佐渡島のあやかし(第3話)など 短編集

あさのりんご

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2章

ポニーテール

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 ロビンとノアは、ジャック先生と別れて自分たちの部屋へ戻り始めた。廊下は死んだように静まり返っている。幽霊ゆうれいが出てきても、おかしくない雰囲気ふんいきだ。

「わっ!」
ふいに、声がしてふたりは飛びあがった。暗闇くらやみからアンジェラが現れた。つなぎのジーンズをはいて、キュートな笑みを浮かべている。ポニーテールにしているので、ちょっとボーイッシュな感じがした。

 ロビンは、「ビックリしたぁー。おどかすなよ」といいながら、ほっと胸をなでおろす。アンジェラは、楽しそうに「いいもの、手に入れた」と、つなぎのポケットからカギを取り出し、ひらひらさせた。

 ノアは目をまるくして「病室のカギ?」と聞く。
「ジャック先生が君たちと話しているすきに、先生の部屋に忍び込んだの。引き出しに、カギがあったからーーちょっと、借りてきた。これで、開くかどうかわからないけど、ためしてみましょうよ」
 
 アンジェラは、風のように走り出し、ロビンとノアも続く。アンジェラが病室の扉の前にひざまづき、カギをカチャカチャ動かすと、扉があっという間に開いた。

 ロビンとノアは、天蓋てんがいのついたベッドにそっと近づいた。王は、静かな寝息をたてている。

 ロビンは、父の顔を食い入るように見つめた。お父さんだ……お父さんに会えた。寝顔には威厳いげんがあって、どこか優しい温もりがある。この人が父親か……話しかけてくれたらどんなにうれしいことだろう……眠ってないで、ぼく達を見て欲しい……ノアが、そっとロビンの手を握った。ロビンも握り返す。

 ガタンと音がして快活かいかつな足音が近づいてきた。あの足音は、ジャック先生に違いない。

 アンジェラが、ささやいた。

「逃げて!私は、カギを返しておく」

 ロビンと、ノアは、いちもくさんに駆け出し、アンジェラは、廊下の暗闇に身を潜めた。

 ジャック先生が、病室に来た時には、すでに扉にカギがかかっていた。先生はあたりを調べたがだれもいない。首をかしげながら、部屋に戻って行った。

         ■  

  あくる朝、ロビンとノアは丘を降りて村へ出かけた。見上げれば、雲ひとつない。あたたかな陽射しが心地よく、歩いているだけで、幸せな気持ちになった。広々とした原っぱに、羊たちがのんびりと、草をんでいる。レンガ造りの家々の壁には、バラがからんで美しい花が咲いていた。ロビンは、この美しい風景を覚えてはいない。けれど、とても、なつかしい気がした。↓※
 

 ふたりは、薬草をもらってくるように、ジャック先生から頼まれていた。その名前が難しいので、先生は《マンドレイク》と書いたメモを渡した。そして、「マンドレイクの根は、人の脚に似ている。引き抜くと、泣き声を上げるが、その声を聞いた者は、神経をやられてしまう。まぼろしが目の前に現れたり、気が狂ったように笑い出したりするのだ。決してはちから動かさないように」と、教えてくれた。

 ジャック先生に聞いた道をしばらく歩くと、ロビンとノアは、広い通りに出た。路面電車が、ゴトゴトと音を立てて通り過ぎ、自転車に乗った村人達が、電車と競争するように、颯爽さっそうとペダルをこいでいる。

 どこからか、美しい声が聞こえてきた。昨夜、お城で聞いたあのメロディーだ。その声にさそわれて、二人が、わき道に入ると広場に人だかりがしている。
 みると、大きな木の下で、黒かみの美女が歌っていた。とろけるような歌声に、皆、うっとりと聞きほれていた。
 
 広場の木陰にロバに引かれた屋台が止まっている。揚げたてのフライドポテトが並び、白髪しらがのおじいさんが、ワッフルを焼いていた。

※コッツウォルズの風景

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