心霊探偵、神原語は仕事しない

巫夏希

文字の大きさ
11 / 48
第一章 地下アイドルの幽霊

第11話 一つの事件の終わり

しおりを挟む
「ムーンクイーンズの限定ストラップだよ、これ!」

 マリサは言うが、そうさも一般常識のように言われても分からないんだよな、それ。もう少し掻い摘まんで説明してくれないか?

「ムーンクイーンズというのは、サンシャインズのライバルとして位置づけられた、地下アイドルのことです。サンシャインズはまるで太陽のように輝く笑顔を振りまくのがスタンスだとするならば、ムーンクイーンズはクールに振る舞うスタンスが大事だと言われ、その対比でファンを双方増やしていくことが出来たんです」

 ふうん、まあ居るかもしれないとは思ったけれどそういう地下アイドルも居る訳ね。もしかして運営会社一緒だったりしないよね?

「社長同士が仲が良い……ってのはありますけれど、運営会社は全く別物です。資本関係もありません。ですから、これは社長同士が仲良しだからこそ生まれた、相反する地下アイドルなんです」
「成る程ね、月と太陽――確かに相反する存在ではあるわな。けれども、ならばどうして彼女がこれを? もしかして、どっちも好きなアイドルだったとか?」
「あー、それなんだがな、こっちから補足させてもらえるかね?」

 文野刑事がタブレットをスタイラスペンで操作しながら呟いた。
 にしても時代だな……、警察官のメモと言えば、いつまで経っても紙が主流なのかとばかり思っていたけれど、気付かないうちにデジタル化が進んでいたらしい。とはいえ、流石にインターネットに常に接続出来るような設定とかはしていなさそうだけれどな。色んなウイルス対策ソフトが入っていて、動きがもっさりしていそうだ。
 暫く操作していると、文野刑事は手を止めて話を始めた。

「本当はこっちから話を進めようとばかり思っていたのだが……、話が進んじまったから致し方なし、といった感じだな。実はこのホトケ、調べたところによるとムーンクイーンズのメンバーらしいんだよな。正確には、研修生といったところか?」

 研修生?

「つまり――まだムーンクイーンズのメンバーにはなれていない、というところではある。きちんと説明すれば、最初にアイドルになりたくてもいきなり本メンバーになれる訳ではないんですよね」

 マネージャーが説明に入る。
 まあ、地下アイドルの専門家という立ち位置ではあるし。

「サンシャインズはまだそこまで大きくないのだが……、ムーンクイーンズは結成当初から本メンバーと研修生で分けて、入れ替え制を導入している。つまり、人気投票に応じてそれらが入れ替わるシステムを導入しているんですよ」
「人気投票――ね。つまり、いかにファンに気に入られているか、で自分が上に上がれるかどうかが決まると」

 良く出来たシステムだな、全く。
 ファンだったら、自分が好きなアイドルを推して、応援して、根回しして、投票数を稼ぐことによって――より高い地位に上がることが出来る、ということだ。何か、それって歌劇団とか相撲とかでも聞いたことのある制度だな? 人気投票がどうこう、って話はなかったけれどね。あっちは完全な実力主義だ――別にこっちが実力なんて関係ないなどと蔑んでいる訳ではないのだけれど……。

「ムーンクイーンズの研修生だった彼女が、どうしてここに?」
「理由は現状調べている。……だが、一週間前から練習に来ていないらしい。今データベースと照合したところ、捜索願も出されていたようだな。……しかし、可哀想なものではあるがね。何故、このような形で見つかってしまったのか――」
「ところで、死因は? やはりナイフで一突き……これが致命傷という理解で良いのか?」
「まあ、そうなるだろうな。……後はこっちに任せてくれ。どうせ、こいつはそれ以上の干渉はしないだろう?」

 良くご存知で。

「何回こいつと現場で出会したと思っている」

 話を早々に切り上げて、ぼく達は漸く解放されることとなった。
 そう、最後の質問がぼくだったことからも分かる通り――もう、神原の興味は薄れてしまっている。
 心霊探偵と名乗っているのは、単に幽霊専門の探偵だから――ということではない。
 寧ろもっと強い意味合いで、幽霊が絡んだ事件以外に全く興味を示さないし、その事件で見つかった死体があったとしても、その死因だとか理由だとかを調べることは一切しない。
 そういった話は、全て警察に丸投げだ。
 警察にしてみれば事件が一つ増えるし解決へ導けるやもしれないから有難い話ではあるらしいけれど――割り切っているといえばそれまでだ。
 本当に、こいつは幽霊以外に興味を示さない――それ以外は、勝手にどうぞというスタンスになっている。
 けれども、多いことは多いんだよな。
 こういう、オカルトの事件ってさ。

「それじゃ、後はいつも通り警察に任せるよ。……あー、疲れた」

 伸びをして歩き出す神原は、完全に一仕事終えた気分になっている。間違ってはいないが、依頼者からすれば消化不良感が否めないのもまた事実だろう。

「……ありがとうございます」

 最後に、マリサが頭を下げた。

「何を?」

 何を、じゃないよ。
 きちんと幽霊の正体を暴いただろうが。

「きっと彼女は殺されて……ずっと外に出られなかったんだと思います。けれども、わたしが見つけたから……、それでわたしに何とかして欲しいと思っていたのかもしれない。けれども、わたしは怖くて――」
「幽霊は怖いものだ。いいや、それどころではなく――非現実であるものは総じて恐怖を感じることは、人間の根幹に関わるものでそう簡単に矯正することは難しいことだろうね」

 神原は笑みを浮かべて、さらに話を続ける。

「――だから、いきなり幽霊と仲良くなるのではなく、少しずつ恐怖心を減らしていくだけでも良いだろうし、関わり合いがないのなら別に無理してしなくても良い。恐怖を感じたこと、それは間違っちゃいない。別に良いじゃないか、事件が解決に導いたんだから。きみは幽霊を見て、幽霊はそれに救われた。――それ以外に、何があるというんだ?」
「そう……なんですね。別に、怖がったって良いじゃないか――って」
「うん。寧ろ、それが当たり前のスタンスってことだよ。それじゃあ、また機会があればよろしく頼みますね。あ、支払い方法は名刺の裏に書いてある口座かQRコード決済でお願いしますよ。僕ちゃんも生活がかかっているからさあ」

 何か最後の台詞だけ聞いたらヒモっぽい話なんだけれど、まあ、ちゃんと仕事はしているからな……。ともあれ、これで事件は解決。
 めでたしめでたし、といったところだ。
 そう振り返りながら――ぼく達は漸くこのバックヤードを出て行くのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

不思議なショートストーリーたち

フジーニー
ミステリー
さくっと読める短編集 電車内の暇つぶしに、寝る前のお供に、毎日の楽しみに。

処理中です...