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第293話 模擬戦 二日目
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模擬戦の二日目となる。僕とシラー、それにオリバと共に砦へと向かった。オリバは結局、僕達が泊まっている屋敷で寝泊まりすることになった。なぜだか知らないが、シラーとオリバが意気投合し、オリバが屋敷で寝泊まりしたいと言うとシラーは僕の許可を得ずに承諾をしてしまったのだ。酒が入っていたから、僕も気にすることはなかったがよく考えたら良くないことだ。幸い、オリバと閨を共にするということはなかったが、かなり危なかった。
酒が抜ければ冷静になれる。今からでも共に屋敷で寝泊まりすることをやめてもらうことにしよう。
「オリバ。すまないが、今日からは屋敷での寝泊まりをやめてもらえないだろうか。オリバとしても外聞はよろしくないだろう。それに過ちがあってからでは遅いのだ。いろいろな意味で」
最後は小さな声で言ったため、オリバには聞こえていないだろう。オリバは僕の言葉を聞いても一切動じる様子もなく、じっと僕の目を見ていた。その目をやめてほしい。なんとなく心が落ち着かなくなるのだ。
「昨日も言いましたが、ロッシュ様と一緒にいることが私の仕事と認識しています。私からロッシュ様に何かをするということはないですし、シラーさんがそれを阻止するでしょう。それにロッシュ様から私に何かすることはないでしょ? だったら、何も心配することはないではないですか。もっと言えば、私は外聞なんて気にしませんよ。そんなことを気にする吟遊詩人なんていないと思います」
なんと力強い言葉だ。負けてしまいそうだ。たしかにオリバのような美人と同じ空間にいるだけで幸せになるのは男の性というものだ。本能には抗えない虚しい生き物だ。しかしなぁ……。僕が煮え切らない態度を取っているとシラーが間に入ってきた。
「ロッシュ様。何をそんなに悩んでいられるのですか? 一層のこと、関係を持たれたらどうですか? 昨日の話で、オリバさんが素晴らしい女性であることはロッシュ様も納得しておられたではありませんか。私も実に感銘を受けました。このような女性を手放すのはどうかとすら思いますよ」
シラーは急に何を言うんだ!! そんなことはオリバの気持ちが重要となるだろうに。すると、オリバの表情は……といっても頭巾をかぶっているせいで分からないが、拒絶を感じる雰囲気ではない。
「ロッシュ様さえよろしければ、と思っておりますよ」
オリバの言っている意味はどういうことだ? ここで間違った結論を出せば、大変な恥をかくことになる。どういうことだ? ふと、気づいたがオリバの僕の呼び方が少し変わっているぞ。まぁ、どうでもいいことか。ダメだ、分からない。というか、結論を付けることを僕が拒絶しているようだ。こういう時は自然な成り行きに任せるのが一番だ。
「オリバ。この話はここまでにしよう。シラーもここまでだ。とりあえず、オリバの屋敷での寝泊まりについては認めることにしよう。オリバの覚悟を聞いて、仕事への熱意を考え、認めることにする。今はそれだけで十分だろう。よいな、二人共」
二人は頷き、話を終えた。そんな会話をしているうちに馬車は砦に到着していた。砦では僕達の馬車を歓迎するように昨日と同様に両軍の兵士と、砦に駐在している全ての兵が整然と並んでいた。昨日と全く同じことが行われた。さて、ライルとニード、イハサには二戦目となる場所を告げた。
「本日は森林戦をしてもらう。知っての通り、森林は木々が生い茂る場所だ。そのため、身を隠す場所に事欠かない。この地形を巧みに利用し、自軍が有利になるように作戦を立案してもらいたい。そして、ライル。昨日の敗戦に続き、今日も負けたとあっては面目は立たないだろう。奮迅を期待するぞ。そして、ニード。昨日の勝利は見事だった。用兵の極意というものを見せてもらった気分だ。今日もその辺りを期待しているぞ。両者とも普段の訓練の成果を存分に発揮してくれ」
僕が声を掛けると、ライル軍から大きな声が上がり、気合が満ち溢れている様子だ。一方、ニード軍は冷静そのものだ。これだけでも両軍が対象的な存在であることが分かる。今日も興味深い模擬戦を見ることができそうだ。今回は砦近くに森がないため、街の北部に広がる森で行われることとなった。ここから数キロメートルとさほど離れていないが、なぜか全速力でそこに向かうという競争が両軍で繰り広げられた。より整然と、より早く到着することが勝敗の目安らしいが、それは誰が決めるのだろうか?
僕達は後ろから馬車で追いかける形となった。目的の森に着いたときには、両軍の兵も息が荒くなっていた。僕が到着すると、ライルとニードが僕に近づき勝敗を聞いてきた。
「僕は知らないぞ。今、到着したばかりだ。しかも勝敗の基準が分からないな。そんなことより早く模擬戦の準備をしろ」
ライルとニードはあからさまに落ち込んだ様子だった。どうやら、相当の接戦だったのだろう。ちょっと見たかったな。二人は自軍に戻る間、ずっとどっちが勝ったかの言い争いをしていた。見ないうちに随分と仲が良くなったものだな。
僕は今回の模擬戦を観戦するために高台に移動した。なるほど。今回の模擬戦となる場所は森林だから見れないのではと心配したが、大丈夫そうだな。森林のほとんどは落葉樹でこの時期、裸になっている樹木だらけだ。そのため、上から見れば各々の動きが取るように分かる。しかし、両軍からすれば、木が邪魔をして視界を十分に確保することが難しいだろうな。
両軍は開始の位置に移動していく。見ている限り、落ち葉が多いため足元がフカフカして歩きにくそうだな。これがどういう風に影響があるのだろうか。どうやら開始の位置に両軍はついたようだ。僕は後ろにいるオリバに目で合図を送ると準備ができているという意味で頷いてきた。それでは模擬戦二日目を開始しよう。自警団に合図をすると、やはりどこから持ってきたのかわからない銅鑼を力強く鳴らした。
両軍は開始と同時に移動を開始した。やはり木が邪魔しているせいか、ライル軍は一斉射撃という手段は取らないようだ。さて、どういう手段に出るのか。両軍はジリジリと距離を詰めていく。ニード軍は予定通りなのか、肉薄するようにすばやく詰めていく。十分に距離が近づいた辺りからライル軍はクロスボウ隊による射撃を開始した。しかし、矢は木に当たったり、ニード隊が前面に展開した大盾隊に阻まれたりして損害を与える様子がなかった。
大楯隊の前ではクロスボウは無力化されてしまうのか。これではニード隊に接近を許し、瞬く間に蹂躙されてしまうだろう。互いに接近していき、もう少しで接触というところでライル軍の方に動きがあった。なんとライル軍の方からも大楯隊が出てきたのだ。しかし、槍剣隊の前では大盾隊がどれほど効果があるのだろうか?
しかし、よく見ていると面白いことが分かった。なんと盾に穴が開けられており、そこから矢が射出されている。これは良い工夫だ。これでは槍剣隊が大楯隊の前に出ることが難しくなったぞ。このライル軍の動きのせいで、両軍は膠着状態に陥っていった。なんとか打開をするためにニード軍は大楯隊を広く伸ばしながら、ライル軍の側面攻撃を意図している様に動いていく。しかし、ライル軍も同様に動くため結局、膠着状態は維持されている。
これでは模擬戦も終わりかも知れないなと思っていたが、ライル軍には別の動きが見て取ることが出来た。しかも、その動きについてはニード軍は気づいている様子はない。ニード軍はとにかくライル軍の大楯隊を突破するために陽動をかけたりするがライル軍は全く反応する様子はなかった。
膠着状態にしびれを切らし始めたのかニード隊は思い切った攻撃を仕掛け始めた。要は突撃だ。一気にライル軍の大楯隊を突き破ろうとしてニード軍の陣形が大きく崩れた。その時だ、ライル軍から銅鑼の音が聞こえた。すると、どうだろうか。ニード軍の背後の兵たちが倒れ始めたのだ。一瞬のことでニード軍は一気に動揺が広がった。どこから攻撃を受けたのかさっぱりわからない様子だ。
時間が経過すると共に徐々に倒れていくニード軍の後方。さすがにこれはまずいと軍を反転しようとすると、ニード軍を取り囲むように落ち葉が盛り上がりクロスボウ達が出現したのだ。実は、ライル軍の大楯隊の役目はニード軍の動きを止めるという目的の他に、ライル軍の動きを察知されないための目隠しとして役目があったのだ。
その役目は十二分に果たされ、うまくニード軍を取り囲むように兵を移動することが出来たのだ。しかも落ち葉に隠れて進むという面白い方法を使っていた。急に出てきたクロスボウ隊に動揺するニード軍。それに対して、一斉射撃が行われた。大楯隊が展開していない面への攻撃においてはクロスボウの威力は絶大だ。速射性に優れ、次々と兵を撃ち倒していく。そこで模擬戦は終了だ。ニードが降伏したのだ。
ライル軍は勝鬨を上げ、勝利を喜んでいた。まさかの展開だったな。森林戦ではニード軍有利は揺らがないと思っていたが、まさかライル軍が奇抜な奇襲作戦で勝利を収めてしまった。これは非常に有意義な模擬戦を見させてもらった。オリバに感想を求めようとしたが、やはりぶつぶつと言って僕の視線には気付かないようだ。他の吟遊詩人がオリバに教えようとしたが僕は止めさせた。考え事をしている時は、止められたくないものだろう。
僕はシラーと共に両軍を讃えに高台から下っていった。森林の前ではライルとニード、イハサが互いに褒め称えていたのだった。この二日で随分と仲の良い間柄になったではないか。
「ライル、ニード、イハサ。よい模擬戦を見させてもらった。昨日に続き、予想外の展開でいい意味で裏切られた結果だ。ライル軍の奇襲は見事にハマったようだな。まさか大盾を利用し、落ち葉に潜り、相手の意表を突くとはよく考えられたものだ。ニード軍は昨日より精細さを欠いていたような気がした。最後は闇雲に突撃を敢行して陣形を崩したところをライル軍にうまく付け入れらてしまったな」
僕は総評を続ける。
「しかしながら、実に見事であったことは揺るがぬ事実だ。これでお互いに一勝一敗だ。明日でどちらが優れているか分かるな。しかも、明日はより大きな場所で行われる。そのため、繰り出される作戦が今日の比ではないだろう。両者とも力の限り戦って欲しいと思う」
ライルとニード、イハサは頭を下げ、翌日に向け気合を入れていた。今日はクロスボウによる怪我が続出したため、治療院には人がたくさんとなった。僕が治療している姿を見ることが出来たせいか、オリバもご満悦の様子だった。さっそくブツブツと呟いて、話をまとめているようだ。しかし、治療してみて分かったことだが兵士達はかなり疲労が蓄積しているようだ。この疲れはきっと両軍の兵士に蔓延していることだろう。だとすると、明日の模擬戦はこの疲れた状態でどのように戦うかということも重要な要素となるだろう。
こうやって、模擬戦二日目の終わった。勝利で士気を上げたライル軍と必勝と思われていた戦場で負けたニード軍。明日の森林と平原を合わせた複合戦で、どのような戦いが見れるのか。
酒が抜ければ冷静になれる。今からでも共に屋敷で寝泊まりすることをやめてもらうことにしよう。
「オリバ。すまないが、今日からは屋敷での寝泊まりをやめてもらえないだろうか。オリバとしても外聞はよろしくないだろう。それに過ちがあってからでは遅いのだ。いろいろな意味で」
最後は小さな声で言ったため、オリバには聞こえていないだろう。オリバは僕の言葉を聞いても一切動じる様子もなく、じっと僕の目を見ていた。その目をやめてほしい。なんとなく心が落ち着かなくなるのだ。
「昨日も言いましたが、ロッシュ様と一緒にいることが私の仕事と認識しています。私からロッシュ様に何かをするということはないですし、シラーさんがそれを阻止するでしょう。それにロッシュ様から私に何かすることはないでしょ? だったら、何も心配することはないではないですか。もっと言えば、私は外聞なんて気にしませんよ。そんなことを気にする吟遊詩人なんていないと思います」
なんと力強い言葉だ。負けてしまいそうだ。たしかにオリバのような美人と同じ空間にいるだけで幸せになるのは男の性というものだ。本能には抗えない虚しい生き物だ。しかしなぁ……。僕が煮え切らない態度を取っているとシラーが間に入ってきた。
「ロッシュ様。何をそんなに悩んでいられるのですか? 一層のこと、関係を持たれたらどうですか? 昨日の話で、オリバさんが素晴らしい女性であることはロッシュ様も納得しておられたではありませんか。私も実に感銘を受けました。このような女性を手放すのはどうかとすら思いますよ」
シラーは急に何を言うんだ!! そんなことはオリバの気持ちが重要となるだろうに。すると、オリバの表情は……といっても頭巾をかぶっているせいで分からないが、拒絶を感じる雰囲気ではない。
「ロッシュ様さえよろしければ、と思っておりますよ」
オリバの言っている意味はどういうことだ? ここで間違った結論を出せば、大変な恥をかくことになる。どういうことだ? ふと、気づいたがオリバの僕の呼び方が少し変わっているぞ。まぁ、どうでもいいことか。ダメだ、分からない。というか、結論を付けることを僕が拒絶しているようだ。こういう時は自然な成り行きに任せるのが一番だ。
「オリバ。この話はここまでにしよう。シラーもここまでだ。とりあえず、オリバの屋敷での寝泊まりについては認めることにしよう。オリバの覚悟を聞いて、仕事への熱意を考え、認めることにする。今はそれだけで十分だろう。よいな、二人共」
二人は頷き、話を終えた。そんな会話をしているうちに馬車は砦に到着していた。砦では僕達の馬車を歓迎するように昨日と同様に両軍の兵士と、砦に駐在している全ての兵が整然と並んでいた。昨日と全く同じことが行われた。さて、ライルとニード、イハサには二戦目となる場所を告げた。
「本日は森林戦をしてもらう。知っての通り、森林は木々が生い茂る場所だ。そのため、身を隠す場所に事欠かない。この地形を巧みに利用し、自軍が有利になるように作戦を立案してもらいたい。そして、ライル。昨日の敗戦に続き、今日も負けたとあっては面目は立たないだろう。奮迅を期待するぞ。そして、ニード。昨日の勝利は見事だった。用兵の極意というものを見せてもらった気分だ。今日もその辺りを期待しているぞ。両者とも普段の訓練の成果を存分に発揮してくれ」
僕が声を掛けると、ライル軍から大きな声が上がり、気合が満ち溢れている様子だ。一方、ニード軍は冷静そのものだ。これだけでも両軍が対象的な存在であることが分かる。今日も興味深い模擬戦を見ることができそうだ。今回は砦近くに森がないため、街の北部に広がる森で行われることとなった。ここから数キロメートルとさほど離れていないが、なぜか全速力でそこに向かうという競争が両軍で繰り広げられた。より整然と、より早く到着することが勝敗の目安らしいが、それは誰が決めるのだろうか?
僕達は後ろから馬車で追いかける形となった。目的の森に着いたときには、両軍の兵も息が荒くなっていた。僕が到着すると、ライルとニードが僕に近づき勝敗を聞いてきた。
「僕は知らないぞ。今、到着したばかりだ。しかも勝敗の基準が分からないな。そんなことより早く模擬戦の準備をしろ」
ライルとニードはあからさまに落ち込んだ様子だった。どうやら、相当の接戦だったのだろう。ちょっと見たかったな。二人は自軍に戻る間、ずっとどっちが勝ったかの言い争いをしていた。見ないうちに随分と仲が良くなったものだな。
僕は今回の模擬戦を観戦するために高台に移動した。なるほど。今回の模擬戦となる場所は森林だから見れないのではと心配したが、大丈夫そうだな。森林のほとんどは落葉樹でこの時期、裸になっている樹木だらけだ。そのため、上から見れば各々の動きが取るように分かる。しかし、両軍からすれば、木が邪魔をして視界を十分に確保することが難しいだろうな。
両軍は開始の位置に移動していく。見ている限り、落ち葉が多いため足元がフカフカして歩きにくそうだな。これがどういう風に影響があるのだろうか。どうやら開始の位置に両軍はついたようだ。僕は後ろにいるオリバに目で合図を送ると準備ができているという意味で頷いてきた。それでは模擬戦二日目を開始しよう。自警団に合図をすると、やはりどこから持ってきたのかわからない銅鑼を力強く鳴らした。
両軍は開始と同時に移動を開始した。やはり木が邪魔しているせいか、ライル軍は一斉射撃という手段は取らないようだ。さて、どういう手段に出るのか。両軍はジリジリと距離を詰めていく。ニード軍は予定通りなのか、肉薄するようにすばやく詰めていく。十分に距離が近づいた辺りからライル軍はクロスボウ隊による射撃を開始した。しかし、矢は木に当たったり、ニード隊が前面に展開した大盾隊に阻まれたりして損害を与える様子がなかった。
大楯隊の前ではクロスボウは無力化されてしまうのか。これではニード隊に接近を許し、瞬く間に蹂躙されてしまうだろう。互いに接近していき、もう少しで接触というところでライル軍の方に動きがあった。なんとライル軍の方からも大楯隊が出てきたのだ。しかし、槍剣隊の前では大盾隊がどれほど効果があるのだろうか?
しかし、よく見ていると面白いことが分かった。なんと盾に穴が開けられており、そこから矢が射出されている。これは良い工夫だ。これでは槍剣隊が大楯隊の前に出ることが難しくなったぞ。このライル軍の動きのせいで、両軍は膠着状態に陥っていった。なんとか打開をするためにニード軍は大楯隊を広く伸ばしながら、ライル軍の側面攻撃を意図している様に動いていく。しかし、ライル軍も同様に動くため結局、膠着状態は維持されている。
これでは模擬戦も終わりかも知れないなと思っていたが、ライル軍には別の動きが見て取ることが出来た。しかも、その動きについてはニード軍は気づいている様子はない。ニード軍はとにかくライル軍の大楯隊を突破するために陽動をかけたりするがライル軍は全く反応する様子はなかった。
膠着状態にしびれを切らし始めたのかニード隊は思い切った攻撃を仕掛け始めた。要は突撃だ。一気にライル軍の大楯隊を突き破ろうとしてニード軍の陣形が大きく崩れた。その時だ、ライル軍から銅鑼の音が聞こえた。すると、どうだろうか。ニード軍の背後の兵たちが倒れ始めたのだ。一瞬のことでニード軍は一気に動揺が広がった。どこから攻撃を受けたのかさっぱりわからない様子だ。
時間が経過すると共に徐々に倒れていくニード軍の後方。さすがにこれはまずいと軍を反転しようとすると、ニード軍を取り囲むように落ち葉が盛り上がりクロスボウ達が出現したのだ。実は、ライル軍の大楯隊の役目はニード軍の動きを止めるという目的の他に、ライル軍の動きを察知されないための目隠しとして役目があったのだ。
その役目は十二分に果たされ、うまくニード軍を取り囲むように兵を移動することが出来たのだ。しかも落ち葉に隠れて進むという面白い方法を使っていた。急に出てきたクロスボウ隊に動揺するニード軍。それに対して、一斉射撃が行われた。大楯隊が展開していない面への攻撃においてはクロスボウの威力は絶大だ。速射性に優れ、次々と兵を撃ち倒していく。そこで模擬戦は終了だ。ニードが降伏したのだ。
ライル軍は勝鬨を上げ、勝利を喜んでいた。まさかの展開だったな。森林戦ではニード軍有利は揺らがないと思っていたが、まさかライル軍が奇抜な奇襲作戦で勝利を収めてしまった。これは非常に有意義な模擬戦を見させてもらった。オリバに感想を求めようとしたが、やはりぶつぶつと言って僕の視線には気付かないようだ。他の吟遊詩人がオリバに教えようとしたが僕は止めさせた。考え事をしている時は、止められたくないものだろう。
僕はシラーと共に両軍を讃えに高台から下っていった。森林の前ではライルとニード、イハサが互いに褒め称えていたのだった。この二日で随分と仲の良い間柄になったではないか。
「ライル、ニード、イハサ。よい模擬戦を見させてもらった。昨日に続き、予想外の展開でいい意味で裏切られた結果だ。ライル軍の奇襲は見事にハマったようだな。まさか大盾を利用し、落ち葉に潜り、相手の意表を突くとはよく考えられたものだ。ニード軍は昨日より精細さを欠いていたような気がした。最後は闇雲に突撃を敢行して陣形を崩したところをライル軍にうまく付け入れらてしまったな」
僕は総評を続ける。
「しかしながら、実に見事であったことは揺るがぬ事実だ。これでお互いに一勝一敗だ。明日でどちらが優れているか分かるな。しかも、明日はより大きな場所で行われる。そのため、繰り出される作戦が今日の比ではないだろう。両者とも力の限り戦って欲しいと思う」
ライルとニード、イハサは頭を下げ、翌日に向け気合を入れていた。今日はクロスボウによる怪我が続出したため、治療院には人がたくさんとなった。僕が治療している姿を見ることが出来たせいか、オリバもご満悦の様子だった。さっそくブツブツと呟いて、話をまとめているようだ。しかし、治療してみて分かったことだが兵士達はかなり疲労が蓄積しているようだ。この疲れはきっと両軍の兵士に蔓延していることだろう。だとすると、明日の模擬戦はこの疲れた状態でどのように戦うかということも重要な要素となるだろう。
こうやって、模擬戦二日目の終わった。勝利で士気を上げたライル軍と必勝と思われていた戦場で負けたニード軍。明日の森林と平原を合わせた複合戦で、どのような戦いが見れるのか。
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