スラム出身の公爵家庶子が、スラムの力を使って、後継者候補達を蹴落として、成り上がっていく。でも、性悪王女が可愛くてそれどころではないかも

秋田ノ介

文字の大きさ
36 / 45
スラム編

第36話 スラムの今後

しおりを挟む
 師匠との変な約束を取り交わして、気分は嬉しいような心配するような、なんとも複雑なものだった。といっても今すぐという話ではないので、切り替えていかないとな。残り時間は思ったよりも少ないだろうから、やれることはやっておきたいんだ。

 「ガーフェ。色々と心配をかけてしまったね」

 「滅相もありません。我々の不甲斐なさゆえに、ロラン様を窮地に追い込んでしまったのです。しかし、驚きましたぞ。まさか、ロラン様がシャンドル家のご子息だったとは。その朱眼も今にしてみれば、シャンドル家のもの。遅くなりましたが、納得いたしました」

 やっぱり朱眼って、そんなにインパクトがあるものなんだね。でも、ガーフェが僕の身分が変わっても、変わらず接してくれるのにちょっと安心した。

 「それでスラムについてなんだけど……」

 僕は王とシャンドル公と交わした約束について、説明した。今後、いや今でもそうだけど、スラムに関してはガーフェに任せることが多くなる。そのための意思疎通と連絡方法を確立しておきたいんだ。

 「こんなものかな。それでシャンドル領に新たに作る村にスラムの人達を……」

 「いや、しばらく。整理する時間をください。なにやら、スラムにも大きな変化が訪れそうな予感がしますな。これは真剣に考えねばならないでしょう。いかがでしょう? ニッジ君も呼んでは。彼はすでにスラム畑の取締ですから」

 確かにその通りだ。肥料作りに関することも相談しなくてはならないのだ。ガーフェはすぐに孤児院宛に連絡役を送りつけた。ニッジのことだから、すぐに来てくれるだろう。案の定、一時間もしないうちにやって来てくれた。そこには思わぬ人物、マリアの姿もあった。もちろんララも一緒だ。

 「ニッジ、早かったね」
 「当たり前だろ。重要な話があるって聞かされて飛んでこないわけには行かないだろ?」
 
 「シスターも来てくれたん……んぐ」

 マリアは言葉を待たずに抱きついてきた。この挨拶も久しぶりだな。
 「数日、お会い出来なくて、とても辛かったです。はあ、ロラン様の匂い……たまりません」

 ようやく解き放してくれた。「この続きはあとで」なんて思わせぶりなことを言うものだから、皆の注目を浴びて恥ずかしい思いをしてしまった。マリアとは別に何もないからね? 本当だからね。

 うん。信じてくれないと思ったよ。

 「シスター。とりあえず、あとで話をしようね。今回はスラム全体についてとスラム畑について。そして、僕のことについて話をしよう。すでにガーフェには話したんだけど……」

 再び同じ話をした。ニッジはやっぱり興奮して聞いているようだ。

 「やっぱりロランは別格だと思ったぜ。オレの目に狂いはなかった。そうか、すでに貴族様だったってわけか。オレもロランについていけるって事だろ? こんなに早く夢が叶うなんて思ってもいなかったぜ」

 「わ、私も……」

 ララも話に加わろうとしてくるが、ガーフェの言葉に遮られてしまった。

 「さて、まずは何から話をしましょうか。流れとしては、スラム畑についてでしょうか。現状はニッジ君にお願いしているところが大きいですが、彼が抜けてしまうことを考えますと代役が必要となりますな」

 「ああ。そのことについては心配は要らないぜ。しっかりと後任は育てているからな。オレからはフォークを薦めるぜ。やつなら、上手くやってくれるだろう」

 知らない名前だ。でもガーフェは知っているようで、何度も頷いて理解をしていた。問題はなさそうだな。

 「ならば、次に肥料作りについて各地に技術者を派遣するという話ですが。これはどうでしょう?」

 「それについては心配はないな。肥料作りに従事している人は多いし、分かってしまえば難しい作業なんてないので肥料づくりだ。人手集めと技術者が数名いれば、どこでも肥料作りは出来るぜ。だから、各地に派遣っていうのもすぐは無理でも、近い将来可能なはずだ」

 「いい答えですな。畑と肥料作りに関しては特に問題はなさそうですな。ならば次は、シャンドル領について、ですな。ロラン様の説明では、新たな村を作ると。その村はスラムの人で構成するという話でよろしいですかな?」

 「そうするつもりだ。もちろん、スラム以外の人達以外を受け入れないというルールは作るつもりはないけどね。とりあえずはスラムの人達で、って考えてほしいかな」

 「分かりました。その人選をどのように選ぶか……それは私の方に任せてもらっても宜しいでしょうか?」

 意外な申し出にちょっと驚いてしまったが、スラムを熟知しているガーフェに任せるのが一番だ。もちろん、了承する。

 「ただ、シャンドル領にある工房に弟子入りする約束もあるからな。その人選も頼む」
 「分かりました。概ね千人程度ということなので、人選を急がせます。そういえば、ニッジ君以外に側近としてお連れする者はおりますか? 不肖、ガーフェもお供したいところですが、老体ですからスラムに残りたいと思っております」

 ガーフェが側に居てくれるのはかなり安心だけど、スラムからいなくなるのはかなり困る。ガーフェもその辺りは熟知していることだろうから、先に断りをいれたんだろうな。

 「残念だけど、ガーフェにはスラムをお願いするよ。僕が連れて行くのは、ニッジ……」

 だけ、と言おうとしたがララからの熱い目線を無視することが出来なかった。

 「とララかな」

 他からも熱い視線が。マリアからのものだった。貴方はダメでしょ。教会もあるんだし、孤児院だって。

 「いいえ。私も行きます」
 
 うわ。自分で宣言しちゃったよ。

 「シスターには……」

 「全て、シャンドル領に移動します。それで問題はないでしょ?」

 いや、だって。教会ってそんな簡単に移動できるものなの? 許可とかなんとか、結構うるさいんじゃないの?

 「勘違いしているようですが、私は教会には属していません。とうの昔に辞めてしまいましたから。ですから、自由の身の私を束縛することなんて誰も出来ないんでしよ!!」

 高飛車に言っているつもりだけど、僕が拒んだら来れないんじゃないだろうか?

 「でも、師匠も行くことになっているんですけど……大丈夫なんですか? そのシスターって師匠と仲が悪いでしょ?」

 「ど、どういうことですか? ティスが付いていくって言ったんですか? ……信じられない。どんな心境の変化が。もしかして、たかられたりしていないですか? 食事の用意をしろとか。文句でも言ってきましょうか?」

 師匠のことを本当によく理解している人だな。

 「そんなことはないですよ。ただ……付いてくる条件として師匠とは婚約者になってしまいました」

 それを聞いた瞬間、マリアから聞いたこともない声を上げ、気絶してしまった。他の面々は、なにか理解したかのように頷くだけだった。

 「ロランの師匠、美人だもんな。羨ましいぜ!!」
 「ティス様の行動を理解するのは不可能ですが、こればかりは理解できます。ロラン様の魅力にティス様も陥落なさったわけですな」

 「わ、私も……」

 「絶対に許しませんわ!! こうなったらティスを殺すしか……」

 復活が早かったな。またしてもララの言葉は遮られてしまったが、内容は聞かないほうが良かったことかも知れない。

 「シスター。ちょっと待って。一応、お互いに納得したことだから。師匠は僕の近くに本当に居たいと思ってくれていると思うんだ。だから、放って置いてほしいんだ」

 「そうですか……そこまで言うのなら、ロラン様のご意思を尊重します……嫌ですけど。本当に嫌ですけどね。だけど、納得いかないことがあります」
 
 ん? なんだろ?

 「どうして、私とは婚約してくださらないのですか?」

 どうしてそうなる? そもそも婚約の話なんてしたことあったっけ? いや、それより……マリアって僕にそんな感情を抱いていたの? 子供の僕に? 

 「落ち着いて、シスター。この話は後でしたほうがいいと思うんだ。ここでは……シスターの威厳っていうか、尊厳みたいなものがボロボロ剥がれていくような気がするんだ」

 「分かりました。それでは私は教会でお待ちしております。そのとき、お話しましょう」

 マリアはとぼとぼとした足取りで姿を消した。ララも何かを言いたげだったが、すぐにマリアの後を追っていってしまった。

 「なんだったんだ? ロランもなんか……大変だな。でもよ、シスターもすごい美人だよな。婚約したいって言うなら婚約すればいいんじゃねぇの?」

 ニッジ……他人事だからって楽しんでないか? たしかにマリアは美人だし、優しいし……結婚相手としては申し分ないけど……恋愛とはちょっと違うんだよな。

 「ガーフェ。話を戻してもらってもいいかな?」

 「分かりました。しかし、シスターも虜にしてしまうロラン様の魅力は凄まじいものですな。これなら後継者争いも安心してみていられますな」

 それだけで決まるなら苦労はなさそうだけど……そんなことはあるまい。

 「ところでガーフェ。師匠にも言われたことなんだけど、情報を入手する方法が欲しいんだ。なにか、ないかな?」

 「情報ですか? 例えば、シャンドル家の内情や他の後継者候補の事とか、ですか?」

 さすがはガーフェだ。話が早くて助かる。頷くと、ガーフェは明るい顔をした。どうやらすでに腹案があったようだ。

 「それについては、すでに構築済みと言ってもいいでしょう」

 どういうことだ? どうやら、スラムでは子供を各地の貴族に奉公人として送っているらしいのだ。仕事のないスラムでは子供は生きてはいけない。そのため、貴族に送っているらしいが、実はその子供から情報が送られてきているようなのだ。

 「それって、バレたらまずくない?」
 「マズイですな。しかし、そうでもしなければ我々は生き残れませんから。城門での対応も見ていただいたから分かっているとは思いますが、王国では我々の存在は簡単に消されてしまう程度なのです。身を守る手段と考えていただければ」

 その情報があればこそ、生き残れたってことなのか。そう考えると、スラムの置かれている状況ってかなり厳しいんだな。

 「その情報網って、まだ生きているの?」
 「あまり機能はしていませんが、これからでも十分に機能はさせられますぞ。ただ、そのためには多くの現金が必要となります。どうされますか?」

 「必要なだけ言ってくれ。出せる範囲で、最大限工面しよう。ちなみに送られる子供ってどうやって選ばれるの?」

 「聡明で目利きが出来るものですな。年に一人程度と少ないですが、その分怪しまれることもありませんから」

 思いがけず面白い話が聞けたな。これなら、情報を入手することも難しくなさそうだな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...