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2章

別れた国

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 サムは、うやうやしく扉を開けた。部屋には、テーブルやイスがあり奥にはべッドがふたつ並んでいた。サムは、ベットの上に垂れ下がっているひもを指さした。

「ご用があれば、このひもを引いて下さい。私ども、使用人は別館に住んでおりますが、すぐに、参上いたします」

 そして、クローゼッツトを開けて「パジャマや、下着、お着替えなどはこちらにご用意してあります。洗面所やトイレもありますが、古い造りなのでお湯は出ません。何か、お聞きになりたい事は?」

「他にも部屋があるの?」とロビン。

「もちろん。宮殿には、999箇所の扉、380枚の窓、応接間18、事務室67、お客様用寝室37、浴室87などがあります」

「まじか……迷子になりそうだ」
ノアは、目をぱちくりさせている。

「で、この宮殿には、僕達の他に誰がいるの?」ロビンが聞く。

「王様が、病室で眠っていらっしゃいます」

「他の人は、いないのか?」

「お医者様のジャク先生が、王様の隣の部屋に待機しております」

「寂しい所だね」

「おっしゃる通りです。なにしろ、魔法国の全盛期ぜんせいきに出来たお城ですから、たいへんに大きい。けれど、今は国が二つに分かれて戦争をしておりまして……城でパーティを開く余裕よゆうなどなくなりました。元はと言えば、あの魔女が……あっ、つい余計なことを言ってしまいました」

「知ってるよ。ルビー王女の事だろう?」

「はい。さようでございます。ルビー王女が、新たに国を作ってからは、ろくなことがありません。ひとつにまとまっていた魔法の国が、グリーン国とゴールデン国に別れてしまったのです。

グリーン国は、”命”を大切にする国です。しかし、ルビーは、”きん”つまり、利益を大切にする人達とグリーン国を出て行きました。そしてゴールデン国を作ったのです。今では、ゴールデン国のほうが、強くなってしまいました。この先、どうなることやら……では、私は、これで、失礼いたします」
サムは、暗い表情で部屋を出ていった。

部屋には、飲み物やフルーツが入った冷蔵庫があり、ゆったりしたお風呂ふろもある。ノアは、ベッドにダイブして、ふっーとため息をついた。

「ばあちゃん、今頃心配してるかな?」
「かもな」
「僕たち帰れるのか?にいちゃん、スマホは持っている?」
「あっ!やばい。忘れてた。いろいろあったし……」
ロビンは、あわてて、ズボンのポケットを捜すが見つからない。

「どっか、いっちゃった。ないよ」
「魔法のアプリがなければ、帰れねぇな」

「仕方がない。この宮殿が、ぼく達のほんとの家だってさ。ミカエルが、せっかくさがしてくれたんだし」
「病室はどこにあるのかな?父さんに会いたいな」
「うん……あした、探しに行こう」
ふたりは、話しながらいつしか眠りに落ちていた。
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