心霊探偵、神原語は仕事しない

巫夏希

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第二章 シュレーディンガーの幽霊

第30話 隠し事

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「隠し事……」

 執事は神原の言葉を反芻するかのように、そう呟いた。

「そうさ、隠し事だね。ここで起きたことについてなのかどうかは分からないけれど……、確実に何か一つ言っていないことがあることは明らかだ。だとすれば、詳らかにしておく方が良いと僕ちゃんは思うのだよね。違うかな?」
「……何を根拠に、そんな話を宣うのかが分かりかねますな。それとも、何か明確な根拠でもおありですかな?」
「――じゃあ、何故個人情報を出せなかったんだ?」
「……それは個人情報を消してしまったからですよ。客人として認めていなかった――ただそれだけの話です。何かありますかな、それ以外に」
「それは言い訳では?」

 一刀両断してくるな。

「そもそもの話をするならば……、個人情報を消してしまうのは良いだろうよ。けれども、誰がやってきたかというのは分かっていないとおかしくはないか? 殺人鬼がやってきた、けれども何処の誰かも分からないし記録も残していない――それは幾ら何でもおかし過ぎる」
「言われてみれば……」

 瀬戸が呟きながら、顎に手を添える。

「そういえばあんた、最初からおかしい素振りを見せていたよね。あたし達をここに呼び寄せた目的こそ話していたけれど、何時まであたし達を閉じ込めておくか――ってことについては、言及しなかった。まさかそれも?」
「ここは楽園ですよ。地上に残された、数少ない正真正銘のね。そんな場所から脱出したいと望みますか?」

 望むか望まないか――と言えば望まない人間だって居るだろうよ。けれども、それとこれとは話が違う。実際、楽園を楽園と思うかどうかなんて、本人が決めることだ――誰かが決めたことを押しつけるようなものではない。
 ならば、ぼく達もそのことについて否定こそすれ肯定もしない――のらりくらりな状況に陥らざるを得ないのだった。

「楽園を楽園と思うかどうかは、ここに来た人間が判断を下すことだろう? あんたが決めることではないと思うがね……、無論お前さんもだよ、お嬢さん?」
「……わたしは別にここを楽園などと思ったことも宣ったこともありません。ここにやってきてから……、わたしはここを鳥籠のようにしか思っていませんから」

 鳥籠――ね。
 確かに聞いている話を解釈していったならば、そういった思想を抱いているだろうな――などとは想像が付くけれど、いざそう直接的に言われてしまっては、少しばかり溜息を吐きたくもなるかな。
 諦観、という単語が一番近しいのかもしれない――尤も、それをどう思っていたって、本人がそれを改善しなくて良いと思うのならば、敢えてそれを弄る必要もないのだろうけれど。
 間違っているかそうでないかと言われれば、大いに間違っている。それだけは確かだ。

「……何だか、面倒臭い話ではあるのだけれどね」

 しかし、それもまた日常だ。
 他人にとっては非日常であっても――当事者からすればただの日常で、何の変哲もない一日でしかない。些末な考えであり、価値観の相違を実感することでもあるだろう。

「鳥籠から飛び立とうとしたことは?」
「出来ることならそうしたいものですよ。……けれども、一斤染の名前がわたしを支配するのです。まあ、それを享受している以上、それはデメリットの一つだと思って受け入れるほかないのですが」

 意外と暗く考えていないようで、やっぱり何処か違った感覚を持ち合わせているのだな、と思ったが――しかし、そのままで良いのかという問題だけは付き纏ってしまう。

「お嬢様。鳥籠と思っているのならば、飛び立ってしまっても構わないのではないでしょうか? 確かに、あなた様は一斤染家の当主になる可能性も持ち合わせています。けれども、それはただの可能性の一つとしか言えません。もっと他の可能性だってあるはずなのですから」
「執事さん。ちょっと話の方向性をずらしてもらっちゃ困るのだけれどね? 僕ちゃんが言いたいのは、このお嬢さんの未来のことを占っているのではないのだけれど?」

 それもそうだけれど、ちょっとは空気ってものを読む力を身につけようぜ。

「……隠し事について、話してはくれない――という理解で良いのかな? それが永遠に続くようであれば、それを推理するところから始まる訳だけれど……」
「いや、それについては直接話した方が良いでしょう。こうもくどく話を続けられてしまっては、こちらが告白する時間すら与えられないような気がしますからな」

 正直で何より。
 というか、隠し事を突き止められてからは、何処か諦めたような感じすら思わせる。
 もしかして、最初からこれを狙っていたのでは――などと思ってしまうのは、気のせいだろうか?

「たーくん。全くもってその通りだぜ。この執事さんは……確実に何かアイディアを持っていた。そしてそのアイディアを見つけて欲しくなかったのだけれど、今こうやって見つけられてしまった。だから、諦観というよりは興奮しているのではないかな?」

 興奮?
 これが?

「……難しい話ではありますからな。やはりというか、何というか……。シュレーディンガーの幽霊というアイディアまでは良かったような感じがありますが」
「なあ、執事さんよ。もう話をだらだらとしないで、さっさと真実を語ってみてはどうかな? 別に殺しをした訳でもないのだから、これが罪に問われることもないのだし」

 罪に問われることもない――それはどういうことだ? 幾ら被害者が殺人鬼であったとはいえ、殺人という罪は消えることはないような気がするけれど……。

「たーくん。そこまで分かっていて、何故結論を導き出せない? だから探偵と一緒に付き纏っているのかもしれないけれど……、ちょっとは推理力を身につけた方が良いと思うぜ。今からでも推理ゲームをプレイすることをおすすめするよ」
「推理ゲームって何だよ、そっちの方が気になっちまうじゃねえか。……で、どういうことなんだ、それって?」
「つまりだね、この事件は――でっち上げだよ、この執事が一人で作り上げた……かどうかは分からないけれど、デタラメな事件だ。殺人鬼なんて居やしなかったし、当然シュレーディンガーの幽霊なんて物もありゃしない。ここには……何もないんだ」
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