よく効くお薬

高菜あやめ

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スピンオフ【白石と片瀬】

おまけ Be my Valentine 【津和と千野】

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 バレンタインを前日に控え、俺は頭を悩ませていた。毎度のことながら嫌になってしまうくらい、こうしたイベントごとには気が利かずセンスもない。
「お前ほんっと学習しねーなあ。俺に相談すんなよそんなこと。またいらん嫉妬を買うだろ」
「話せるのは松永くらいしかいないんだよ。それに今回は相談じゃなくて愚痴だ」
「似たようなもんだろ。あ、焼き鳥追加で」
 居酒屋で待ち合わせた友人は、それでも一杯付き合ってくれた。俺の、話しても解決できない話に、焼き鳥三本を食べ終わるくらいは耳を傾けてくれるつもりらしい。
「無難にチョコレートでいいんだろうか」
「いいんじゃね」
「それとも、マフラーとかアクセサリーがいいんだろうか」
「それもいいんじゃね」
 やはり松永に話しても解決しない。自分で決めなくてはならない。
「それに、なにもお前が渡す側じゃなくても、もらう側に徹してもいいんじゃね?」
「……今なんて言った?」
「え、だからお前がもらう側でも」
「そうか!」
 たしかに俺が渡す側じゃなくてもよかった! いや、なんか渡してもいいけど、もらう側ってのに頭がいかなかった。
「ありがとう松永。今回はお前の言葉に救われた」
「は? なに言ってんだよ。俺もしかして余計な知恵与えた? やべー、津和さんに殴られるかも」
あずさは人に暴力ふるわないよ。さて、決まったらとっとと帰るぞ。早くその酒飲んじまえよ」
「おまっ……久しぶりに飲みにきてそれかよ? 恋人がいても、友情をおろそかにするとバチあたんぞ」
 ブツブツつぶやく旧友は、それでもサッとグラスを飲み干してくれた。もちろん今夜は俺のおごりだ。
(さーて、梓はなにをくれるんだろ)
 俺がもらう側なら、ハードルはグッと下がる。なんなら俺も、ちょっとしたものをあげようかな、と選ぶのも簡単な気がしてきた。それなら帰りに駅ビルで、少し高そうなチョコレートを買えばいい。
(んー、そういやこの前、俺の着てるパジャマを欲しそうにしてたな)
 津和は寝るときゼータクにもシルクのパジャマを着てる。だから洗濯が手洗い設定で、他の洗濯と分けなくてはならない。さいきんはそれが面倒らしく、Tシャツにジャージを着てることも多い。
『ケイのパジャマ姿はいいね』
 そんなことを言って、肩や首に顔をすりよせてくる。俺のパジャマは、オーガニックコットン製で、いわずもがな某有名な量販店で購入したやつだ。とうぜん雑な洗濯も耐えられる、暮らしにやさしいアイテムである。
 俺は松永と駅で別れると、さっそく某量販店へ向かい、パジャマを選んだ。
(新しいのもいいな。せっかくだから俺も自分用に新しいやつ買おうかな)
 デザインはあまり豊富ではなく、けっきょくチェックの色違いになった。うん、これは実用的だし、洗濯がラクだし、我ながらいいプレゼントを選んだとうれしくなる。

 その日の夜。津和は残業で帰宅が遅かった。
「おかえりなさーい」
「ただいま、まだ起きてたの? 遅いときは、先に寝てていいのに」
 いつもは先に寝てるが、今夜は特別だ。バレンタインの前日だが、用意したプレゼントを早く渡したかったからだ。
「あれ、新しいパジャマだね。かわいい」
 すぐ『かわいい』と言う津和に、俺は苦笑いを浮かべる。付き合いはじめたばかりのころは都度否定してきたが、それももう疲れた。この男の審美眼はどこか変だから、もう何も言うまい。
「そのかわいいパジャマ、もうワンセットあるんだ」
「色違いで買ったの? 似合うだろうね」
「いや俺のじゃないから」
 津和は脱いだコートをかかえたまま、少しかたまった。
「……他に誰が着てるの?」
 いやホント、マジで俺が松永あたりとお揃いのパジャマを着るとでも思ってるのか。恋人の不機嫌そうにすがめた瞳を避けるように、俺はリビングへとひと足先に逃げこむ。
「ケイ、話はまだ終わってない」
「ホラ、あんたの分」
 俺は急いで量販店の紙袋を差し出す。すると、恋人の手からコートと鞄が床に落ちた。
「え、まさか」
「だから、もうワンセットはあんたの分だから」
 津和は顔を赤くして、笑みを浮かべた。俺はホッとして、開けるようにうながす。俺のチェック柄は淡いミントグリーンで、津和のはペールブルーだ。
「ね、着せて」
「へ?」
 なぜか甘えたモードになった恋人に、俺はしかたないな、と風呂に追い立てる。
「早く入ってこいよ」
「上がったら着せてくれる?」
「あー、まあいいよ、うん」
 すると男はものすごいスピードで風呂場へ消えていった。
(想像してたリアクションと違うけど、ま、よろこんでるならいっか)

「ね、着せて」
 風呂から上がってきた津和は、バスローブ姿で寝室にやってくると、俺にパジャマを着せてくれとねだった。
(しかたない、バレンタインだもんな)
 日付はそろそろ十四日に変わりそうだった。この甘ったるい様子は、絶対にバレンタインを意識してる。プレゼントは特段セクシーでもなんでもない、フツーの量販店のパジャマなのだけど、俺からってことでテンション上がってるのだろう。
「コラなにしてんだ」
「んー」
 肩にかけたパジャマの前ボタンをとめる際、なぜか津和の手が俺の前ボタンに手を伸ばし、あろうことかそれを外しはじめた。
「なんで俺のを脱がすんだよ」
「だって」
 津和の横顔が、俺の耳元に寄せられた。
「プレゼントの中身は君と俺でしょ」
 その囁き声に、俺はあっけに取られて手がとまった。中途半端に着せかけたパジャマの上着に、これまた中途半端に脱ぎかけたパジャマの上着が重なる。そのままベッドに押し倒されると、あたたかい素肌が触れ合った。
「ふふ、二人お揃いのパジャマなんて、色っぽい誘いかたするね」
 いや、違う。誘ってなんかない。そんな意味なにもないんだ。そう訴えても、津和は聞く耳持たなかった。

(おわり)
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みんなの感想(22件)

蜂蜜堂
2025.02.13 蜂蜜堂
ネタバレ含む
2025.02.13 高菜あやめ

蜂蜜堂さん、コメントありがとうございます!
久しぶりに津和と千野の話を書いたのですが、楽しんでいただけてよかった!うれしいです♪

おそらく津和は、千野が狙ってこのプレゼントを選んだと思ってないけど、いい口実?にしてしまう程度に悪い大人です。
無理させた分、翌日はきっと思う存分世話を焼けて、ダブルでうれしいバレンタインになりそうですね!

解除
ゆあ
2023.12.12 ゆあ

すっごい良かったです!一気読みしました!

なかなか素直になれない2人にじれじれしながらも、できる彼氏がデロデロに甘やかしてくれて安心しました😊

片瀬さんが好きなのが誰か気になる、、!もしかして気づいてないだけですか!?😱

すごい面白いかったので高菜あやめさんの他の作品も読みます!

素敵な作品、ありがとうございました🙇‍♀️

2023.12.12 高菜あやめ

ねこ丸3号さん、こんばんは!
うれしいコメントありがとうございます、とっても励みになりました。
甘い展開大好きなので、そこが刺さったようで「やったー」とよろこんでます〜
片瀬の好きな人ですか?まだ出てませんのでご安心?ください。笑

現代の他にファンタジーも書いてますので
気になった作品があれば是非また読んでみてくださいませ。

解除
静葉
2023.07.18 静葉
ネタバレ含む
2023.07.18 高菜あやめ

再アップするか検討中です。

解除

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