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第二部
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そこからテオドアは、大佐の『添え物のように黙って横に立つ』ことに徹した。
大佐とアーミテイジの話は興味深かったが、口が挟めるような立場でもないので、得た情報を頭に流し込むくらいしかできない。
やがて会話は仕事の話から、昔の思い出話に移った。幼馴染だと言う二人には、どこか似たような洗練された雰囲気がある。それは豊かな生活によって後天的にもたらされた洗練さではなく、生まれながらにして備わった、ある種の品格とも呼べるものだ。
(……暇だし、せっかくだから何か飲むか)
気分を変えようと、給仕が運んできた酒のグラスに手を伸ばしたが、なぜか大佐に取り上げられてしまった。
「最初に渡した一杯で終わりだ」
すると隣で三杯目のワインを手にしたアーミテイジが、堪らずといったように吹き出した。
「やけに躾が厳しいじゃないか」
「彼は飲むとすぐ眠くなって、危なっかしいからな」
「なるほど、目が離せないわけだ」
「まあね」
まるで手の掛かる若造扱いに閉口するが、今のテオドアには正直どうでもいい。それよりも早く家に帰って眠りたい。
フロアに流れる音楽も、ワルツを踊っている連中には心地良いかもしれないが、テオドアにとってはただの騒音だ。きつい香水の匂いがそこかしこから漂ってきて、頭が痛くなる。
食べ物は悪くないが、腹が膨れるような物は無く、また上官を放って食事に専念するわけにもいかない。
完全に手持ち無沙汰で、苦痛すら感じる時間が刻々と過ぎていく。ようやく迎えの車で帰路に着いた頃には、日付が変わっていた。
「つまらなそうな顔をしてたね」
後部座席の隣に座る大佐が、白々しく切り出した。
大佐の屋敷から遣わされた送迎車は、革張りのシートが疲れた体を労わるように支えてくれる。会場から遠ざかっていくことで、ようやく肩の力が抜けたテオドアは、手足を投げ出したままぶっきらぼうに口を開いた。
「まあ、実際つまらなかったんで」
「僕もつまらなかった。せっかく贈った服を、君が着てこなかったから」
エンジンの音に紛れて聞こえる軽口は、妙にテオドアをいらつかせた。
「軍服で間に合うなら、あんなもん要りませんよ」
「せっかくお揃いになるよう仕立てたんだ。一度くらい、袖を通してくれてもいいだろう?」
「……お揃いにしたけりゃ、あんたも軍服を着たらいいでしょう」
すると暗い色を帯びた大佐の瞳が、テオドアを嘲るように細められる。
「それは違う。君は分かってないな……何も、分かってない」
手首に絡んできた熱い手を、テオドアは乱暴に振り解いた。こんな場所で冗談じゃない。いくらカーテンで仕切られているとはいえ、会話は運転手に筒抜け状態だ。
「本当に無粋だね、君は」
「あんた酔ってるんですか。なら、ここで降ろしてください。俺は歩いて帰ります。あんたもさっさと自分の屋敷に戻れば……」
「誰が帰っていいと言った?」
暗がりで素早く動いた手が、テオドアの顎を強く掴み上げた。至近距離に近づいた顔には、冷淡な微笑が浮かんでいる。
「ぐっ……」
「今夜は、僕の屋敷に泊まるといい」
痛みこそ無いが顎の強い締め付けに、拒絶の言葉を発することも叶わない。緊迫した空気が二人を包み込む中、車は大佐の屋敷へ向かって夜道を疾走した。
屋敷に到着する頃には、お互い大分落ち着いていた。
車を降りた大佐は、夜食を用意させようかと提案し、一方のテオドアは先に風呂を使っていいか、と大佐に聞く余裕もあった。
だが大佐の私室に入ると、事態は一変した。
「なっ……ちょっと待っ……」
「黙れ」
奥の寝室に連れ込まれたテオドアは、性急にベッドに押し倒された。
大佐に腰を抑え込むように馬乗りされ、悔しいがまったく身動きが取れない。
(いきなり、どうしたんだ……?)
テオドアは戸惑いのあまり、さして抵抗らしい抵抗も出来ずにいた。だから軍服の前を引きちぎるように開かれた時も、容赦なく鎖骨に齧りつかれた時も、かえって冷静さを取り戻したくらいだ。
「……ええと、何か怒ってます?」
大佐は、テオドアの胸元からゆらりと顔を上げると、髪をかきあげつつ目を眇める。
「誰だ、あの男」
「は? どの男ですか?」
「僕と離れていた時、壁際で話してたろう? 地味な女を連れていた奴だ」
テオドアは疲れた頭で、数時間前の記憶を辿った。
「ああ、デイヴィスのことですか……痛っ!」
いきなり無防備な胸の尖りをつねられ、自然と腰が跳ねた。そのまま今度は柔らかく捏ねられると、口から変な声が漏れ出てしまう。
「あ、あ、あ……んん、やめ……話せ、な……」
「他の男のことなんて話すな」
自分で聞いたくせに矛盾している。非難がましい目を向けても、大佐は仄暗い笑みを浮かべて唇を舐めるだけだ。
「変な男を引っかけて、悪い子だ」
「なっ……んん、あ……あ……」
形の良い唇がゆっくりと、歌う様に言葉を紡ぐ。
「もっと躾けが必要のようだな。いい加減、今の部屋を引き払って僕の元へ来い。そうすれば毎晩、この体に嫌ってくらい叩きこんでやる……」
まるで獲物を前に舌なめずりする獣を連想させられ、本能的に身震いする。
何かしゃべろうとすれば、まるで言い訳を聞きたくないと言わんばかりに、濡れた唇に塞がれてしまう。肉厚な舌で口内を舐られ、縮こまった舌先をきつく吸われると、体の内側が溶けそうなほど熱くなっていく。
もう否定できない。明らかに気持ちがいい。
だがテオドアにも矜持があるので、素直に口に出せない……少なくとも、正気を保てる間は。
ようやく唇が解放されると、次は胸の先に濡れた感触がした。最初はゆっくりと転がされていたが、やがて強弱をつけて吸われながら甘噛みされると、快感が漣のように押し寄せる。
「あっ……んん……くっ、そこばっか、やめ……」
「君の体は素直だな……健気に、かわいらしく応じてくれる」
「んああっ!」
赤く腫れた乳首にむしゃぶりつかれ、テオドアはとうとう高い嬌声を上げてしまった。
大佐とアーミテイジの話は興味深かったが、口が挟めるような立場でもないので、得た情報を頭に流し込むくらいしかできない。
やがて会話は仕事の話から、昔の思い出話に移った。幼馴染だと言う二人には、どこか似たような洗練された雰囲気がある。それは豊かな生活によって後天的にもたらされた洗練さではなく、生まれながらにして備わった、ある種の品格とも呼べるものだ。
(……暇だし、せっかくだから何か飲むか)
気分を変えようと、給仕が運んできた酒のグラスに手を伸ばしたが、なぜか大佐に取り上げられてしまった。
「最初に渡した一杯で終わりだ」
すると隣で三杯目のワインを手にしたアーミテイジが、堪らずといったように吹き出した。
「やけに躾が厳しいじゃないか」
「彼は飲むとすぐ眠くなって、危なっかしいからな」
「なるほど、目が離せないわけだ」
「まあね」
まるで手の掛かる若造扱いに閉口するが、今のテオドアには正直どうでもいい。それよりも早く家に帰って眠りたい。
フロアに流れる音楽も、ワルツを踊っている連中には心地良いかもしれないが、テオドアにとってはただの騒音だ。きつい香水の匂いがそこかしこから漂ってきて、頭が痛くなる。
食べ物は悪くないが、腹が膨れるような物は無く、また上官を放って食事に専念するわけにもいかない。
完全に手持ち無沙汰で、苦痛すら感じる時間が刻々と過ぎていく。ようやく迎えの車で帰路に着いた頃には、日付が変わっていた。
「つまらなそうな顔をしてたね」
後部座席の隣に座る大佐が、白々しく切り出した。
大佐の屋敷から遣わされた送迎車は、革張りのシートが疲れた体を労わるように支えてくれる。会場から遠ざかっていくことで、ようやく肩の力が抜けたテオドアは、手足を投げ出したままぶっきらぼうに口を開いた。
「まあ、実際つまらなかったんで」
「僕もつまらなかった。せっかく贈った服を、君が着てこなかったから」
エンジンの音に紛れて聞こえる軽口は、妙にテオドアをいらつかせた。
「軍服で間に合うなら、あんなもん要りませんよ」
「せっかくお揃いになるよう仕立てたんだ。一度くらい、袖を通してくれてもいいだろう?」
「……お揃いにしたけりゃ、あんたも軍服を着たらいいでしょう」
すると暗い色を帯びた大佐の瞳が、テオドアを嘲るように細められる。
「それは違う。君は分かってないな……何も、分かってない」
手首に絡んできた熱い手を、テオドアは乱暴に振り解いた。こんな場所で冗談じゃない。いくらカーテンで仕切られているとはいえ、会話は運転手に筒抜け状態だ。
「本当に無粋だね、君は」
「あんた酔ってるんですか。なら、ここで降ろしてください。俺は歩いて帰ります。あんたもさっさと自分の屋敷に戻れば……」
「誰が帰っていいと言った?」
暗がりで素早く動いた手が、テオドアの顎を強く掴み上げた。至近距離に近づいた顔には、冷淡な微笑が浮かんでいる。
「ぐっ……」
「今夜は、僕の屋敷に泊まるといい」
痛みこそ無いが顎の強い締め付けに、拒絶の言葉を発することも叶わない。緊迫した空気が二人を包み込む中、車は大佐の屋敷へ向かって夜道を疾走した。
屋敷に到着する頃には、お互い大分落ち着いていた。
車を降りた大佐は、夜食を用意させようかと提案し、一方のテオドアは先に風呂を使っていいか、と大佐に聞く余裕もあった。
だが大佐の私室に入ると、事態は一変した。
「なっ……ちょっと待っ……」
「黙れ」
奥の寝室に連れ込まれたテオドアは、性急にベッドに押し倒された。
大佐に腰を抑え込むように馬乗りされ、悔しいがまったく身動きが取れない。
(いきなり、どうしたんだ……?)
テオドアは戸惑いのあまり、さして抵抗らしい抵抗も出来ずにいた。だから軍服の前を引きちぎるように開かれた時も、容赦なく鎖骨に齧りつかれた時も、かえって冷静さを取り戻したくらいだ。
「……ええと、何か怒ってます?」
大佐は、テオドアの胸元からゆらりと顔を上げると、髪をかきあげつつ目を眇める。
「誰だ、あの男」
「は? どの男ですか?」
「僕と離れていた時、壁際で話してたろう? 地味な女を連れていた奴だ」
テオドアは疲れた頭で、数時間前の記憶を辿った。
「ああ、デイヴィスのことですか……痛っ!」
いきなり無防備な胸の尖りをつねられ、自然と腰が跳ねた。そのまま今度は柔らかく捏ねられると、口から変な声が漏れ出てしまう。
「あ、あ、あ……んん、やめ……話せ、な……」
「他の男のことなんて話すな」
自分で聞いたくせに矛盾している。非難がましい目を向けても、大佐は仄暗い笑みを浮かべて唇を舐めるだけだ。
「変な男を引っかけて、悪い子だ」
「なっ……んん、あ……あ……」
形の良い唇がゆっくりと、歌う様に言葉を紡ぐ。
「もっと躾けが必要のようだな。いい加減、今の部屋を引き払って僕の元へ来い。そうすれば毎晩、この体に嫌ってくらい叩きこんでやる……」
まるで獲物を前に舌なめずりする獣を連想させられ、本能的に身震いする。
何かしゃべろうとすれば、まるで言い訳を聞きたくないと言わんばかりに、濡れた唇に塞がれてしまう。肉厚な舌で口内を舐られ、縮こまった舌先をきつく吸われると、体の内側が溶けそうなほど熱くなっていく。
もう否定できない。明らかに気持ちがいい。
だがテオドアにも矜持があるので、素直に口に出せない……少なくとも、正気を保てる間は。
ようやく唇が解放されると、次は胸の先に濡れた感触がした。最初はゆっくりと転がされていたが、やがて強弱をつけて吸われながら甘噛みされると、快感が漣のように押し寄せる。
「あっ……んん……くっ、そこばっか、やめ……」
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