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第二章 シュレーディンガーの幽霊
第17話 当主争い
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「……しかし」
予想はしていたが、空港というものがないのも少しは驚きだ。どうやって飛行機と連絡を取り合っているのだろうか? セスナぐらいの飛行機しか飛び立たないから、操縦士の目で判断して離着陸をしているのか――だとしたら今まで大きな問題も事故も起きていないのが凄いことではあるのだけれど。
「拍子抜けしたか? たーくん」
出会って数時間も経過していない秋山は、早速ぼくを渾名で呼び始めた。
まあ、本名を言っても良いのだけれど、言いづらいのが欠点ではあるし、そこについては渋々納得するしかないか。
「辛気臭い顔をしているなあ、全く……。ここは無人島だぜ? まあ、別荘がある点については厳密に無人島であるとははっきりと言い難いところもあるのだけれどさ。けれども、あんまり気にすることでもなかろうよ」
「無人島であることが問題なのではなくてだな……」
「まあ、良いだろう。正直、僕ちゃんも秋山のことは好きではないけれどね」
「嫌いの反対は好き、って言うだろ?」
言わねえよ。
「ところで、どうしてここに人が集められたのか――その理由については聞いていないような気もするけれどね」
「要するに暇潰し、って奴だよ」
暇潰し?
「世界の娯楽に飽きてしまった、とは言ったけれどそれってつまり自分が体験出来るアクティビティに限界がある、ってことでもあるよな。そして、給仕が話をしたってそれにも限界がある、って訳だ。それで困った給仕が取ったアイディアが――」
「――世界のありとあらゆる人間の話を聞いて、主人の欲求不満を解消しよう、ってことか?」
秋山よりも先に神原が回答した。
「おいおい、神原。もうちょっと言い方とタイミングってものがあるだろうよ。そんなことも分からないでずっと探偵ってものを続けてきたのかい? 何というか、もっと勉強した方が良いと思うけれどね」
「そんなもの勉強して何になるって言うんだ。きちんと説明してもらいたいものだね――それはそれとして、唐紅島が出来た背景を考えるとかなりそれは良いアイディアだと思ったらしいよ」
「背景? ……ここに元々幽閉を計画していた、ってことじゃないのか?」
「幽閉、ねえ。言い方ってものがあるじゃないかい? それとも、たーくんか神原、どっちかの影響を受けたってことかな。どっちが悪い影響を及ぼしたのか――ここで犯人捜しをしたって何も解決しないのだけれどね」
「幽閉であることは否定しないんだな……」
「まあ、間違っちゃいないからね」
そっちだってしっかりとストレートに物事を言っているじゃないか。オブラートに包んで物事を言っているならまだしも、それならこっちを馬鹿にすることは出来ないような気がする――何か間違っているか?
「いいや、何も。間違っていることは何もありゃしないよ。幽閉されている令嬢は世間知らずだ。当たり前だよな、世間を見たことがねーんだから。そんな人間に世界を教えてやるってのも、私達の役割だって訳だよ。まあ、この場所の立地を考えると――実は都合が良い人材も居るらしいけれど」
「都合が良い?」
「この場所は通信もあまり良くない。だから飛行機にとっては悪くない場所ではあるんだよね。影響を及ぼす恐れがある電波が何もないんだから。けれどもそれは同時に密室を作り出す原因でもある」
「孤島ってことだろう、要するに」
「そうだよ。けれども、ここに向かうまであまりにも時間が掛かる。それは、ここまでの道中で分かっていることだと思うけれど」
「飛行機だと一時間で着いちゃうけれど、船だとどれぐらい掛かるか分からないからな……」
きっと秋山はそう言いたいのだろう。
都合が良いのは分かった。しかし、それとここに人が集まることの説明が一切繋がらないように見えるが……。
「分からないのか? 通信が全く繋がらないということは、それが都合の良い人間が足を踏み入れることもある、ということだ。無論飛行機や船といった正当なルートではなくて、非合法なルートで足を踏み入れる人間が大半になるだろうがね……」
「……犯罪者も足を踏み入れる、と?」
いや、言いたいことは分かるが――それって、リスク的にどうなんだ? 刺激を求めている、という理屈は分かる。けれども、それと命の危険は話が全く違う。安全圏から刺激を求めるのもちょっと違うような気もするけれどね。リスクとリターンが大事であるとは良く言ったものだ。
「そうだよ。大抵は逆上したりここを接収しようとするケースが多いけれど、たまには居るんだよ。狂った人間なりの会話をしてくれる輩が」
「……それ、主人のことを危機に晒していないか?」
さあね、と秋山は首を横に振る。
しかし、それはやはり正解だと思う――実際のところ、犯罪者と会話を試みるのは、企画としては悪くないと思う。
けれども、それを実際に行うのはちょっと違うように感じる。リスクヘッジを全く行っていない――と言えばそれまでかもしれないけれど、しかし、それ以上に思考が汚染される危険性はないのだろうか? 危険思想に陥ってしまえば、一斤染財閥の沽券に関わるのでは――。
「……なあ、たーくん。何のために給仕が居ると思っているんだ?」
深い溜息を吐かれ、秋山は問いかけた。
「まさか、給仕ってそういうこともしているのか?」
給仕ってメイドという意味だったと思うけれど、ボディーガードの意味もあったっけ?
「そりゃあ、世間知らずのお嬢様に付いている給仕だ。少しばかりボディーガードも兼任していても、何らおかしい話ではあるまい?」
「そうかな……。それは違いそうな気もするけれど」
ボディーガードが必要ならボディーガードも雇えば良いのにな。だってここはこの国でも有数の大財閥の令嬢が住んでいる島なんだし。
「そういう事情があったとしてもなかなか出来ないものでもあるのさ……。この島に入ったからには、あまり大きい声では言えないけれど、ここに令嬢が居る理由は長兄の意向があるらしいんだよね」
「長兄?」
つまり、ええと、さっき言っていた名前の中で最初に言っていた――。
「そう、一斤染春彦のことだな。彼はもう財閥の当主になるべく各方面に根回しを続けている。その結果が、これだと言えるだろう。つまり、本家として離別する存在に金を掛けられるか? という話だ。答えはノー、だな。残念ながら、ね……。このまま長兄の思惑通りに進むとするなら、きっと彼女は本家から離れることとなるだろう。或いは、それを望んでいる可能性も有り得るがね」
「何故だ?」
「さあね。でも、直接聞いた訳ではないが……、やはりしがらみが面倒なのだろうよ。何せ兄弟喧嘩の延長上と言っても差し支えないことだ。それに、これは家族が認めていることでもある。勝者は将来的に財閥のトップとなり牛耳っていく存在でもある訳だ。やりようによっては財閥を滅ぼすこともさらに発展させることも出来る――そんな状況で、当主選びを適当に終わらせる訳にもいかないだろう? つまりは、生まれた頃から始まっているとも言われているんだよ、一斤染家の当主戦争というのは、ね」
予想はしていたが、空港というものがないのも少しは驚きだ。どうやって飛行機と連絡を取り合っているのだろうか? セスナぐらいの飛行機しか飛び立たないから、操縦士の目で判断して離着陸をしているのか――だとしたら今まで大きな問題も事故も起きていないのが凄いことではあるのだけれど。
「拍子抜けしたか? たーくん」
出会って数時間も経過していない秋山は、早速ぼくを渾名で呼び始めた。
まあ、本名を言っても良いのだけれど、言いづらいのが欠点ではあるし、そこについては渋々納得するしかないか。
「辛気臭い顔をしているなあ、全く……。ここは無人島だぜ? まあ、別荘がある点については厳密に無人島であるとははっきりと言い難いところもあるのだけれどさ。けれども、あんまり気にすることでもなかろうよ」
「無人島であることが問題なのではなくてだな……」
「まあ、良いだろう。正直、僕ちゃんも秋山のことは好きではないけれどね」
「嫌いの反対は好き、って言うだろ?」
言わねえよ。
「ところで、どうしてここに人が集められたのか――その理由については聞いていないような気もするけれどね」
「要するに暇潰し、って奴だよ」
暇潰し?
「世界の娯楽に飽きてしまった、とは言ったけれどそれってつまり自分が体験出来るアクティビティに限界がある、ってことでもあるよな。そして、給仕が話をしたってそれにも限界がある、って訳だ。それで困った給仕が取ったアイディアが――」
「――世界のありとあらゆる人間の話を聞いて、主人の欲求不満を解消しよう、ってことか?」
秋山よりも先に神原が回答した。
「おいおい、神原。もうちょっと言い方とタイミングってものがあるだろうよ。そんなことも分からないでずっと探偵ってものを続けてきたのかい? 何というか、もっと勉強した方が良いと思うけれどね」
「そんなもの勉強して何になるって言うんだ。きちんと説明してもらいたいものだね――それはそれとして、唐紅島が出来た背景を考えるとかなりそれは良いアイディアだと思ったらしいよ」
「背景? ……ここに元々幽閉を計画していた、ってことじゃないのか?」
「幽閉、ねえ。言い方ってものがあるじゃないかい? それとも、たーくんか神原、どっちかの影響を受けたってことかな。どっちが悪い影響を及ぼしたのか――ここで犯人捜しをしたって何も解決しないのだけれどね」
「幽閉であることは否定しないんだな……」
「まあ、間違っちゃいないからね」
そっちだってしっかりとストレートに物事を言っているじゃないか。オブラートに包んで物事を言っているならまだしも、それならこっちを馬鹿にすることは出来ないような気がする――何か間違っているか?
「いいや、何も。間違っていることは何もありゃしないよ。幽閉されている令嬢は世間知らずだ。当たり前だよな、世間を見たことがねーんだから。そんな人間に世界を教えてやるってのも、私達の役割だって訳だよ。まあ、この場所の立地を考えると――実は都合が良い人材も居るらしいけれど」
「都合が良い?」
「この場所は通信もあまり良くない。だから飛行機にとっては悪くない場所ではあるんだよね。影響を及ぼす恐れがある電波が何もないんだから。けれどもそれは同時に密室を作り出す原因でもある」
「孤島ってことだろう、要するに」
「そうだよ。けれども、ここに向かうまであまりにも時間が掛かる。それは、ここまでの道中で分かっていることだと思うけれど」
「飛行機だと一時間で着いちゃうけれど、船だとどれぐらい掛かるか分からないからな……」
きっと秋山はそう言いたいのだろう。
都合が良いのは分かった。しかし、それとここに人が集まることの説明が一切繋がらないように見えるが……。
「分からないのか? 通信が全く繋がらないということは、それが都合の良い人間が足を踏み入れることもある、ということだ。無論飛行機や船といった正当なルートではなくて、非合法なルートで足を踏み入れる人間が大半になるだろうがね……」
「……犯罪者も足を踏み入れる、と?」
いや、言いたいことは分かるが――それって、リスク的にどうなんだ? 刺激を求めている、という理屈は分かる。けれども、それと命の危険は話が全く違う。安全圏から刺激を求めるのもちょっと違うような気もするけれどね。リスクとリターンが大事であるとは良く言ったものだ。
「そうだよ。大抵は逆上したりここを接収しようとするケースが多いけれど、たまには居るんだよ。狂った人間なりの会話をしてくれる輩が」
「……それ、主人のことを危機に晒していないか?」
さあね、と秋山は首を横に振る。
しかし、それはやはり正解だと思う――実際のところ、犯罪者と会話を試みるのは、企画としては悪くないと思う。
けれども、それを実際に行うのはちょっと違うように感じる。リスクヘッジを全く行っていない――と言えばそれまでかもしれないけれど、しかし、それ以上に思考が汚染される危険性はないのだろうか? 危険思想に陥ってしまえば、一斤染財閥の沽券に関わるのでは――。
「……なあ、たーくん。何のために給仕が居ると思っているんだ?」
深い溜息を吐かれ、秋山は問いかけた。
「まさか、給仕ってそういうこともしているのか?」
給仕ってメイドという意味だったと思うけれど、ボディーガードの意味もあったっけ?
「そりゃあ、世間知らずのお嬢様に付いている給仕だ。少しばかりボディーガードも兼任していても、何らおかしい話ではあるまい?」
「そうかな……。それは違いそうな気もするけれど」
ボディーガードが必要ならボディーガードも雇えば良いのにな。だってここはこの国でも有数の大財閥の令嬢が住んでいる島なんだし。
「そういう事情があったとしてもなかなか出来ないものでもあるのさ……。この島に入ったからには、あまり大きい声では言えないけれど、ここに令嬢が居る理由は長兄の意向があるらしいんだよね」
「長兄?」
つまり、ええと、さっき言っていた名前の中で最初に言っていた――。
「そう、一斤染春彦のことだな。彼はもう財閥の当主になるべく各方面に根回しを続けている。その結果が、これだと言えるだろう。つまり、本家として離別する存在に金を掛けられるか? という話だ。答えはノー、だな。残念ながら、ね……。このまま長兄の思惑通りに進むとするなら、きっと彼女は本家から離れることとなるだろう。或いは、それを望んでいる可能性も有り得るがね」
「何故だ?」
「さあね。でも、直接聞いた訳ではないが……、やはりしがらみが面倒なのだろうよ。何せ兄弟喧嘩の延長上と言っても差し支えないことだ。それに、これは家族が認めていることでもある。勝者は将来的に財閥のトップとなり牛耳っていく存在でもある訳だ。やりようによっては財閥を滅ぼすこともさらに発展させることも出来る――そんな状況で、当主選びを適当に終わらせる訳にもいかないだろう? つまりは、生まれた頃から始まっているとも言われているんだよ、一斤染家の当主戦争というのは、ね」
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