心霊探偵、神原語は仕事しない

巫夏希

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第一章 地下アイドルの幽霊

第10話 警察のお仕事

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 エピローグ。
 というよりは、ただの後日談。
 後日談というには長い話になるかもしれないけれど――これでこの話は一段落、ということを踏まえるならば少々長ったらしく話をしたところで文句は言われないと思う。もし、それでも我慢が出来ないのであれば許して欲しい。画竜点睛になるか、蛇足になるかは分からないけれど。
 幽霊の正体については幾つか語られるべき疑問もあったのかもしれないけれど、実は身分証はしっかりと残っていたために、その名前を含めた正体が詳らかにされることとなった。死人に口なし、とは言うけれど、こればっかりは許してもらいたいものだ。
 ずっと見つからなかったのだから、少しぐらい脚光を浴びても問題はない――のかもしれない。
 そういうことを勝手に決めてしまうことこそが、そもそも死人に口なしという言葉が似合う顛末であって、それをいざ実行したところでそれを否定する人間がそもそも死んでしまっているのだから。まあ、それで暴走出来るという大義名分を手に入れた訳ではないのだけれど。
 とはいえ、死体が出たのならば一先ず連絡をしなければならない機関がある。
 お巡りさんこと、警察だ。
 警察は事件であろうが事故であろうが、それを記録する第三者として存在しておくべきだし、何か起きたのならば呼んでおくに超したことはない存在である――とはいえ、悪戯電話は駄目なのだけれどね。そんなことをしたら、きっと自分が捕まってしまうだろう。ええと、それは一体どういう犯罪になるんだったかな?
 ……話がずれたけれど、死体を見つけたからには警察を呼ばなければならない。当然やってきた警察官はどんな犯罪の可能性も考慮しなければならないのだから、ぼく達に事情聴取をする――とはいえ、やってくる刑事は大抵顔見知りだったりして、ぼくや神原の顔を見るなりつまらなそうな顔を浮かべて溜息を吐いたりするのだ。
 あまりにも失礼ではあるかもしれないが、とはいえ、刑事の心情も理解は出来る。何故なら、死体が見つかったと思ったら大抵はこの二人が居るのだから、警察官からすればまたお前達かという話になってもおかしくはないだろう。もしかしたら警察のデータベースには、心霊探偵が絡んだ事件だけでフォルダ分けされているかもしれない、多分。

「……いや、本当に何度こういう事件に出会すたびにあんた達と顔を合わせないといけないのかね? もしかして、殺人犯だったりしないかね?」

 緑のロングコートに身を包んだ文野刑事は、ガムを噛みながらそう呟いた。

「仮に僕ちゃんが殺人鬼だったなら、とっくに悪霊に取り憑かれて殺されていると思うよ」
「減らず口を叩くよなあ、相変わらず……」
「先輩、誰ですか?」

 隣に立っていた、スーツ姿の女性警官は文野に問いかけた。
 文野はボサボサになった髪を掻いて――本人は清潔にしていると言っているが、髪の見た目からそれが失われているので全く意味を為さないのだが、それはそれとして――答えた。

「ん、ああ……。心霊探偵、って奴だよ。笠川に来たなら覚えておかねえとな、新入り」
「何だい、きみにも後輩が出来たのか? ……一応言っておくが、やめておいた方が良いよ。彼は性格に難ありだからね……」
「お前が言うな。……あー、言っておくけれど、無視して良いからな、別に。それとこいつは、心霊探偵だ。オリエンテーリングでも言っただろう? オカルト専門の探偵が居て、死体を見つけたという連絡があったら七割以上の現場に居る――って。最早、死体あるところに心霊探偵あり、と言っても過言ではないぐらいにね」

 そんなことになっていたのかよ、神原。
 最早疫病神の部類じゃないか。

「そしてこいつはそのお世話係をしているたー坊だ。他にも何と呼ばれているか忘れちまったが、ともあれ、色んな渾名で呼ばれているのは間違いねえ。しかし、渾名で呼ばれ過ぎて本名を誰も知らないし覚えていないってところが玉に瑕ではあるな」
「どうも」

 お世話係と言うと、何かメイドみたいな感じだけれど、そこまで忠誠心はないから安心して欲しい――何を安心しろと? 言っておいて、我ながら頭がおかしい話だな、これ。

「お世話係――ああ、聞いたことありますね。まさか本物と巡り会えるとは……。これから長い付き合いになるんですかね、多分」
「なるかもしれねえし、ならないかもしれねえな。何せ、この笠川は地方都市の類いではあるとはいえ、辺境であることにゃあ代わりねえ。ともなれば致し方ないのだけれども、誰もは都市部への転属を希望する訳だ。おれはずっとここに住んでいるから異動はしたくねえが、若者はそうはいかねえ。やっぱり若いうちに様々な現場を経験しておくこと――それが一番大事ってことよ」

 一文で矛盾するのはどうかと思うけれどね?
 それはそれとして、今まで彼女の名前は誰も説明していないけれど、誰なんだい? プライバシーを尊重して説明したくない、というのならばこのご時世だし致し方ないのだけれど。

「そんなことはねえから、安心しろ。こいつは森中だ。変わった名前だろ、因みに男連中からはエンゼルと呼ばれている」

 あんたも男だろう?
 まさかその数に含まれていないとでも言うのか。それならそれで否定しないけれどさ。

「そういう浮ついた話題は話したくねえのさ。分かるだろう、警察にはそういった明るい話題は必要ないし、揚げ足を取られるのも困るからな。まあ、そういうことを言っている連中だから寝首を掻くことはねえだろうけれど」
「ところで、死体の個人情報は?」
「いや、幾ら発見者だからって部外者には――」
「ホトケは松橋香苗、二十五歳。アルバイトをしていたらしいな。まあ、広く言えばフリーターってことかね」
「言っちゃうんですか!」
「良いんだよ、どうせこいつは情報を知るまで根掘り葉掘り聞きたがるだろうからね……。だったら最初から話しちまった方が十倍良い。いや、百倍かもしれねえな」

 倍率の話はどうだって良いけれど。
 まあ、この環境を知らない部外者――というのもおかしな話だけれど――からすれば、これが異質なのは間違いないしな。例えばこれを監査されてしまったら、一発で文野刑事は退職扱いになるのかもしれないけれどね、懲戒免職になるのかな、それとも。

「勝手に人を首にするんじゃねえ。……まあ、広く言うと、と限定した理由は他にもあってな、ホトケの財布からこんなものが見つかった」

 そう言って見せてくれたのは、小さなティアラのキーホルダーだった。宝石とかは付いていなくて、銀メッキの金属で出来た安っぽい作りではあったけれど、意匠もちゃんとしているし、何処かのグッズなのかな。

「あ、それ……!」

 そして、それにいち早く気付いたのはマリサだった。
 マリサも第一発見者として――狭義では彼女一人がそれに該当する――一緒にぼく達と事情聴取を受けていた。
 そんなマリサは休憩しようとマネージャーとともに楽屋へ向かおうとした矢先に、それを目撃した――といったところだろう。

「何だ、お前さん。これに見覚えがあるのか?」

 お前さん、というのはどうなんだろう。目の前に居るのは地下という装飾が付くとは言え、立派なアイドルであることは間違いないのだし。芸能人だと言われると、正直疑問符は浮かんでしまうけれど。
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