爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第291話 模擬戦 初日

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 今回の模擬戦は、二つの軍の実力を図るために行われるものだ。三日間に渡り、平原戦、森林戦、そしてどちらも合わせた複合戦ということだ。二日間は、戦場を限定して行われるため戦術を立てづらく、兵科の選択が勝敗を大きく分ける結果となるだろう。一方、最終日は戦場を限りなく広く取り、戦術を駆使した戦いとなる。これはお互いの兵科の特徴を熟知し、うまい戦術で相手を出し抜いたほうが勝者となる。

 元公爵家軍は、すでに完成された軍と言え、ニード将軍とイハサ副官を中心とした精鋭が揃っているため、勝利について些かの不安もない印象だ。一方で公国軍と言えば、つねに新規の兵を加えている新造の軍隊という印象は拭えない。そのため、兵士の練度はライルの猛特訓を経験しているとは言え、練度という点ではどちらの軍に軍配が上がるかは明白だ。

 ただ、公国軍の武器は遠距離攻撃のクロスボウが主体となっているため、練度不足を補足しているということがある。そのおかげで、度重なる王国軍の猛攻を耐え忍べていたということだろう。そのため、僕の予想では遠距離攻撃を得意とする公国軍は平原戦を勝利するだろうと踏んでおり、森林戦では元公爵家軍が剣槍隊を十二分に駆使をし勝利を収めるだろう。そうなると、最終日こそがもっとも面白く、予想がつきづらい戦いとなるだろう。

 模擬戦に参加する両者の軍には五千人ずつ割り振られておる。初日の平原戦は砦前に広がる平原で執り行われることとなった。僕は、砦の物見櫓に登っての観戦となる。一応、僕からも見やすいようにと、ライル軍には青い服を来てもらい、ニード軍には赤い服を来てもらうことにしてある。その短期間でよく揃えられたものだと感心したが、どうやら軍服として作られたものでかなりの数がすでに用意されていたようだ。ちなみに、兵科によって色を変えるという試みらしいが、僕からすれば色は統一したほうがいいのではと思う。まぁ、それをライルにぼそっと言ったら、すごくショックを受けていたみたいだけど。

 模擬戦が始まる前には一定の距離をとったうえでの試合開始ということになっている。すでに両者の差が大きく見て取れる。元公爵家軍は流石と言える。整然と並んだ兵士達が一糸乱れぬ行進を続けている。一方、ライル軍の方は、残念ながら整然とは言えない状態だ。ひと塊にはなっているが、どうもまとまりがない。始まる前だから、緊張感がないからだろうか? 

 平原戦は身を隠す場所がないから、簡単に終わってしまうだろうな。開始される前に、僕は後ろに控えていた吟遊詩人に声をかけた。

 「もう少しで始まる。この模擬戦の模様は是非とも公国民に知らしめてやりたいのだ。しっかりと目に焼き付けてくれよ」

 すると、数人いる中で一人だけが僕の言葉に反応した。どうやら、この中でリーダはこの人なのだろうな。それにしても目だけが出てて、顔を大きく隠しているのは吟遊詩人の独特な恰好なのだろうか。他の吟遊詩人も同様の格好をしている。

 「イルス公。私は、オリバと申します。まずは、我々の仕事をよく理解していただいて、このような素晴らしい場所に招待してくれたことをお礼を申し上げます」

 ん? 声が明らかに女性のものだが。

 僕が不思議そうな顔をしていると、オリバが気づいたのか頭巾を取り外した。僕はハッと思うほどに美しい女性が姿を現した。栗色の少しカールのかかった髪に、少し青みがかった瞳をしていて、肌がやや黒い美しい女性だった。しかし、何故、美しい姿を覆い隠しているのだろうか?

 「それは、私達の仕事に関係しています。吟遊詩人というのは、常に放浪の旅を続けています。方々で私達の歌を広めるためです。しかし、その分、女と言うだけで軽んじられたり、体に危険が迫ることが多いのです。そのため、なるべく顔を隠し、女であることを周囲に知られないようにしているのです。ただ、イルス公の前で頭巾を取り外さなかった事をお詫びいたします。普段から外さないものですから、つい……」

 少しはにかんだオリバの表情はとても女性らしく感じたが、オリバはすぐに頭巾を付けてしまった。もうちょっと見ていたかったが、仕事の時は必ず付けるのを信念にしていると言われたら、何も言い返せなかった。

 さて、少し脱線してしまったな。オリバと話している間に、両軍とも準備が出来たようだ。両軍とも、陣形らしいものはなく、整列しているだけのものだ。これからどのような戦いが見られるか楽しみだな。合図は僕が出すようだ。側にいた自警団に僕は開始の合図をするように命ずると、どこから持ってきたのか大きな銅鑼を勢い良く叩かれた。これで模擬戦は開始された。

 最初に動いたのは、ライル軍だ。クロスボウ達による一斉射撃の態勢が取られた。五千人のクロスボウによる一斉射撃だ。ニード軍もひとたまりもあるまい。それに対し、ニード軍の取った行動はなんと、大楯隊を前に出したのだ。隠していたのか!! これはライル軍には予想外の展開だろう。

 中軍にいた大楯隊は前面に展開して、ライル軍の一斉射撃を耐えていた。こうなると、ライル軍には攻撃をする手段がなくなってしまうな。さて、どうなるか。ニード軍は大楯隊を前面に出しながら、前進を開始した。五千人の兵が大楯隊の真後ろにひっつくように行進していく。ライル軍は、一斉射撃の無意味を悟ったのか、すぐに移動を開始した。なんと、軍を三軍に分け、ニード軍を取り囲む戦法に出たのだ。なるほど、これならば大楯隊のない側面に攻撃を加えることが出来るというわけか。

 ニード軍はそれでも前進をやめず、両軍は肉薄するほどの距離となった。ライル軍の別れた両翼の軍はすでにニード軍の側面に迫りそうだ。すると、ニード軍の動きが変わった。なんと、大楯隊が二つに割れ、側面にまわり始めたのだ。そして、中軍に位置する一軍が一気にライル軍の中軍めがけて突撃を開始した。

 ライル軍は、ニード軍の突撃に動揺した様子で、両翼の軍がニード軍の側面に攻撃を加えるか、中軍に救援を送るかで迷っていたのだ。ニード軍がこれを見逃すはずはなく、取り囲んでいるはずのライル軍に対して、ニード軍は、全方位に攻勢を仕掛けたのだ。これが決定的となり、ライル軍は混乱、ついにライル自身が撤退するという事態となり、勝敗は決した。

 ニード軍には損害らしい損害もなく、一方的な勝利だった。僕はライル軍の優勢は覆らないだろうと思っていたが、端緒から劣勢に追い込まれるという信じられない光景が目の前で繰り広げられていた。これが、ニード軍の強さなのかと思い、これが敵に回っていたかと思うと背筋が冷える思いがした。僕は自警団に終わりの合図をするように命じ、開始とは違い、二度の銅鑼が鳴り響いた。

 僕は、オリバの方を振り向いた。オリバはなにやらぶつぶつと言っている様子で、僕が見ているのに気付かない様子だ。オリバの後ろにいた他の吟遊詩人がオリバに合図を送って気付く始末だ。

 「申しわけありません。実は、このような戦いの現場を見たことがなくて、些か興奮してしまいました。しかし、そのおかげで良い歌が思いつきました。祭りで歌えるのが実に楽しみです」

 それはよかった。僕は頷き、物見櫓を降りていった。砦の入り口にはすでに両軍が集まり始めており、ライルとニード、イハサが門前で待機していた。三人は僕が現れるとすぐに膝を曲げ、臣君の礼を取り始めた。僕は三人を見て、それから後ろに控えている兵士達を眺めた。

 「ライル、ニード、イハサ、そして兵士諸君。初日の模擬戦は非常に有意義であった。見ていた僕も興奮をしてしまった。しかし、負けてしまったライル軍には大いに反省点もあるだろう。是非、明日の森林戦では面目躍如の働きを期待したい。そして、ニード軍の強さは驚くべきものだ。さすがは、元北部諸侯の精鋭というだけはある。明日も鬼神のような強さを見られることを期待しているぞ。今日はゆっくりと休んで欲しい。そして、怪我人がいれば砦内の救護室に連れてきてくれ」

 僕が話し終わると、三人は一礼して怪我人の搬送を始めだした。初日から、予想外の展開だけに明日からも本当に期待できそうだな。

 僕は怪我人を見るために、救護室に向かった。ここで吟遊詩人のオリバとも別れる予定だったが、なぜか僕に付いてくると言って別れようとしないのだ。理由を聞くと、不思議そうな顔をしていた。

 「なぜと言われましても困ります。我々の仕事は、イルス公の偉業を津々浦々まで伝えることです。イルス公に密着し、その偉業を見届けることが使命と思っております。ですから、今後共、常に側に寄らせてもらいます。もし、この人数が不満というのならば、私だけでもどうか」

 初めて聞いた話で僕も困っているんだけど。オリバは付いてくる気満々だし、僕としても特に見られてはいけないものという訳でもないから、止めるのも気が引けるな。とりあえず、今回はオリバだけにしてもらうか。怪我人がいるのに、大勢で行くのも憚られるからな。僕がオリバにそのように告げると、抱きつかんばかりに密着して感謝をしてきた。頭巾をしているから大丈夫だが、中は美人な女性なんだよな。すると、僕の背中に冷たいものが流れた。

 僕が振り向くと、そこには冷たい目線を向けてくるシラーがいた。僕が目線を合わせてもひたすら無言を貫き、かなり怖い表情を浮かべていた。オリバのせいで、何か一騒動ないといいが。

 僕はオリバと共に救護室に向かった。しかし、そこにはたった一人しかいなかった。しかも、戦いの最中ではなく、前々から負っていた怪我がすこし悪化したからだというのだ。これならオリバに見せるようなものはなさそうだな。

 とりあえず、気を取り直して、僕は夕方からの祭りに思いを馳せた。久しぶりの祭りだ。実に楽しみだな。
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