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スラム編
第34話 王との謁見 後半
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王とシャンドル公、そして僕の間での会話はまだ続く。
「時代が変わったんだよ。戦争が全てを、今までの王国を否定した。血統主義は確かに優れた面もある。王家が統治するにはな。だが、能力は確実に落ちていった。魔法の名家や将軍の名家でも、その傾向は強く出ていた。おかげで、王国の軍事力は大きく低下していったんだ」
あれ? この話って……聞いたらまずくないか?
「なに、気にするな。この話は別に秘密でも何でもない。誰もが知っている事実だ。そこでオレは……その伝統的な考えを潰すつもりだ。このことは秘密だからな。誰にも言うなよ」
いや、言わないで欲しかった。
「知っているのは、クラレス以外にはいない。それほど血統主義っていうのは根強い。でもな、これを変えないとオレたちは本当に帝国の属国になってしまう。もう、あれこれ言っていられる時じゃないんだ。貴族の血がなくても優秀な奴には王国の中枢にいてもらう。将軍にもなってもらう。そういう時代なんだよ。そして、ロランのような者が王国は必要としているんだ」
急に王が指差してきたので驚いてしまった。
「ロラン。お前にはシャンドル家で魔法を磨いてもらう。いつか、戦争で活躍してもらうためにな。そのために後継者争いに加わってもらう。王家としては、それがシャンドル領に戻る最低条件だ。それ以上のことはシャンドル家で決めてもらうが」
ちょっと話を整理しよう。僕がシャンドル家の生まれっていうのは確定的なんだろう。母親が貴族ではないせいでシャンドル公とは結婚が出来ずに追い出されてしまったのだろう。おそらく、その時には僕が生まれていたか、身籠っていたかなんだろう。
スラムで育った僕は何も知らずに育った。母親の存否は不明。師匠はこのことを知っているのかな? あれ? 師匠が僕を育てている理由って……?
「ティスは我がシャンドル家のお抱え錬金術師だった。才能はあったが、人付き合いが苦手でな。ただ、リリーとだけは気が合っているように見えた。そして、リリーが追放される日、ティスがシャンドル家を去ると申し出てきた。私はリリーと共にいてくれると思い、父に無断で許可を与えたのだ」
師匠は母親と仲が良かった。それだけを理由に僕を育ててくれたのだろうか? シャンドル公はそう思っているようだけど。
そして、去年、シャンドル公が偶然にもスラムを訪れ、僕を発見する。でも、その時にシャンドル公は気付いていたんだよね? なんで、今日の話にならなかったんだ?
「それは……こちらの勝手なのだ。王の言う通り、この国は有能な人材を求めている。ロランが有能かどうか、それが重要だったのだ。ちょうど、スラムをまとめているという話を聞いて、素晴らしいと思った。しかし、それくらいの能力では後継者として認めることは出来なかった」
そこで僕の能力を見極めるということになったのか。それであの約束に繋がるということなんだな。その時は理由が分からなかったけど、やっと分かった。あの時は、師匠の秘密が知れると思ってあまり深く考えなかったけど。
「それで、僕の能力が認められたから、この話になったということですか?」
「もちろんだ。そうでなければ、いくらリリーの子とは言え、王国に益のない話は王の御前で出来るわけがない。お前は将来、王国にとって役に立つ存在になると私は確信している。ならばこそ、シャンドル家の後継者候補になるにふさわしいと思ったのだ」
まさか、野菜を作ったことがここまで評価されたとは……きっとニッジも喜んでくれるだろうな。スラムの人達も……王に認められたんだ。
「ありがとうございます。野菜の評価をいただけたことは、スラムを代表して、お礼を申し上げます。これからもどんどん美味しくなっていきますからね。期待していてください!! ああ、良かった。みんな、きっと喜ぶだろうな」
「ああ、いや。済まない。もちろん、ロランの手腕は見事と言う他ない。若干11歳の子供が、これほどのことを成し遂げることはないだろう。それだけでも評価は出来るが、決定的になったのはそれではない。お前の魔力量だ。どうやらシャンドル家の血を色濃く受け継いだようだな」
魔力量? 野菜じゃないの? すると王は嬉しいことを言ってくれた。
「オレは好きだぜ。あの野菜。あれが王国に出回れば、いいとさえ思っている。どうだ? ロランの仲間に指導役として各地に行かせてみないか? もちろん、最初は王家直轄領からだがな。それがロランの望みなんだろ? スラムに仕事を。良いことを言うな。ロランこそ、王の素質があるのかも知れないな」
王とか、僕にはどうでもいいことだ。それよりも王からこんなに良い話が聞けるなんて……来て良かった。
「では、その話を書面にしてもらえませんか? 口約束っていうのは、ちょっと……」
「おお? しっかりしてやがるな。まぁいい。本当にそう思って言ったからな。帰りにでも渡してやる。それよりもロラン。どうするんだ? そろそろ結論を出してくれると助かる。もし、シャンドル家に行くのが嫌なら王家に来い。お前なら、どんな仕事でも任せられそうだ」
凄いことを言ってきたな。大出世じゃないか。もっとも、あまり興味ないけど……ニッジあたりなら、すぐに食いつきそうだな。
「シャンドル公。条件をつけさせてもらってもいいですか?」
「私が出来ることなら」
よし。
「僕に土地をくれませんか? 人は住んでなくても良いんですが、平地と水があればいいんです」
提案が斜め上すぎて、シャンドル公はともかく王も首を傾げていた。
「その土地をどうするつもりなのだ?」
「もちろん、スラムの人達を住まわせます。あっ。もちろん、一部ですよ。千人くらいかな。村を作らせて、そこで肥料づくりと畑を作らせるんです。やっぱり、おいしい野菜が食べたいじゃないですか」
その提案に王が食いついてきた。
「それはいいな。やっぱり人間、旨い飯に旨い酒だ。移住者か……なかなか面白いことを考えるな。ロラン」
「うむ。私の権限でどうにでもなろう。許そう」
まさか、許可が出るとは思わなかったな。一応、念押しに確認しておこう。
「一割でいいですか?」
「何がだ?」
「納める税金です。土地から出た利益はシャンドル家に納める必要があるんですよね? その額です。利益の一割です」
「……まったく。どこでそんなことを覚えたのだ? 納税は不要だ。与えようとしている土地は、本当に何もない土地だ。そこを開拓してもらえるというのなら、こちらから資金を拠出するのが道理のはずだ。
ただ? これは凄いぞ。
「もう一つ良いですか?」
シャンドル公が頷く。僕は調度品を指差した。
「あの技術がどうしても欲しいんです。スラムに工房を移築してもらうことは出来ないでしょうか? ダメなら、スラムの人達を弟子にしてほしいんです」
「あれは我が領内の伝統的なものだ。さすがに移築は出来ぬが、学びに来る者を拒んだりはしない。工房には私の方から言って受け入れてもらうことにしよう。ただ、人数はこちらで指定させてもらうぞ」
ひゃっほー!! あの技術が盗めるぞ。
「最後に一つ。リリーを探してもらえないでしょうか? もしかしたら生きているかも。どうしても会いたいのです」
「……分かった。私になど会いたくもないだろうが、ロランならば……。それで以上か?」
「はい!! これでスラムの人達にもっと仕事が出来るはずですから」
「お前自身の願いはないのか? 全て、スラムのためなのだろ? 個人的な願いはないのか?」
「……ないです。そうだ。前にも話したニッジを連れて行ってもいいですか? 学校に入れてくれるって約束も叶えてほしいんです。農業の全般を取り仕切れるほどですから、絶対に役に立つ人材ですよ」
「ほお。その少年が野菜を担当しているのか。ならば、良かろう。ニッジという少年だけではない。自分の側に置きたいものは連れてくるがいい。執事としてならば、雇用しても構わないぞ」
「ありがとうございます!!」
なんか色々と話が進んできたけど、すごくいい話づくしじゃないか? まるで夢みたいだ。
「決まったようだな。ロラン。シャンドル家でも頑張るといい。お前なら、後継者になるのも夢ではないだろう。といっても油断すれば、すべては水の泡だ。その連れて行く者たちの命運はすべて、お前が握っていると覚悟することだな」
「はい……頑張ってみせます」
「いい顔だ。オレの方からも何か、してやろう。そうだな……スラムは王家直轄領だって知っているな? といってもずっと放置していた場所だがな。そこの代官をロランにやらせてやろう。好きにするがいい。どうせ、王国からの命令と言っても暴れられるのが落ちだ。お前なら、スラムも言うことを聞いてくれるだろう」
「そんな事はないとおもいますよ。スラムの人達が本当に信頼を寄せているのはガーフェですから。僕の命令なんて……大したことないですよ」
するとシャンドル公が大きなため息を付いた。
「お前はもう少し学ぶ必要がありそうだな。そのガーフェは誰の命令で動いているのだ? お前ではないか。つまりは、お前がスラムを動かしているのと変わりはないではないか。巨大な組織はそのようにして動いているのだ」
確かにガーフェは僕の言うことは聞いてくれるけど……。
「とにかく、オレの提案は受け取っておいた方が必ず役に立つ。肥料作りの指導を各地に派遣することは王家を通してもらう必要があるが、お前にとってもいい事になるんじゃないのか?」
よく分からないけど、王の提案を拒めるほど僕には度胸はない。素直に応じておいたほうがいいだろう。
「でも代官って何をすればいいんですか?」
「まぁ、王家からの命令を伝える存在だな。当面は野菜を納めてもらう。現金という収入が増えてきたら納税をしてもらおう。ただ、それは本当に先の話になるだろう」
「それ以外は他の王国民と同じってことですか?」
「いや、そうじゃねぇ。スラムの人間は厳密には王国民ではない。流民として見られている。納税をすれば、王国民になるかもしれねぇが……その代わり、徴兵もないし、貴族に従う必要なない。だからこそ、まとめる奴が必要なんだ。お前にそれをやってもらう。王家はロランを通じて、スラムをまとめることが出来る。実に素晴らしいな」
よく分からないけど、今までとあまり変わりはなさそうだ。精々、僕がスラムにいないだけで、ガーフェがうまく取り仕切ってくれる。王家には納める形になっちゃったけど、王都では今まで通り卸してもいいってことになった。それに野菜に王家印ももらえるようになったから、信頼もバッチリだ。
「僕はいつからシャンドル領に移動するんですか?」
「すぐにではない。こちらにも準備があるからな。年が明けてからにしよう。それまでにロランも準備をしておくように。それと連れて行く人員については、予め報告してくれ。一応、こちらでも把握しておきたいからな」
頷くと、話はそれだけだった。
「ロラン。代官の件は今日からにしよう。ただ、いろいろとお前に書状を渡さなないといけないから、後日にでも取りに来い。城門で受け取れるように手配しておいてやるからな」
考えてみれば、この国の王様なんだよな。なんで、こんなに僕に良くしてくれるんだろうか?
「不思議か? クラレスは忠臣であり、友でもある。その子供が可愛くないわけ無いだろ?」
そういうものなのかな? でも、そういうことを言える王は本当にいい人なんだな。やっぱり偉大な王なんだよ。僕は頭を下げて、王との謁見を終わらせた。
「時代が変わったんだよ。戦争が全てを、今までの王国を否定した。血統主義は確かに優れた面もある。王家が統治するにはな。だが、能力は確実に落ちていった。魔法の名家や将軍の名家でも、その傾向は強く出ていた。おかげで、王国の軍事力は大きく低下していったんだ」
あれ? この話って……聞いたらまずくないか?
「なに、気にするな。この話は別に秘密でも何でもない。誰もが知っている事実だ。そこでオレは……その伝統的な考えを潰すつもりだ。このことは秘密だからな。誰にも言うなよ」
いや、言わないで欲しかった。
「知っているのは、クラレス以外にはいない。それほど血統主義っていうのは根強い。でもな、これを変えないとオレたちは本当に帝国の属国になってしまう。もう、あれこれ言っていられる時じゃないんだ。貴族の血がなくても優秀な奴には王国の中枢にいてもらう。将軍にもなってもらう。そういう時代なんだよ。そして、ロランのような者が王国は必要としているんだ」
急に王が指差してきたので驚いてしまった。
「ロラン。お前にはシャンドル家で魔法を磨いてもらう。いつか、戦争で活躍してもらうためにな。そのために後継者争いに加わってもらう。王家としては、それがシャンドル領に戻る最低条件だ。それ以上のことはシャンドル家で決めてもらうが」
ちょっと話を整理しよう。僕がシャンドル家の生まれっていうのは確定的なんだろう。母親が貴族ではないせいでシャンドル公とは結婚が出来ずに追い出されてしまったのだろう。おそらく、その時には僕が生まれていたか、身籠っていたかなんだろう。
スラムで育った僕は何も知らずに育った。母親の存否は不明。師匠はこのことを知っているのかな? あれ? 師匠が僕を育てている理由って……?
「ティスは我がシャンドル家のお抱え錬金術師だった。才能はあったが、人付き合いが苦手でな。ただ、リリーとだけは気が合っているように見えた。そして、リリーが追放される日、ティスがシャンドル家を去ると申し出てきた。私はリリーと共にいてくれると思い、父に無断で許可を与えたのだ」
師匠は母親と仲が良かった。それだけを理由に僕を育ててくれたのだろうか? シャンドル公はそう思っているようだけど。
そして、去年、シャンドル公が偶然にもスラムを訪れ、僕を発見する。でも、その時にシャンドル公は気付いていたんだよね? なんで、今日の話にならなかったんだ?
「それは……こちらの勝手なのだ。王の言う通り、この国は有能な人材を求めている。ロランが有能かどうか、それが重要だったのだ。ちょうど、スラムをまとめているという話を聞いて、素晴らしいと思った。しかし、それくらいの能力では後継者として認めることは出来なかった」
そこで僕の能力を見極めるということになったのか。それであの約束に繋がるということなんだな。その時は理由が分からなかったけど、やっと分かった。あの時は、師匠の秘密が知れると思ってあまり深く考えなかったけど。
「それで、僕の能力が認められたから、この話になったということですか?」
「もちろんだ。そうでなければ、いくらリリーの子とは言え、王国に益のない話は王の御前で出来るわけがない。お前は将来、王国にとって役に立つ存在になると私は確信している。ならばこそ、シャンドル家の後継者候補になるにふさわしいと思ったのだ」
まさか、野菜を作ったことがここまで評価されたとは……きっとニッジも喜んでくれるだろうな。スラムの人達も……王に認められたんだ。
「ありがとうございます。野菜の評価をいただけたことは、スラムを代表して、お礼を申し上げます。これからもどんどん美味しくなっていきますからね。期待していてください!! ああ、良かった。みんな、きっと喜ぶだろうな」
「ああ、いや。済まない。もちろん、ロランの手腕は見事と言う他ない。若干11歳の子供が、これほどのことを成し遂げることはないだろう。それだけでも評価は出来るが、決定的になったのはそれではない。お前の魔力量だ。どうやらシャンドル家の血を色濃く受け継いだようだな」
魔力量? 野菜じゃないの? すると王は嬉しいことを言ってくれた。
「オレは好きだぜ。あの野菜。あれが王国に出回れば、いいとさえ思っている。どうだ? ロランの仲間に指導役として各地に行かせてみないか? もちろん、最初は王家直轄領からだがな。それがロランの望みなんだろ? スラムに仕事を。良いことを言うな。ロランこそ、王の素質があるのかも知れないな」
王とか、僕にはどうでもいいことだ。それよりも王からこんなに良い話が聞けるなんて……来て良かった。
「では、その話を書面にしてもらえませんか? 口約束っていうのは、ちょっと……」
「おお? しっかりしてやがるな。まぁいい。本当にそう思って言ったからな。帰りにでも渡してやる。それよりもロラン。どうするんだ? そろそろ結論を出してくれると助かる。もし、シャンドル家に行くのが嫌なら王家に来い。お前なら、どんな仕事でも任せられそうだ」
凄いことを言ってきたな。大出世じゃないか。もっとも、あまり興味ないけど……ニッジあたりなら、すぐに食いつきそうだな。
「シャンドル公。条件をつけさせてもらってもいいですか?」
「私が出来ることなら」
よし。
「僕に土地をくれませんか? 人は住んでなくても良いんですが、平地と水があればいいんです」
提案が斜め上すぎて、シャンドル公はともかく王も首を傾げていた。
「その土地をどうするつもりなのだ?」
「もちろん、スラムの人達を住まわせます。あっ。もちろん、一部ですよ。千人くらいかな。村を作らせて、そこで肥料づくりと畑を作らせるんです。やっぱり、おいしい野菜が食べたいじゃないですか」
その提案に王が食いついてきた。
「それはいいな。やっぱり人間、旨い飯に旨い酒だ。移住者か……なかなか面白いことを考えるな。ロラン」
「うむ。私の権限でどうにでもなろう。許そう」
まさか、許可が出るとは思わなかったな。一応、念押しに確認しておこう。
「一割でいいですか?」
「何がだ?」
「納める税金です。土地から出た利益はシャンドル家に納める必要があるんですよね? その額です。利益の一割です」
「……まったく。どこでそんなことを覚えたのだ? 納税は不要だ。与えようとしている土地は、本当に何もない土地だ。そこを開拓してもらえるというのなら、こちらから資金を拠出するのが道理のはずだ。
ただ? これは凄いぞ。
「もう一つ良いですか?」
シャンドル公が頷く。僕は調度品を指差した。
「あの技術がどうしても欲しいんです。スラムに工房を移築してもらうことは出来ないでしょうか? ダメなら、スラムの人達を弟子にしてほしいんです」
「あれは我が領内の伝統的なものだ。さすがに移築は出来ぬが、学びに来る者を拒んだりはしない。工房には私の方から言って受け入れてもらうことにしよう。ただ、人数はこちらで指定させてもらうぞ」
ひゃっほー!! あの技術が盗めるぞ。
「最後に一つ。リリーを探してもらえないでしょうか? もしかしたら生きているかも。どうしても会いたいのです」
「……分かった。私になど会いたくもないだろうが、ロランならば……。それで以上か?」
「はい!! これでスラムの人達にもっと仕事が出来るはずですから」
「お前自身の願いはないのか? 全て、スラムのためなのだろ? 個人的な願いはないのか?」
「……ないです。そうだ。前にも話したニッジを連れて行ってもいいですか? 学校に入れてくれるって約束も叶えてほしいんです。農業の全般を取り仕切れるほどですから、絶対に役に立つ人材ですよ」
「ほお。その少年が野菜を担当しているのか。ならば、良かろう。ニッジという少年だけではない。自分の側に置きたいものは連れてくるがいい。執事としてならば、雇用しても構わないぞ」
「ありがとうございます!!」
なんか色々と話が進んできたけど、すごくいい話づくしじゃないか? まるで夢みたいだ。
「決まったようだな。ロラン。シャンドル家でも頑張るといい。お前なら、後継者になるのも夢ではないだろう。といっても油断すれば、すべては水の泡だ。その連れて行く者たちの命運はすべて、お前が握っていると覚悟することだな」
「はい……頑張ってみせます」
「いい顔だ。オレの方からも何か、してやろう。そうだな……スラムは王家直轄領だって知っているな? といってもずっと放置していた場所だがな。そこの代官をロランにやらせてやろう。好きにするがいい。どうせ、王国からの命令と言っても暴れられるのが落ちだ。お前なら、スラムも言うことを聞いてくれるだろう」
「そんな事はないとおもいますよ。スラムの人達が本当に信頼を寄せているのはガーフェですから。僕の命令なんて……大したことないですよ」
するとシャンドル公が大きなため息を付いた。
「お前はもう少し学ぶ必要がありそうだな。そのガーフェは誰の命令で動いているのだ? お前ではないか。つまりは、お前がスラムを動かしているのと変わりはないではないか。巨大な組織はそのようにして動いているのだ」
確かにガーフェは僕の言うことは聞いてくれるけど……。
「とにかく、オレの提案は受け取っておいた方が必ず役に立つ。肥料作りの指導を各地に派遣することは王家を通してもらう必要があるが、お前にとってもいい事になるんじゃないのか?」
よく分からないけど、王の提案を拒めるほど僕には度胸はない。素直に応じておいたほうがいいだろう。
「でも代官って何をすればいいんですか?」
「まぁ、王家からの命令を伝える存在だな。当面は野菜を納めてもらう。現金という収入が増えてきたら納税をしてもらおう。ただ、それは本当に先の話になるだろう」
「それ以外は他の王国民と同じってことですか?」
「いや、そうじゃねぇ。スラムの人間は厳密には王国民ではない。流民として見られている。納税をすれば、王国民になるかもしれねぇが……その代わり、徴兵もないし、貴族に従う必要なない。だからこそ、まとめる奴が必要なんだ。お前にそれをやってもらう。王家はロランを通じて、スラムをまとめることが出来る。実に素晴らしいな」
よく分からないけど、今までとあまり変わりはなさそうだ。精々、僕がスラムにいないだけで、ガーフェがうまく取り仕切ってくれる。王家には納める形になっちゃったけど、王都では今まで通り卸してもいいってことになった。それに野菜に王家印ももらえるようになったから、信頼もバッチリだ。
「僕はいつからシャンドル領に移動するんですか?」
「すぐにではない。こちらにも準備があるからな。年が明けてからにしよう。それまでにロランも準備をしておくように。それと連れて行く人員については、予め報告してくれ。一応、こちらでも把握しておきたいからな」
頷くと、話はそれだけだった。
「ロラン。代官の件は今日からにしよう。ただ、いろいろとお前に書状を渡さなないといけないから、後日にでも取りに来い。城門で受け取れるように手配しておいてやるからな」
考えてみれば、この国の王様なんだよな。なんで、こんなに僕に良くしてくれるんだろうか?
「不思議か? クラレスは忠臣であり、友でもある。その子供が可愛くないわけ無いだろ?」
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