爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第292話 模擬戦後の祭り

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 模擬戦の観戦を終えた僕は、ライル達に別れを告げ、砦を後にした。別れ際に見たライルは敗戦が相当堪えたのか、明日の森林戦に全精力を費やすように地図を見つめていたのが印象的だ。一方、勝利をしたニード達は気楽なものだ。なにせ、森林戦は絶対的に長距離攻撃が不利となる場所だ。相手に矢を当てるためには、接近戦に持ち込まなければならず、クロスボウ隊の大きな弱点だ。そのため、ニード達は流石に祭りには参加しないようだが、浮かれているのが分かるほどだ。僕も、明日の森林戦はニード軍有利という見方は変えられないな。

 砦を出たときも、オリバはずっと僕の側を離れずに行動を共にしている。それを刺すように見るシラー。マグ姉やミヤだったらきっと、物怖じせずに言ってくるんだろうなと思い、シラーで良かったと心から思った。オリバもそんなに僕に接近しなくてもいいだろうに。いい歌を書くためです、と一点張りのため、暖簾に腕押し状態だ。

 会場に着くと、まだ早いせいか人もまばらだ。基本的には、祭り会場を設置している人達で、後は見学に来ている人達と言った感じだ。僕が広場を作った時は、まわりに柵を設けただけの簡単な場所だったが、今は草もきれいに刈り取られ、テントがいくつも建って祭りの会場の雰囲気をすでに醸し出していた。見渡せば、酒の樽が山積みとなっており、大酒飲みが何人も現れても大丈夫なほどだ。今回は、酒豪の身内は不参加のため、ここに積まれている酒は住民の胃袋にしっかりと行き渡ってくれるだろう。

 そういえば、シラーもいたが彼女は我慢をすることができる数少ない身内だ。といっても、祭りに酒無しは可哀想だ。あとで魔酒の樽でも差し入れしてやろう。僕がシラーを見つめていると怪訝そうな顔をしていた。

 「ロッシュ様。私の顔を見つめて、どうかしたのですか?」

 なんか、刺々しい感じがする気がするな。それとも、僕の勘違いか?

 「シラーはいつもかわいいなと思っていただけだ」

 「何にか誤魔化そうとしていませんか? でも、嬉しいです。そういうのは、ベッドの上でお願いします」

 いやいやいや、そういうことはさ、オリバのいないところで言おうよ。オリバも目が凄いギラッとしたよ。ん? シラーが笑っている……まさか、わざとか。やはり、シラーはオリバに対して何かを腹に抱えているようだな。でも、気にしないことにしよう。僕はシラーの言葉に笑って誤魔化した。

 僕は祭開催の本部に向かった。そこには、祭りに関わる者たちが集まっていた。当然、カーリとソローク母子がおり、ゴードンもいた。他にも、元連合貴族の妻や子女達が話し合いをしたり、地図を眺めていたり、寛いでいたりと各々別行動を取っていた。僕が本部があるテントに入ると、一斉に皆が僕の方に振り向き、立ち上がると挨拶をしてきた。なにやら、皆の連携のようなものが出来ていて良い雰囲気が漂っている。

 「皆のもの。先に祭りの会場を一巡させてもらった。とても短い時間で仕上げたとは思えないほどだった。まだ始まってもいないが、楽しくなることが容易に想像できるほどだ。本番が楽しみでしょうがないな。そして、今回の祭りに際して、代表を決めたいと思っている。ソローク、お前に任せようと思う」

 ソロークは首を傾げ、なぜ自分が? という表情を浮かべていた。本来であれば、横にいるゴードンが妥当だろう。しかし、ソロークにはゴードンから様々なことを学ぶことが有意義であると思うのだ。そのためには、役職を与え、一定の責任を与えることがもっとも本人の成長を促すことができる。少々、任命が遅くなったが、これほどの祭りを準備できると分かっていたら、もう少し早くすることが出来ただろう。

 「ソローク。どうだ、やってみるか?」

 「も、もちろんです。私にそのような大役を与えてくださるとは。光栄の極みです」

 「そんなに大袈裟なものではないが、適当なことをすれば、横にいるゴードンに鉄槌を下されるやも知れないから覚悟しておけよ」

 ソロークは、少し恐る恐るゴードンを盗み見したが、ゴードンはニコニコした表情を崩さなかった。ようやく、僕の冗談であることがわかったようでホッとした表情に変わった。

 「ゴードン。すまないが、祭りの間はソロークにいろいろと教えてやってくれ。この若者にはいろいろと教えてやる価値はあるだろう。それと、カーリ。いい息子を持ったな。この祭りが終われば僕はソロークをゴードン付きにしようと考えている。ロイドにも相談していないが許してくれるだろうか?」

 そういうと、カーリの目がみる見る赤くなり、涙が溢れるようになっていった。

 「あ、ありがとうございます。息子を、ソロークをお引き立てしていただいて、夫も反対などしないでしょう。ゴードン様の側付きになるなど夢のようです」

 カーリは僕とゴードンにペコペコと頭を下げている。僕は、ゴードンにも相談していなかったので、目を合わせると諦めたような顔をして、了承をしてくれた……と思う。

 「ソローク。これからはゴードンから色々と学べ。数年後、成長した姿を僕に見せてくれ。その時、僕が納得すれば最初の約束通り、大きな役職を与えるだろう。しっかりと励めよ」

 ソロークは急な声かけに動じながらも、やる気に満ち溢れた目で頷いていた。そうなると、恐れていたことが起こった。僕が不用心だったのが悪いんだけど。他の元連合貴族の妻達が自分の子供を売り込みにやってきたのだ。それはそうだろうな。中には、娘のスタイルを自慢してきた母親もいたが、その子を見たらまだ10歳にもなっていなそうだ。将来性を買えということだろうか? そういうのは流石に無視だ。

 「皆の気持ちは分からないでもない。僕も子供の父親だ。子供の出世を望まない親はいないだろう。しかし、君たちの子どもたちはまだ幼い。ソロークは成人しているが、未成人ばかりだ。今は、知識あるものから学び、自らを高めて欲しい。そうすれば、いずれ登用の途も開けていくだろう。だから、今は我慢してくれ」

 こういう若者たちが学べる場を早急に作る必要性をひしひしと感じる。ガムドの娘ティアには、準備に十分時間をかけるように命じているが、できるところは早くやったほうが良さそうだな。母親たちは、不承不承といった感じだったが、諦めてくれたようだ。それでもカーリに向ける羨望の眼差しだけは無くならなかった。

 それからも準備は進められ、開始予定の夕刻間際には広場に多くの人が集まっていた。村では色綿糸の服がある程度普及しているが、街ではまだまだだ。そのため、着ている服は作業着ばかりで、裾に泥を付け、農作業から直接来たのがよく分かるのだ。皆の目当ては、用意された食事と酒だろう。それに騒げる場所だ。その全てがあるのが祭りだ。

 祭り会場には舞台が設置されているのが常だ。その舞台で催し物が繰り広げられ、祭りを盛り上げていく。オリバ達吟遊詩人の歌もその一つだ。ついに祭りの開始だ。その号令をするのは、どうやら僕の役目のようだ。まずはゴードンが舞台に上がり、住民に挨拶をした。その内容は、日頃の働きを労うもので、至って真面目な内容だ。

 そして、僕の番になった。僕が壇上に上がると、住民たちが一斉に声を上げる。なにやら怪しい集団に見えなくはないが、なんとなく気分が良くなっていくのが不思議だ。とはいえ、このままでは祭りが開始できないな。僕は静かにするように手を上げた。すると、思ったように静かになった。これまた不思議だ。

 「皆のもの、よく集まってくれた。公国は、日々進化しよりよい生活が実現できるようになっている。もちろん、まだ実感はしづらいかも知れないが、その可能性だけは感じ取れていることだろう。すでに春の作付けが始まっているところもあるだろう。その皆の努力がこの地を、公国を豊かにしていくだろう。だが、これから続く三日間だけは、日頃の疲れを癒やし明日への活力を補充していってくれ。それでは、祭りの始まりだ!!」

 辺りから、おおっ!! ということが鳴り響くと方々で乾杯の声が聞こえてきた。酒だけを飲みたいもの、料理だけ食べたいものなど様々だ。中には少しの食事と少しの酒だけを持って舞台で催し物を待っている奇特な人もいた。僕が壇上から降りると、すぐに住民の中から催し物に参加するものが代わる代わる上っていき、踊りや歌などを披露した。

 演者は気持ちよく歌ったりしているのだが、観客からの反応は様々だ。美男子が現れれば、女性たちが騒ぎ、美女が現れれば男性が騒ぐ。歌が上手ければ、聞き入り、下手であれば苦情が出る。何はともあれ、面白い物が見れた。そして、中盤に差し掛かるとついにオリバ達吟遊詩人達の出番となった。これを楽しみにしている者が意外と多いのか、舞台の前はすぐに人だかりとなった。

 そして、オリバ達の歌が始まった。楽器に合わせ、ゆっくりとした口調で物語を奏でていく。オリバの顔を見なくとも声だけ、その女性が美しいことを連想させてしまう透き通っていながら、よく響く声だった。抑揚を付けながら、模擬戦の模様を語っていく。僕も見ていたはずだが、視点が違うせいか新鮮な気持ちで聞くことが出来た。最後の決定打となるシーンは、観衆も静まり返って聞き入っていた。

 歌が終わると、観衆は盛り上がりを見せ、模擬戦について語り合いを始めた。それは祭りが終わるまで続き、オリバの後に続いた催し物には目もくれない様子だったので、明日に回すということになってしまった。それだけ、模擬戦の話が刺激だったのか、オリバの歌の構成が面白かったのか。その両方かも知れない。それほど、魅力的な歌だった。

 僕は舞台袖からそれを見ていたのだが、オリバが時折こちらに向ける視線に心が高鳴ることがあったが、これはシラーにバレるとまずいだろうな。舞台が終わったオリバはまっすぐにこちらに向かってきて、感想を聞いてくる。

 「素晴らしかったぞ。吟遊詩人というのは凄いものだな。明日の模擬戦についても、また聞きたいものだ。そういえば、こちらを時折見ていたが、なにかあったのか?」

 「何を言っているんですか。もちろん、ロッシュ公を見ていたんですよ」

 その時の目をみて、言葉が出てこなかった。目だけで心を奪われてしまうとは、なんとも情けない話だな。それからシラーやオリバと酒を飲み、吟遊詩人としての今までの事を聞いたりした。なかなか面白い話だったが、オリバはいったい何歳なんだ? と思えるほど思い出話が尽きる様子はなかった。

 さて、明日の模擬戦が楽しみだな。
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