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3章

ルビーⅱ

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 ルビーは、青色ジュースをロビンに突きつけた。
「お前も、お飲み。猫にしてあげようーー」
 
 ロビンは、ジュースをはねのけた。グラスは、床に落ちて粉々にくだけた。が、次の瞬間しゅんかん、映画のフィルムを巻きもどしたように、グラスは元通りに復元。ジュースは、テーブルにバックした。

 ロビンが、あっけに取られて立ちつくしていると、ルビーに、グイとうでつかまれた。

「こんな魔法におどろくなんて。可愛いじゃないか。白猫がお似合いだね」
再びグラスを突きつけられて、ロビンは思わず手の甲で口をおおった。

(飲むもんか。死ね!)

 次の瞬間、手のひらから光のビームが流れた。彼女は、「ぎゃー!」と叫んでうずくまった。目を両手でおさえている。目が急所なのだ。

 ロビンは、ふと左手に鋭い針で突きさされたような痛みを感じた。手のひらを見ると、十文字の傷から鮮血せんけつがにじみ出ている。それを見て、以前に聞いたアンジェラの話しを思い出した。
『その傷は、魔法使いの杖と同じ。負のエネルギーを、相手に向けて破裂はれつさせれば、敵を倒す事が出来るってわけ。でも魔力を使いすぎると、傷は大きくなり血が止まらなくなるーー』

 
 ルビーは、ふらふらと立ち上がろうとした。けれど、苦しそうに又うずくまった。
 
 ロビンは、自分の目をうたぐった。
 魔女が弱っている!?
 ぼくがルビーに勝ったのか?ありえない。
 きっとやり返されるに決まっている。今のうちに、逃げよう。

「ノア、がんばれ!必ず、助けに来る!」
 ロビンは、子犬の頭を優しくなでた。だが、子犬はウーと、うなってきばを向く。
 もう、人間の言葉は通じないのだ。
 ロビンは、悲しくなった。
 ぼく達は、みなしごだから、いろんな事をふたりで乗り越えてきたのにーーー
 ノアの変り果てた姿に涙が止まらない。

 ”ひるまないで!  ロビン。がんばるのよ。きっといい方法があるわ”

 どこからともなく、優しい声が聞えた。
きっと母さんの声に違いない……母さんは、どこかで、ぼく達を見守っている。負けるもんか!ロビンは、涙をぬぐって屋上の非常階段をかけ下りた。


 エレベーターで高層ビルの一階まで降り、地上を歩き出す。ほっとした。しかしゴールデン国の街はグリーン国と、まるで違っていた。
 行きかう人に道を尋ねても無視されてしまう。男も女も無表情。その首は驚くほど長く、頭を前へ突き出して歩いている。パソコンを見続けると、あんな首の形になるのだろうか……

 ロビンは息詰いきづまる街からのがれるように、空を見上げた。しかし、高いビルで埋め尽くされ、そこに空はなかった。子供も年寄りもいない街だった。

 ロビンは、ふーっと、ため息をついた。街のショーウインドウには、美味しそうな食べ物が並んでいる。見ていると、お腹が空いてきた。

 店に入ってみようか……銀貨があったはずだ。
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