魔法を」
僕は頷き、ハトリにこの小さなフェンリルの名前を決めさせた。ハトリは、小さなフェンリルの近づきじっと顔を見つめていた。ハトリは決めたようだ。僕はハトリから聞いて、頷いた。
使役魔法を使い、小さなフェンリルに淡く光が身をまとい始めた。使役者はハトリ、名前はロンロ。これで、フェンリルのロンロはハトリに従属するだろう。ロンロはハトリにすぐに懐いたようで顔を擦り始めた。しかし、これだけではダメだ。魔の森以外では乗れないからだ。僕は鞄から赤い宝石である魔石を取り出し、ロンロの口元に近づけた。不審がって口に入れようとしなかったが、ハヤブサが声を発すると慌てた様子でロンロは魔石を口にした。すると、赤い光が一瞬ロンロの体を包むと、ペッと小さくなった魔石を吐き出した。この感じだと、この魔石でもう一頭は使えそうだ。
僕の魔力で作られた魔石ではフェンリルだと三頭分か。これから魔獣を物流に使うとなると……凄い時間がかかりそうだな。ハイエルフのリリが言うには、一つ作るのに一ヶ月はかかると言う。一ヶ月で三頭。一年でも約四十頭か。とても物流を満たすだけの数を用意することはできそうにないな。やはり、あの魔石を入手する方法を試すしかないだろう。
僕はハヤブサにお礼を言って、帰り際にククルに一頭を持って帰ることを告げると、ククルはハトリを羨ましそうにしていたのだった。いつかは、ククルにも魔獣を送ってやりたいものだ。これで、出発ができそうだな。僕とハトリはフェンリルにまたがり、屋敷へと戻った。屋敷ではすでに出発の準備が終わっていたようで、ミヤが優雅にコーヒーを飲みながら時間を潰していた。
「ようやく帰ってきたわね。もう出発するんでしょ?」
僕は頷き、エリス達にしばらくの別れを告げ、北の街サノケッソに向け出発した。まずは、忍びの里に向けて出発だ。忍びの里まではラエルの街から30キロメートルほど。村からラエルの街までも30キロメートル。フェンリルに乗った僕とハトリ、ミヤとシラーは瞬く間に駆け抜け、一時間程度で忍びの里に到着した。ここからはハトリの案内が必要だ。僕達はハトリに付いていくと、懐かしい風景が広がっていた。そこには、長老のゴモンが出迎えにやってきた。
「お早い到着でしたな。我らの情報網を突き破る早さ、お見逸れ致しました。それにハトリに素晴らしい獣を送ってくださったことを感謝いたします。いかがでしょう、お急ぎとは存じておりますが、耳にいれたいことがございますから休憩などなさっては?」
僕は頷き、長老の後を追った。ほお、オコトの言っていたことは本当だな。里の女性の美しさは目を見張るものがあるな。なぜ、前に来た時に気付かなかったのだろうか。術とはいえ、信じられぬことだ。僕は女性の姿に目を奪われているとミヤが僕の足を踏んづけてきた。
少し見つめすぎていたか。どうもここは日本の風景ににているせいで、住んでいる者たちも日本人に見えてしまう。見た目は全然違うのだが、懐かしさがこみ上げてしまうのだ。
長老の家に到着して、ミヤとシラーには寛げる場所と食事が提供され、僕と長老で話をすることになった。ハトリは僕の横に座り、護衛をすることを忘れていないようだ。長老もハトリの態度には満足しているようで、小さく頷いていた。
「さて、先程入った情報だが、王国軍の動きについてじゃ。どうやら、王国内では王弟の権力を盤石にするための動きが活発になっているようじゃ。特に北の諸侯たちへの牽制が強くなっているな。もしかしたら、近い将来、その辺りで戦が起きるやも知れぬな」
王国軍の情報が久々に入ったと思ったら、戦の話だった。僕は更に詳しく長老から話を聞くことにした。その戦の火種がこちらに着かなければよいのだが。
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ミヤらしくて、つい笑ってしまった。あとは、ハトリが付いてくると言っていた。しかし、付いてこれるのだろうか? という一抹の不安はあった。僕はフェンリルに騎乗し、ミヤとシラーは走ってでも追いつくことができる。それは吸血鬼という高い能力があって実現することが出来ることだ。その点ハトリは人間としては能力が高いと言っても限界はある。
一層のこと、もう一頭のフェンリルを連れて行ってもいいかも知れない。正直、ハトリが側にいてくれると助かるのだ。忍びの里から絶えず情報がもたらされているのだが、僕が直接受け取ることが出来ないようになっている。そのため、忍びの里からの情報を得るためにはハトリの存在が不可欠なのである。
なるべく急いで向かいたいのと情報も欲しいという二つを叶えるためにもやはりフェンリルを一頭連れて行こう。使役魔法でハトリを使役者と指名すれば、フェンリルも従ってくれるだろう。僕はハトリを呼び出した。相変わらず、屋根裏に潜んでいたみたいで部屋の隅の天井が動き、見事な動きで降りてきた。最近はその動きに感動が出なくなってきて、開いた天井を降りる時に閉じてくれないかな、と考えてしまう。
「ハトリ。お前が北の街に僕に従って行動するというが、正直に答えてくれ。ハヤブサに付いていける自信はあるか?」
ハトリは悔しそうな顔を滲ませて、首を横に振った。それはそうだろう。僕がハヤブサに乗って移動する時、必死な形相で後をついてきているのを知っているからだ。大抵は急いでいることはないので速度を落として移動するのだが。
「正直に言ってくれて助かる。そこで、お前に専属のフェンリルを一頭渡そうと想っている。今後、移動にはフェンリルを使ってくれ。どうだ?」
ハトリにとってはフェンリルは荷物になるかも知れないが急ぎの用がある度にフェンリルを用意するわけにはいかないのだ。それはフェンリルの性格による。とにかく、最初に主と決めた者以外には従う気が一切ないのだ。ハトリには我慢してもらうしかない。ハトリも下を向いて震えている。自らの非力さを認めなければならないのだ。相当悔しいのだろう。僕はハトリの肩を叩き、慰めようとした。ハトリはガバッと顔を上げた。泣いていると思っていた顔だが、ものすごい笑顔なんだが。
「本当にフェンリルをオレにくれるのか!? ありがとう!! そんなにオレのこと認めてくれるんですね」
どういうことだ。認めてはいるつもりだが、そういうつもりでフェンリルを渡すわけではないのだが。どうやら、忍びの里では成人した大人で、かつ功績が優れたものしか騎乗を許されないらしい。馬とフェンリルという違いはあるが、騎乗用の相棒を与えられることにハトリは喜びを感じているのだろう。まぁ、喜んでいるから便乗しておくか。
僕は当然だ、とばかりに頷いた。
「フェンリルを与えるのだ、それだけ期待していると思えよ」
「はいっ!!」
ハトリの純真な目がとても心に突き刺さる。よ、よしっ。すぐにフェンリルを一頭、使役しに行こう。僕とハトリはハヤブサと共にフェンリルの住処に向かった。最近まではフェンリル達の仕事は何もなかったのだ。魔の森の畑の護衛が無くなってしまったから。しかし、ゴムノキを定植したことによって、再び仕事を与えることが出来たのだ。
「ハヤブサ。すまないが、ハトリに与える一頭を選んでくれ」
ハヤブサはハトリをじっと見つめる。その目つきにハトリは怯えた様子を見せながら、なんとか目を逸らさないように必死になっている。ハヤブサがハトリから視線を外し、住処に潜って行った。どうやら、認めてくれたのだろう。すると、ハヤブサは小さめのフェンリルを連れてきた。ハヤブサからすれば頭一個分くらい小さい。
「主。小僧には小僧がいいだろう。このフェンリルは生まれてからそう時間は経っていない。共に暮らし成長していけば、面白くなる。さあ、使役魔法を」
僕は頷き、ハトリにこの小さなフェンリルの名前を決めさせた。ハトリは、小さなフェンリルの近づきじっと顔を見つめていた。ハトリは決めたようだ。僕はハトリから聞いて、頷いた。
使役魔法を使い、小さなフェンリルに淡く光が身をまとい始めた。使役者はハトリ、名前はロンロ。これで、フェンリルのロンロはハトリに従属するだろう。ロンロはハトリにすぐに懐いたようで顔を擦り始めた。しかし、これだけではダメだ。魔の森以外では乗れないからだ。僕は鞄から赤い宝石である魔石を取り出し、ロンロの口元に近づけた。不審がって口に入れようとしなかったが、ハヤブサが声を発すると慌てた様子でロンロは魔石を口にした。すると、赤い光が一瞬ロンロの体を包むと、ペッと小さくなった魔石を吐き出した。この感じだと、この魔石でもう一頭は使えそうだ。
僕の魔力で作られた魔石ではフェンリルだと三頭分か。これから魔獣を物流に使うとなると……凄い時間がかかりそうだな。ハイエルフのリリが言うには、一つ作るのに一ヶ月はかかると言う。一ヶ月で三頭。一年でも約四十頭か。とても物流を満たすだけの数を用意することはできそうにないな。やはり、あの魔石を入手する方法を試すしかないだろう。
僕はハヤブサにお礼を言って、帰り際にククルに一頭を持って帰ることを告げると、ククルはハトリを羨ましそうにしていたのだった。いつかは、ククルにも魔獣を送ってやりたいものだ。これで、出発ができそうだな。僕とハトリはフェンリルにまたがり、屋敷へと戻った。屋敷ではすでに出発の準備が終わっていたようで、ミヤが優雅にコーヒーを飲みながら時間を潰していた。
「ようやく帰ってきたわね。もう出発するんでしょ?」
僕は頷き、エリス達にしばらくの別れを告げ、北の街サノケッソに向け出発した。まずは、忍びの里に向けて出発だ。忍びの里まではラエルの街から30キロメートルほど。村からラエルの街までも30キロメートル。フェンリルに乗った僕とハトリ、ミヤとシラーは瞬く間に駆け抜け、一時間程度で忍びの里に到着した。ここからはハトリの案内が必要だ。僕達はハトリに付いていくと、懐かしい風景が広がっていた。そこには、長老のゴモンが出迎えにやってきた。
「お早い到着でしたな。我らの情報網を突き破る早さ、お見逸れ致しました。それにハトリに素晴らしい獣を送ってくださったことを感謝いたします。いかがでしょう、お急ぎとは存じておりますが、耳にいれたいことがございますから休憩などなさっては?」
僕は頷き、長老の後を追った。ほお、オコトの言っていたことは本当だな。里の女性の美しさは目を見張るものがあるな。なぜ、前に来た時に気付かなかったのだろうか。術とはいえ、信じられぬことだ。僕は女性の姿に目を奪われているとミヤが僕の足を踏んづけてきた。
少し見つめすぎていたか。どうもここは日本の風景ににているせいで、住んでいる者たちも日本人に見えてしまう。見た目は全然違うのだが、懐かしさがこみ上げてしまうのだ。
長老の家に到着して、ミヤとシラーには寛げる場所と食事が提供され、僕と長老で話をすることになった。ハトリは僕の横に座り、護衛をすることを忘れていないようだ。長老もハトリの態度には満足しているようで、小さく頷いていた。
「さて、先程入った情報だが、王国軍の動きについてじゃ。どうやら、王国内では王弟の権力を盤石にするための動きが活発になっているようじゃ。特に北の諸侯たちへの牽制が強くなっているな。もしかしたら、近い将来、その辺りで戦が起きるやも知れぬな」
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