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2章

真夜中の歌声

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 目が覚めた。真っ暗だった。ロビンは、もう一度眠ろうとしたけれど眠れない。こんなに暗いから眠れないのだ。手探りで歩いて窓のカーテンを開けると、部屋に月明かりが差し込んでちょうどいい。ロビンは、もう一度ベッドに横たわって目を閉じた。

 なんども、寝返りをうった。お母さん……会いたかったな。どんな人だったのだろう。……甘えてみたかった。心のどこかで、いつもお母さんに会えると信じていた。でも……とっくに、死んでいたのだ。悲しい沈んだ気持ちがなまりのように重くのしかかる。
涙が出る前に、起き上がった。

 お父さんに会おう。眠っているならひと目でもいい、顔をみたい。だれもいない夜中なら、ちょっと部屋に忍び込めるかも。
 
ロビンは、ノアを起こさないように、そっと部屋を抜けだした。抜き足差し足で歩いて、ふと立ち止まったーーーけれど、足音は聞こえる。不思議に思って、振り向くとノアが立っていた。

「僕も行く。お父さんを探すんだろう」

ノアも眠れなかったんだ。ロビンはだまってうなずいた。

 階段を降りると、長い廊下ろうかが伸びていた。天井には、シカの角をあしらったシャンデリアが所々にり下げられて、ローソクの光があたりを照らしていた。かすかな歌声が聞こえてきた。うっとりするような不思議ふしぎなメロディーだ。ふたりは、その美しい声に引き寄せられるように歩いた。

 しばらく行くと石壁いしかべにはめ込まれた立派な鉄扉てつとびらがあった。あの歌声が扉の奥から聞こえてくるようで、耳をました。ここが、病室か?ロビンとノアは力を合わせてしたが、もびくともしない。
「せぇーの」
二人で体当たりしたけれどね飛ばされた。しかたなく扉の前でうずくまる。


「ここで、何をやっている!」

白衣を着た男の人がけつけてきた。よく光る黒い目をしていて、としている。

「「ごめんなさい……」」
ふたりは、小声であやまった。

「私は、王様の主治医しゅじいジャックだ。ひよっとして君達は、ロビンとノアかね?」

「はい。父にひと目会いたいのです」ロビンがおずおずと言った。

「どこにいるか、教えて下さい。お願いします」とノアが頭をさげた。

「王様は、意識いしきがなく面会禁止めんかいきんしです。でも、私が寝ずに看病かんびょうしておりますから、どうか、ご安心を」

「わかりました……ジャック先生は、ここに住んでいるのですか?」とロビン。

「いえいえ。私の家は村にあります。なかなか帰れずに、妻や幼い娘にも会えません」
ロビンは、うなだれた。先生の家族もさびしいにちがいない。

 ジャック先生は、やさしい声で
「王様が元気になれば、すべて解決します。何か良い薬はないものかと、みんなで研究しております。アンジェラは、美雲島からめずらしい花や実を摘んできました。王様の妹は、いろいろな薬草を育てています。
薬草を上手に調合ちょうごうすれば、きっと成功する。
希望を持ちましょう」とはげましてくれた。
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