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第二章 シュレーディンガーの幽霊
第27話 独居房への道1
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神原の提案が受け入れられる形で、ぼく達は独居房へと足を踏み入れることにした。別にそこまでしなくて良いんじゃないか、なんて思ったぼくではあったけれど、探偵からしてみればそんなことは些末なことと片付けることは出来ないのだろう。探偵は推理する仕事だ――だから、推理するための材料を集めるためにも、これは必須な出来事であることは間違いないだろう。
とはいえ――。
「どうして、全員で向かわないといけないのかな?」
神原の問いに、精神科医は鼻を鳴らす。
「べ、別に怖いと思っているからではなくてな……」
「いや、怖いんだろ。絶対」
瀬戸が一刀両断する。
では、他の人間は?
「あたしはちょっとばかし興味があっただけだよ。独居房ってだけでもわくわくするけれど、毒ガスを注入するシステム? 古城のそういったシステムを見るのもなかなか出来ねーってのに、それが出来るっつーんなら、やっぱり見に行くに超したことはねーだろうよ」
「いや、それってつまり野次馬ってことだよな……? それはどうかと思うけれど」
「別に野次馬で行っちゃ悪いのかよ?」
質問を質問で返されてもな。
「野次馬は悪いことじゃないけれどね。……ただし、当然自己責任であることは間違いないけれどね。そこだけは理解してもらうよ?」
「当たり前だね。それは分かっているさ。それとも、そういう人間が過去に出ていたのかい? 勝手に首を突っ込んでいったのに怪我をしたら責任を取れと宣った人間が」
「居なかったとは言わないけれど。一応、依頼人のプライバシーは守るつもりなんでね」
それは間違いないな。やっぱり依頼人も困りに困って探偵に依頼してくる訳だし、そのプライバシーというか人となりはあんまり口外しない方が良いだろう。
そもそも、プライバシーは最近五月蠅いからなあ……。やっぱりその辺りはきちんとしておかないと依頼をしてくれる人も居ないだろうし。ぼくはただの一般人だから、そこは本職の探偵がきちんと守ってくれれば良いけれどね。
「プライバシー、ねえ……。まあ、確かにそこをしっかりと守るのは間違っていないし正しいことではあるけれどさ。実際それをしっかりと守ったところでお金が多く入る訳でもないでしょう? だったらそこまで――」
「――だが、信頼には繋がるからね。信頼というのは幾らお金を積んでもなかなか出来ないことではない……。だから、僕ちゃんもしっかりと正しい仕事をこつこつとこなしている、って訳」
「そこは医者も同じかもしれないな。やはり信頼を勝ち取らないと、患者も納得してくれないというか、心を開いてはくれないからね」
精神科医の賛同もとい援護射撃はかなり重要だった。
それに、医者だって信頼を勝ち取ることで仕事でスムーズに進む職業であることは、全面的に同意だ。信頼出来ない医者に手術なんてして欲しくないもんな。
医者と患者とがプライバシーを守り合う……とまでは行かなくとも、やはりそれなりの信頼関係を築いているからこそ、自分の身を切っても良いって感じになるのだろうし。いや、精神科医だからそうじゃなくて、自らの身体を捧げるってだけか? 薬で治しても治せないような病気だらけだと思うし。
「精神科に対する冒涜だと思うけれどね。ええと、それは一種のイメージの押し売りとも言える訳で……。何だっけ、それは……デファクトスタンダード?」
「ステレオタイプでしょう。スタンダードにしてどうする」
瀬戸のツッコミはあまりにも早く、そいでいて的確だった。ちょっと真似しよう。というか、見習う点もあるかもしれない。例えば、ツッコミに対応する速度とか……。
長い廊下の突き当たりを右に曲がると、いきなり階段が出てきた。下へ下へと続くそれは、あまりにも不気味だ。明かりは点いているけれど、それがさらに不気味さに拍車を掛けている。明かりがずっと続いているのだけれど、等間隔に並んでいない。まるで暗闇が押し寄せているかの如く――。
「……この下に独居房が?」
言ったのは瀬戸だった。
「何だ、怖いのか?」
葉加瀬の言葉に、瀬戸は激昂する。
「べ、別に! そんなこと、一度も思っていないし。けれど……、少し疲れちゃったよ。日頃の運動不足が祟ったかな?」
「運動不足ならリングフィットでもすれば良い。良い運動になるって話だぜ。ほら、プランクとか」
「あんたいきなりきつめのトレーニングから始めようとしないでよ!」
プランクって確か腕立て伏せの膝版だったっけ? 結構体力を消耗するトレーニングだとは聞いたことがある。ぼくは遊んだことはないけれど、遊んだことのある人間からは十回が限界だという声を多数聞く。そんなに大変なのかな? 見ているだけだから、想像が付かないけれど。
「想像が付かないなら、あんまり想像で話を進めない方が良いと思うけれどねー……。それともあんた、物事を何事も効率よく進めたいタイプかな? だったらそれはそれで賛成だけれど。やっぱ効率厨が一番良いからね」
「効率が良いことを望むのは確かにその通りなのだけれど……、じゃあ全部が全部そうあるべきかと言われるとそうでもないのよな……。やっぱりそこは難しいのだけれどね」
難しいというか、面倒臭いだけだな。
「面倒臭いだけじゃねえか」
リマインドどうも。
「まあ、あんたの生き方に口出し出来る程高尚な生き方はしてねーし、それは別に良いんだけれどさ――狭い心を持って生きる訳にもいかねーだろ。隣の空いている席もリクライニングを倒してきたからって、文句を言う必要もないぐらい明るく振る舞ってやりゃあ良いんだ」
そうかな……ぼくはどちらかというと小さな反抗をしてやりたいかな。例えば温められるシュウマイを買ってグリーン車の中で温めるとかさ。
「テロじゃねえか。絶対に止めろよ」
していませんよ?
もしも――の話を言っただけだろう。
それとも、そのもしもに出会したことでもあるのかな。
「ないとは言い切れないな。けれども、かなり自己中心的な考えってのは居るもんだぜ。利他の精神を持って生きるなんて聖人のやり口だ。そんな人間が居たらとっくに偉くなっているかとっくに自殺しているかの二択だ。きっとこの世の中の汚さには耐え切れないだろうからね。或いは、世界を変えようという判断を下してしまうかも? それはそれで末恐ろしいことではあるのだけれどね。出来れば二度と会いたくないし、一度だって会いたくはないけれどな」
まあ、ぼくもそうかな――そんな人間と出会っていたら、こっちまで浄化されるかもなどと一瞬思ってはみたけれど、きっと耐えられないと思う。そいつじゃなくて、ぼくが。ぼくが、そいつが理不尽に思っていくことに、ぼくは耐えられないと思う。全く、いつまでも自己中心的な自己犠牲をする人間だと、ぼくは自己評価するのだけれどさ――。
とはいえ――。
「どうして、全員で向かわないといけないのかな?」
神原の問いに、精神科医は鼻を鳴らす。
「べ、別に怖いと思っているからではなくてな……」
「いや、怖いんだろ。絶対」
瀬戸が一刀両断する。
では、他の人間は?
「あたしはちょっとばかし興味があっただけだよ。独居房ってだけでもわくわくするけれど、毒ガスを注入するシステム? 古城のそういったシステムを見るのもなかなか出来ねーってのに、それが出来るっつーんなら、やっぱり見に行くに超したことはねーだろうよ」
「いや、それってつまり野次馬ってことだよな……? それはどうかと思うけれど」
「別に野次馬で行っちゃ悪いのかよ?」
質問を質問で返されてもな。
「野次馬は悪いことじゃないけれどね。……ただし、当然自己責任であることは間違いないけれどね。そこだけは理解してもらうよ?」
「当たり前だね。それは分かっているさ。それとも、そういう人間が過去に出ていたのかい? 勝手に首を突っ込んでいったのに怪我をしたら責任を取れと宣った人間が」
「居なかったとは言わないけれど。一応、依頼人のプライバシーは守るつもりなんでね」
それは間違いないな。やっぱり依頼人も困りに困って探偵に依頼してくる訳だし、そのプライバシーというか人となりはあんまり口外しない方が良いだろう。
そもそも、プライバシーは最近五月蠅いからなあ……。やっぱりその辺りはきちんとしておかないと依頼をしてくれる人も居ないだろうし。ぼくはただの一般人だから、そこは本職の探偵がきちんと守ってくれれば良いけれどね。
「プライバシー、ねえ……。まあ、確かにそこをしっかりと守るのは間違っていないし正しいことではあるけれどさ。実際それをしっかりと守ったところでお金が多く入る訳でもないでしょう? だったらそこまで――」
「――だが、信頼には繋がるからね。信頼というのは幾らお金を積んでもなかなか出来ないことではない……。だから、僕ちゃんもしっかりと正しい仕事をこつこつとこなしている、って訳」
「そこは医者も同じかもしれないな。やはり信頼を勝ち取らないと、患者も納得してくれないというか、心を開いてはくれないからね」
精神科医の賛同もとい援護射撃はかなり重要だった。
それに、医者だって信頼を勝ち取ることで仕事でスムーズに進む職業であることは、全面的に同意だ。信頼出来ない医者に手術なんてして欲しくないもんな。
医者と患者とがプライバシーを守り合う……とまでは行かなくとも、やはりそれなりの信頼関係を築いているからこそ、自分の身を切っても良いって感じになるのだろうし。いや、精神科医だからそうじゃなくて、自らの身体を捧げるってだけか? 薬で治しても治せないような病気だらけだと思うし。
「精神科に対する冒涜だと思うけれどね。ええと、それは一種のイメージの押し売りとも言える訳で……。何だっけ、それは……デファクトスタンダード?」
「ステレオタイプでしょう。スタンダードにしてどうする」
瀬戸のツッコミはあまりにも早く、そいでいて的確だった。ちょっと真似しよう。というか、見習う点もあるかもしれない。例えば、ツッコミに対応する速度とか……。
長い廊下の突き当たりを右に曲がると、いきなり階段が出てきた。下へ下へと続くそれは、あまりにも不気味だ。明かりは点いているけれど、それがさらに不気味さに拍車を掛けている。明かりがずっと続いているのだけれど、等間隔に並んでいない。まるで暗闇が押し寄せているかの如く――。
「……この下に独居房が?」
言ったのは瀬戸だった。
「何だ、怖いのか?」
葉加瀬の言葉に、瀬戸は激昂する。
「べ、別に! そんなこと、一度も思っていないし。けれど……、少し疲れちゃったよ。日頃の運動不足が祟ったかな?」
「運動不足ならリングフィットでもすれば良い。良い運動になるって話だぜ。ほら、プランクとか」
「あんたいきなりきつめのトレーニングから始めようとしないでよ!」
プランクって確か腕立て伏せの膝版だったっけ? 結構体力を消耗するトレーニングだとは聞いたことがある。ぼくは遊んだことはないけれど、遊んだことのある人間からは十回が限界だという声を多数聞く。そんなに大変なのかな? 見ているだけだから、想像が付かないけれど。
「想像が付かないなら、あんまり想像で話を進めない方が良いと思うけれどねー……。それともあんた、物事を何事も効率よく進めたいタイプかな? だったらそれはそれで賛成だけれど。やっぱ効率厨が一番良いからね」
「効率が良いことを望むのは確かにその通りなのだけれど……、じゃあ全部が全部そうあるべきかと言われるとそうでもないのよな……。やっぱりそこは難しいのだけれどね」
難しいというか、面倒臭いだけだな。
「面倒臭いだけじゃねえか」
リマインドどうも。
「まあ、あんたの生き方に口出し出来る程高尚な生き方はしてねーし、それは別に良いんだけれどさ――狭い心を持って生きる訳にもいかねーだろ。隣の空いている席もリクライニングを倒してきたからって、文句を言う必要もないぐらい明るく振る舞ってやりゃあ良いんだ」
そうかな……ぼくはどちらかというと小さな反抗をしてやりたいかな。例えば温められるシュウマイを買ってグリーン車の中で温めるとかさ。
「テロじゃねえか。絶対に止めろよ」
していませんよ?
もしも――の話を言っただけだろう。
それとも、そのもしもに出会したことでもあるのかな。
「ないとは言い切れないな。けれども、かなり自己中心的な考えってのは居るもんだぜ。利他の精神を持って生きるなんて聖人のやり口だ。そんな人間が居たらとっくに偉くなっているかとっくに自殺しているかの二択だ。きっとこの世の中の汚さには耐え切れないだろうからね。或いは、世界を変えようという判断を下してしまうかも? それはそれで末恐ろしいことではあるのだけれどね。出来れば二度と会いたくないし、一度だって会いたくはないけれどな」
まあ、ぼくもそうかな――そんな人間と出会っていたら、こっちまで浄化されるかもなどと一瞬思ってはみたけれど、きっと耐えられないと思う。そいつじゃなくて、ぼくが。ぼくが、そいつが理不尽に思っていくことに、ぼくは耐えられないと思う。全く、いつまでも自己中心的な自己犠牲をする人間だと、ぼくは自己評価するのだけれどさ――。
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